社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

 【厚生年金】特別支給の老齢厚生年金決定取消請求事件(最二小平29.4.21民集第71巻4号726頁)

特別支給の老齢厚生年金決定取消請求事件(最二小平29.4.21民集第71巻4号726頁)

審判:最高裁判所
裁判所名:最高裁判所第二小法廷
事件番号:平成28年(行ヒ)14号
裁判年月日:平成29年4月21日

1.事件の概要

昭和21年9月●日生まれの男性であるXは、平成18年9月●日に60歳に達し、特別支給の老齢厚生年金(60歳台前半の老齢厚生年金)の受給権を取得した。Xは、厚生年金保険の被保険者であったため、在職支給停止の適用を受けていたが、65歳に達する日の属する月の前月の平成23年8月30日に退職し、その翌日の8月31日に厚生年金保険の被保険者資格を喪失した。厚生労働大臣は、平成23年10月6日付けでXに対し,厚生年金保険の被保険者の資格を喪失したことを理由として、特別支給の老齢厚生年金の支給停止を解除し、同年9月分の特別支給の老齢厚生年金につき退職改定がされないことを前提として、被保険者期間を433月(受給権発生日平成18年9月●日に60歳に達した時の被保険者期間)を計算の基礎とする額の年金を支給する旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。なお、Xは、同年10月以降、厚生労働大臣による裁定を受けて被保険者期間492月を計算の基礎とする本来支給の老齢厚生年金の支給を受けている。
これに対して、退職改定がされるべきであって同支給決定は違法であると主張し、国に対してその取消しを求めて、Xは提訴した。
第一審は退職時改定を否定、第二審はXの請求を容認したため、国が上告したのが本件である。

2.判決の概要

(1)  厚生年金保険法43条3項は、受給権者が被保険者である間の老齢厚生年金の額を固定するため、その権利を取得した月以後における被保険者期間をその計算の基礎としないものとしたこと(同条2項)から、被保険者である受給権者が被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなく待期期間を経過したときは、上記被保険者期間をも含めて老齢厚生年金の額の再計算をすることとしたものである。そして、同条3項は、退職改定の対象となる者を「被保険者である受給権者」と定めている以上、待期期間を経過した時点においても当該年金の受給権者であることを退職改定の要件としているものと解するのが文理に沿う解釈である。

(2) また、同法43条3項が「受給権者がその権利を取得した月以後における被保険者であった期間は、その計算の基礎としない旨を定めている一方、同条3項は、被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日(以下「資格喪失日」という。)から起算して1月(以下「待期期間」という。)を経過したときは、その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する」旨を定めているのは、老齢厚生年金の基本権に係る年金の額を上記(1)の被保険者期間をも計算の基礎とするものに改定することにより、基本権に基づき支払期日ごとに支払うものとされる保険給付の額を、既に発生した保険給付の額も含め、当該改定後の基本権を前提としたものに改定することとしたものと解されるから、同法は、退職改定がされる待期期間の経過時点においても当該年金の基本権が存することを予定しているものということができる。
これに加え、特別支給の老齢厚生年金については、本来支給の老齢厚生年金とは異なる発生要件が定められ(厚生年金保険法附則8条)、特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65歳に達したときは、受給権が消滅し(同附則10条)、本来支給の老齢厚生年金の支給を受けるために改めて厚生労働大臣による裁定を受けることとされており(厚生年金保険法33条)、特別支給の老齢厚生年金の基本権の内容と本来支給の老齢厚生年金のそれとを必ず一致させることは予定されていないと解されることをも併せ考えると、上記(1)のように解することは、老齢厚生年金に関する制度の仕組み等に沿うものということができる。老齢厚生年金が保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有していることは、以上の解釈を左右するものではない。

(3) そうすると、特別支給の老齢厚生年金について退職改定がされるためには、被保険者である当該年金の受給権者が、その被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして待期期間を経過した時点においても、当該年金の受給権者であることを要すると解するのが相当である。

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