社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【配転】バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件(東京地判平7年12月4日労判685号17頁)

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バンク・オブ・アメリカイリノイ事件(東京地判平7年12月4日労判685号17頁)

1.事件の概要

Xは、Y銀行A支店の総務課課長(セクションチーフ)として勤務していたが、昭和57年4月、Y銀行の新しい経営方針に協力的でないことを理由に、オペレーションズテクニシャンに降格され、これに伴い、役職手当が5000円減額となった。
昭和59年9月、Xは、輸出入課に配転され、対外的書類送付、サイン等の業務に従事した。Xは、かねて総務課への配転を希望していたところ、受付業務を担当させた。同業務は、それまで20歳代前半の契約社員が担当していた。Xは、同年5月から、備品管理・経費支払事務の仕事を担当するようになった。
Y銀行は、平成2年9月、A支店の業務再編成・人員縮小を理由にXらを解雇した。Xは、Y銀行の降格を含む一連の行為は、Xを含む中高年従業員を辞職に追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして、Y銀行に対し、慰謝料5000万円の支払いを求めて提訴したのが本件である。

2.判決の概要

使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、雇用契約にその根拠を有し、労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならないものと解すべきである。
しかし、右人事権の行使は、労働者の人格を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである。
Xのオペレーションズテクニシャンへの降格については、Y銀行に委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできない。しかし、総務課(受付)への配転については、それまで20代前半の女性の契約社員が担当していた業務であり、勤続33年で、課長職経験のあるXにふさわしい職務であるとは到底いえず、Xが著しく名誉・自尊心を傷つけられたと推測される。備品管理等の業務もやはり単純作業であり、Xの業務経験・知識にふさわしい職務とは到底いえない。Xに対する右総務課(受付)配転は、Xの人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、Y銀行に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成する。