社会保険労務士川口正倫のブログ

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【固定残業代】鳥伸事件(大高判平29.3.3労判1155号5頁)

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鳥伸事件(大高判平29.3.3労判1155号5頁)

審判:第二審
裁判所名:大阪高等裁判所
事件番号:平成28年(ネ)2839号、3136号
裁判年月日:平成29年3月3日

1.事件の概要

Xは、鶏肉の加工、販売及び飲食店を営むY社の従業員であった。Xは、平成26年10月31日にY社を退職し、Y社に対し、割増賃金等の支払いを求めて提訴した。第一審はXの請求を認容したが、X及びY社の双方が控訴したのが本件である。
なお、XとY社の間の雇用契約書(以下「本件契約書」という。)には、「月給250,000円-残業含む。」とのみ記載されていた。

2.判決の概要

労働契約時において、給与総額のうちに何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされていれば、時間外等割増賃金の支給を受けずに労働する時間が明確になっており、所定労働時間に見合う金額と時間外等労働に見合う金額も算定することができることから、この点が明確にされることでも上記の趣旨は満たされると考えられる。
そこで、この点を検討すると、前記前提事実記載の賃金規程の定めにおける時間外労働手当の算式に控訴人の正式採用後の給与を当てはめると、「6万2000円=18万8000円/191.19時間×1.25×時間外労働時間数」であり、時間外労働時間数は50.44時間となることが認められる。
しかし、原審証人Bは、Xを正式採用するに当たり、「週44時間で残業が月50時間、それが給与になるっていうふうに説明しましたけど。」、「プラス固定残業が50時間あって、それが賃金になるって説明しました。」と証言するが、上記のとおり雇用契約書には「月給250,000-円残業含む」と総額が記載されているのみで、その内訳が明らかにされていないことや、説明を受けていないとのXの原審供述に照らし、採用することができない。
また、上記認定事実によれば、Xは、平成25年9月1日から平成26年10月31日までの間、原判決別紙8のとおり、平成25年10月度は59時間20分、同年11月度は63時間40分、同年12月度は65時間30分、平成26年1月度は75時間15分、同年2月度は55時間45分、同年3月度は58時間、同年4月度は69時間30分、同年5月度は57時間40分、同年6月度は67時間15分、同年10月度は58時間04分、同年11月度は65時間34分と、50時間を上回る時間の時間外労働をしており、しかもその各月の時間も変動していること、50時間を下回った月は平成26年7月度の44時間25分、同年8月度の44時間25分、同年9月度の48時間08分の3か月にすぎないことが認められ、上記の想定時間(50.44時間)を上回っている。
そうすると、B店長がXの現実の時間外労働時間を十分に管理し、把握していなかったといえるから、この点から見ても、上記「6万2000円」の残業手当が想定する時間外労働時間をXに明確に説明したとの原審証人Bの前記証言を採用することができない。
なお、雇用契約書には、時間外労働時間を含めたものとうかがわれる就業時間として、(午前)7時から(午後)7時30分まで、週6日との記載があるが、これは前記想定時間外労働時間とも現実の労働時間のシフトとも異なるし、上記のとおり雇用契約書には「月給250,000-円残業含む」と総額が記載されているのみで、その内訳が明らかにされていないから、これをもって残業手当が想定した時間外労働時間を示した記載であるとは認められない。
したがって、労働契約時において、給与総額のうちに何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされていたとは認められない。
・・・(中略)・・原判決説示のとおり、Y社の就業規則、求人広告及び雇用契約書では、基本給の額と残業手当の額の区別が明確にされていたとは認められないし、労働契約時において給与総額のうちに何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされていたとも認められないから、本件の残業手当の支払をもって、時間外労働割増賃金の代替としての支払と認めることはできない。