社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【賃金】関西精機事件(最二小判昭31.11.2民集10巻11号1413頁)

関西精機事件(最二小判昭31.11.2民集10巻11号1413頁)

参照法条  : 労働基準法24条1項、民法505条
裁判年月日 : 1956年11月2日
裁判所名  : 最高二小
裁判形式  : 判決
事件番号  : 昭和29年 (オ) 353 
裁判結果  : 破棄差戻

1.事件の概要

Xは、昭和17年10月頃から同25年4月末までY社に勤務していた。同24年10月1日から同25年4月末日までのXの給料は1か月5,000円であった。Y社は営業不振のため同24年2月末日から休業したが、当時Y社の従業員に対する給料の未払い分があったので、その支払いのため、XはY社代表者の依頼により、在庫品の売却や半製品の仕上販売等の任にあたった。同8月17日に会社事業が再開されると同時にXは取締役に就任したが、その際、Y社はXに対し休業中の整理手当として1か月7,000円を支払う旨を約束した。ところが、Y社は、Xに対して、整理手当と給料の各一部を支払っただけで残りの支払いをしなかったので、XはY社に対し、その未払い分の支払いを求めて訴えを提起した。
Y社は、XがY社のために集金した額について、そこから出張費等を控除した額を引き渡すべきなのに、盗難にあったことを理由に引き渡しておらず、その額について相殺したと主張している。
一審は、Xの請求を認めたが、二審は、Y社の主張を認め、Xの請求を棄却した。そこで、Xは上告した。

2.判決の概要

労働基準法24条1項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもって相殺をすることも許されないと解するのが相当である。
第二審は、少なくとも整理手当は賃金に該当するにもかかわらず、その額を確定することなく、Y社の損害賠償債権による相殺の意思表示を有効と認め、これにより債権が消滅したものと判断したのは、法律の適用を誤った結果、審議不尽理由不備の違法を犯したものである。

3.解説

本判決は、使用者が、労働者に対して有する損害賠償債権を、労働者の賃金債権と相殺することは、賃金全額払いの原則に違反し許されないとしたものです。本件は、債務不履行による損害賠償の事案ですが、その後の判例は、使用者が労働者の不法行為による損害賠償を賃金債権と相殺した場合にも、同様に判断しています(日本勧業経済会事件(最大昭36.5.31民集15巻5号1482頁))。
賃金債権の相殺については、労働基準法17条で前借金との相殺が禁止されていますが、同条に該当する場合には、24条とは異なり、例外が一切認められず、罰則も重くなっています。(賃金全額払いの原則については、法令に別段の定めがある場合または過半数代表との書面による労使協定がある場合は、例外が認められています。所得税源泉徴収社会保険料や住民税等の控除などが法令に別段の定めがある場合に該当します。社内販売の代金や組合費は、過半数代表との労使協定が必要となります。)