社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



退職時改定と配偶者加給年金の支給停止

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配偶者加給年金の支給停止

配偶者加給年金の支給停止要件を、「妻が20年以上厚生年金被保険者期間があると、夫の老齢厚生年金の配偶者加給年金が支給停止になる。」と誤解している人がかなりいますが、そうではありません。正しくは、「妻が20年以上被保険者期間がある厚生年金を受給できると、夫の老齢厚生年金の配偶者加給年金が支給停止になる。」です。
社会保険労務士でも、間違ったことを書いている人がいるので要注意です。

ちなみ、「妻が20年以上被保険者期間がある厚生年金を受給できる」というのは、
①妻が65歳未満の特別支給の老齢厚生年金の比例報酬部分を受給できる年齢
②その受給できる老齢厚生年金が厚生年金の被保険者期間が20年以上*1のものである
という両方の条件を満たす必要があります。
ここで、「受給できる」というのは「受給できても受給していない」場合を含みます。
また、被保険者期間が20年以上あっても、受給している老齢厚生年金の被保険者期間が20年以上*2でなければ、②には該当せず、配偶者加給年金は支給停止されません。
これは、少々わかりにくいですが、「退職時改定」を理解しておけばわかるかと思います。

老齢厚生年金は60歳以上も加入するため、例えば、在職のまま62歳で特別支給の老齢厚生年金の比例報酬部を受給開始すると、62歳以降に毎月給与から控除される保険料が受け取る年金額にも反映されるように思えますが、そのような仕組みになっていません。
もし同じ会社で勤務していれば、62歳から65歳になるまでに支払った保険料は65歳から支給額に反映され、65歳から70歳になるまで支払った保険料は70歳以降の支給額に反映されます。ただし、途中で退職した場合には例外的に保険料が支給額に反映され、これを「退職時改定」といいます。

「退職時改定」は厚生年金保険法43条3項で定められています。

厚生年金法43条3項(一部簡略)
被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過したときは、前項の規定にかかわらず、その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者であった期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、資格を喪失した日から起算して1月を経過した日の属する月から、年金の額を改定する。

具体的に例をあげると、8月31日退職(資格喪失日9月1日)した場合、9月30日(資格喪失した日から1月を経過する日)までに被保険者とならなければ、8月(資格喪失した月前)までの期間を老齢厚生年金額の計算の基礎し、9月(資格喪失した日から1月を経過する日の属する月)から年金の額が改定となります。

8月31日退職(資格喪失日9月1日) ⇒ 9月から保険料改定(8月までの被保険期間が反映)
8月30日退職(資格喪失日8月31日) ⇒ 8月から保険料改定(7月までの被保険者期間が反映)

以上のことを考慮すると、「被保険者期間が20年以上あっても、受給している老齢厚生年金の被保険者期間が20年以上ではない」という事態が起こり得ることになります。
例えば、あゆみさんは62歳で特別支給の老齢厚生年金の比例報酬部分を受給開始し、その時点で在職中でこれまでの厚生年金の被保険者期間が19年であったとします。あゆみさんが受給する特別支給の老齢厚生年金の支給額には、被保険者期間19年分が反映され、このまま63歳以降も継続して同じ会社に勤めていれば退職者改定はされないため、被保険者期間が20年以上あっても、受給している老齢厚生年金の被保険者期間は19年であることになります。
そして、上記②の条件を満たさないため、あゆみさんの配偶者が配偶者加給年金を受給していたとしても支給停止とはなりません。
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逆に、63歳まで勤務して退職すると退職時改定により、受給している老齢厚生年金の被保険者期間が20年以上となり、②の条件を満たすこととなり、支給停止となっていまいます。
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ちなみに、この退職時改定は夫のほう支給要件にも関わって来ます。例えば、65歳到達時に夫の厚生年金被保険者期間が19年しかなければ、配偶者が要件を満たしても配偶者加給年金は支給されません。なぜなら、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上というのが条件だからです。
このケースでも65歳から継続して66歳まで勤務したとしても、それだけでは保険期間が反映されず、66歳以降に退職して退職時改定の適用を受ければ、被保険者期間が20年以上となり、配偶者加給年金を受けることができるのです。


(参考)
配偶者加給年金
厚生年金保険の被保険者期間が20年*3以上ある方が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている下記の配偶者または子がいるときに加算されます。
65歳到達後(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年※以上となった場合は、退職改定時に生計を維持されている下記の配偶者または子がいるときに加算されます。
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【配偶者加給年金の支給停止】
配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上または共済組合等の加入期間を除いた期間が40歳(女性の場合は35歳)以降15年以上の場合に限る)、退職共済年金(組合員期間20年以上)または障害年金受けられる間は、配偶者加給年金額は支給停止されます。

sr-memorandum.hatenablog.com

*1:または共済組合等の加入期間を除いた期間が35歳以降15年以上の場合に限る

*2:または共済組合等の加入期間を除いた期間が35歳以降15年以上

*3:中高齢の資格期間の短縮の特例を受ける方は、厚生年金保険(一般)の被保険者期間が15~19年。