社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【有給休暇】時事通信社事件(最三小判平4.6.23労判613号6頁)

時事通信社事件(最三小判平4.6.23労判613号6頁)

参照法条  : 労働基準法39条1項、労働基準法39条2項、労働基準法39条4項、労働基準法89条1項9号
裁判年月日 : 1992年6月23日
裁判所名  : 最高三小
裁判形式  : 判決
事件番号  : 平成1年 (オ) 399 

1.事件の概要

Xは、ニュースの提供を主たる業務とするY社の社会部に記者として勤務していた。Xは、約1か月間の連続する年次有給休暇を申し入れたが、 Y社は、Xが担当していた業務について代替勤務できる者の確保が困難であり、1か月も不在になると取材報道に支障が出るので、2週間ずつ2回に分けて欲しい回答し、前半部分の2週間の年次有給休暇は認めて、後半部分の年次有給休暇は、業務の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使した。 しかし、Xは、これを無視して、約1か月連続して欠勤し、 Y社は、Xが業務命令に違反したことを理由にしてけん責処分のうえ、賞与を減額支給した。
これに対し、Xは、Y社に、けん責処分の無効等を求めて提訴した。第一審は、時季変更権の行使を有効とし、第二審はXの請求をおおむね認めたところ、Y社が上告したのが本件である。

2.判決の要旨

年次有給休暇の権利は、労働基準法39条1項及び2項の要件の充足により法律上当然に生じ、労働者がその有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によって、年次有給休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅するものである(林野庁白石営林署事件(最二小昭和48.3.2民集27巻2号191頁)参照)。
そして、同条の趣旨は、使用者に対し、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取得することができるように、状況に応じた配慮をすることを要請しているものと解すべきであって、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、右の趣旨に反するものといわなければならない(弘前電報電話局事件(最二小判昭和62.7.10民集41巻5号1229頁)参照)。
しかしながら、使用者が右のような配慮をしたとしても、代替勤務者を確保することが困難であるなどの客観的な事情があり、指定された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げるものと認められる場合には、使用者の時季変更権の行使が適法なものとして許容されるべきことは、同条3項ただし書の規定により明らかである。
労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季指定をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。
もとより、使用者の時期変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法39条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであって、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条3項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである。
右の見地に立って、本件をみるのに、次のことが明らかである。

(1)XはY社の本社第一編集局社会部の記者として科学技術記者クラブに単独配置されており、担当すべき分野は、多方面にわたる科学技術に関するものであり、原子力発電所の事故が発生した場合の事故原因や安全規制問題等についての技術的解説記事がその担当職務であって、その取材活動、記事の執筆には、ある程度の専門的知識が必要であり、Xも、昭和55年8月当時には、右担当分野につき、相当の専門的知識、経験を有していたことから、社会部の中からXの担当職務を支障なく代替し得る勤務者を見いだし、長期にわたってこれを確保することは相当に困難である。

(2)当時、Y社社の社会部においては、外勤記者の記者クラブ単独配置、かけもち配置がかなり行われており、Xが右記者クラブに単独配置されていることは、異例の人員配置ではなく、これは、上告会社が官公庁、企業に対する専門ニュースサービスを主体としているため、新聞、放送等のマスメディアに対する一般ニュースサービスのための取材を中心とする社会部に対する人員配置が若干手薄とならざるを得なかったとの企業経営上のやむを得ない理由によるものであり、年次有給休暇取得の観点のみから、Xの右単独配置を不適正なものと一概に断定することは適当ではない。

(3)Xが当初年次有給休暇の時季指定をした期間は昭和55年8月20日から同年9月20日までという約1か月の長期かつ連続したものであり、Xは、右休暇の時期及び期間について、Y社との十分な調整を経ないで本件休暇の時季指定を行った。

(4)Y社のE社会部長は、Xの本件年次有給休暇の時季指定に対し、1か月も専門記者が不在では取材報道に支障を来すおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕もないとの理由を挙げて、Xに対し、2週間ずつ二回に分けて休暇を取ってほしいと回答した上で、本件時季指定に係る同年8月20日(ただし、同月22日に変更)から9月20日までの休暇のうち、後半部分の9月6日以降についてのみ時季変更権を行使しており、当時の状況の下で、Xの本件時季指定に対する相当の配慮をしている。

これらの諸点にかんがみると、社会部内において前記の専門的知識を要するXの担当職務を支障なく代替し得る記者の確保が困難であった昭和55年7、8月当時の状況の下において、Y社が、Xに対し、本件時季指定どおりの長期にわたる年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとして、その休暇の一部について本件時季変更権を行使したことは、その裁量的判断が、労働基準法39条の趣旨に反する不合理なものであるとはいえず、同条3項ただし書所定の要件を充足するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。