社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【有給休暇】電電公社関東電気通信局事件(最三小判平元.7.4労判543号7頁)

電電公社関東電気通信局事件(最三小判平元.7.4労判543号7頁)

審判:最高裁判所
裁判所名:最高裁判所第三小法廷
事件番号:昭和62年(オ)1555号
裁判年月日:平成元年7月4日
裁判区分:判決

1.事件の概要

Xは、電話会社であるY社のD無線中継所E部F整備課(以下「F整備課」という。)に勤務していた。Xは、昭和53年9月11日午前にF整備課G課長に口頭で同月16日に年次有給休暇を取得したい旨を申し出て時季指定をした。これに対して、G課長はその時季指定に係る日は土曜日で、Xのほか1名の職員の配置しか予定されていなかったため業務に支障がある旨を告げ時季の変更を求め、さらに11日午後勤務割の変更によりXの代替勤務者を確保することを考慮することなく、時季変更権を行使した。Xは同月16日に出勤しなかったところ、無断欠勤であるとして賃金をカットされ、戒告処分を受けた。
これに対して、XはY社に、カットされた賃金の支払い等を求めて提訴した。第一審はXの請求を認容したが、第二審はXの請求を認めなかったため、Xが上告したのが本件である。

2.判決の要旨

労働基準法39条3項ただし書は、使用者は、労働者がした年次休暇の時季指定に対し、その時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができると規定し、使用者の時季変更権の行使を認めている。右時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であつて、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。
このような勤務体制がとられている事業場において、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかつた結果、代替勤務者が配置されなかつたときは、必要配置人員を欠くことをもつて事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である(弘前電報電話局事件(最二小判昭和62.7.10民集41巻5号1229頁)此花電報電話局事件(最一小判昭57.3.18労判381号20頁)参照)。
そして、勤務割における勤務予定日につき年次休暇の時季指定がされた場合に、使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあつたか否かについては、当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、どのような方法により、どの程度行われていたか、年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、当該労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、他の者による代替勤務が可能であつたか、また、当該年次休暇の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、更には、当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきである。右の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかつたと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかつたとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実及び原審が適法に確定したその余の事実関係によれば、・・・(中略)・・F整備課においては、従来、輪番服務形態による二四時間勤務体制がとられていたが、昭和48年2月にこれが廃止された後は、職員は原則として日勤勤務のみを行うこととなり、土曜日については、1か月ごとに作成される勤務割表に基づき係長以下の一般職員11名が2名ないし3名の固定的な組合わせにより4週間に1回の周期で半日勤務を行うこととされ、週休日については、当該週に宿直宿明勤務に就いたか否かに関わりなく、4週のうち3週は土曜日と日曜日で、残りの1週(土曜日の半日勤務を行つた週の直後)は日曜日と月曜日というように、固定的に設定され、一般職員は、定型勤務者ないしこれに準ずる者であると目されるようになった。
また、F整備課の一般職員については、従前の労使間交渉の経緯からして、最低必要人員しか配置されていない土曜日に、勤務割による勤務予定の一般職員が年次休暇を取つたため要員不足を生じたとしても、その代替要員として、週休予定の一般職員に対し、勤務割変更のうえ出勤が命じられることはおよそありえず、右欠務の補充の責任はすべて管理者側にあるという認識が労使間に定着し、このため、Y社は、最低必要人員しか配置されていない土曜日に、勤務の指定を受けた一般職員が年次休暇の時季指定をするのに備えて、課長と巡回保全長が隔週交替で半日勤務を行うこととし、管理者1名を常に配置して欠務の補充に当てることにしていた。
Xは、昭和53年9月11日、勤務割において同人と他の1名の計2名の職員の配置しか予定されていなかつた同月16六日(土曜日)につき年次休暇の時季指定をしたが、当時、過激派集団による成田空港開港反対百日闘争が行われており、その最終日(同月17日)が間近であつて、Y社の施設等に対する無差別的破壊活動が行われるおそれが大であるという異常な事態に直面し、Y社は、管理者による特別保守体制をとることを余儀無くされていたため、右時季指定に対し、管理者による欠務補充の方法をとることができない状況にあつた。そこで、F整備課のG課長は、右時季指定に対し、勤務割を変更して代替勤務者を確保することを考慮しないで、1名の配置では業務に支障が生ずるとして、時季変更権を行使した、というのである。

以上の事実関係によれば、Xが本件時季指定をした勤務予定日に休暇を与えるとするとF整備課の最低配置人員を欠くことになるうえ、同課においては、従前の労使間交渉の経緯により、従来から、一般職員について週休日の変更は行わないとの運用がほぼ定着しており、そのこととの関係で週休日についての勤務割の変更はほとんど行われず、最低必要人員しか配置されていない土曜日に、勤務割による勤務予定の一般職員が年次休暇を取つたため要員不足を生じた場合には、もつぱら管理者による欠務補充の方法がとられ、その日が週休予定の一般職員に対し、勤務割変更のうえ出勤が命じられることはおよそありえないとの認識が労使間に定着していたが、Xの右勤務予定日については、当時の前記異常事態により管理者による欠務補充の方法をとることができない状況にあつた、というのであるから、このようなF整備課における勤務割変更についての実態、週休制の運用のされ方、当時の異常事態による欠務補充の困難さなどの諸点を考慮すると、Xが本件時季指定をした勤務予定日については、使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかつたものと判断するのが相当である。
したがつて、右の勤務予定日にXに対し休暇を与えることは、Y社の事業の正常な運営を妨げることになるものというべく、結局、Y社の担当課長がした本件時季変更権の行使は適法なものと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。