横手統制電話中継所事件(最三小判昭和62.9.22労判503号6頁)
審判:最高裁判所
裁判所名:最高裁判所第三小法廷
事件番号:昭和58年(オ)989号
裁判年月日:昭和62年9月22日
裁判区分:判決
1.事件の概要
Xは、電話会社であるY社の横手統制電話中継所の工事係員として勤務していた。同中継所は、24時間の連続勤務体制をとっており、工事係の交替勤務の各服務ごとに少なくとも一人は配置するすることとしていた。そして、宿直、宿明、土曜日の午後、日曜、祝日などにおいて一人で勤務することが予定されている職員が年次有給休暇を時季指定した場合、整備係長、巡回保全長らが交替勤務者を確保するため、職員と個別に折衝してA所長が勤務割を変更し、年次有給休暇請求者の便宜を図るのが通例であった。
Xは、昭和53年5月13日、T所長に対し同日19日及び20日の年次有給休暇を請求した。ところが5月20日は成田空港開港反対の現地集会が開かれる予定で、Xもこれに参加する予定であった。また当日は土曜日でXが一人で午後勤務する予定であった。A所長はY社の服務規律厳正化の指示に基づき、勤務割の変更までするのは適当でないと判断し、Xの年次有給休暇請求があっても代替勤務者の確保措置をとらず、時季変更権を行使した。しかしXが当日欠勤したのでY社はその日の賃金をカットするとともに、これを無断欠勤であるとしてXを戒告処分とした。これに対して、XはY社にカットされた賃金の支払い等を求めて提訴した。
一審はXの請求を認容したが、二審がこれを認めなかったため、Xが控訴したのが本件である。
2.判決の要旨
労基法39条3項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たつて、代替勤務者確保の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、勤務割による勤務体制がとられている事業場においても、使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能であると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかつた結果、代替勤務者が配置されなかつたときは、必要配置人員を欠くことをもつて事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。
そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであつて、それをどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるというべきであるから(林野庁白石営林署事件(最二小昭和48.3.2民集27巻2号191頁))、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによつてそのための配慮をせずに時季変更権を行使するということは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないというに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。
本件についてこれをみるに、横手中継所においては勤務割による勤務予定日の年次休暇取得についてもできるだけの便宜を図つてきており、Xが年次休暇の時季指定をした日についても代替勤務者を確保することが可能な状況にあり、その時に予定されていた職務は特殊技能を要しないものに限られていたにもかかわらず、A所長は、Xの休暇の利用目的が成田空港開港反対現地集会に参加することにあるものと推測し、そのために代替勤務者を確保してまでXに年次休暇を取得させるのは相当でないと判断してそのための配慮をせず、要員無配置状態が生ずることになるとして時季変更権を行使したというのであるから、それが事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないことは明らかであり、右時季変更権の行使は無効といわなければならない。
また、Xの年次休暇の時季指定が権利濫用とはいえないことも明らかである。そうすると、原審が、Y社の時季変更権の行使は適法であり、Xの時季指定日に年次休暇は成立しなかつたとしたのは、法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。