社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【有給休暇】此花電報電話局事件(最一小判昭57.3.18労判381号20頁)

此花電報電話局事件(最一小判昭57.3.18労判381号20頁)

参照法条  : 労働基準法39条4項
裁判年月日 : 1982年3月18日
裁判所名  : 最高一小
裁判形式  : 判決
事件番号  : 昭和53年 (オ) 558 

1.事件の概要

X1及びX2(以下「Xら」という)は、Y社の職員で電話局に勤務していた。X1は、昭和44年8月18日午前8時40分頃電話で当日1日の年休を請求し就労しなかった。また、X2は8月20日午前7時30分頃、当日午前中2時間の年休を請求して就労しなかった。いずれも請求が年休当日にされたので、所属長であるF課長はその理由を聞いたが両人ともこれを告げなかったため、同課長は年休を不承認とし、その分の賃金をカットした。これに対して、XらはY社に賃金カットされた賃金の支払いを求めて提訴した。第一審はXらの請求を認容したが、第二審はXらの請求を認めなかったため、Xらが上告したの本件である。

2.判決の概要

労働者の年次有給休暇の請求(時季指定)に対する使用者の時季変更権の行使が、労働者の指定した休暇期間が開始し又は経過した後にされた場合であつても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかつたようなときには、それが事前にされなかつたことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではなく、客観的に右時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があつたものとしてその効力を認めるのが相当である。
本件についてこれをみるに、原審の適法に確定した事実によれば、上告人A1の昭和44年8月18日の年次休暇については、同上告人は、当日出社せず、午前8時40分ごろ、電話により宿直職員を通じて、理由を述べず、同日1日分の年次休暇を請求し、同日午前9時から予定されていた勤務に就かず、これに対して、所属長であるD課長は、事務に支障が生ずるおそれがあると判断したが、休暇を必要とする事情のいかんによつては業務に支障が生ずるおそれがある場合でも年次休暇を認めるのを妥当とする場合があると考え、X1から休暇を必要とする事情を聴取するため、直ちに連絡するよう電報を打つたが、午後三3ごろ、出社したX1が理由を明らかにすることを拒んだため、直ちに年次休暇の請求を不承認とする意思表示をした。
また、X2の昭和44年8月20日の年次休暇については、X2は、当日出社せず、午前7時30分ごろ、宿直職員を通じて、理由を述べず、同日の午前中二時間の年次休暇を請求し、同日午前10〇時から予定されていた勤務に就かず、これに対して、D課長は、事務に支障を生ずるおそれがあると判断したが、前記と同様の考えから、同日午後〇時10分ごろ、出社したX2に休暇の事由を明らかにするよう求めたところ、X2がこれを拒んだため、直ちに年次休暇の請求を不承認とする意思表示をしたというのである。
右事実によれば、いずれの場合も、D課長が事前に時季変更権を行使する時間的余裕はなかつたものとみるのが相当であり、また、Xらの前記各年次休暇の請求は、いずれも、Y社の事業の正常な運営を妨げるおそれがあつたものであるが、同課長は、それにもかかわらず、時季変更権の行使にあたつてはXらが休暇を必要とする事情をも考慮するのが妥当であると考え、Xらから休暇の理由を聴取するために暫時時季変更権の行使を差し控え、Xらがこれを明らかにすることを拒んだため右のような考慮をする余地がないことが確定的となつた時点に至つてはじめて、かつ、遅滞なく時季変更権の行使をしたことが明らかであるから、いずれの場合も、本件時季変更権の行使は、休暇の始期前にされなかつたものではあるが、なお適法にされたものとしてその効力を認めるのが相当である。

3.解説

年次有給休暇は、労働者の時季指定権の行使(休暇の開始日と終了日を特定して年休を取る旨使用者に通知すること)により成立し、使用者の承認は不要である。また、時季指定の方法や時季指定の時期について、法律上の制約はなく、就業規則等に定めがなければ当日でも問題はないのが原則である。ただし、労働者の指定日の年休取得が、事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は時季変更権を行使することができ、これは年休を認めない旨を告げるだけでよいと解されており(労働者の時季指定に対し承認しない旨表示することは時季変更権の行使にあたり、その内容が単に指定された年休日には事業の正常な運営を妨げる事由が存在するという内容のものでも足りる)、代替日を指定する必要もない。この場合、一旦成立した年休の効力は消滅する。
なお、「使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当るということはできないと解する」(弘前電報電話局事件(最二小判昭和62.7.10民集41巻5号1229頁))とされている、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることは求められる。
そして、この時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げるかどうかを判断するために必要な合理的期間内に行う必要ある。
本件のように、労働者の時季指定が当日の朝になされたような場合には、事業の正常な運営を妨げるかどうかを判断するためには一定の期間が必要なため(たとえば代替要員を確保できるかどうか判断等)、年休開始後の時季変更権行使が適法とされることがありうることもある。