令和2年4月から中小企業でも36協定の新書式が適用開始
1.はじめに
令和2年4月から中小企業についても、時間外労働の上限規制と36協定の新様式が適用されます。
時間外労働の上限規制については、以前こちらにまとめましたので、今回は主に様式の記載方法等について説明しますが、まずはこれまでによくあった質問について簡単にまとめておきます。
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2.時間外労働の上限規制についてよくある質問
Q1 いつまで旧様式で36協定を提出することが可能ですか?
※整備法律附則2条と3条
(1) 中小企業の場合
始期が令和2年4月1日以降の36協定からが適用となります。
例えば、
令和2年3月31日から1年間 ⇒ 旧書式で提出可能です。
令和2年4月1日から1年間 ⇒ 新書式で提出する必要があります。
(2) 大企業の場合
始期が平成31年4月1日以降の36協定からが適用となります。
例えば、
平成31年3月31日から1年間 ⇒ 旧書式で提出可能です。
平成31年4月1日から1年間 ⇒ 新書式で提出する必要があります。
となりますが、今後、提出する協定は全て新書式で提出しなければなりません。
Q2 2か月間ないし6か月間における1か月の残業時間の平均とは、過去2か月もしくは6か月のことをいいますか?
2か月間・3か月間・4か月間・5か月間・6か月間における平均のことをいいます。
「ないし」というのは「または」という意味ではありません。
「ないし」を、漢字で書くと「乃至」となりますが、簡単にいうと「から」と同じ意味になります。
例えば、
10月2日ないし10月10日 ⇒ 10月2日から10月10日の間
1か月ないし3か月 ⇒ 1か月から3か月の間
です。
なお、特別条項が適用される場合の平均時間の規制は、
- 1か月における時間外・休日労働時間数が100時間未満であること。、及び
- 対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間の直前の1か月、2か月、3か月、4か月及び5か月の期間を加えたそれぞれの期間における 時間外・休日労働時間数が1箇月当たりの平均で80時間を超えないこと。
となります。
ちなみに、残業時間の対象に法定休日労働の時間数も加算する必要があります。
Q3 2か月間ないし6か月間における1か月の残業時間の平均を計算する際には、前の36協定の期間も対象となりますか?
前の36協定の期間も対象となります。ただし、改正法施行前の期間や経過措置の期間の労働時間は算定対象となりません。
例をあげると次のようになります。
Q3 36協定の期間と賃金計算期間がリンクしていない場合は、2か月間ないし6か月間における1か月の残業時間の平均はどうすればよいですか?
賃金計算期間に関係なく、対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間となります。また、1か月の残業時間の上限についても、対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間で計算する必要があります。
なお、36協定は原則1年の期間ですので、36協定の締結期間と賃金計算期間を一致させるには、次のように36協定を2回締結して提出すれば可能です。
賃金計算期間:毎月 前月21日~当月20日
36協定の期間:毎年4月1日から1年間
36協定1:2020年4月1日から1年間(4月1日までに提出)
36協定2:2020年4月21日から1年間(4月21日までに提出)
※36協定2を提出することによって、36協定1は効力が無くなる。
この方法は、本店と支店で36協定の期間を一致させる場合にも利用することができます。
3.36協定の締結・届出方法
(1) 36協定は事業場ごとに締結
36協定は、事業場ごとに締結し、それぞれの事業場を所轄する労働基準監督署へ届け出る必要があります。これは、労働基準法が、企業単位ではなく事業場単位で適用されることによるものです。
なお、「労働基準法における「事業」とは(昭22.9.13発基17号・昭23.3.31基発511号・昭33.2.13基発90号・昭63.3.14基発150号・平11.3.31基発168号)」や「新聞社の地方通信機関(昭23.5.10基発799号)」にあるように、一定の場合には、複数の事業場が1つの事業場として扱われることもありますが、迷う場合は労働基準監督署や最寄の社会保険労務士にお問い合わせください。
(2) 従業員側の協定締結者
使用者側の締結者は、その事業所の責任者(支店長・店長・工場長等)もしくは代表取締役や人事部長等でとなりますが、従業員側は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては、労働者の過半数を代表する者となります。
なお、ここでいう「労働者」は、その事業場にしようされるすべての労働者をいい、監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)やパートタイマー、アルバイト、休職者等も「労働者」んみ含まれます。ただし、派遣労働者は含まれません。(派遣元で36協定を締結するため)
また、「労働者の過半数で組織する労働組合がない場合の労働者の過半数を代表する者」とは、次のいずれにも該当する者のことをいいます。
- 監督もしくは管理の地位にある者でないこと。
- 労使協定の締結等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法により選出された者であること。
ですので、間違っても管理監督者が従業員代表に選出されないようにご注意ください。(実際に、36協定や就業規則の従業員代表として常に記名・捺印している方について、「この人を、管理監督者として扱えませんか?」という相談を受けることもあります)
(3) 36協定の新様式
【限度時間を超えない場合】
まず、限度時間を超えず「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間(1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1か月当たり42時間、かつ1年当たり320時間)」の範囲内で36協定を締結する場合は、次のような様式になります。
記載する事項は次のとおりです。
- ① 法定労働時間を延長し、または法定休日に労働させることができる場合
- ② 法定労働時間を延長し、または法定休日に労働させることができる労働者の範囲
- ③ 対象期間(1年に限る)
- ④ 1年の起算日
- ⑤ 有効期間
- ⑥ 対象期間における1日、1か月、1年について、法定労働時間を延長して労働させることができる時間または労働させることができる法定休日
また、新様式には、「時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1か月について100時間未満でなければならず、かつ2か月から6か月までを平均して80時間を超過しないこと」について労使合意を確認するためのチェックボックス(⑦)が設けられました。
【限度時間を超える場合】
次に、「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間(1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1か月当たり42時間、かつ1年当たり320時間)」の範囲を超える場合についても締結する、いわゆる「特別条項付き協定」について説明します。
まず、限度時間を超えない場合と同様に、①~⑦の記載事項を記載します。
さらに、次の事項記載する必要があります。
- ⑧ 臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合における、1か月の法定時間外労働+法定休日労働の合計時間(100時間未満)と、1年の法定時間外労働時間(720時間以内)
- ⑨ 限度時間を超えることができる回数(年6回以内)
- ⑩ 限度時間を超えて労働させることができる場合
- ⑪ 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置
- ⑫ 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
- ⑬ 限度時間を超えて労働させる場合における手続き
⑩について、改正前は、「特別な事情」という表現でしたが、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」と規定されました。これは、1年の半分を超えない一定の限られた時期において一時的・突発的に業務量が増える状況等により限度時間を超えて労働させる必要がある状況の一例として規定されたものです。その上で、具体的にどのような場合を協定するかについては、労使当事者が事業又は業務の内容等に応じて自主的に協議し、可能な限り具体的に定める必要があります。
なお、労働基準法第 33 条の非常災害時等の時間外労働に該当する場合はこれに含まれません。
⑪について、次の中からから協定することが望ましいとされています。これは、「1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間(1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1か月当たり42時間、かつ1年当たり320時間)」の限度を超えて労働させた場合に当該労働者を対象にして行われる健康・福祉を確保するための措置を協定するものです。
例えば、「本人より希望があった場合に、医師による面接指導を実施する。」等定めておくものです。
- (1) 医師による面接指導
- (2) 深夜業(22時~5時)の回数制限
- (3) 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
- (4) 代償休日・特別な休暇の付与
- (5) 健康診断
- (6) 連続休暇の取得
- (7) 心とからだの相談窓口の設置
- (8) 配置転換
- (9) 産業医等による助言・指導や保健指導