社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【普通解雇】ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地判平24.10.5労判1067号76頁)

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ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地判平24.10.5労判1067号76頁)

1.事件の概要

Xは、アメリカに本社を置く、一般顧客向けに経済金融情報を提供する通信社であるY社に、平成17年11月に記者として中途採用された。Xは、平成18年11月の勤務評価で「期待に満たない」との評価を受け、平成19年6月に、問題点を指摘され、その改善に取り組ませることを目的とする「アクションプラン」を実施された(同年9月に目標を達成して、同プランは終了した)。その後、平成21年12月から平成22年4月にかけて3度のPIP(Performance Improvement Plan)が実施され、その後の平成22年4月8日に自宅待機を命じられた。そして、同年7月20日に、就業規則の解雇事由である「社員の自己の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないときと判断される場合」に該当するとして解雇を通告された。
これに対して、Xが、Y社に従業員としての地位確認等を求めたのが本件である。

2.判決の要旨

勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由」(労働契約法16条)があるか否かについては、まず、当該労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべきである。
そして、労働契約上、Xに求められる職務能力につき、Y社のビジネスモデルと新聞社や通信社のビジネスモデルとの間の違いから、記者として求められる能力などに大きな違いがあるとのY社の主張も理解できなくはないが、Y社は労働者の採用に際して格別の基準を設定したり試用期間中に格別の審査・指導をしていないこと等から、XとY社の間の労働契約において、社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められると想定される職務能力との対比において、XとY社との間の労働契約上、これを量的に超え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められないというべきである。
そして、Y社が主張する解雇理由「上司らと協調して業務を進められない」については、Xの行動予定の報告が不十分であったものの、労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるとまでは認められない。また、解雇理由「記者として求められるスピードで記事を配信できない」については、Y社の主観的な評価として改善を要する等の評価をしていたことは認められるものの、記事配信の制限時間が労働契約上、これを遵守できないことが直ちに解雇事由になる程の重要な内容になっていたものと認められず、Y社が具体的に主張する記事配信の遅延は、2、3例に過ぎず、Y社は、記事執筆、配信のスピードが遅いことについて、抽象的に指摘するにとどまり、Xとの間でその原因を究明したり、問題意識を共有したりした上で改善を図っていく等の具体的な改善矯正策を講じていなかったことから、解雇事由とすることには客観的合理性があるとは言えない。


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