出産・育児支援制度をざっくりまとめました2~金銭的支援編(給付金・社会保険料)
※「出産・育児支援制度をざっくりまとめました1」の続きとなります。
2.金銭的支援制度
①出産手当金
(1)出産手当金とは
健康保険(協会けんぽもしくは組合健保)の被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合に支給されます。
(2)支給対象者
健康保険(協会けんぽもしくは組合健保)の被保険者
※国民健康保険加入者もしくは被保険者の被扶養者は対象ではありません。
(3)支給期間
出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として出産手当金が支給されます。出産日は出産の日以前の期間に含まれます。また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。
(4)支給金額
おおむね給与の2/3が支給されます。なお、非課税となりまた産前産後休業中は社会保険料の免除制度がありますので、社会保険等控除後の月額給与(手取り額)の80%程度の額となります。
(4)資格喪失後の受給(出産を機会に退職するような場合)
健康保険(協会けんぽもしくは組合健保)の被保険者で無くなった場合でも、資格喪失の日の前日(退職日等)まで被保険者期間が継続して1年以上あり、被保険者の資格喪失の日の前日に、現に出産手当金の支給を受けているか、受けられる状態(出産日以前42日目が加入期間であること、かつ、退職日は出勤していないこと)であれば、資格喪失後も所定の期間の範囲内で引き続き支給を受けることができます。
(5)健康保険未加入の場合の対応
健康保険(協会けんぽもしくは組合健保)の被保険者が対象ですので、健康保険に未加入の場合は原則として支給対象となりませんが、健康保険は一定の要件を満たすと強制的に加入する必要があります。
従って、加入要件を満たしているにも関わらず会社が加入を怠っているような場合は、会社に申し出て加入してもらうことで出産手当金を受給することが可能です。(ただし、健康保険保険料の自己負担分過去2年分は支払う必要があります。また、配偶者の被扶養者となっていた場合は、そちらも過去2年に遡って被扶養者を外れる手続きをする必要があります。)なお、会社が加入に応じないような場合は、会社を管轄する年金事務所や最寄の社会保険労務士や弁護士等に相談してみてください。ケースによっては、民事訴訟等により支給を受けることができなくなった 出産手当金ー2年分の社会保険料控除額 を不法行為による損害賠償として請求することも可能です。
②出産一時金
(1)出産一時金とは
妊娠や出産は病気ではないという考えのもと、正常な状態での妊娠・出産は健康保険の療養の給付の対象にはなりません。そのため、妊娠から出産までに大きな経済的負担が生じることになります。この経済的負担を軽減するため出産一時金が支給されます。
(2)支給対象者
健康保険(協会けんぽもしくは組合健保)の被保険者並びにその被扶養者及び国民健康保険の被保険者(※)
(※)出産一時金は、出産手当金と異なり、国民健康保険にも同じ制度があります。
(3)支給条件
被保険者または被扶養者(協会けんぽもしくは組合健保のみ。国民健康保険には被扶養者はありません)が、妊娠4か月(85日)以上で出産をしたことです。(早産、死産、流産、人工妊娠中絶(経済的理由によるものも含む)も支給対象として含まれます。)
(4)支給金額
出産育児一時金は、被保険者及びその被扶養者が出産された時に協会けんぽヘ申請されると1児につき42万円が支給されます。(産科医療補償制度(※1)に加入されていない医療機関等で出産された場合は39万円(平成27年1月1日以降の出産は40.4万円)となります。)
(※1)「産科医療補償制度」とは、医療機関等が加入する制度で、加入医療機関で制度対象となる出産をされ、万一、分娩時の何らかの理由により重度の脳性まひとなった場合、子どもとご家族の経済的負担を補償するものです。
(※2)多胎児を出産したときは、胎児数分だけ支給されます。
(5)直接支払制度について
出産にかかる費用に出産育児一時金を充てることができるよう、協会けんぽから出産育児一時金を医療機関等に直接支払う仕組み(直接支払制度)がありますので、その場合、出産費用としてまとまった額を事前にご用意いただく必要はありません。
なお、直接、医療機関等に出産育児一時金が支払われることを希望しない方は、出産後に被保険者の方から協会けんぽ支部に申請いただいた上で、出産育児一時金を支給する方法をご利用いただくことも可能です。
(※1)直接支払制度では、事務的負担や資金繰りへの影響が大きいと考えられる施設(年間の分娩件数が100件以下または収入に占める正常分娩にかかる収入の割合が50%以上で、厚生労働省へ届け出た診療所・助産所)については、医療機関等が被保険者に代わって出産育児一時金を受け取る「受取代理」制度を利用することができます。
(※2)国民健康保険にも同様の制度があります。
(6)出産費貸付制度について
出産費用に充てるため、出産育児一時金(家族出産育児一時金)の支給までの間、出産育児一時金の8割相当額を限度に資金を無利子で貸し付ける制度があります。
対象者は、被保険者または被扶養者で、出産育児一時金の支給が見込まれる方のうち、出産予定日まで1ヵ月以内の方、または妊娠4ヵ月以上で医療機関等に一時的な支払いを要する方です。貸付の申込は、出産費貸付金貸付申込書に必要な書類等を添えて協会けんぽ支部にご提出ください。
(※)国民健康保険についても、同様の制度があります。
③育児休業給付金
(1)育児休業給付金とは
一定の要件を満たした雇用保険被保険者が、育児休業のために賃金の支払いを受けられない場合に支給されます。
(2)支給対象者
雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者
(3)支給要件
・育児休業開始日の前2年間に、賃金支払い基礎日数11日以上の月が12か月以上(ただし、過去に基本手当の受給資格や高年齢受給資格の決定を受けたことがある方については、その後のものに限ります。)
・各支給単位期間(育児休業開始から1か月毎の区切り)に、就業している日数が10日(10日を超える場合にあっては、就業している時間が80時間)以下(休業終了日が含まれる支給単位期間は、さらに休業日が1日以上あること。)
・各支給単位期間において、休業開始時の賃金に比べ、80%未満の賃金で雇用されていること
(4)支給金額
育児休業給付金の支給額は、支給対象期間(1か月)当たり、原則として休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業の開始から6か月経過後は50%)相当額です。
a.「支給日数」とは、
ア.イ以外の支給対象期間については30日
イ.休業終了日の属する支給対象期間については、当該支給対象期間の日数
b.「賃金日額」は、事業主の提出する「休業開始時賃金月額証明書(票)」によって、原則育児休業開始前6か月の賃金を180で除した額です。これに上記a.の支給日数の30日を乗じることによって算定した「賃金月額」が447,300円を超える場合は、「賃金月額」は、447,300円となります。(これに伴い1支給対象期間(1か月)あたりの育児休業給付金の支給額(原則、休業開始時賃金日額×支給日数の67%(50%))の上限額は299,691円(223,650円)
また、この「賃金月額」が74,100円を下回る場合は74,100円となります。(この額は毎年8月1日に変更されます。)
c.各支給対象期間中(1か月)の賃金の額と「賃金日額×支給日数(上記アまたはイ)」の67%(育児休業の開始から6か月経過後は50%)相当額との合計額が「賃金日額×支給日数(上記アまたはイ)」の80%を超えるときには、当該超えた額が減額されて支給され、当該賃金の額のみで「賃金日額×支給日数(上記アまたはイ)」の80%に相当する額以上となるときは不支給となります。
例えば、育児休業前の1か月当たりの賃金が30万円の場合、育児休業給付金として、育児休業期間中の1か月当たり30万円の67%相当額の20万1千円(育児休業の開始から6か月経過後は50%のため15万円)が支給され(支給日数が上記アの30日の場合)ます。
(5)パパママ育休プラス制度を利用する場合の支給について
父母ともに育児休業を取得する場合は、以下a.~c.のいずれの要件も満たす場合に子が1歳2か月に達する日の前日までの間に、1年(※)まで育児休業給付金が支給されます。(※) 出産日(産前休業の末日)と産後休業期間と育児休業給付金を受給できる期間を合わせて1年です。男性の場合は、育児休業給付金を受給できる期間が1年となります。
a.育児休業開始日が、1歳に達する日の翌日以前である場合
b.育児休業開始日が、配偶者が取得している育児休業期間の初日以後である場合
c.配偶者が当該子の1歳に達する日以前に育児休業を取得していること
※ c.の配偶者の育児休業には、配偶者が国家公務員、地方公務員等の公務員であり、当該配偶者が育児休業を取得した場合も含みます。
④産前産後休業期間の保険料免除制度
(1)産前産後休業保険料免除制度とは
産前産後休業期間(産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間)について、事業主の申出により、健康保険・厚生年金保険の保険料は、被保険者分及び事業主分とも徴収されない制度です。
(※)国民健康保険にも同様の制度があります。(平成31年2月から開始されました)
(2)免除される期間
保険料の徴収が免除される期間は、産前産後休業開始月から終了予定日の翌日の月の前月(産前産後休業終了日が月の末日の場合は産前産後休業終了月)までです。免除期間中も被保険者資格に変更はなく、将来、年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。
(3)その他
産前産後休業期間中における給与が、有給・無給であるかは問いません。
⑤育児休業保険料免除制度
(1)育児休業保険料免除制度
育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業及び育児休業に準じる休業)期間について、事業主の申出により、健康保険・厚生年金保険の保険料は、被保険者分及び事業主分とも徴収されない制度です。
(※)国民健康保険にはこのような制度はありません。(国民健康保険でも免除制度ができることが望まれるところです)
(2)免除される期間
保険料の徴収が免除される期間は、育児休業等開始月から終了予定日の翌日の月の前月(育児休業終了日が月の末日の場合は育児休業終了月)までです。免除期間中も被保険者資格に変更はなく、保険給付には育児休業等取得直前の標準報酬月額が用いられます。
(3)その他
この申出は、被保険者が次に掲げる育児休業等を取得する度に、事業主が手続する必要があります。
また、この申出は、現に、申出に係る休業をしている間に行わなければなりません。
(ア)1歳に満たない子を養育するための育児休業
(イ)1歳から1歳6か月に達するまでの子を養育するための育児休業
(ウ)1歳6か月から2歳に達するまでの子を養育するための育児休業
(エ)1歳(上記(イ)の場合は1歳6ヶ月、上記(ウ)の場合は2歳)から3歳に達するまでの子を養育するための育児休業の制度に準ずる措置による休業
⑥限度額適用認定証と高額療養費支給申請(帝王切開となった場合など)
(1)限度額適用認定証
病気やけがで医療機関にかかった場合、多額な費用を負担しなければならないこともありますが、標準報酬月額(適用区分)によって、法定の自己負担限度額が定められています。
(70歳未満)平成27年1月診療分から
一般的に帝王切開となった場合は、費用が高額になるため窓口での支払いがこの限度額を超えることがあります。もし、窓口で自己負担限度額を超えた額を支払ったとしても、後で説明する「高額療養費支給申請」を行えば超過した費用が協会けんぽから払い戻しを受けることができますが、とはいっても出費は避けたものです。
こういう場合に、医療機関の窓口(※1)で保険証とともに「限度額適用認定証」を提示すると、1ヵ月 (1日から月末まで)の窓口でのお支払いが自己負担限度額まで(※2)にしてもらうことができます。
※1 保険医療機関(入院・外来別)、保険薬局等それぞれでの取扱いとなります。
※2 同月に入院や外来など複数受診がある場合は、高額療養費の申請が必要となることがあります。保険外負担分(差額ベッド代など)や、入院時の食事負担額等は対象外となります。
手続きは、「健康保険限度額適用認定申請書」に氏名・住所や健康保険証の番号等を記入し、署名又は捺印のうえ、協会けんぽに提出するだけです。1週間程度でご自宅に「限度額適用認定証」が郵送されてきます。
なお、末日までに申請を行えば、当月分の費用について限度額適用を受けることができます。
手続の詳細:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3020/r151/
(2)高額療養費支給申請
高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。
事前に限度額適用認定を受けていれば、医療機関の窓口で自己負担限度額を超過して支払う必要はありませんが、認定を受けていなかった場合には「高額療養費支給申請」を行い、自己負担限度額を超過した金額を払い戻してもらいます。
なお、この「高額療養費支給申請」は月毎に申請となりますので、費用が高額になるのがわかった場合は、限度額適用認定を申請することをお勧めします。