社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【配転】明治図書出版事件(東京地決平14.12.27労判861号69頁)

明治図書出版事件(東京地決平14.12.27労判861号69頁)

参照法条 : 労働基準法2章、民法623条、育児・介護休業法26条
裁判年月日 : 2002年12月27日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成14年 (ヨ) 21112

1.事件の概要

Xは、教科書・学習参考書の出版等を営むY社で、入社後約2年半、営業職に従事した後に、東京本社学習教材部門編集部2課(以下「本社編集部2課」という)に所属し、約10年にわたって学習教材部編集者として勤務していた。Y社は、平成14年5月7日、Xに対し、就業規則に基づき、大阪支社勤務を命ずる旨の業務命令(本件転勤命令)を発令した。Xは、共働きの妻がいること、2人の子が重度のアトビー性皮膚炎で東京都内にある治療院に週2回通院していること、将来的に両親の介護の必要があること等を理由に、本件転勤命令を拒否し、同命令に基づく就労義務がない仮の地位を定める仮処分命令を申し立てたのが本件である。
なお、Y社の就業規則には、「会社は業務上必要があるときは、従業員に異動を命ずることがある」「従業員は正当の理由なくして、異動を拒んではならない」との規定があった。

2.判決の概要

本件転勤命令は、就業規則6条1項及び2項に基づくものであるところ、同条3項は「正当な理由」なくして異動を拒んではならないとしているから、「正当な理由」がある場合には当該転勤命令は配転命令権の濫用として、当該命令を無効なものとして拒むことができ、その命令に従う義務がないことも規定していると解するのが相当である。
そして、転勤命令を無効なものとして拒むことができる「正当な理由」がある場合とは、業務上の必要性(当該人員配置を行なう必要性及びその変更に当該労働者をあてる必要性)が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転がほかの不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは当該従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情の存する場合をいうと解するのが相当である。
 Xは、総合職として採用された者であり、幹部候補として処遇されるべき地位にあるから、Y社の販売網を把握すべく、転勤を予定された地位にあるということができる。そして、Y社は、本件転勤命令の発令に際し、本件組合との団体交渉や本件審尋期日の場で、Xの転勤に伴う負担軽減のため、引越し代全額負担、仕度金支給、大阪での賃料の9割会社負担、単身赴任の場合月1回の帰京交通費支給等や、これとは別の月3万円の手当を支給することを申し出ており、Xが申し出ている不利益のうち、少なくとも金銭的な不利益については、相当程度の配慮を尽くしているといえる。
しかしながら、Xに生ずる不利益は、金銭的なものだけではなく、妻が共働きであることを前提とした育児に関するものであると認められるところ(父母の引き取りは、本件転勤命令時に差し迫った事情として存在したものではないし、未だ引き取りを決めたわけではないから、これが実現できないことを不利益として認めることはできない。)、Xの二人の子がいずれも3歳以下であり、アトピー性皮膚炎であるのであるから、その育児に関する不利益(長女は皮膚をかかないように看護している必要があるし、長男も間欠的、突発的な発作があるし、入浴や食事等の生活の全般に気をつかわざるをえないから、これに仕事を持った親一人で対処するのは、肉体的にも、精神的にも過酷である。)は著しく、金銭的な填補では必ずしも十分な配慮といえないことを否定できない。
改正育休法の制定経緯に照らすと、同条の「配慮」については、「配置の変更をしないといった配置そのものについての結果や労働者の育児や介護の負担を軽減するための積極的な措置を講ずることを事業主に求めるものではない」けれども、育児の負担がどの程度のものであるのか、これを回避するための方策はどのようなものがあるのかを、少なくとも当該労働者が配置転換を拒む態度を示しているときは、真摯に対応することを求めているものであり、既に配転命令を所与のものとして労働者に押しつけるような態度を一貫してとるような場合は、同条の趣旨に反し、その配転命令が権利の濫用として無効になることがあると解するのが相当である。
本件についてみると、Y社は、Xの大阪への異動について、金銭的配慮を講じる旨の申し出をしているものの、本件転勤命令を再検討することは一度もなかったのであり、訴外A総務部長のXへの打診の経緯や本件組合との交渉の経緯からすると、Y社は、Y社に大阪支社への転勤を内示した段階で、すでに本件転勤命令を所与のものとして、これにXが応じることのみを強く求めていたと認められる。
したがって、Y社のXに対する対応は、改正育休法26条の趣旨に反しているといわざるを得ない。
ひるがえって、本件転勤命令の業務上の必要性をみるに、本件では人員不足のために絶対に3名の補充が必要であったというわけではなく、X本人のための教育的配慮も相当程度あったのであるから、業務上の必要性が、やむを得ないほど高度なものであったとはいえない。
以上を総合すると、Xについて生じている、共働きの夫婦における重症のアトピー性皮膚炎の子らの育児の不利益は、通常甘受すべき不利益を著しく超えるものであるというのが相当である。
以上のとおり、本件転勤命令は、業務上の必要性が存するけれども、Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるという特段の事情が存するから、就業規則6条3項の「正当な理由」があるといえ、本件転勤命令は権利の濫用として無効であるから、Xは、本件転勤命令に従って就労する義務がないと認めるのが相当である。

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