社会保険労務士川口正倫のブログ

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有期雇用契約の雇止め1~実質無期型と合理的期待型

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有期契約雇用の雇止め1~実質無期型と合理的期待型

1.雇止めの法理

① はじめに

有期雇用は、期間満了により終了するのが原則です。しかし、雇用に期間の定めをもうけるのは雇用のもっぱら使用者の都合(通常は有期契約を更新するが、景気の悪化等により、業績が悪くなることが見込まれると雇止めにする「景気の調整弁」「雇用のバッファー」と言われる。)によるものなので、原則どおりでは有期雇用労働者の保護に欠けることになります。特に、近年では労働者に占める有期雇用契約労働者の割合が40%近くに達しており、景気が悪化して雇止めが増加すると社会不安に繋がりかねないため、平成25年からいわゆる「無期転換ルール」が施行され、保護が強化されています。
それはさておき、有期雇用者の雇止めは、現在に始まった問題でもなく、「当然に契約更新を重ねて期間の定めのない契約と異ならない状態にある場合」(東芝柳町工場事件 最一小判昭和49.7.22民集28巻5号927頁)、あるいは「雇用継続に対する合理的期待のある場合」(日立メディコ事件 最一小判昭和61.12.4労判486号6頁)には、解雇権濫用法理を類推適用すべきとする判例法理が形成され、多数の裁判例が積み重ねられてきました。

② 労働契約法19条

平成24年改正による労働契約法19条は、この2つの判例をそのまま明文化したものされています。その際に、同条18条により契約期間が通算5年を超えた有期雇用労働者の無期転換権(無期転換ルール)も創設されました。
なお、雇止めに解雇権濫用法理を類推した場合、どのような理論構成で契約を継続させるのかについては議論があったため、同法19条は、

  • 1号:過去に反復して更新されたことがあるもので、契約更新拒絶が期間の定めのない労働契約における解雇と社会通念上同視できる場合

   (東芝型=実質無期型)

  • 2号:契約更新に対する期待に合理的な理由がある場合

   (日立型=合理的期待型)

のいずれかに該当する場合において、労働者の新契約の「申込み」に対する使用者の拒絶が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、「使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」ものとしました。なお、ここでの「申込み」は、労働者が雇止めを争う姿勢を示していれば足りるとされています。
そこで、雇止めの効力の判断にあたっては、まず、1号または2号の該当性が審査され、これが肯定された場合に、次に、解雇権濫用といえるかが審査されることになります。

③ 有期雇用と試用期間の区別

有期雇用は試用的機能を有することもあることから、試用期間との区別がよく問題となります。
この点につき、最高裁は、「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の終了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である」(神戸弘陵学園事件 最三小判平成2.6.5民集44巻4号668頁)としています。
もっとも、両者を明確に区別しがたいことも多く、試用期間であることが否定されたものとして、期間1年の契約社員が契約の更新なく打ち切られた事案で、期限後に契約終了、契約更新、正社員としての採用という3つの選択肢があったにすぎないとされたもの(ロイター・ジャパン事件 東京地判平成11.1.29労判760号54頁)、学校の常勤講師について、その中から専任教諭を採用した実例があったとしても、それは有期雇用であることと矛盾しないとされたもの(報徳学園(雇止め)事件 大阪高判平22.2.12労判1062号71頁)などがあります。

2.解雇権濫用法理の適用の可否

① 実施無期・合理的期待の判断要素

第1段階の審査では、解雇権濫用法理の適用の可否を判断するために、1号(実質無期型)ないし2号(合理的期待型)の各類型へのあてはめが行われます。
1号は実質的に期間の定めがない、あるいは明示・黙示の更新合意が成立しているとみられるものであり、2号はそこまではいえないが客観的に見て更新継続が期待できるものがそれぞれ該当します。なお、裁判例では、1号までは認めず、2号して処理しているものが多く見られます。
その判断要素として、厚生労働省「有期労働契約の反覆更新に関する調査研究会報告」(平成12年9月11日)は多数の裁判例を分析して以下の6要素を示しています。

  • (a) 業務の客観的内容(業務の恒常性・臨時性や正社員との同一性)
  • (b) 契約上の地位の性格(契約上の地位の基幹性・臨時性や労働条件の正社員との同一性)
  • (c) 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる当事者の言動・認識)
  • (d) 更新の手続・実態(更新の有無・回数、更新手続の厳格性)
  • (e) 他の労働者の更新状況
  • (f) その他(有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢等の上限の設定等)

もっとも、これらの要素は並列的にとらえるべきではありません。

東芝柳町工場事件では、
 仕事が本工と同じ ⇒ (a)
 更新手続がルーズで長期間にわたる継続雇用 ⇒ (d)
 長期雇用を期待させる使用者側の言動 ⇒  (c)

日立メディコ事件では、
 業務の恒常性 ⇒ (a)
 契約更新 ⇒ (d)

が重視されています。
業務の恒常性と契約の有期性は本来的に矛盾するものですので、(a)と(d)が肯定されれば、実質無期あるいは合理的期待ありとされやすいです。
一度も更新がなくても合理的期待が肯定されたものあります。(龍神タクシー事件 大阪高判平成3.1.16労判581号36頁)なお、労働契約法19条2号は契約更新を要件としていません。
また、他の労働者の雇止め事例が乏しければ(e)、それは継続的な労務提供を必要とする業務が存在するということであるから、(a)を支える事実にもなります。
例えば、明石書店事件(東京地決平22.7.30労判1014号83頁)では、有期雇用後にそれを更新するか正社員化するという試用的な位置づけ( (a)、(b))、契約社員の圧倒的多数の雇用継続(e)が合理的期待の肯定理由とされています。
これに対して、業務の性質上短期雇用を前提とするもの(a)、あるいは働きぶりを見て契約更新するか否かを判断するなどとされるもの((d)、(f))は合理的期待を否定する方向に働きます。
なお、合理的期待は、労働者の主観ではなく、客観的な要保護性の問題ですので、主観的要素(c)が過大に評価されるべきではありません。

② 職種による特徴

一般に、学校や予備校等の非常勤講師は、学生数や科目履修者数の変動にフレキシブルに対応するために年度ごとに判断せざるを得ないことから、雇用継続の合理的期待が認められないケースが多いです。担当授業を決める会議出席、教材の研究・選定、成績評価、生徒指導等は「教員であることに基づくもの」なのでこれを理由に専任教員と同列に取り扱えないとした判例として、学校法人加茂暁星学園事件(東京高判平24.2.22労判1049号27頁)があります。
一方、東奥学園寺事件(仙台高判平22.3.19労判1009号61頁)では、
 新規学卒者として採用された常勤講師であること ⇒ (b)
 契約更新手続があいまいであったこと ⇒ (d)
 クラス担当、校務分掌等を務めていたこと(単に生徒に授業を行うことを超える要素) ⇒ (a)
 他に雇止めされた者が例外的であること ⇒ (e)
 勤続年数が4年に及んでいたこと ⇒ (d)

また、リンゲージ事件(東京地判平23.11.8労判1044号71頁)では、
 多数回の契約更新 ⇒ (d)
 他の雇止め事例の不存在 ⇒ (e)
が、それぞれの合理的期待の肯定理由とされています。

③ 使用者や雇用形態の変更と合理的期待

有期雇用で働いている過程で使用者が変動したり契約形態が変更される場合にも、判例は形式にとらわれず、実態に即して雇用継続の合理的期待を判断しています。
例えば、リンゲージ事件では、事業譲渡にあたり、特段の新規採用手続をとらず、従前の雇用をそのまま承継していたことが重視されています。
また、グループ内の異なる企業で短期間の雇用を継続していたケースで、業務や就労場所の同一性、賃金・労働条件の決め方の連続性などから、合理的期待を肯定したものとして(京都新聞COM事件(京都地判平22.5.18労判1004号160頁)があります。
一方、グループ内の別会社において短期雇用を反復継続していた労働者を雇い入れる際の手続(所定の応募手続、2回にわたる採用面接、入社、研修等)からみて従前の労働契約の延長ということはできないとされたものもあります。ただし、結論としては、当該労働者の以前の業務経験をふまえて採用していることを積極要素の1つとして合理的期待が肯定されてはいます。(エヌ・ティ・ティ・コムチャオ事件 大阪地判平22.9.29労判1038号27頁
また、民営化前の郵政公社において非正規公務員として期間1年の任用を反復継続し、民営化後も郵便会社で働いていた職員の雇止めについて、公社時代からの更新回数と雇用期間、期間雇用社員の必要不可欠性、労働条件の継続性をふまえて合理的期待を肯定したものもあります。(郵便事業(期間雇用社員雇止め)事件 広島高岡山支判平23.2.17労判1026号94頁)


有期雇用契約の雇止め2に続く