学校法人加茂暁星学園事件(東京高判平24.2.22労判1049号27頁)
1.事件の概要
X1及びX2(以下、「Xら」という。)は、A高校を運営する学校法人Yとの間で年度ごとに雇用契約を締結し、非常勤講師としてそれぞれ25年間と17年間にわたって勤務していたが、学校法人Yは、カリキュラム変更や学級減等を理由にXらに対して雇い止めを行った。
これに対してXらは、雇用が継続されなかったのは不当であると主張して、学校法人Yに対し、いずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて提訴した。一審(新潟地判平22.12.22)は、Xらの請求を認めたため、学校法人Yが控訴したのが本件である。
2.判決の要旨
期間の定めのある雇用契約であっても、期間満了ごとに当然更新され、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にある場合には、期間満了を理由とする雇い止めの意思表示は実質において解雇の意思表示に当たり、その実質に鑑み、その効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推適用すべきであり、また、労働者が契約の更新、継続を当然のこととして期待、信頼してきたという相互関係のもとに雇用契約が継続、維持されてきた場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、期間満了後の更新拒絶(雇止め)について、解雇に関する法理を類推適用すべきと解される(最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決、最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決 参照)
Xらにおいて、契約期間満了後も、雇用継続を期待することに合理性があったと認められ、Xらの雇止めにはいずれも解雇権濫用法理が類推適用されると解するのが相当である。そうすると、Xらに対する雇止めが有効であると認められるには、単に雇用契約の期間が満了したというだけでは足りず、社会通念上相当とされる客観的合理的理由が存在することが必要であると解する。
そこで、社会通念上相当とされる客観的合理的理由の有無をどのように判断すべきであるが、(中略)Xらが主張するとおり、Xらの雇止めには整理解雇の法理を類推適用すべきと解する。すなわち、Xらの雇止めの社会通念上相当とされる客観的合理的理由の有無は、①人員削減の必要性、②雇止め回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性の4つの事情の総合考慮によって判断するのが相当であると解する。
もっとも、非常勤講師は、専任教員(常勤講師)の持ち時数を超える授業時数が発生した場合にその超える授業時数を担当することを目的として、約1年間の有期雇用契約によって採用される者であること、非常勤講師は、専任教員と異なり、クラス担任にならず、校務分掌にも入らず、クラブ活動の指導もしないこと、また非常勤講師は、兼職が禁止されておらず、学校法人Yへの拘束性が希薄であったことなどに照らすと、期間の定めがなく雇用されている専任教員とは、学校法人Yとの間の契約関係の存続の要否・程度におのずから差異があるといわざるを得ない。
したがって、Xらの雇止めが解雇権の濫用に当たるか否かを判断するに際しても、学校法人Yに相当の裁量が認められ、整理解雇の判断枠組みを類推適用するとしても、専任教員の解雇の場合に比して緩和して解釈されるべきであり、それまで雇用していたXらを雇止めにする必要がないのに、Xらに対して恣意的に雇用契約を終了させようとしたなどその裁量の範囲を逸脱したと認められるような事情のない限り、社会通念上相当とされる客観的合理的理由が存在するといえ、解雇権の濫用に当たると認めることはできないというべきである。
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