社会保険労務士川口正倫のブログ

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時間外労働の上限規制と36協定のポイント~中小企業も2020年4月から適用開始

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時間外労働の上限規制と36協定のポイント~中小企業も2020年4月から適用開始

1.はじめに

本年(2019年)4月施行の改正労働基準法によって、時間外労働の上限規制の新設及び36協定の様式が新しく変わりました。施行から半年経ったところで、もう一度内容をおさらいしてみました。なお、改正労働基準法は大企業では既に適用されていますが、中小企業は来年(2020年)4月からの適用となります。

2.労働時間と休日の大原則

労働時間は、労働条件の最も基本的なものの1つで、次のような大原則があります。
労働基準法32条は、一般的に法定労働時間と呼ばれる労働時間を規定しています。
同条1項で、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」としています。
そして、同条2項で、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」としています。
変形労働制等による例外はありますが、このように、週単位を基本として1週間の法定労働時間を40時間とし、その1週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限を、1日8時間とするのが労働時間規制の大原則です。

また、休日も、労働時間の最も基本的なものの1つで、次のような大原則があります。
労働基準法35条1項は、週休制の原則として、「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。」と定めています。これを、法定休日といいます。(これも、変形休日制という例外があります。)

したがって、労働基準法上は、原則、1週40時間、1日8時間を超えて労働させることや、週に1度の休日も取らせずに労働させることはできないということです。
もしもこれに違反すると、労働基準法第119条により、6か月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

3.法定時間外・法定休日労働の必要性

このような労働時間の大原則が規定されてはいますが、実際に事業を営んでいれば、顧客等の要望に緊急に対応しなければならないといった事態が発生することまよく起こります。
業務上の必要性から、どうしても法定労働時間を超えて労働させたり、あるいは法定休日にも労働させたりしなければならないということがあるため、このような事情を考慮して、労働基準法第36条1項は、法定時間外、あるいは、法定休日に労働させるための労使協定について規定しています。
これが、一般に「36協定」、または「時間外及び休日労働に関する労使協定」と呼ばれているものです。

4.時間外労働の上限規制の新設

労働基準法は、36協定の締結・届出と割増賃金の支払いによって法定時間外・法定休日労働を可能にしてきました。
しかし、36協定に定める限度時間については行政機関が定めた基準はあるものの法的拘束力がなく(行政機関が定めているため、法的拘束力がない。なぜなら、司法は立法機関である国会が定めた法律には従うが、行政機関が定めた基準に従う必要はない。)、事実上上限がありませんでした。
しかし、2015年に新人女性社員の過労自殺事件(いわゆる2回目の「電通事件」)が起こり、労基署による複数回にわたる是正勧告後も違法な時間外労働が全社的に常態化していたこと等から、時間外労働に法定な規制を設けるための議論が進展しました。
こうして、2019年施行の改正労働基準法で、時間外労働の上限規制が新たに新設されることとなりました。大企業については既に2019年4月1日に施行されており、中小企業については2020年4月1日から施行されます。

5.時間外労働の上限規制の内容

(1)原則(改正労働基準法36条4項)
原則、法定時間外労働の上限は、1か月当たり45時間、かつ1年当たり360時間(1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1か月当たり42時間、かつ1年当たり320時間)です。

(2)臨時の場合(改正労働基準法第36条5項)
「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」により、臨時的に(1)を超えて働かせることができる時間と月数は、次のように定められました。

  • 1か月当たり100時間未満の法定時間外労働と法定休日労働((1)原則の時間を含む)
  • 1年当たり720時間以内の法定時間外労働((1)原則の時間を含む)
  • 法定時間外労働につき1か月当たり45時間を超えることのできる月数は1年当たり6か月以内に限る。」

(3)その他の規定(改正労働基準法第36条6項)
坑内労働や有害業務についての法定時間外労働は、1日当たり2時間で、これは従来どおりです。
その他、法定時間外労働と法定休日労働を合わせた時間数は、1か月当たり100時間未満としなければなりません。

さらに、36協定の起算日から1か月毎に区分した各期間の直前の1か月~5か月の期間を加えたそれぞれの期間において、法定時間外労働と法定休日労働を合わせた時間数の1か月当たりの平均は80時間を超えてはいけません。なお、この平均時間の算出は、36協定の期限によりリセットされることはありませんので、ご注意ください。(時間管理が難しいのであれば、臨時の場合であっても上限は80時間と考えて運用するのが無難)

6.時間外労働の上限規制と36協定

36協定は、使用者と労働者が締結し、労働基準監督署に届出ることを要件として、法定時間外・法定休日労働をさせることができるものです。1週40時間、1日8時間を超えて働かせるには、36協定の締結だけでなく、届け出も必須です。
以前の労働基準法は、時間外労働の上限規制が規定されていなかったため、36協定に記載していた時間外労働の時間数は、行政機関が定めていた基準(「時間外労働の限度関する基準(平成10年労働省告示第154号」)以上の時間を記載したとしても、労働基準監督署から助言や指導はあり得ますが、労働基準署が当該36協定を絶対に受理しないということではありませんでした。
したがって、36協定なしに、あるいは締結・届出した36協定に定めた限度を超えて法定時間外・法定休日労働をさせることが労働基準法違反であることは明らかであるものの、使用者がこの限度基準の時間を超えて労働者を働かせても、それが、その36協定に記載された上限時間の範囲内であり、かつ36協定の有効期間中であれば、労働基準法の責任は問われませんでした。
しかし、2019年施行の改正労働基準法により、5.に記載のとおり、時間外労働の上限規制が定められましたので、法定時間外・法定休日労働をさせるのに36協定の締結・届け出が必須なのはもちろんですが、時間外労働の上限規制の内容を超える36協定の締結・届け出はできなくなりました。
なお、中小企業については、2020年4月1日から適用されますが、2020年4月1日以降の期間から開始される36協定から適用されます。逆にいえば、2020年3月31日から2021年3月30日までの1年間の36協定であれば、改正労働基準法の適用はありません。(改正労働基準法に関するQ&A 2-20を参照)