社会保険労務士川口正倫のブログ

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不法就労外国人を雇い入れないように注意しましょう

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不法就労外国人を雇い入れないように注意しましょう

1.不法就労外国人

(1)不法就労外国人とは
いわゆる「不法就労外国人」というのは、入管法に違反して就労している外国人のことです。
具体的には次のいずれかに該当する者です。

  • ① 就労を認められない在留資格(「文化活動」から「家族滞在」)を所持している外国人が就労した場合。例えば、観光目的などの「短期滞在」の在留資格の者が就労した場合
  • ② その在留資格では認められない職業に従事した場合。例えば、「医療」の在留資格を持っている外国人が、職業として大学教授になった場合。
  • ③ その他、入管法上に入国、在留し、就労している場合。例えば、パスポートを所持せず、あるいは偽造パスポートで入国し就労している場合。上陸許可を受けずに働いている場合。
  • ④ 留学生その他の者が、地方入国管理局の許可を得ないで、あるいはもともと認められないアルバイト、副業に従事した場合

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在留資格の一覧

(2)不法就労外国人に対する処罰
(1)の①から④の者のうち、①から③までの者、及び④のうちもっぱら資格外収入活動を行っていると認められる者は、退去強制手続により、本人の費用負担で本国に送還されます。また、裁判手続を経て有罪が確定した場合には、3年以下の懲役もしくは禁固または300万円以下の罰金に処せられます(入管法70条)
④のうち「もっぱら」とまではいえない法違反者については、同じく1年以下の懲役もしくは禁固または200万円以下の罰金に処せられます(入管法73条)

2.雇用主、あっせん者に対する不法就労助長罪

(1)不法就労助長罪の故意犯
入管法では、不法就労と知りながら外国人を雇用した者やこれをあっせんした者に対する「不法就労助長罪」が定められています。
次のいずれかに該当する者は、裁判手続を経て有罪が確定したときには、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられ、またはこれら両方の刑に処せられます(入管法73条の2)。

  • ① 事業に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
  • ② 外国人に不法就労させるために、これを自己の支配下に置いた者
  • ③ 業として、外国人に不法就労活動させる行為、または前記②の行為に関し、あっせんした者

これらに該当する入管法違反があった場合には、両罰規定により、直接の行為者(例えば、外国人に不法就労活動をさせた管理者)が前述のように処罰されると同時に、その行為者の属する法人または代表者個人も罰金刑に処せられます。
また、②及び③の行為については、日本国外で日本人や外国人が行った場合にも、日本国内で行った場合と同様に処罰されます。

(2)不法就労助長罪の過失犯
2009年の入管法改正前までは、不法就労助長罪に該当するのは、「不法就労外国人であることを知りながら」雇用した場合であり、知らないで雇用した場合は、該当しませんでしたが、2009年7月の入管法改正により、不法就労助長罪について次の2点が加わりました(入管法73条の2第2項等)。

  • ① 不法就労助長罪に過失犯も含められたこと
  • ② 不法就労助長行為を外国人が行なうと国外退去強制事由となったこと

2009年の入管法改正前は、不法就労助長罪は、その外国人が不法滞在者であることを「知っていること」が要件とされていました。つまり、不法就労外国人であることを「知らずに」雇い入れていたのであれば、同条の適用を受けず罪にならないと定められていたのです。
しかし、2009年の法改正により、「知らなかった」としても、そのことに過失がある場合には、同条の適用を受けることになりました。外国人を雇用する際には、就労資格を適切に確認しないと、過失犯として事業主が罰せられることがあるのです。

3.罰せられないための注意点

(1)雇い入れる際の就労資格の確認
企業が外国人を雇用する際に、その者が入管法に関して適法に就労できるか否かを確認できるものとして「在留カード」があります。
とにかく、在留カードの現物よく確認し、コピーも取らせてもらいましょう。なお、外国人が雇用保険の被保険者となる場合は、資格取得届に在留資格を記入する必要があります。

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在留カード(表)
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在留カード(裏)

(2)観光ビザによる就労は違法
日本国内に観光、友人の訪問、視察その他の目的で短期間滞在する外国人が取得できるのが「短期在留」の在留資格です。この場合、認められる在留期間は90日、30日または15日のいずれかです。
いわゆる「観光ビザ」(「ビザ」というのは「入国査証」のこと)で日本に入国した者の在留資格は「短期在留」となります。この資格の者は、本職としてもアルバイターとしても、就労することは一切認められません。

(3)外国人転職者の雇入れ
日本国内で他社に就職していた外国人転職者を自社で採用する場合には、必ず、その外国人の在留資格と在留期間を「在留カード」で確認してください。
採用後、その企業で予定されている就労の内容と期間が、当人の所持している「在留カード」の記載内容で認められている範囲内であれば、雇用される企業が変わっても、何も問題はありません。
例えば、在留資格「法律・会計業務」のうち「法律」の資格で、1年間の在留・就労が認められA社で働いていた外国人が、6か月後にB社に転職する場合であれば、B社での就労分野が「法律」の範囲内であれば、その外国人は残りの6か月間、適法に就労できます。
ただし、所属機関に変更があったことを最寄りの地方入国管理局に届出なければなりません。この場合、本人が、「転職するので新たな就職先企業についても在留資格、在留期間のうえで問題ない旨の証明がほしい」ということで、地方入国管理局に申請すれば、そのことが「在留カード」に記載されます。
これに反して、B社での就労分野が例えば米国公認会計士としてとったように「法律」の在留資格では認められない分野の場合には、本人はB企業で働く前に、あらかじめ、「法律・会計業務」のうち「会計業務」の在留資格への変更許可申請を地方入国管理局に行い、「在留カード」にそのことを記載してもらわなければなりません。
また、当初認められた在留期間が残り1・2か月しかないといったように短い場合には、在留期間更新の許可を地方入国管理局から得なければ、在留期間を過ぎて引き続き働いていると不法残留となります。

(4)外国人就労者の家族である外国人の就労
外国人が、在留資格のうち就労可能な在留資格を取得して日本国に入国する場合、その外国人の扶養を受ける配偶者または子(いずれも外国人)であって、「家族滞在」の在留資格で日本国内に滞在している者は、本職としての就労は認められません。ただし、地方入国管理局の許可を得て、アルバイト、副業に従事することはできますが、この場合も、風俗営業、単純労働に従事する場合は許可されません。外国人留学生のアルバイトのように画一的な許可基準はなく、ケース・バイ・ケースで判断されます。
また、配偶者または子が、夫とは別に在留資格のうち就労が認められる在留資格を取得すれば、その資格の範囲内で就労できます。
さらに、外国人労働者の家族の所持している在留資格が、在留資格のうち「永住者」から「定住者」までのいずれかであれば、本職としてでも、アルバイターとしてでも就労できます。日系二世・三世・難民などの場合がこれに該当します。