社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



2019年4月施行の入管法等の改正の概要

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2019年4月施行の入管法等の改正の概要

 1.入管法等改正の目的

 

入管法等の改正法が2018年12月に成立し、2019年4月1日から施行されました。「入管法」の正式名称は「出入国管理及び難民認定法」で、「等」が付されるのは「法務省設置法」を含む意味で、この入管法等の改正の目的は次のとおりです。

  • ① 外国人の新たな在留資格として、「特定技能1号」と「特定技能2号」を設けること。
  • ② 法務本省内の入管管理局を、同省の「出入国残留管理庁」に格上げし、その組織を拡充すること。

①の改正により、従来の外国人技能実習制度に基づく外国人技能実習生が最長5年間であったのに対して、通算して10年~20年程度雇用することができるようになりました。
つまり、日本国内の企業等は、従来の外国人技能実習制度により、まず、外国人を技能実習生として、最長5年間雇用することができます。
さらに、その後、最長5年間、在留資格「特定技能1号」により雇用することができ、そしてその後も、在留資格「特定技能2号」により雇用することができるようになりました。
以上の改正により、これまで禁止されてきた、外国人の建設、生産、接客等の現場の単純労働者から熟練労働者までの受入が認められることになりました。
そして、新設された「出入国在留管理庁」が日本国の国籍を保持していないすべての外国人の出入国、在留の事務手続、管理及び処分等を行うこととなりました。

 

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外国人技能実習制度と特定技能制度の関係

 

 2.外国人技能制度の概要

外国人技能実習制度は、入国管理法と外国人技能実習法(外国人の技能実習の適正な実子及び技能実習生の保護に関する法律)に基づいて行われています。外国人技能実習生は、在留資格技能実習」により日本国内に在留しています。
外国人技能実習制度は、企業単独型と団体監理型があり、企業単独型は主に大企業で行われており、海外にある合弁企業など事業上の関係を有する企業の従業員を受け入れて行われる活動で、団体監理型は主に中小企業で行われており、商工会等の営利を目的としない団体の責任及び監理の下で行われる活動です。実施されているのは、大多数が団体監理型です。

 

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企業単独型による外国人技能実習

 

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団体監理型による外国人技能実習

外国人技能実習制度は、日本国内の企業が、開発発展途上国等から外国人技能実習生を受け入れて技能・技術・知識を習得させ、人材の育成を通じて国際貢献を図るのが主なねらいですが、これまで、外国人技能実習生を受け入れている団体、企業等の一部が本来の目的を十分理解せず、実質的な低賃金労働者として扱うなどの問題が生じていました。

外国人技能実習の全体のしくみ・流れは次の図のとおりです。

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外国人技能実習制度の流れ

外国人技能実習の実施期間は、最長5年間です。
実習の実施期間中は、当初2か月の座学による講習の期間を除いて、受け入れ企業等と外国人技能実習生の双方に、日本人労働者と同様に、労働関係法令と社会保険関係法令が適用されます。
団体監理型の場合は、実習生受け入れ企業等に対し、監理団体による訪問指導(1か月に1度)及び定期もしくは臨時の監査(3か月に1回以上)が実施されます。
なお、この制度の対象となるのは、国が定める80職種(144作業)に限られており、多いのは、建設関係(22職種、33作業)、機械・金属関係、繊維・衣服関係、食品関係、漁業関係、その他となっています。

 

3.改正入管法等の概要

 改正入管法等の概要は次のとおりです。
外国人技能実習制度は、あくまで国際貢献が目的で、外国人労働者の受入れはありませんでした。今回施行された改正入管法等は、従来、高度な専門分野に限っていた日本国政府外国人労働者の受入れ政策の方針を大幅に転換し、外国人労働者の単純労働分野から熟練技能分野までの就労を認めるものとなります。

在留資格の新設

 

(1)外国人(日本国籍を取得していない者)は、次のいずれかの在留資格を取得することにより、適法に日本国内に在留し、雇用労働者として就労することが認められる。

  • 一定の技能が必要な業務に就く「特定技能1号」
  • 熟練した技能は必要な業務に就く「特定技能2号」

(2)在留資格「特定技能1号」を取得できるのは、次のいずれかの外国人労働者である。

  • 「日本国内での外国人技能実習」を3年間以上終了した者(例えば、「建築大工」の職種の技能実習を修了した外国人は、「建設業」として従事するための「特定技能1号」の在留資格を取得できる)
    (※)外国人技能実習制度の技能実習2号を修了した場合、無試験で「特定技能1号」を取得できることになります。
  • 技能と日本語の能力試験に合格した者(この試験は、中国、ベトナム、タイなど9カ国において政府が実施する)
    (※)特定技能制度は外国人実習制度とは別の制度であるため、技能実習を経なくても能力試験に合格すれば、「特定技能1号」を取得できます。

(3)「特定技能1号」の取得者が、日本国内に在留し、就労できる通算期間は最長5年間とする。また、配偶者と子供の帯同は認められない。

(4)在留資格「特定技能2号」を取得できるのは、次のいずれかの外国人労働者である。

  • 日本国内で「特定技能1号」による就労を修了した者
    (※)「特定技能1号」により通算5年間就労した場合、無試験で「特定技能2号」を取得できることになります。
  • 「特定技能2号」を取得するための技能試験に合格した者
    (※)「特定技能2号」の取得に際しては、日本語の能力についての試験はありません。

(5)「特定技能2号」の取得者が、日本国内に在留し、就労できる期間は、認められた在留期間とする。配偶者と子供の帯同も認められる。在留期間は更新することができ、永住が認められる場合もある。

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日本国政府のこの制度の運用方針

 

(1)この制度の適切な運用を図るため、日本国政府は、在留資格「特定技能1号・2号」に関する基本方針を定めなければならない。

(2)法務大臣は、外国人で人材不足を補う産業分野を所管する関係行政機関の大臣(国土交通省農林水産省経済産業省その他)、外務大臣厚生労働大臣等と共同し、人材不足の状況や求められる人材の基準などを盛り込んだ「分野別運用基準」を定めなければならない。

※「分野別運用基準」として定めれた「分野別運用方針」により、次の分野(特定技能1号14分野・特定技能2号2分野)で特定技能制度が実施されます。

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特定技能制度が実施される産業分野

 

③差別のない雇用契約の締結と遵守

(1)事業主は、「特定技能1号・2号」の分野の労働に従事させる外国人労働者との間で締結する雇用契約において、報酬、教育訓練、福利厚生施設の利用などの待遇について、外国人であることを理由として差別的取扱いをしてはならない。

(2)「特定技能1号」の外国人を受け入れる事業主は、職業生活、日常生活及び社会生活についての支援計画を作成し、この計画に基づいて支援しなければならない。

(3)支援については、出入国在留管理庁長官の登録を受けた支援機関に委託することができる。

(4)登録支援機関及び支援業務に関する必要事項については、法務省令で定める。

 

④特定技能外国人の受入れ停止

 

必要な人材が確保できたと認められる産業分野については、所管する関係行政機関の長が、法務大臣に対して、在留資格認定証明書の交付の停止を求めることができる。

 

⑤指導、助言等

 (1)出入国在留管理庁長官は、雇用契約の適正な履行等に関して、在留資格「特定技能」所持労働者の受入れ先事業主に対して指導や助言を行うほか、立入り検査や改善命令を出すことができる。

(2)出入国在留管理庁長官は、登録支援機関に対しても、指導や助言、登録の取消しをすることができる。

 

⑥罰則

 

(1)出入国在留管理庁長官の発出した改善命令に違反した者については、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科することができる。

(2)事業主が不適正な雇用契約の変更を申し出なかった場合や、虚偽の報告書を提出した者には、30万円以下の罰金を科すことができる。

 

 4.ポイント

  • 従来から設けられていた在留資格技能実習」に加えて、「特定技能1・2号」が設けられたことにより、日本国内の建設、生産、接客等の現場労働分野に、単純無技能労働から熟練技能労働までの広範囲にわたって、外国人労働者を受け入れることが認められました。
  • 在留資格「特定技能1号」また「2号」を取得して、日本国内の企業に雇用された外国人労働者が、同一業種(例えば建設業)の範囲内で、他社に転職することは認められています。(ただし、退職から3か月を超過しても特定技能に該当する就労をしていない場合は、在留手続取消の対象となる可能性があります。)
  • 改正入管法は、現在の建設等をはじめとする深刻な人手不足を解消することが目的です。
  • 改正入管法には、日本国内の企業が「特定技能1号・2号」に基づき外国人労働者を受け入れることができる受入れ対象業種は、記載されていません。具体的な受入れ対象業種は、法務省令により、当面、建設業、農業などの14業種と定められました。
  • 受入れの大半は、「特定技能1号」が占めており、「特定技能2号」については、建設業及び造船・舶用工業に限定されています。
  • 受入れ対象業種は、人手不足の状況等により、見直されることもあります。