社会保険労務士川口正倫のブログ

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【固定残業代】イーライフ事件(東京地判平25.2.28労判1074号47頁)

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イーライフ事件(東京地判平25.2.28労判1074号47頁)

1.事件の概要

Xは、ポータルサイトの運営及びIT関連事業等を営むY社で、東京事業部に所属する年俸制の従業員であった。Xは、元上司であった訴外A(Y社を退職後にY社と同種・同業である訴外B社を設立し、Y社の顧客を奪取)の依頼を受けて、1年以上にわたってB社の競業業務を請け負い、顧客の奪取に加担した。Y社は、本件競業行為等への加担行為は懲戒事由に該当するものとして、Xを懲戒解雇とし、退職金の一部を不支給とした。これに対して、XがY社に対し、退職金規程に基づく退職金及び時間外労働賃金等を請求したのが本件である。 なお、Y社の給与規程13条には,精勤手当について「会社は、営業社員について本規程第15条の超過勤務手当に代えて、精勤手当を定額で支給する。なお、超過勤務手当が精勤手当を超える場合には、その差額を支給する」と規定されていた。

2.判決の概要

①退職金の不支給について

Xは、Y社の従業員として雇用契約の継続中、使用者であるY社の利益に著しく反する競業行為及び顧客等の奪取行為を差し控える義務(以下「競業避止義務等」という。)を負っているものと解されるところ、Y社は、Aが競業会社であるB社を設立した上、その顧客を奪取し、あるいは奪取しようとしていることを認識しつつ、本件雇用契約の継続中であるにもかかわらず、1年余りにわたって継続して本件競業行為等に加担したこと、そして、その加担の内容は、競業業務(ホームページのデザイン作成作業等)の手伝いにとどまらず、Y社の重要顧客に関するホームページのデザイン制作という顧客奪取にとって不可欠な行為にまで及んでいるばかりか、その態様もEメール等によりAのほかB社の担当者との間でかなり周到な連絡を取り合った上、Y社の就業時間内においても、Y社のパソコンを利用するなどして行われているほか、その対価としてXは、飲食代をおごって貰ったり、10万円程度の報酬を受け取るなどしたこと、そして、実際にXの上記加担期間中におけるY社の重要顧客からの売上にかなりの減収が生じていることなどの事実関係が認められる。 以上によると、Xによる本件競業行為等への加担の性質及び態様等に照らすと本件懲戒解雇は、「客観的に合理的な理由」を欠くものではなく、かつ、社会通念上も相当と認められ、有効と解するよりほかはない。そこで次に本件懲戒解雇事由が、それまでのXの勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背信行為に当たるものと評価し得るか否かについて検討するに、そもそもXの正社員としての勤続年数は10年に満たないところ、本件懲戒解雇事由である本件競業行為等への加担は、その経緯、期間、内容、態様等からみて、XがY社に対して負っている競業避止義務等に著しく違反する悪質な行為であって、それまでのXの勤続の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為であったとの評価が十分に成り立つものと考えられ、・・・(中略)退職金規程に記載されている不支給規定は、本件退職金請求に対して、全面的に適用されるものというべきである。

②時間外賃金の請求について

給与規程13条は、精勤手当について、「会社は、営業社員について本規程第15条の超過勤務手当に代えて、精勤手当を定額で支給する。なお、超過勤務手当が精勤手当を超える場合には、その差額を支給するものとする。」と、また同15条は、時間外勤務手当の計算方法として、「基本給/その年度における1カ月の平均所定労働時間×時間外労働時間数×1.25」と規定している。しかし、Xは、東京事業部所属の従業員であって「営業社員」ではなく、したがって、本件給与規程13条の適用はない。 これに対しY社は、本件給与規程13条は「年俸制の従業員」を書き漏らしたに過ぎない旨主張しているが、本件給与規程は平成19年に制定され、平成22年4月1日に改定されているところ、Y社の主張によれば、この間一貫して、年俸制の従業員に対する精勤手当は残業手当の趣旨で支払われていたというのであるから、平成22年の改定においても、本件給与規程13条の「年俸制の従業員」が記載されていないことに気が付かなかったというのは、やはり不自然である。・・・(中略)いずれにしても本件給与規程13条は、その適用対象従業員として「年俸制の従業員」を規定していないのであるから、その効力(労働契約規律効ないし契約内容補充効。労契法7条)により、同条の定めが本件雇用契約の内容の一部となっているものと解する余地はない。 また、仮に本件みなし残業合意がXとY社の間に成立していたとしても、かかるみなし残業合意が有効とされるためには、 ① 当該手当が実質的に時間外労働の対価としての性格を有していること、 ② 定額残業代として労基法所定の額が支払われているかどうかが判定できるように、その約定(合意)の中に、明確な指標が存在していること、 ③ 当該定額(固定額)が労基法所定の額を下回るときは、その差額を当該賃金の支払時期に精算するという合意が存在するか、あるいは少なくともそうした取扱いが確立していること が必要不可欠であると解される。

そして、①の要件を満たすためには、少なくとも当該手当が、(1)時間外手当に従事した従業員だけを対象として支給され、しかも、(2)時間外労働の対価 以外に合理的な支給根拠(支給の趣旨・目的)を見いだすことができないことが必要であり、②の要件を満たすためには、少なくとも当該支給額に固定性(定額性)が認められ、かつ、その額が何時間分の時間外労働に相当するのかが指標として明確にされていることが必要である解されるところ、Xに支給されていた精勤手当は、年間に数回も変動しており、その幅も決して小さくなく固定性(定額制)に疑問があるばかりか、その合意中に当該支給額が何時間分の時間外労働に相当するものであるかを明確にする指標を見出すことはできない。さらに③の要件を満たすには、労基法所定の割増賃金との差額精算の合意ないしはその取扱いが確立していることで足りるところ、少なくとも本件全請求期間のうち本件コンピューター入力システムに転換した後の期間についてはY 社の指示により当初から出社時刻の入力記録しか残されておらず、これでは上記労基法所定の割増賃金との適正な差額精算など行いようもないことは明らかであるから、他に上記差額精算の合意ないし取扱いが存在したことを認めるに足る証拠はない。 以上によれば仮にXとY社間に本件みなし残業合意が成立していたとしても、その合意は、上記各要件を満たさず、無効と解するよりほかはない。

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