社会保険労務士川口正倫のブログ

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【固定残業代】アクティリンク事件(東京地判平24.8.28労判1058号5頁)

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アクティリンク事件(東京地判平24.8.28労判1058号5頁)

裁判年月日 : 2012年8月28日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23年(ワ)1954号 

1.事件の概要

Xらは、投資用マンション販売仲介事業者Y社で、売買事業部内のグループ長として、テレアポオペレータの管理・指導、顧客面談への同行・指導等のほか時には自らテレアポ業務に従事していた。Xらの賃金は、基本給の他、役職手当・営業手当・住宅手当・班長手当、通勤手当等が支給されており、営業手当は、賃金規程中に月間30時間分の割増賃金として支払う旨が定められたが、Xらは退職後にそれぞれ勤務時間中の時間外労働割増賃金の支払いを請求したのが本件である。

2.判決の概要

(前略)営業手当は、本件賃金規程13条において、月30時間分に相当する時間外労働割増賃金として支給されることとされていることからすれば、いわゆる定額残業代の支払として認められるかのようにもみえる。
しかし、このような他の手当を名目としたいわゆる定額残業代の支払が許されるためには、①実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していることは勿論(条件①)、②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していることが(条件②)必要不可欠であるというべきである。 (前略)営業手当は、売買事業部の従業員が顧客と面談する際にかかる諸経費をまかなう趣旨を含んでいたこと、Y社では業務部の従業員も時間外労働に従事しているにもかかわらず、業務部の従業員に営業手当は支払われておらず、これと同趣旨の別の手当が支払われているわけでもないこと等の事実を認めることができる。これらの事実にかんがみれば、営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして支給されていたものとみるのが相当であり、実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできない。(中略) 以上によれば、本件における営業手当は、上記条件①及び②のいずれも満たさないことが明らかであるから、本件賃金規程13条の存在のみによってこれを定額残業代とみなすことはできない。したがって、営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして、労基法37条1項にいう「通常の労働時間又は労働日の賃金」に該当するというべきである。

3.解説

下級審ながら、定額手当型の固定残業代について次のような要件を提示した判例。この要件は、テックジャパン事件(最判平24.3.8労判1060号5頁)における櫻井龍子判事の補足意見とほぼ同内容である。
①実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること。(対価性の要件)
②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること。(公正性の要件)



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