社会保険労務士川口正倫のブログ

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【固定残業代】テックジャパン事件(最判平24.3.8労判1060号5頁)

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テックジャパン事件(最判平24.3.8労判1060号5頁)

参照法条 : 労働基準法32条、労働基準法114条、労働基準法(平成20年法律第89号による改正前)37条
裁判年月日 : 2012年3月8日
裁判所名 : 最高一小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成21(受)1186

1.事件の概要

Xは、人材派遣会社Y社でプログラマーとして勤務しており、賃金は、基本給月額41万円で、月間の総労働時間が180時間を超過した場合は超過部分について1時間当たり2,560円を支払う、他方、月間の総労働時間が140時間に不足する場合は不足部分ついて1時間当たり2,920円を控除する旨が定められていた。
Xが、Y社を退職後、Y社に対して、未払いの時間外割増賃金(月間の総労働時間が180時間を超えないが法定労働時間を超える部分を含む)を請求したのが本件である。

2.判決の概要

XとY社の間の労働条件を定めた約定によれば、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働がされても、基本給自体の金額が増額されることはなく、基本給の一部が他の部分と区別されて労基法37条1項の定める時間外割増賃金とされていた等の事情はうかがわれない。また、法定割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間は、1週間に40時間を超え又は1日に8時間を超えて労働した時間の合計であり、月間総労働時間が180時間以下となる場合を含め、月によって勤務すべき日数が異なること等により相当大きく変動し得るものである。そうすると、月額41万円の基本給のうち、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
これらによれば、Xが時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給を支払うことによって、月間180時間以内の労働時間中の法定時間外労働について割増賃金が支払われたとすることはできないというべきであり、Y社は、Xに対し、月額41万円の基本給とは別に時間外割増賃金を支払う義務を負う。また、Xが自由意志に基づいて、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたということもできない。

3.解説

基本給の中に割増賃金を渾然一体に組み込んで支給するタイプの固定残業代について、通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外及び深夜の割増賃金にあたる部分とを明確に判別できないことを理由に固定残業代の有効性を否定する見解を最高裁が示した判例。同様なタイプの固定残業代についての最高裁判決である高知県観光事件(最判平6.6.13労判653号12頁)での判示を踏襲した。
なお、本判例では櫻井龍子判事により次のような補足意見が述べられている。補足意見なので、合議体である最高裁の法廷意見ではないものの、これだけの要件を満たしておけば固定残業代の有効性を否定される可能性はかなり低くなると思われるため紹介する。

・使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは、罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため、時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請している。
・毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、その旨が労働契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならない。
・一定時間(例えば10時間)を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解するべき。
・本件の場合、そのようなあらかじめの合意も支給実態も認められない。



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