社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



【休職】京セラ事件(東京高判昭和61.11.13労判487号66頁)

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京セラ事件(東京高判昭和61.11.13労判487号66頁)

1.事件の概要

AはX社の従業員であるが、はじめB医師の診断書を提出して欠勤していたが、A所属の労働組合は、右疾病は業務に起因するものであるから職業病として取り扱い休職期間満了による退職扱いとして取り扱わないよう会社に申し入れていた。X社は、B医師に照会してAの疾病は素因に基づくもので業務に起因するものではないとの回答を得たうえ、Aに対し3名の医師を指定し、そのいずれかの診断を受けるように指示したが、Aはこれに応じなかった。そこで、X社は、休職期間満了とともにAを退職扱いとし、退職について労働組合の団体交渉の申入れにも応じなかったので、労働組合が右行為は不当労働行為に当たるとして救済命令を求めた。地方労働委員会はこれを容れて救済命令を発し、中央労働委員会Yもこれを維持したので、X社が本件命令の取消しを求めて提訴した。第一審判決は、X社の請求を棄却したが、高裁は不当労働行為には当たらないとして第一審判決を取り消したのが本件である。

2.判決の概要

X社としては、従業員たるAの疾病が業務に起因するものであるか否かは同人の以後の処遇に直接に影響するなど極めて重要な関心事であり、しかも、Aが当初提出した診断書を作成したB医師から、Aの疾病は業務に起因するものではないとの説明があったなどしたことは前述のとおりである。かような事情がある場合にX社がAに対し改めて専門医の診断を受けるように求めることは、労使間における信義則ないし公平の観念に照らして合理的かつ相当な理由のある措置であるから、就業規則等に定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、Aはこれに応ずる義務があるものと解すべきである。もっとも、Aにおいては右指定医三名の人選に不服があるときは、その変更等についてX社側と交渉する余地があることは、X社側において指定医・診察についてAの希望をできるだけ容れると言明していることからすると明らかであり、しかも指定医の診断結果に不満があるときは、別途自ら選択した医師による診断を受けこれを争い得ることは事理の当然であるので、前記の義務を肯定したからといって、直ちに同人個人の有する基本的人権ないし医師選択の自由を侵害することになるとはいえない(労働安全衛生法66条5項但し書は、法定健診の場合を対象とする規定であって、本件におけるような法定外健診についてはその適用ないし類推適用の余地はないものと解する。)しかるに、Aがその挙に出ることもなく、単に就業規則等にその定めがないことを理由として受診に関する指示を拒否し続けたことは許されない。



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