社会保険労務士川口正倫のブログ

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【解雇】HIV感染者解雇事件(東京地判平成7.3.30労判667号14頁)

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HIV感染者解雇事件(東京地判平成7.3.30労判667号14頁)

参照法条 : 労働基準法2章、民法44条、民法709条、民法710条、民法715条
裁判年月日 : 1995年3月30日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成4年 (ワ) 22646 

1.事件の概要

コンピュータープログラマであるXは、東南アジアの取引先B社への海外派遣を条件としてA社に入社、現地の病院で就労ビザ取得のための健康診断を受けたが、病院は依頼されていないのにXのHIV抗体検査を無断で行い、陽性反応が出たことをB社社長Cに告知した。CもまたA社に報告し、XはAの社の命令を受けて帰国したところA社幹部Eから感染者であることを知らされ、国内で改めて検査を受けるよう勧められた。その結果が判明する前に「諸般の事情」などを理由に解雇通知を受けた。
Xは、①本件解雇の効力、②A社の不法行為、③B社およびCの不法行為責任を主張し提訴したのが本件である。

2.判決の概要

HIVは、伝染性のある疾病であるばかりか、潜伏期間が長いのでHIV感染者が感染していることを知らないと第三者に感染させるおそれがあり、また、HIV感染者にも早期にこの疾病に対する治療や生活態勢を確立させることが必要であるから、HIVに感染していることを告知することが望ましいと言える。
しかし、HIV感染者に感染を告知するに際しては、・・・(中略)この疾病の難治性、この疾病に対する社会的偏見と差別意識の存在等による被告知者の受ける衝撃の大きさ等に十分配慮しなければならず、具体的には、被告知者にHIVに感染していることを受け入れる用意と能力があるか否か、告知者に告知するに必要な知識と告知後の指導があるか否かといった慎重な配慮のうえでなされるべきであって、告知後の被告知者の混乱とパニックに対処するだけの手段を予め用意しておくことが肝要であると言える。
このようにみてくると、HIV感染者にHIVに感染していることを告知するに相応しいのは、その者の治療に携わった医療者に限られるべきであり、・・・(中略)そうすると、D社長がXに対してXがHIVに感染していることを告知したこと自体許されなかったのであり、この告知及びこの後の経緯に鑑みると、著しく社会的相当性の範囲を逸脱していると言うべきである。
本件解雇は、使用者が被用者のHIV感染を理由に解雇するなどということは到底許されることではなく、著しく社会的相当性の範囲を逸脱した違法行為と言うべきであるから、本件解雇は、A社のXに対する不法行為となり、A社はXに対し、民法709条によりXの被った損害を賠償すべき責任がある。
被告B社及び被告Cの不法行為の成否は、使用者といえども被用者のプライバシーに属する事柄についてはこれを侵すことは許されず、同様に、被用者のプライバシーに属する情報を得た場合であっても、これを保持する義務を負い、これをみだりに第三者に漏洩することはプライバシーの権利の侵害として違法となると言うべきである。このことは、使用者・被用者の関係になり第三者の場合であっても同様であると解される。




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