社会保険労務士川口正倫のブログ

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【賃金】あけぼのタクシー事件(最一小判昭和62.4.2労判506号20頁)

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あけぼのタクシー事件(最一小判昭和62.4.2労判506号20頁)

参照法条 : 民法536条2項、労働基準法2章
裁判年月日 : 1988年10月26日
裁判所名 : 福岡高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和62年 (ネ) 241

1.事件の概要

Xら2名は、Y社にタクシー乗務員として雇用され、かつ、会社に勤務するタクシー乗務員で組織するA労組に所属していた。Y社は、Xらに対して、同月21日、懲戒解雇する旨の意思表示をした(本件解雇)。Xらは、同年9月1日より昭和53年2月10日まで別会社でタクシー運転手として就労し収入を得ていたが、労働委員会の緊急命令により、昭和53年3月14日からY社に復帰した。一時金は夏期(対象:12月1日~翌年5月31日、8月支給)と冬期(対象:6月1日~11月30日、12月支給)に支給され、Xらは復職後昭和53年夏季一時金(同年3月14日~5月31日の分)を受領した。そこで、Xらは、雇用契約上の地位にあることの確認と本件解雇日から職場復帰までの賃金を請求した。一審(福岡地判昭和56.3.31労判365号76頁)・二審(福岡高判昭和58.10.31労民集34巻5・6号914頁)とも、本件解雇は不当労働行為に該当するものとして無効と判断した。他方、解雇期間中の中間収入の控除について、一審が一時金全額を損益相殺の対象としたのに対して、二審は一時金を控除の対象としないと判断したため、Y社が上告したのが本件である。

2.判決の概要

使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは、使用者は、右労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり右利益(以下「中間利益」という。)の額を賃金額から控除することができるが、右賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。したがって、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、右利益の額が平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労働基準法12条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許されるものと解せられる。そして、右のとおり、賃金から控除し得る中間利益は、その利益の発生した期間が右賃金の支給の対象となる期間と時期的に対応するものであることを要し、ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないものと解すべきである。

3.解説

解雇が無効とされた場合は、解雇期間中の不就労は使用者の責めに帰すべき事由による履行不能となり、民法536条2項に基づき、労働者はその間の賃金を請求できる。(いわゆる、「バックペイ」)しかし、解雇期間中に他社で就労する等して得た収入は、同条項後段に基づき、使用者に償還しなければならない。労働者が使用者への労務提供の債務を免れたことにより、他から収入を得たのだから、使用者からの賃金の他に二重取りをするのが不合理なためである。
一方で、労働基準法26条は、使用者の帰責による休業の場合には、平均賃金の6割支払いを保障しており、また賃金全額払いの原則もあることから、どの範囲まで使用者に償還しなければならないのかが問題となる。
この点、米軍山田部隊事件(最二小判昭和37.7.20民集16巻8号1656頁)は、中間収入が副業的なもので解雇がなくても当然に取得できた等特段の事情がない限り、償還の対象となり、使用者は、決済を簡便にするために、償還利益の額をあらかじめ賃金から控除することができるが(つまり、賃金全額払いの原則には違反しない)、労働基準法26条により、解雇期間中の平均賃金の4割までが限度となるとしている。
そして、本件は、控除の範囲について、中間収入の額が平均賃金の4割を超える場合には、平均賃金の算定の基礎とならない賃金(労働基準法12条4項:臨時に支払われた賃金や3か月を超える期間ごとに支払われる賃金等)の全額を対象として収入額を控除することができ、賃金から控除できる中間収入は、その利益の発生した期間が、賃金の支給対象となる期間と時期的に対応するものであることを要するという見解を示したものである。

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