社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【労働条件の変更】日本システム開発研究所事件(東京高判平成20.4.9労判959号6頁)

日本システム開発研究所事件(東京高判平成20.4.9労判959号6頁)

参照法条 : 労働基準法15条、労働基準法89条、労働基準法24条1項
裁判年月日 : 2008年4月9日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)5366

1.事件の概要

Y社では、20年以上前から就業規則を変更することなく、主に40歳以上の研究職員を対象として、年俸制度を導入していた。Y社と労働者との年俸交渉は毎年6月に行われ、その年度(当年4月1日から翌年3月31日まで)の年俸を決めることとし、その際、5月中旬頃まで個人業績評価を行い、非年俸者の給与改定基準表を参考に、Y社の役員が交渉開始の目安となる提示額を計算し、1人当たり30分から1時間ほどの交渉が行われ、役員と労働者が協議して最終的な合意額と支払方法を決定していた。ところが、平成15年・16年において、業績評価の基となる資料の提出を研究室長らが拒んだことから、業績評価ができず、平成14年度の給与のままとされた。その後、Y社の経営が悪化したことなどから、給与の見直しを行い、平成17年度には、Y社の役員が作成した評価に基づく業績評価を行い、個別の交渉を行ったが、年俸額が大幅に引き下げられていたことから、合意に至らなかった。Y社は、今後の交渉による確定・清算を予定しつつも、暫定的に算定した額に基づき賃金を支払った。そこで、年俸制の適用を受けていた4名の原告Xらが、従前の賃金との差額等を求めて提訴した。

2.判決の概要

Y社における年俸制のように、期間の定めのない雇用契約における年俸制において、使用者と労働者との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続、減額の限界の有無、不服申立手続等が制度化されて就業規則に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。上記要件が満たされていない場合には、労働基準法15条、89条の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はないと解するのが相当である。年俸額について合意が成立しない場合に、Y社が年俸額の決定権を有するということはできず、前年度の年俸額をもって、次年度の年俸額とせざるを得ない。

3.解説

年俸制の労働者について、年俸額が合意できない場合であっても、当然に、使用者が一方的に年俸額を決定できるのではなく、年俸額決定の制度が就業規則等に定められており、かつその内容が公正である場合に限り、使用者は年俸額を決定できる。そうでない場合は、使用者により一方的な決定はできず、従前の年俸額が据え置かれるとの見解を示した判例

(労働条件の明示)
第15条  
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
2.前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
3.前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

(作成及び届出の義務)
第89条  
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
1. 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
3.退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
3の2. 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
4. 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
5. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
6. 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
7. 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
8. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
9. 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
10. 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項


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