社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



パナソニックディスプレイ(パスコ)事件(最終審 最二小判平成21.12.18労判993号5頁)

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1.事件の概要

POPパネル製造をしていたY社は、A社との間で業務委託契約を締結していた。XはA社の従業員として、Y社の工場に勤務していたが、その勤務形態はいわゆる偽装請負と目されるものであった。XおよびXが所属する労働組合はY社に直接雇用を求めて交渉を行い、労働局の指導もありY社はA社との業務請負契約を解消し、労働者派遣に切り替えることとした。Xは派遣労働者とはならなずY社との間で期間工としての雇用契約に署名押印したが、Y社はXに対して雇用契約の終了を通知した。
これを受けて、XはY社に対して、XY間の黙示の労働契約、労働者派遣法に基く労働契約の成立、雇止め無効等の確認および損害賠償を求めて訴えを提起した。第一審はXの請求(損害賠償)を一部認容したので、第二審はXY間の黙示の労働契約の認めたため、Y社が上告したのが本件である。

2.判決の概要

請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業をおこなわせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が成立していないのであれば、上記3社間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はない。
労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして、XとA社との間の雇用関係を無効と解すべき特段の事情はうかがわれない。また、Y社はA社によるXの採用に関与していたとは認められないというのであり、XがA社から支給を受けていた給与等の額をY社が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず、かえって、A社は、Xに本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど、配置を含むXの具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったと認められる。