大曲市農協事件(最三小判昭和63.2.16民集42巻2号60頁)
1.事件の概要
Y組合は、昭和48年に7つの農協の合併により新設された農協である。Xらは、旧A農協から引き続きY組合に勤務し、定年退職した職員である。Xらの退職金は、合併前は旧A組合の就業規則の適用を受けていたが、合併後はY組合の就業規則が遡及適用され、それにより退職金の支給倍率、64から55.55に変わるなど低減するところとなった。ただ、給与については最も高額であった旧農協に準拠して調整することとし、給与調整等により増額された。しかし、Xらは、調整増額された給与に、旧A農協において定められた支給倍率を乗じて算定される金額と、現に受領した退職金との差額が未払いであるとして、その支払いを請求した。
2.判決の概要
秋北バス最高裁判決の判断は、現在も維持すべきものであるが、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
3.解説
秋北バス事件(最大判昭和43.12.25民集22巻13号3459頁)により、就業規則の変更が拘束力を持つかの判断は、変更された就業規則条項が「合理的」であるかにかかることとされたが、この「合理性」の基本的な判断方法は、変更の必要性及び変更の内容の両面から検討し、比較考慮して判断され、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利・労働条件の変更については「そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性」が要件となるとの見解を最高裁が示した判例。
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