社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



年次有給休暇時季指定義務の就業規則への規定方法(斉一的取扱いを含む)の解説

バナー
Kindle版 職場の出産・育児関係手続ガイドブック~令和の常識~
定価:800円で好評発売中!!


にほんブログ村
続き

年次有給休暇取得義務の就業規則への規定方法(斉一的取扱いを含む)についてわかりやすくまとめました

はじめに 平成30年12月28日に厚生労働省労働基準局長より、通達「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について(平成30.12.28基発1228第15号)」が発せられ、平成31年(2019年)4月1日より施行される改正労働基準法等の解釈についての詳細が、QA方式で明らかとされましたが、本通達の「年5日以上の年次有給休暇の確実な取得(労働基準法第39条第7項及び第8項関係)」問14において、年次有給休暇の時季指定義務については就業規則に規定する必要があることが明らかとされました。
具体的にどのように規定すべきかについて、検討した結果、おおむね2パターンに分けられましたので記載方法を少し詳細に説明したいと思います。

通達の詳細はこちらを参照⇒「【最新情報】働き方改革を推進するための法改正後の労働基準法の解釈について(有給休暇時季指定義務編)
有給休暇の時季指定義務についてはこちらを参照⇒「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説が厚生労働省で公表されました
厚生労働省の記載例に基づくものはこちらを参照⇒「年次有給休暇の時季指定に関する就業規則の規定例(厚生労働省のHPより)

就業規則への規定例

【個別付与の方法】

就業規則のどこに規定すべきか?
年次有給休暇についての条項の一番後ろに追記するのがいいかと思います。なお、賃金規程や退職金規程などの他の規程で就業規則の条項を引用していることがあるため(「就業規則第8条の規程に基づき・・・」等)、条文数を繰り下げる際に要注意です。年次有給休暇の時季指定義務についての条項を追加するだけであれば、「第○条の2」または「第○条ノ2」という表記を用いるのが便利です。

②何を規定するべきか?
(1)対象者:年次有給休暇が10日以上与えられる労働者
(2)対象期間:年次有給休暇が10日以上与えられた日から1年間
(3)時季指定の対象:労働者が有している年次有給休暇のうち5日

これだけでも、
「会社は、年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対して、付与日から1年間に、その有している年次有給休暇のうち5日について、あらかじめ時季を指定して取得させる。」
と何となくそれらしい表現になります。

(4)時季を指定する方法:労働者の意見を聴取し、その意見を尊重し指定します。

(5)「年次有給休暇」の特定:「年次有給休暇」は就業規則の他の条項で付与することが定義されているものとし、その条項(「Y条第1項」とする)を記載しておきます。

(6)通常の有給休暇の取得との優先順位:通常は年次有給休暇の取得は労働者の申出によって行われますので、その旨が記載されている(されているものとする)条項(「Y条第2項」とする)よりも優先して取得させることを記載します。

これらを加味すると、
「会社は、第Y条第1項の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対して、第Y条第2項の規定にかかわらず、付与日から1年間に、その有している年次有給休暇のうち5日について、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。」
となります。

そして、「付与日から1年間に、その有している年次有給休暇のうち5日」の部分は、「1年間に有している年次有給休暇のうち5日」というようにも誤読されかねないので、「付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇のうち5日」と表現を変えます。

さらに、「会社は」という主語の位置をずらすと、「対して」の後ろに「は」をつけてもおかしくなくなるので、

「第Y条第1項の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対して、第Y条第2項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。」
とします。

(7)自らの申し出で取得した日数や計画的付与で取得した日数を5日から控除:本来の有給休暇の取得である自らの申出で取得した日数と計画的付与で取得した日数を時季指定する5日から控除することができるのでその旨を記載します。
そこで、但書をつけて控除する旨を記載したいのですが、有給休暇を自ら申し出て取得することや計画的付与については就業規則に既に記載されているものとし、その条項をうまく利用して表現します。(申出による取得を「第Y条第2項」、計画的付与による取得を「Y条第3項」とします。)
ただし、計画的付与については必ずしも就業規則に定められているとは限りません。定められていない場合は、当然、記載する必要はありません。

計画的付与が定められている場合
「ただし、第Y条第2項または第3項による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。」

計画的付与が定められていない場合
「ただし、第Y条第2項による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。」

これらをまとめると、

年次有給休暇の時季指定)
第○条の2 第Y条第1項の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対しては、第Y条第2項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、第Y条第2項または第3項による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

となります。

(8)時季指定の解除(必ずしも必要ない):時季指定が行われた後に、労働者が指定された日以外に年次有給休暇を取得した場合、使用者はその日数分の時季指定義務を免れますが、使用者と労働者間では当然に解除されるとされていません。個別の合意で解除するという方法もありますが、就業規則に解除する旨と解除するルールを定めておくと都度合意をする必要がなく運用しやすいです。労働者が取得した日の直近の指定日を解除する、あるいは労働者が選択した指定日を解除するなどの方法も考えられますが、1年以内に5日を指定するという本制度の趣旨からすれば、一番後の指定から解除するのが合理的です。
そこで、
「前項の時季指定の後に、労働者があらかじめ時季を指定された日(以下、「指定日」という。)以外に有給休暇を取得した場合は、当該取得日より最も後の指定日より時季の指定を解除する。」
とします。
なお、当たり前のことですが、時季指定の前に労働者が取得した年次有給休暇の日数は、前項のただし書きによって時季指定の日数から控除されていますので解除することはできません。

以上により、

年次有給休暇の時季指定)
第○条の2 第Y条第1項の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対しては、第Y条第2項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、第Y条第2項または第3項による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
2.前項の時季指定の後に、労働者があらかじめ時季を指定された日(以下、「指定日」という。)以外に有給休暇を取得した場合は、当該取得日より最も後の指定日より時季の指定を解除する。

となります。


【一斉付与(斉一的取扱い)の方法】

①基本的な考え方
(1)基準日が重複する場合の按分付与
一斉付与では、毎年決まった日に有給休暇を付与するので5日の時季指定をするための期間は、入社6か月で付与される場合を除き、一斉付与日から1年以内です。
期間が同じなので管理しやすい制度ですが、入社6か月で付与された労働者については、時季指定するための期間に重複が生じます。

例えば、一斉付与日が4月1日で、入社6か月超過1年未満の労働者は勤続年数1年とみなして付与する制度の会社があったとします。
2019年6月1日に入社した人は、同年12月1日(第一基準日)に10日の年次有給休暇が付与され、さらに一斉付与日である2020年4月1日(第二基準日)に11日の年次有給休暇が付与されます。
この場合、5日の時季指定する期間はそれぞれ第一基準日と第二基準日から1年間となります。

    第一基準日:2019年12月1日~2020年11月30日の1年間に5日
    第二基準日:2020年 4月1日~2021年 3月31日の1年間に5日

それぞれで、5日になるように時季指定しても問題はありませんが、少々複雑なのでこのような場合は、2019年12月1日~2021年3月31日の16か月で按分した日数を時季指定する取扱いが認められています。

    16か月/12か月×5日=6.67日 ⇒ 7日(2019年12月1日~2021年3月31日の16か月で指定する日数)

なお、半日単位の時季指定は労働者が希望すれば可能ですが、使用者から指定することはできないので半日単位の時季指定は使用しないものとします。

(2)次回の基準日以降の付与日数を他の労働者と合わせる
上述のように、16か月で7日の時季指定を行っても良いのですが、第二基準日以降の時期指定を他の労働者と合わせたほうが管理がしやすくなります。
そこで、上述の例では時季指定の日数を
    2019年12月1日~2020年3月31日の4か月間に2日
    2020年 4月1日~2021年3月31日の1年間に5日
とすればよいことになります。

これを一般化すると、次のように入社6か月目の付与月に応じて最初の一斉付与日までの間の時季指定の日数が決まることになります。
f:id:sr-memorandum:20190204215510p:plain

②何を規定すべきか?
(1)対象者:入社6か月で年次有給休暇が10日以上与えられる労働者(第Y条第2項により年次有給休暇が10日以上与えられる労働者)
対象者は入社6か月で年次有給休暇が与えられる労働者となりますが、入社6か月での年次有給休暇の付与については既に就業規則に記載されているものとし、その条項を「第Y条第2項」とします。
また、「第Y条第1項」には年次有給休暇の一斉付与についての規定が記載されているものとします。

(2)対象期間:入社6か月で年次有給休暇が10日以上与えられた日から直近の一斉付与日までの間
入社6か月目の付与日から直近の一斉付与日までの間の時季指定日数について定めます。

(3)時季指定の対象:労働者が有している年次有給休暇のうち付与月に応じた日数
入社6か月目の付与日が何月かによって、時季指定の日数が異なりますので、規定にする際は、わかりやすく次の表を記載することにします。
f:id:sr-memorandum:20190204221009p:plain

(4)通常の有給休暇の取得:「第Y条第3項」に記載されているものとします。

(5)計画的付与:「第Y条第4項」に記載されているものとします。

これらを加味すると、

年次有給休暇の時季指定取得)
第○条の2 第Y条第1項の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対しては、第Y条第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、第Y条第3項または第4項による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

2 第Y条第2項の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対しては、第Y条第3項の規定にかかわらず、付与日から最初の一斉付与日(4月1日)までに、当該労働者が有する年次有給休暇のうち付与月に応じた次の日数について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、第Y条第3項または第4項による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を当該日数から控除するものとする。

f:id:sr-memorandum:20190204221009p:plain

3.前2項の時季指定の後に、労働者があらかじめ時季を指定された日(以下、「指定日」という。)以外に有給休暇を取得した場合は、当該取得日より最も後の指定日より時季の指定を解除する。

となります。

第1項は、個別付与の場合と基本的構造は変わりません。

【一斉付与の条項】の年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対しては、【労働者の申出による取得の条項】の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者が有する年次有給休暇のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、【労働者の申出による取得の条項】または【計画的付与の条項】による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

第2項も、赤字部分を変えているだけで基本構造は変わりません。

【入社6か月の付与の条項】年次有給休暇が10日以上与えられる労働者に対しては、【労働者の申出による取得の条項】の規定にかかわらず、付与日から最初の一斉付与日(4月1日)までに、当該労働者が有する年次有給休暇のうち付与月に応じた次の日数について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、【労働者の申出による取得の条項】または【計画的付与の条項】による年次有給休暇を取得した場合は、当該取得した日数分を当該日数から控除するものとする。