1.事件の概要
Y社の就業規則と健康管理規程には、職員は自己の健康の保持増進に努め、健康管理従事者の指示・指導を誠実に守り、心身の故障により療養、勤務軽減の措置を受けたときには、健康管理従事者の指示に従い自己の健康の回復に努めるべきことが定められていた。そのうえで、頚肩腕症候群発症後3年以上回復しない長期罹患者については、2週間程度入院させて総合精密検診を受診させることとし、Xについても、この検診をうけるよう業務命令を発した。これに対し、Xは会社の指定病院は信頼できないとして検診を拒否したため、Y社がXを戒告処分に処した。このため、Xは懲戒処分の無効確認を求める訴えを提起した。
2.判決の概要
労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令をを発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。
Y社の就業規則および健康管理規程の内容は、職員が労働契約上その労働力の処分をY社に委ねている趣旨に照らして、いずれも合理的なものというべきであるから、右の職員の健康管理上の義務は労働契約の内容となっていると見るべきである。