社会保険労務士川口正倫のブログ

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秋北バス事件①(最大判昭和43.12.25民集22巻13号3459頁)

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秋北バス事件①(最大判昭和43.12.25民集22巻13号3459頁)

1.事件の概要

Y社就業規則には、「従業員は、満50歳を以って定年とする」旨の規定があったが、同規則には主任以上の地位にある者については適用がないものとされていた。そこでY社は、右規定を、「従業員は、満50歳を以って定年とする。主任以上の職にあるものは満55歳をもって定年とする」と改正し、同条項に基づきすでに55歳に達していたXに退職を命ずる旨の解雇の通知をした。

2.判決の要旨

元来、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要領に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている民法92条)ものということができる。
労働基準法89条、90条、106条1項、91条、92条」の定めは、いずれも、社会的規範たるにとどまらず、法的規範として拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。このように、就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(労働基準法93条)、就業規則のいわゆる直律的効力まで肯認しているのである。
右に説示したように、就業規則は、当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである。

3.解説

最高裁の見解は、①労働条件の決定は労使の対等決定(労働基準法2条1項)を原則とするが、②労働条件は、統一的・画一的に決定するという経営上の要請から、「定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない」のであるから、③就業規則は「それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり」、労働条件は就業規則によるという事実たる慣習が成立するものとして、法的規範性が認められ、④労働者の知不知にかかわらず、同意の有無にかかわらず、当然に適用をうける、とするものである。(定型契約説)


民法92条
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う

労働基準法93条
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。

労働契約法12条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

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