社会保険労務士川口正倫のブログ

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労働基準監督官行動規範が公表されました

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労働基準監督官行動規範~労働基準監督署の考え方~

平成31年1月11日に労働基準監督官の行動規範が発表されました。
目的・職務の範囲、特別司法警察官としての取締りよりも、各企業の事情に沿ったアドバイスや行政指導による自主的改善を促すという役割、中小企業等への事業の配慮等、現実的な労働基準監督官の社会的な位置づけを反映しており、よくできた内容です。

www.mhlw.go.jp

(基本的使命)
1.私たち労働基準監督機関は、労働条件の最低基準を定める労働基準法労働安全衛生法等の労働基準関係法令(以下、法令という。)に基づき、働く方の労働条件の確保・改善を図ることで、社会・経済を発展させ、国民の皆さまに貢献することを目指します。

(法令のわかりやすい説明)
2.労働基準監督官(以下、監督官という。)は、事業主の方や働く方に、法令の趣旨や内容を十分い理解していただけるよう、できる限りわかりやすい説明に努めます。

(事業主の方による自主的改善の促進)
3.監督官は、法令違反があった場合は、違反の内容や是正の必要性を丁寧に説明することにより、事業主の方による自主的な改善を促します。また、法令違反の是正に取り組む事業主の方の希望に応じ、きめ細やかな情報提供や具体的な取組方法についてのアドバイスなどの支援に努めます。

(公正・公正かつ斉一的な対応)
4.監督官は、事業主の方や働く方の御事情を正確に把握し、かつ、これを的確に考慮しつつ、法令に基づく職務を公正・公正かつ斉一的に遂行します。

(中小企業等の事情に配慮した対応)
5.監督官は、中小企業等の事業主の方に対しては、その法令に関する知識や労務管理体制の状況を十分に把握、理解しつつ、きめ細やかな相談・支援を通じた法令の趣旨・内容の理解の促進等に努めます。また、中小企業等に法令違反があった場合には、その労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態その他の事情を踏まえて、事業主の方による自主的な改善を促します。


せっかくなので、労働基準監督署及び労働基準監督官について簡単にまとめました。

1.労働基準監督署とは

 労働基準監督署厚生労働省の内部部局である労働基準局の出先機関となります。労働基準法に定められた行政機関として、全国の各地域に設置されていて、321署と4支署があります。略称として、「労基署」と呼ばれています。ちなみに、官公庁で「署」という語は、立ち入り検査や捜査などの強制的な公権力を行使できる機関に付けられることが一般的です。

2.労働基準監督官とは

 労働基準監督官は労基署に属し、行政官として労働基準法労働安全衛生法等の労働基準関係法令を遵守させるために、労働環境の調査や指導を行い、違法行為があれば行政指導という形で是正勧告を行います。(ちなみ、よく勘違いする方がいますが、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法は労働基準関係法令ではありませんので、労働基準監督署の管轄ではありません。これらは、都道府県労働局雇用均等室の管轄です。)労働環境の調査は、任意に書類提出や労基署への来訪を求めることにより行われるのが一般的ですが、協力的でない場合には、強制的に会社等に立ち入り調査することも可能です。
 また、法令違反があり、悪質な場合や行政指導に全く従わないような場合には、特別司法警察職員として捜査・逮捕・送検をすることもできます。警察ではないので、拳銃の所持は認められていませんが、手錠や捕縄等を携帯することもできます。ただし、労基署には留置施設がないため、逮捕者は警察の留置場に収監されることになります。

3.社会的な実情

 このようなにかなり強い権限のある労働基準監督官ですが、特別司法警察職員としての強制捜査の発動は警察比例の原則に従って行われますし、また行動規範にもあるように、法令違反が発覚した場合であっても、まずはアドバイスや指導がなされますので、事業主が自主的に改善して解決するケースがほとんどです。さらに、日本では労働者2万人に対して労働基準監督官が1人しかいない人手不足の状態で、実際に動けるのは賃金未払いや労災隠しなどの悪質な事案や労働者からの通報による事案というのが実情です。(ちなみに、国際労働機関は労働者1万人に対して1人以上を推奨しています)