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働き方改革を推進するための法改正後の労働基準法の解釈について(有給休暇時季指定義務編)

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働き方改革を推進するための法改正後の労働基準法の解釈について(有給休暇時季指定義務編)

平成30年12月28日に厚生労働省労働基準局長より、通達「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法関係の解釈について(平成30.12.28基発1228第15号)」が発せられ、平成31年(2019年)4月1日より施行される改正労働基準法等の解釈についての詳細が、QA方式で明らかとされました。
ここでは、年5日以上の年次有給休暇の確実な取得(改正労働基準法第36条及び第139条から第142条)について、抜粋します。

年5日以上の年次有給休暇の確実な取得(労働基準法第39条第7項及び第8項関係)

使用者による時季指定

〔問1〕
労働基準法第39条第7項に規定する使用者による時季指定は、いつ行うのか。

〔答1〕
労働基準法第39条第7項に規定する使用者による時季指定は、必ずしも基準日からの1年間の期首に限られず、当該期間の途中に行うことも可能である。


使用者による時季指定の対象となる労働者

〔問2〕
労働基準法第39条第7項に規定する「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」には、同条第3項の比例付与の対象となる労働者であって、前年度繰越分の有給休暇と当年度付与分の有給休暇とを合算して初めて10労働日以上となる者も含まれるのか。

〔答2〕
労働基準法第39条第7項の「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」は、基準日に付与される年次有給休暇の日数が10労働日以上である労働者を規定したものであり、同条第3項の比例付与の対象となる労働者であって、今年度の基準日に付与される年次有給休暇の日数が10労働日未満であるものについては、仮に、前年度繰越分の年次有給休暇も合算すれば10労働日以上となったとしても、「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」には含まれない。


半日単位・時間単位による時季指定の可否

〔問3〕
労働基準法第39条第7項の規定による時季指定を半日単位や時間単位で行うことはできるか。

〔答3〕
労働基準法施行規則第24条の6第1項の規定により労働者の意見を聴いた際に半日単位の年次有給休暇の取得の希望があった場合においては、使用者が法第39条第7項の年次有給休暇の時季指定を半日単位で行うことは差し支えない。この場合において、半日の年次有給休暇の日数は0.5日として取り扱うこと。
また、法第39条第7項の規定による時季指定を時間単位年休で行うことは認められない。



前年度から繰り越された年次有給休暇の取扱い

〔問4〕
前年度からの繰越分の年次有給休暇を取得した場合は、その日数分を労働基準法第39条第7項の規定により使用者が時季指定すべき5日の年次有給休暇から控除することができるか。

〔答4〕
前年度からの繰越分の年次有給休暇を取得した場合は、その日数分を法第39条第7項の規定により使用者が時季指定すべき5日の年次有給休暇から控除することとなる。
なお、法第39条第7項及び第8項は、労働者が実際に取得した年次有給休暇が、前年度からの繰越分の年次有給休暇であるか当年度の基準日に付与された年次有給休暇であるかについては問わないものである。

(補足)*1
労働者が時季指定された日以外に年次有給休暇を取得した場合は、その日数を時季指定義務となる5日から控除することができますが、時季指定された日以外に取得する年次有給休暇は、前年繰越分であるか、当年付与分であるかは問われません。



事後における時季変更の可否

〔問5〕
労働基準法第39条第7項の規定により指定した時季を、使用者又は労働者が事後に変更することはできるか。

〔答5〕
労働基準法第39条第7項の規定により指定した時季について、使用者が労働基準法施行規則第24条の6に基づく意見聴取の手続を再度行い、その意見を尊重することによって変更することは可能である。
また、使用者が指定した時季について、労働者が変更することはできないが、使用者が指定した後に労働者に変更の希望があれば、使用者は再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましい。



義務の履行が不可能な場合

〔問6〕
基準日から1年間の期間(以下「付与期間」という。)の途中に育児休業が終了した労働者等についても、5日の年次有給休暇を確実に取得させなければならないか。

〔答6〕
付与期間の途中に育児休業から復帰した労働者等についても、労働基準法第39条第7項の規定により5日間の年次有給休暇を取得させなければならない。
ただし、残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合には、その限りではない。

(補足)
年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はない。(平成3.12.20基発712号
従って、育児休業中は有給休暇を使用することが不可能なため、育児休業中に有給休暇が付与され、育児休業終了の直後に次の有給付与日となるような場合は、5日の年次休暇を取得させることが不可能となります。
なお、育児休業中の期間については出勤率の算定上出勤したものとみなされる。(平成6.1.4基発1号、平成2.3.31基発168号



年5日を超える時季指定の可否

〔問7〕
使用者は、5日を超える日数について労働基準法第39条第7項による時季指定を行うことができるか。

〔答7〕
労働者の個人的事由による取得のために労働者の指定した時季に与えられるものとして一定の日数を留保する観点から、労働基準法第39条第7項の規定による時季指定として5日を超える日数を指定することはできない。
また、使用者が時季指定を行うよりも前に、労働者自ら請求し、又は計画的付与により具体的な年次有給休暇日が特定されている場合には、当該特定されている日数について使用者が時季指定することはできない(労働基準法第39条第8項)。

(補足)
時季指定義務は、有給休暇をほとんど利用しているような労働者にとっては、利用する時季を自由に選択することができなくなり不利益な制度となります。ただし、そのような職場環境であれば、労働者の意見を尊重して時季指定することも容易かと思います。



時季指定後に労働者が自ら年次有給休暇を取得した場合

〔問8〕
労働基準法第39条第7項の規定によりあらかじめ使用者が時季指定した年次有給休暇日が到来するより前に、労働者が自ら年次有給休暇を取得した場合は、当初使用者が時季指定した日に労働者が年次有給休暇を取得しなくても、労働基準法第39条第7項違反とはならないか。

〔答8〕
設問の場合は労働者が自ら年次有給休暇を5日取得しており、労働基準法第39条第7項違反とはならない。なお、この場合において、当初使用者が行った時季指定は、使用者と労働者との間において特段の取決めがない限り、当然に無効とはならない。

(補足)
就業規則等で、労働者が自ら年次有給休暇を取得した場合の取決めをしておくと良いかと思います。
「労働者が、使用者の時季指定日以外に年次有給休暇を利用した場合は、その指定期間において最も後に到来する指定日より、当該労働者の時季指定日を無効とする。」「労働者が、使用者の時季指定日以外に年次有給休暇を利用した場合は、その指定期間において、当該労働者が選択する時季指定日を無効とする。」等



端数の取扱い

〔問9〕
労働基準法施行規則第24条の5第2項においては、基準日又は第一基準日を始期として、第二基準日から1年を経過する日を終期とする期間の月数を12で除した数に5を乗じた日数について時季指定する旨が規定されているが、この「月数」に端数が生じた場合の取扱いはどうするのか。
また、同規定により算定した日数に1日未満の端数が生じた場合の取扱いはどうするか。

〔答9〕
労働基準法則第24条の5第2項を適用するに当たっての端数については原則として下記のとおり取り扱うこととするが、この方法によらず、月数について1箇月未満の端数をすべて1箇月に切り上げ、かつ、使用者が時季指定すべき日数について1日未満の端数をすべて1日に切り上げることでも差し支えない。
【端数処理の方法】
①基準日から翌月の応答日の前日までを1箇月と考え、月数及び端数となる日数を算出する。ただし、基準日の翌月に応答日がない場合は、翌月の末日をもって1箇月とする。
②当該端数となる日数を、最終月の暦日数で除し、上記①で算出した月数を加える。
③上記②で算出した月数を12で除した数に5を乗じた日数について時季指定する。なお、当該日数に1日未満の端数が生じている場合は、これを1日に切り上げる。
(例)第一基準日が10月22日、第二基準日が翌年4月1日の場合
①10月22日から11月21日までを1箇月とすると、翌々年3月31日までの月数及び端数は17箇月と10日(翌々年3月22日から3月31日まで)と算出される。
②上記①の端数10日について、最終月(翌々年3月22日から4月21日まで)の暦日数31日で除し、17箇月を加えると、17.32…箇月となる。
③17.32…箇月を12で除し、5を乗じると、時季指定すべき年次有給休暇の日数は、7.21…日となり、労働者に意見聴取した結果、半日単位の取得を希望した場合には7.5日、希望しない場合には8日について時季指定を行う。

(補足)
労働基準法則第24条の5第2項を適用するに当たっての端数」とは、次のように最初の付与日(第一基準日)から1年以内に再度付与日(第二基準日)がある場合に、比例按分した付与日数を計算する際の端数のことです。
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意見聴取の具体的な内容

〔問10〕
労働委基準法施行規則第24条の6の意見聴取やその尊重の具体的な内容はどうなのか。

〔答10〕
労働基準法施行規則第24条の6第1項の意見聴取の内容としては、労働基準法第39条第7項の基準日から1年を経過する日までの間の適時に、労働者から年次有給休暇の取得を希望する時季を申告させることが考えられる。
また、労働基準法施行規則第24条の6第2項の尊重の内容としては、できる限り労働者の希望に沿った時季を指定するよう努めることが求められるものである。


労働者自ら取得した半日年休・時間単位年休の取扱い

〔問11〕
労働者自らが半日単位又は時間単位で取得した年次有給休暇の日数分については、労働基準法第39条第8項が適用されるか。

〔答11〕
労働者が半日単位で年次有給休暇を取得した日数分については、0.5日として労働基準法第39条第8項の「日数」に含まれ、当該日数分について使用者は時季指定を要しない。なお、労働者が時間単位で年次有給休暇を取得した日数分については、労働基準法第39条第8項の「日数」には含まれない。


事業場が独自に設けている特別休暇の取扱い

〔問12〕
事業場が独自に設けている法定の年次有給休暇と異なる特別休暇を労働者が取得した日数分については、労働基準法第39条第8項が適用されるか。

〔答12〕
法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇(たとえば、労働基準法第115条の時効が経過した後においても、取得の事由及び時季を限定せず、法定の年次有給休暇を引き続き取得可能としている場合のように、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除く。以下同じ。)を取得した日数分については、労働基準法第39条第8項の「日数」には含まれない。
なお、法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年次有給休暇に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者と合意をすることなく就業規則を変更することにより特別休暇を年次有給休暇に振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益と認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的なものである必要がある。


年次有給休暇管理簿の作成

〔問13〕
年次有給休暇管理簿に記載すべき「日数」とは何を記載すべきか。
また、電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等により年次有給休暇管理簿を調整することはできるか。

〔答13〕
年次有給休暇管理簿に記載すべき「日数」としては、労働者が自ら請求し取得したもの、使用者が時季を指定し取得したもの又は計画的付与により取得したものにかかわらず、実際に労働者が年次有給休暇を取得した日数(半日単位で取得した回数及び時間単位で取得した時間数を含む。)を記載する必要がある。
また、労働者名簿、賃金台帳と同様の要件を満たした上で、電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等により調整することは差し支えない。



就業規則への記載

〔問14〕
労働基準法第39条第7項の規定による時季指定について、就業規則に記載する必要はあるか。

〔答14〕
休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、使用者が労働基準法第39条第7項による時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要がある。

(補足)
就業規則への規定例は次のようなものが考えられます。(もっと簡単な規定の仕方がありそうですので、もう少し研究します)

年次有給休暇の時季指定)
第○条 年次有給休暇が10日以上付与される従業員には、会社は当該年次有給休暇の付与日(以下、本条において「付与日」という。)までに、労働基準法第39条第7項の年次有給休暇時季指定日(以下本条において「指定日」という。)を指定する。
2.前項において、第5項の場合を除き、指定期間を付与日から1年間とし、指定期間に5日の指定日とする。
3.第1項において、会社はあらかじめ時季について各労働者の意見を聴取して指定日を決定する。
4.指定期間に、従業員が指定日以外に年次有給休暇を利用した場合は、最も後の指定日を無効とする。(※)
5.入社後6か月の付与日と一斉付与日が1年以内の期間にある場合は、第2項に関わらず、指定期間及び指定日の日数は労働基準法施行規則第24条の5第2項によるものとする。

年次有給休暇の時季指定)
第○条 年次有給休暇が10日以上付与される従業員のうち、指定期間に指定日数(「指定期間」及び「指定日数」は第2項もしくは第5項に定めるところによる。)の年次有給休暇を利用しないことが見込まれる者については、会社は随時、労働基準法第39条第7項の年次有給休暇時季指定日(以下、本条において「指定日」という。)を指定する。
2.前項において、第5項の場合を除き、指定期間は10日以上の年次有給休暇が付与される日(以下、「付与日」という。)から1年間、指定日数は5日とする。
3.第1項において、会社はあらかじめ時季について各労働者の意見を聴取して指定日を決定する。
4.指定期間に、従業員が指定日以外に年次有給休暇を利用した場合は、最も後の指定日を無効とする。(※)
5.入社後6か月の付与日と一斉付与日が1年以内の期間にある場合は、第2項に関わらず、指定期間及び指定日の数は労働基準法施行規則第24条の5第2項によるものとする。
(※)次のように定めてもよいでしょう。
・・・・従業員が指定日以外に年次有給休暇を利用した場合は、当該従業員が選択する指定日の指定を無効とするものとし、選択がされない場合は最も後の指定日を無効とする。


労働基準法39条
7.使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
8.前項の規定にかかわらず、第五項又は第六項の規定により第一項から第三項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が五日を超える場合には、五日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

労働基準法施行規則第24条の5
使用者は、法第三十九条第七項ただし書の規定により同条第一項から第三項までの規定による十労働日以上の有給休暇を与えることとしたときは、当該有給休暇の日数のうち五日については、基準日(同条第七項の基準日をいう。以下この条において同じ。)より前の日であつて、十労働日以上の有給休暇を与えることとした日(以下この条及び第二十四条の七において「第一基準日」という。)から一年以内の期間に、その時季を定めることにより与えなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、使用者が法第三十九条第一項から第三項までの規定による十労働日以上の有給休暇を基準日又は第一基準日に与えることとし、かつ、当該基準日又は第一基準日から一年以内の特定の日(以下この条及び第二十四条の七において「第二基準日」という。)に新たに十労働日以上の有給休暇を与えることとしたときは、履行期間(基準日又は第一基準日を始期として、第二基準日から一年を経過する日を終期とする期間をいう。以下この条において同じ。)の月数を十二で除した数に五を乗じた日数について、当該履行期間中に、その時季を定めることにより与えることができる。
3 第一項の期間又は前項の履行期間が経過した場合においては、その経過した日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日を基準日とみなして法第三十九条第七項本文の規定を適用する。
4 使用者が法第三十九条第一項から第三項までの規定による有給休暇のうち十労働日未満の日数について基準日以前の日(以下この項において「特定日」という。)に与えることとした場合において、特定日が複数あるときは、当該十労働日未満の日数が合わせて十労働日以上になる日までの間の特定日のうち最も遅い日を第一基準日とみなして前三項の規定を適用する。この場合において、第一基準日とみなされた日より前に、同条第五項又は第六項の規定により与えた有給休暇の日数分については、時季を定めることにより与えることを要しない。

労働基準法施行規則第24条の6
使用者は、法第三十九条第七項の規定により労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たっては、あらかじめ、同項の規定により当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前項の規定により聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。

*1:「(補足)」は私の所見を記載しているもので、本通達には記載されていません。