社会保険労務士川口正倫のブログ

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短時間・有期雇用労働者及び派遣に対する不合理な待遇の禁止等関する指針【第1 目的】の解説

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短時間・有期雇用労働者及び派遣に対する不合理な待遇の禁止等関する指針についてわかりやすくまとめました

厚生労働省から「短時間・有期雇用労働者及び派遣に対する不合理な待遇の禁止等関する指針」が公表されました。

厚生労働省ホームページより抜粋

ガイドラインは、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものです。
同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを示しています。
この際、典型的な事例として整理できるものについては、問題とならない例・問題となる例という形で具体例を付しています。
不合理な待遇差の解消に向けては、賃金のみならず、福利厚生、キャリア形成・能力開発などを含めた取組が必要であるため、これらの待遇についても記載しています。
ガイドラインについては、関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえ、労働政策審議会における議論を経て、最終的に確定されたものです。

この指針について、数回に分けて解説していきます。
なお、この指針が適用されるのは、2020年4月1日からです
(ただし、中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日から)



第1 目的(少々簡略している部分があります)

 この指針は、短時間労働者及び有期雇用管理改善等に関する この指針は、短時間労働者及び有期雇用管理改善等に関する 法律(以下「短時間・有期雇用労働法」という。)8条及び9条並びに労働者派遣事業の適正な運営確保に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)30条の3及び30条の4に定める事項に関し、雇用形態又は就業関わらない公正待遇を確保し、我が国目指す同一労働賃金の実現に向 けて定めるものである。
 我が国が目指す同一労働同一賃金は、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消並びに派遣先に雇用される通常の労働者と派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消(協定対象派遣労働者については、改正労働者派遣法30条の4第1項の協定により決定された事項に沿った運営がなされること)を目指すものである。
 もとより賃金等の待遇は労使の話合いによって決定されることが基本である。しかし、我が国においては、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間には、欧州と比較して大きな待遇の相違がある。政府としては、この問題の対処に当たり、同一労働同一賃金の考え方が広く普及しているといわれる欧州の制度の実態も参考としながら政策の方向等を検証した結果、それぞれの労働市場全体の構造に応じた政策とすること*1が重要であるとの示唆を得た。
 我が国においては、基本給をはじめ、賃金制度の決まり方には様々な要素が組み合わされている場合も多いため、まずは、各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使の話合いによって確認し、短時間・有期労働者及び派遣労働者を含む労使で共有することが肝要である。また、派遣労働者については、雇用関係にある派遣元事業主と指揮命令関係にある派遣先とが存在するという特殊性があり、これらの関係者が不合理と認められる待遇の相違の解消等に向けて認識を共有することが求められる。
今後、各事業主が職務の内容や職務に必要な能力等の内容の明確化及びその公正な評価を実施し、それに基づく待遇の体系を、労使の話合いにより、可能な限り速やかに、かつ、計画的に構築していくことが望ましい。
通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違の解消等に向けては、賃金のみならず、福利厚生、キャリア形成、職業能力の開発及び向上等を含めた取組が必要であり、特に、職業能力の開発及び向上の機会の拡大は、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の職業に必要な技能及び知識の蓄積により、それに対応した職務の高度化や通常の労働者への転換を見据えたキャリアパスの構築等と併せて、生産性の向上と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の待遇の改善につながるため、重要であることに留意すべきである。
このような通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間の不合理が認められる待遇の相違の解消等の取組を通じて、労働者がどのような雇用形態及び就業形態を選択しても納得できる待遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、我が国から「非正規」という言葉を一掃することを目指す。

主なポイント

1.この指針の目的
同一の事業主に雇用される次の労働者間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消を目指すものです。
ただし、改正労働者派遣法第30条の4による協定対象派遣労働者については、同法30条の4第1項の協定(派遣元事業主と派遣労働労働者との間で締結する派遣労働者の待遇についての協定)により決定された事項に沿った運営がなされることを目指します。

 ①通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間
 ②派遣先に雇用される通常の労働者と派遣労働者との間

2.待遇とは
基本給、賞与のほか、諸手当、教育訓練、福利厚生、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、服務規律、付随義務、解雇など、労働者に対するすべての待遇を含むものである*2。ただし、パートタイム労働者については所定労働時間の長さ、有期雇用労働者については期間の定めの有無、派遣労働者については雇用形態に付随するものや派遣契約で定められる所定労働時間の長さや期間の定めの有無については除かれます。

3.不合理と認められるとは
指針に明記されていないので、自説ですが、「不合理と認められる」には「合理的である」及び「合理的か不合理であるか不明瞭である(グレーゾーン)」を含まないものと思われます。なぜなら、例えば短時間・有期雇用労働法8条の「不合理と認められる相違を設けてはならない。」の文言を「合理的な相違でなければならない。」としなかったのは、現行労働契約法20条の「不合理なものであってはならない」を踏襲する趣旨であり、同条はハマキョウレックス事件最高裁判決(最二小平成30.6.1判決)で、「労働契約法20条にいう、「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。」とされているためです。

4.待遇の相違を解消する方法
「各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使の話合いによって確認し、短時間・有期労働者及び派遣労働者を含む労使で共有することが肝要である。また、派遣労働者については、雇用関係にある派遣元事業主と指揮命令関係にある派遣先とが存在するという特殊性があり、これらの関係者が不合理と認められる待遇の相違の解消等に向けて認識を共有することが求められる。」
「今後、各事業主が職務の内容や職務に必要な能力等の内容の明確化及びその公正な評価を実施し、それに基づく待遇の体系を、労使の話合いにより、可能な限り速やかに、かつ、計画的に構築していくことが望ましい。」

これを要約すると、

職務内容とそれに必要な能力を分析し、職務内容・能力・待遇の体系全体を、労使で協議してバランスが取れたものに改善していくことで待遇の相違を解消する。

といったところです。

「賃金のみならず、福利厚生、キャリア形成、職業能力の開発及び向上等を含めた取組が必要であり、特に、職業能力の開発及び向上の機会の拡大は、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の職業に必要な技能及び知識の蓄積により、それに対応した職務の高度化や通常の労働者への転換を見据えたキャリアパスの構築等と併せて、生産性の向上と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の待遇の改善につながるため、重要であることに留意すべきである。」

これを要約すると、

現状の能力に応じた賃金等の待遇の改善のみではなく、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対して、職業能力の開発及び向上の機会を増やすことが、生産性の向上とさらなる待遇の改善につながる

といったところです。なお、「通常の労働者への転換を見据えたキャリアパスの構築」というのは、「労働者がどのような雇用形態及び就業形態を選択しても納得できる待遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるよう・・・」という末尾の帰結と少々矛盾するように思えます。


続きはこちら
短時間・有期雇用労働者及び派遣に対する不合理な待遇の禁止等関する指針【第2 基本的な考え方】の解説

短時間・有期雇用労働法
(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第9条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

改正労働者派遣法
第30条の3
1 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇それぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適当と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
2 派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用契約が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更が見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない

第30条の4
派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第42第2項の教育訓練、同条第3項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条(30条の3)の規定は、第1号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。
ただし、第2号、第4号若しくは第5号に掲げる事項であつて当該協定で定めたものを遵守していない場合又は第3号に関する当該協定の定めによる公正な評価に取り組んでいない場合は、この限りでない。

一 その待遇が当該協定で定めるところによることとされる派遣労働者の範囲

二 前号に掲げる範囲に属する派遣労働者の賃金の決定の方法
(次のイ及びロ(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものにあっては、イに該当するものに限る。)
イ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。
ロ 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること

三 派遣元事業主は、前号に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たっては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること。

四 第1号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇(賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定の方法(派遣労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じることとならないものに限る。)

五 派遣元事業主は、第1号に掲げる範囲に属する派遣労働者に対して第30条の2第1項の規定による教育訓練を実施すること。

六 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

2 前項の協定を締結した派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、当該協定をその雇用する労働者に周知しなければならない。

現行労働契約法20条
 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

*1:欧州では事業主に拠らず職種毎に賃金が定まっているが、我が国では同一の事業主に雇用される労働者間での同一労働同一賃金を目指すということか

*2:「目的」からは必ずしも明らかではありませんが、第3~第5の各論の内容から自明