社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地決平成9.7.23労判723号62頁)

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北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地決平成9.7.23労判723号62頁)

1.事件の概要

 Y社は、経営合理化の一環として、工場の統合を機に人員配置を行うこととし、Y社の従業員Xを含む数名が転勤を内示された。Xは転勤命令を拒否し続けると、重大な不利益を被るおそれがあると判断し、単身赴任した。Xは妻、長女、次女と同居し、隣接地で生活する両親の面倒をみてきたところ、長女は躁うつ病で治療を続け、次女は脳炎による後遺症があったため、Xが面倒をみなければならなかった。このため、Xは、配転の無効を求めて提訴した。

2.判決の概要

 Xの長女については、躁うつ病(疑い)により同一病院で経過観察することが望ましい状態にあり、次女については脳炎の後遺症によって精神運動発達遅延の状況にあり、定期的にフォローすることが必要な状態であるうえ、隣接地に居住する両親の体調がいずれも不良であって稼業の農業を十分に営むことができないため、Xが実質上面倒を見ている状態にあることからすると、Xが一家で札幌市に転居することは困難であり、また、Xが単身赴任することは、Xの妻が、長女や次女のみならずXの両親の面倒までを一人で見なければならなくなることを意味し、Xの妻に過重な負担を課すことになり、単身赴任のため、種々の方策がとられているとはいえ、これまた困難であると認められる。
Y社は、Xの転勤を避けることが十分可能であったと認められるから、Y社は、異動対象者の人選を誤ったといわざるをえず、Xを札幌へ異動させることは、Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるというべきである。

3.解説

 

東亜ペイント事件最高裁判決により、配転命令が濫用となり無効となる場合として、

  1. 業務上の必要性が存しない
  2. 転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものである
  3. 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである

 のような特段の事情がある場合であることが示されたが、本判決は3.の「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を認定して、配転命令が濫用となり無効とされたもの。
通常甘受すべき程度を著しく超える不利益のハードルの高さをよく表している。

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