社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



正社員・非正規社員の待遇格差是正(同一労働同一賃金)の限界

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正社員・非正規社員の待遇格差是正(同一労働同一賃金)の限界~メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用~

 

 

正社員と非正規社員の待遇格差の是正が難しいのは、両者の契約の性質が根本的に異なる点にあります。

企業の中には、多くの種類の業務がありますが、正社員の場合は従事する職種や勤務地を限定することなく、一括して労働契約の目的とします。

これに対して、非正規社員は従事する職種や勤務地を特定して、労働契約の目的とします。

前者をメンバーシップ型雇用、後者をジョブ型雇用といいます。

メンバーシップ型雇用では、労働契約で職務が定まっていないので、ある職務に必要な人員が減少しても、別の職務で人が足りなければその職務に異動させ、雇用関係を極力維持することができますし、そのような人材活用が前提とされています。異動を前提とした場合、職務に基づいて賃金を決めることは困難です。たまたまそのときに従事している職務に応じた賃金を支払うというやり方もあり得ますが、そうすると労働者は賃金の高い職務に就きたがり、賃金の低い職務に就きたがらなくなるでしょう。また、賃金の高い職務から低い職務に異動させようとしても、労働者が嫌がり、必要な人事異動ができなくなり、ひいては雇用関係を維持することが困難となります。

一方、ジョブ型雇用では、職種や勤務地毎に職務を切り出して、具体的な職務に限定して労働者を採用し、その職務に必要な人員が減少すれば解雇することが前提とされています。このような場合は、その職務の難易度や労働市場の状況に応じて、職務ごとに賃金を定めることになります。一律の賃金で採用するというやり方もあり得ますが、賃金相場が低い職種にばかり応募が集中し、必要な人材を適切な賃金水準で採用することが困難となります。

このような労働契約の性質が異なる、正社員=メンバーシップ型雇用と非正規社員=ジョブ型雇用の待遇格差を一挙に解消して、同一賃金同一労働を実現するというのは無理があり、両者の性質の違いを考慮して「不合理と認められるもの」でなければ許容するというのが現実的な限界かと思います。ちなみに、「不合理と認められるものであってはならない」とは、「合理的であるもの」だけではなく、グレーゾーンをも許容することです。

 

労働契約法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

さて、本年1月24日、大阪地裁は大阪医科薬科大学の研究室秘書に従事していたアルバイト職員による均衡待遇違反を主張する事案について、労働契約法20条違反を認めず、原告側の請求を棄却する判断を示しました。本事案では、一部の正社員が研究室秘書として従事していたのですが、判決では研究室の正社員秘書は新卒一括作用され同業務に配属された結果として同業務に従事するに至ったと推認でき、他の部門に配置転換される可能性があるとして、労働契約法20条の不合理性の判断は大学の正職員全体を比較すべき等との判断を示し、同法20条違反を否定しました。(大阪医科薬科大学事件 大阪地裁平30. 1.24判決)

本事案は、まさに労働契約の性質の違いを適切に考慮した、妥当な判決と思料します。

www.minpokyo.org

 

 なお、金銭解雇制度導入して長期雇用制度をなくせば、ジョブ型雇用がメインとなり、同一労働同一賃金と雇用の流動化が実現できると思いますが、これについてはまた別の機会に取り上げます。