社会保険労務士川口正倫のブログ

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東亜ペイント事件(最二小判昭和61.7.14労判477号6頁)

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東亜ペイント事件(最二小判昭和61.7.14労判477号6頁)

1.事件の概要

 

Y社の神戸営業所に勤務していたXは、広島営業所への転勤を内示され、これを拒否したところ、今度は名古屋営業所への転勤命令が発令されたが、これに応じなかった。Xは、高齢の母親(71歳)、保母をしている配偶者、幼い子ども(2歳)とともに大阪府堺市内に居住していたため、家族との別居を余儀なくされるからである。しかし、Y社は転勤命令の拒否を理由として懲戒解雇を行った。原審(大阪高判昭和59.8.21労判477号15頁)は、本件転勤命令について、当該労働者でなければならない事情がなく、Xに相当の負担を強いることから、権利の濫用であるとして、従業員としての地位確認等を認めていた。

2.判決の概要

 

破棄差戻し。労働協約及び就業規則には、Y社は業務上の都合により従業員に転籍を命ずることができる旨の定めがあり、現にY社では、全国に十数か所営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、Xは大学卒業資格の営業担当者としてY社に入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかったという・・(中略)・・事情の下においては、Y社は個別的同意なしにX・・(中略)・・に転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである。
当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
右の業務上の必要性についても、当該勤務先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。
Xの家庭状況に照らすと、名古屋営業所への転勤がXに与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。

 

 

3.解説

 

(1)配転命令ができる要件

  • 労働協約及び就業規則には、Y社は業務上の都合により従業員に転籍を命ずることができる旨の定めがること
  • 転勤を頻繁に行っていること

の2点を満たせば、労働者の個別の同意なしに、使用者は配転命令を命じることができる。

(2)配転命令が濫用となり無効となる場合

  • 業務上の必要性が存しない
  • 転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものである
  • 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである

ような特段の事情がある場合は、配転命令は濫用となり無効となる。

そして、業務上の必要性については、
勤務先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、

肯定される。

なお、本判例に従えば、長期雇用の維持を目的として、余剰となった労働者の解雇を回避するために、配転命令を発した場合には、これを拒否したことを理由として懲戒解雇するという本末転倒な結果を招くことにもなる。

 

 

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