社会保険労務士川口正倫のブログ

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大日本印刷事件(最二小判昭和54.7.20民集33巻5号582頁)

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大日本印刷事件(最二小判昭和54.7.20民集33巻5号582頁)

1.事件の概要

 

Y社は、S大学に推薦を依頼し、求人の募集をしたところ、昭和44年3月卒業予定の学生であったXは、大学の推薦を得て、Y社の右求人募集に応じ、昭和43年7月2日に筆記試験および適格試験を受け、同月5日に面接試験および身体検査を受け、同月13日、Y社から採用内定通知を受けた。そして、Xは、5項目の採用内定取消理由の記載された誓約書をY社に送付した。S大学では、就職についての大学の推薦について「二社制限、先決優先主義」をとっていたため、Xは、Y社からの採用内定通知を受けた後、S大学に報告し、訴外A社に対する大学推薦による応募を辞退した。ところが、Y社は、昭和44年2月12日になって、突如として、Xに対して採用内定を取り消す旨通知した。この通知には取消理由は示されていなかったが、訴訟において、採用事務を担当していたBは、「面接試験における印象が悪く、陰欝(グルーミー)な性格と感じた」と証言していた。一審および二審ともに、Xの従業員たる地位の確認等の請求を認めたため、Y社が上告したが、最高裁は、次のように判断して、グルーミーな性格という取消事由は、客観的合理的理由にならないと判断した。

2.判決の概要

 

採用内定の制度の実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきであり、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して検討する必要がある。本件においては、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮するとき、Y社からの募集(申込みの誘引)に対し、Xが応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するY社からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、Xの本件誓約書の提出とあいまって、これにより、XとY社との間に、Xの就労の始期を昭和44年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのが相当である。
採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。

 

3.解説

 

採用内定の法的性質については、予約説や労働契約締結過程説などが学説上主張されていたが、これらによれば、労働契約自体は成立しておらず、採用内定取消しが違法な場合であっても、損害賠償しか認められず、労働契約上の地位の確認ができないという問題があった。これに対して、労働契約成立説は、内定採用取消しが違法とされた場合、内定取消しが無効となり、地位確認が認められる点に大きな特徴がある。

この採用内定の法的性質について「一義的に論断することは困難というべきであり、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して検討する必要がある」としながらも、「使用者からの申込みに対する承諾」があったときに、就労始期付解約権留保付労働契約が成立する(労働契約成立説)と、最高裁が見解を示したのが本件。
さらに、採用内定についても解雇権濫用法理が用いられ、その具体的な基準として、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」という採用内定法理を示した。


 

 

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