社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説が厚生労働省で公表されました

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 2019年4月スタートする「年次有給休暇の時季指定義務」について、詳細なリーフレット厚生労働省のホームページで公表されました。

公表されているホームページ↓

www.mhlw.go.jp

リーフレットダウンロード

 

このリーフレットからQA集をピックアップしました。

ちなみに、Q10及びQ11は「法令違反」とは言い切れません。
(リーフレットは、制度を啓発・周知することが目的なので、そこまで目くじらを立てる必要は無いのかも知れませんが・・・)

林野庁白石営林署事件(最二小判昭48.3.2 民集27-2-191)というかなり有名な最高裁判例によると「有給休暇を「与える」とはいっても、その実際は、労働者自身が休暇をとることによって始めて、休暇の付与が実現されることになるのであって、たとえば有体物の給付のように、債務者自身の積極的作為が「与える」行為に該当するわけではなく、休暇の付与義務者たる使用者に要求されるのは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本的内容とする義務にほかならない。」とされており、労働者が有給休暇を享受することを妨げなければ、使用者は有給休暇を与えたことになります。

この判例に従うなら、時季指定義務の場合も、使用者は、有給休暇を拒否する労働者の意に反して休暇を取得させることまで義務づけられるのではなく、指定日に労働者が有給休暇を享受することを妨げなければ、義務を果たしたことになります。(そうでないなら、使用者は拒否した労働者に対し、休暇命令や職場からの退去命令を発し、従わなければ懲戒処分にせざるを得なくなります。)

 

 

基準日に関する質問

Q1 2019年4月より前(例えば2019年1月)に10日以上の年次有給休暇を付与している場合には、そのうち5日分について、2019年4月以降に年5日確実に取得させる必要がありますか?

 改正法が施行される2019年4月1日以後、最初に年10日以上の年次有給休暇を付与する日(基準日)から、年5日確実に取得させる必要があります。よって、2019年4月より前に年次有給休暇を付与している場合は、使用者に時季指定義務が発生しないため、年5日確実に取得させなくとも、法違反とはなりません。

 

Q2 4月1日に入社した新入社員について、法定どおり入社日から6か月経過後の10月1日に年休を付与するのではなく、入社日に10日以上の年次有給休暇を付与し、以降は年度単位で管理しています。

このような場合、基準日はいつになりますか?

 

この場合、4月1日が基準日となります。詳細はリーフレットのP8を参照ください。

 

対象となる休暇に関するご質問

 

Q3 使用者が年次有給休暇の時季を指定する場合に、半日単位年休とすることは差支えありませんか?また、労働者が自ら半日単位の年次有給休暇を取得した場合には、その日数分を使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができますか?

 時季指定に当たって、労働者の意見を聴いた際に、半日単位での年次有給休暇の取得の希望があった場合には、半日(0.5日)単位で取得することとして差支えありません。

また、労働者自ら半日単位の年次有給休暇を取得した場合には、取得1回につき0.5日として、使用者が時季を指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができます。

(なお、時間単位の年次有給休暇については、使用者による時季指定の対象とはならず、労働者が自ら取得した場合にも、その時間分を5日から控除することはできません。)

 

Q4 パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者であって、1年以内に付与される年次有給休暇の日数が10日未満の者について、前年度から繰り越した日数を含めると10日以上となっている場合、年5日確実に取得させる義務となるのでしょうか?

 対象とはなりません。前年度から繰り越した年次有給休暇の日数は含まず、当年度に付与される法定の年次有給休暇の日数が10日以上である労働者が義務の対象となります。

 

Q5 前年度から繰り越し分の年次有給休暇を取得した場合には、その日数分を使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができますか?

 労働者が実際に取得した年次有給休暇が前年度からの繰り越し分の年次有給休暇であるか当年度の基準日に付与された年次有給休暇であるかについては問わないものであり、ご質問のような取扱いも可能です。

 

Q6 法定の年次有給休暇に加えて、会社独自に法定外の有給の特別休暇を設けている場合には、その取得日数を5日から控除することはできますか?

 法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇(例えば、労働基準法第115条の時効が経過した後においても、取得の事由及び時期を限定せず、法定の年次有給休暇日数を引き続き取得可能としている場合のように、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除く。以下同じ。)を取得した日数分については、控除することはできません。

なお、当該特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年次有給休暇に振り替えることは、法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者と合意することなく就業規則を変更することにより特別休暇を年次有給休暇に振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益と認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的なものである必要があります。

 

Q7 今回の法改正を契機に、法定休日ではない所定休日を労働日に変更し、当該労働日について、使用者が年次有給休暇として時季指定することはできますか?

 ご質問のような手法は、実質的に年次有給休暇の取得の促進につながっておらず、望ましくないものです。

 

Q8 出向者については、出向元、出向先どちらが年5日確実に取得させる義務を負いますか?

 在籍出向の場合は、労働基準法上の規定はなく、出向元、出向先、出向労働者三者間の取り決めによります。(基準日及び出向元で取得した年次有給休暇の日数を出向先の使用者が指定すべき5日から控除するかどうかについても、取り決めによります。)

移籍出向の場合は、出向先との間にのみ労働契約関係があることから、出向先において10日以上の年次有給休暇が付与された日から1年間について5日時季指定を行う必要があります。(なお、この場合、原則として出向先において新たに基準日が特定されることとなり、また、出向元で取得した年次有給休暇の日数を出向先の使用者が指定すべき5日から控除することはできません。)

 

法令違反に関するご質問

 Q9 年5日の取得ができなかった労働者が1名でもいたら、罰則が課されるのでしょうか?

 法違反として取り扱うこととなりますが、労働基準監督署の監督指導において、法違反が認められた場合は、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。

 

Q10 使用者が年次有給休暇の時季指定をするだけでは足りず、実際に取得させることまで必要なのでしょうか?

 使用者が5日分の年次有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に年次有給休暇を5日取得していなければ、法違反として取り扱うことになります。

 

Q11 年次有給休暇の取得を労働者本人が希望せず、使用者が時季指定を行っても休むことを拒否した場合には、使用者側の責任はどこまで問われるのでしょうか?

 使用者が時季指定をしたにもかかわらず、労働者がこれに従わず、自らの判断で出勤し、使用者がその労働を受領した場合には、年次有給休暇を取得したことにならないため、法違反を問われることになります。
ただし、労働基準監督署の監督指導において、法違反が認められた場合は、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。

 

Q12 使用者が時季指定した日が到来する前に労働者が自ら年次有給休暇を5日取得した場合は、当初使用者が指定した日に労働者が年次有給休暇を取得しなくても、法違反にはならないと考えてよいでしょうか?

 労働者が自ら5日年休を取得しているので、法違反にあたりません。なお、この場合において、当初使用者が行った時季指定は、使用者と労働者との間に特段の取り決めがない限り、無効とはなりません。

 

その他のご質問

 

 Q13 休職している労働者についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要がありますか?

 例えば、基準日から1年間について、それ以前から休職しており、期間中に一度も復職しなかった場合など、使用者にとって義務の履行が不可能な場合には、法違反と問うものではありません。

 

Q14 年度の途中に育児休業から復帰した労働者等についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要があるのでしょうか?

 年度の途中に育児休業から復帰した労働者等についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得していただく必要があります。ただし、残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合には、その限りではありません。

 

Q15 期間中に契約社員から正社員に転換した場合の取扱いについて教えてください。

 対象期間中に雇用形態の切り替えがあったとしても、引き続き基準日から1年以内に5日取得していただく必要があります。
なお、雇用形態の切り替えにより、基準日が従来よりも前倒しになる場合(例えば、契約社員の時の基準日は10/1だったが、正社員転換後は基準日が4/1に前倒しになる場合)には、5日の時季指定義務の履行期間に重複が生じますが、そのような場合の取扱いについては次の図をご参照ください。

 

Q16 使用者が時季指定した年次有給休暇について、労働者から取得日の変更の申出があった場合には、どのように対応すればよいでしょうか?また、年次有給休暇管理簿もその都度修正しなくてはいけないのでしょうか?

 労働者から取得日の変更の希望があった場合には、再度意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った時季とすることが望ましいです。また、取得日の変更があった場合は年次有給休暇管理簿を修正する必要があります。

 

Q17 管理監督者にも年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要があるのでしょうか?

 あります。管理監督者も義務の対象となります。