社会保険労務士川口正倫のブログ

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大室木工所事件(浦和地熊谷支決昭和37.4.23労民集13巻2号505頁)

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大室木工所事件(浦和地熊谷支決昭和37.4.23労民集13巻2号505頁)

 

1.事件の概要

 

Y社の従業員であったXは、Y社より、争議行為中の暴行を理由とした刑事事件で有罪判決となることを停止条件として、懲戒解雇する旨の通告を受けた。ところが、Xは右条件成否未決の間に(刑事事件の判決が決する前に)、Y社に対して、一方的に退職を申し出て、退職金を請求した。これに対し、Y社が退職金の支払いを拒否したため、Xが仮処分を申請したのが本件である。

2.判決の概要

 

当時施行されていたY社の就業規則には、従業員は退職を願い出て会社が承認したとき従業員たる身分を失う旨、及び退職願を提出した者は会社の承認があるまで従前の業務に服さなければならない旨の規定があることの事実を一応認めることができる。右就業規則の規定は、従業員の退職の成立を使用者の承認にかからしめたものと解する外はなく、民法627条1項の規定を排除する趣旨の規定であるところ、本件においては右就業規則の定めにより、Xの労働契約において民法の右規定を排除する特約がなされたものと認められる。
民法627条1項の規定が強行規定であるか否かは説の分れるところであるが、雇用の当事者が継続的契約関係における契約自由の原則の一面たる解約の自由を自己の意思によって制限することは、それが他の強行法規に反するとか、あるいは公序良俗に反するとかの特段の事由に渉らない限り許容されるものと解される。
ただし、民法627条1項の規定を排除する特約は、これを無制限に許容すべきではなく、労働者の解約の自由を不当に制限しない限度においてその効力を認むべきものと解するのが相当である。換言すれば、このような特約がある場合においても、使用者の承認を全くの自由裁量に委すものとするときは労働基準法の法意に抵触するわけであり、かかる趣旨においてはその特約は無効というべきであるが、使用者において労働者の退職申し出を承認しない合理的な理由がある場合の外は、その承認を拒否し得ない趣旨と解するならば、その特約は必ずしも労働基準法の法意に反せずその効力を認めて差し仕えないと解される。

これを本件についてみるならば、X等の労働契約における前述の特約は、Y社においてX等の退職申し出を承認しない合理的な理由がある場合の外は、Y社はその承認を拒否し得ないという限度において右特約の効力を認むべきものと解するのが相当である。

3.解説

 

下級審ながら、「従業員からの退職の申し出に対して使用者が承認しなければ退職できない。」とする就業規則の規定自体は、民法627条1項の規定を排除する特約として認めたうえで、使用者が承認するか否かを全くの自由裁量で決定できるような趣旨の特約は無効、使用者において労働者の退職申し出を承認しない合理的な理由がある場合以外は、その承認を拒否し得ない趣旨ならば有効とした判例

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