社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



民法改正で労災等の損害賠償請求権の消滅時効は5年・20年に統一される

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2020年民法改正による労働法への影響

 

 

労災について損害賠償を請求する場合は、安全配慮義務を適切に履行しなかったことによる債務不履行責任と、使用者等の故意・過失による不法行為責任の2通りの構成が可能です。

どちらが請求しやすいかはケースバイケースですが、消滅時効については、債務不履行責任の場合は10年、不法行為責任の場合は損害と加害者を知った時から3年(もしくは不法行為のときから10年)と大きな違いがありました。

2020年4月施行の改正民法により、この違いは無くなり、消滅時効はいずれも5年もしくは20年となります。

 

改正民法による労災の民事訴訟消滅時効

 

 債務不履行責任
       請求できることを知ったときから5年(主観的時効期間)
  請求できるときから20年(客観的時効期間)

 不法行為責任
  損害及び加害者を知ったときから5年(主観的時効期間)
  不法行為の時から20年(客観的時効期間)

 

いずれも人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権について特則(改正後の民法167条及び724条の2)により、一般的な債務不履行責任または不法行為責任の場合の消滅時効が修正されていますので、条文を読む際は注意が必要です。

なお、「人の生命又は身体の侵害」にパワハラやセクハラが含まれるのかは一概にいえませんが、もし含まれるとすれば、パワハラやセクハラに基づく損害賠償の消滅時効も労災と同じになります。この場合、債務不履行は職場環境配慮義務の債務不履行となります。

 

改正前の民法

(債権等の消滅時効

第167条

1.債権は、十年間行使しないときは、消滅する。

労災を安全配慮義務債務不履行責任とした場合の時効10年

2.債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

 

不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
労災を不法行為責任とした場合の主観的時効3年、客観的時効20年

 

改正後の民法

(債権等の消滅時効
第166条
1.債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
  一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。  

⇒ 労災を安全配慮義務債務不履行責任とした場合の債務不履行責任の主観的時効5年

  二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

 

(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効
第167条
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。

⇒ 労災(人の生命又は身体の侵害)を安全配慮義務債務不履行責任とした場合の客観的時効20年

 

不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
⇒ 労災を不法行為責任とした場合の客観的時効20年

 

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

第724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
⇒ 労災(人の生命又は身体の侵害)を不法行為責任とした場合の主観的時効5年