社会保険労務士川口正倫のブログ

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【普通解雇】高知放送事件(最二小判決昭和52.1.31労判269号17頁)

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高知放送事件(最二小判決昭和52.1.31労判269号17頁)

 

参照法条 : 民法627条1項3号
裁判年月日 : 1977年1月31日
裁判所名 : 最高二小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和49年 (オ) 165

1.事件の概要

 Xは、放送事業を営むY社でアナウンサーとして勤務していた。昭和42年2月22日18時から翌23日10時までの間ファックス担当放送記者と宿直勤務に従事したが、23日6時20分頃まで仮眠していたため、同日6時から10分間放送されるべき朝のラジオニュースを全く放送することができなかった(第一事故)。また、同年3月7日から翌8日にかけて、宿直勤務に従事したが、寝過ごしたため、8日6時からの朝の定時ラジオニュースを約5分間放送することができなかった(第二事故)。これらXの行為について、Y社は本来であれば就業規則所定の懲戒事由に該当するので懲戒解雇とすべきところ、本人の将来等を考慮して普通解雇とした。Xは従業員としての地位確認等の請求訴訟を提訴し、地裁(高知地判昭和48.3.27判例集未登載)も高裁(高松高判昭和48.12.19労判192号39頁)も、これを認めたため、Y社が上告したのが本件である。

 

2.判決の概要

 普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。・・(中略)・・本件事故は、いずれもXの寝過ごしという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではなく、・・(中略)・・本件第一、第二事故ともファックス担当者においても寝過ごし、定時にXを起こしてニュース原稿を手渡さなかったのであり、事故発生につきXのみを責めるのは酷であること、Xは、第一事故については直ちに謝罪し、第二事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、第一、第二事故とも寝過ごしによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、Y社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置を講じていなかったこと、・・(中略)・・Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、第二事故のファックス担当者Aはけん責処分に処せられたに過ぎないこと、Y社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと、第二事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、等の事実があるというのであって、右のような事情のもとにおいて、Xに対し解雇をもってのぞむことは、いささか苛酷にすぎ、合理性を欠いてないともいえず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。

 

3.解説

本判決によって、普通解雇一般(就業規則の普通解雇事由に該当する場合)に、解雇権濫用法理が適用されることが明らかとなった。なお、本判決では、「就業規則所定の懲戒事由にあたる事実がある場合において、本人の再就職など将来を考慮して、懲戒解雇に処することなく、普通解雇に処することは、それがたとえ懲戒の目的を有するとしても、必ずしも許されないわけではない」ことも示されている。

労働契約法15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする

 

労働契約法16条

解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。

 

 

 

 

 

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