社会保険労務士川口正倫のブログ

横浜市の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ

【整理解雇】東洋酸素事件 東京高判昭和54.10.29労判330号71頁

東洋酸素事件 東京高判昭和54.10.29労判330号71頁

審判:二審(高等裁判所)
裁判所名:東京高等裁判所
事件番号:昭和51年(ネ)1028号
裁判年月日:昭和54年10月29日
裁判区分:判決

 

1.事件の概要

 Y社は、昭和44年下半期に4億円余の累積赤字を計上した。その原因は、業者間の競争激化、石油溶断ガスの登場による価格下落、生産性の低さ等の問題を抱えるアセチレンガス製造部門であった。このためY社は同社川崎工場アセチレン部門の閉鎖を決定し、昭和45年7月24日、同年8月15日付けでXら13名を含む同部門の全従業員について就業規則にいう「やむを得ない事業の都合によるとき」を理由として解雇する旨を通告した。Xらは、地位保全仮処分等を求める訴訟を提起した。地裁(東京地判昭和51.4.19判例集未登載)が、Xの請求を認容したため、Yが控訴したのが本件である。

 

2.判決の概要

 特定の事業部門の閉鎖に伴う整理解雇が、就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものといえるためには、その事業部門の閉鎖がやむを得ない必要に基づくものであること当該事業部門の従業員が他に充当する余地がない、あるいは配置転換を行なっても全社的にみて余剰人員の発生が避けられないこと雇対象者の選定が客観的、合理的基準に基づくこと、の3つの要件を満たす必要がある。なお、解雇につき労働協約又は就業規則上のいわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にわたると認められるとき等においては、いずれも解雇の効力が否定されるべきであるけれども、これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無は、就業規則所定の解雇事由の存在が肯定されたうえで検討されるべきものであり、解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならないものというべきものである。

 

3.解説

 本判決は、高裁判決ではあるが、整理解雇の4要件を取り入れた判例である。

整理解雇の4要件
①人員整理の必要性があること
②解雇回避努力を尽くしたこと
③被解雇者の人選が客観的・合理的な基準によりなされること
労働組合・被解雇者への説明・協議したこと

なお、本件では、アセチレン部門の業績不振が一時的なものではなく、会社経営に深刻な影響を及ぼすおそれがあったことから、アセチレン部門の閉鎖は経営の安定を図るためにやむをえない必要があり、かつ合理的な措置であったこと、Y社が当時全社的に希望退職者を募集することで、アセチレン部門閉鎖による余剰人員の発生を防止することができたとはいえないこと、Y社が解雇対象者としてアセチレン部門の従業員全員を選定したことは、一定の客観的基準に基づく選定であり、その基準も客観性を欠くものでないと認められることから、本件解雇は就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものということができるとされた。

整理解雇における四つの基準は、四つをすべて満たさなければ解雇権は無効になるという意味での「要件」として、しばらく位置付けられていたが、その後平成12年にナショナル・ウエンストミンスター銀行(三次仮処分)事件 東京地決平成12.1.21労判782号23頁 において、4基準を「要件」ではなく「要素」であるとされ、裁判例は定まっていない。要素説に従ったとしても、裁判所の判決でどの点がどの程度考慮されるかについては確実な判断を行うことはできないので、実務上は、四つの基準をすべてを満たすよう、用意周到に整理解雇を実施すべきであろう。

 

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