社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】角川文化振興財団事件 東京地決平成11.11.29労判780号67頁

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角川文化振興財団事件 東京地決平成11.11.29労判780号67頁

 

 

 

参照法条 : 労働基準法14条、民法629条1項、民法1条3項、労働基準法89条1項3号
裁判年月日 : 1999年11月29日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成11年 (ヨ) 21087 

 

 

1.事件の概要

 Xらは、財団法人の編纂室の編集者として勤務してきたところ、訴外K書店からの業務委託契約が打ち切られたことに伴う編纂室の閉鎖を理由に解雇された。Xらは、契約期間3年または2か月とし、必要あれば更新するという形態で雇用され、4年から10年間勤務してきた。そこでXらが労働契約上の地位を有する確認を求めて仮処分の申立てをしたのが本件である。

2.判決の概要

1年を超えない期間を定めた労働契約の期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法629条1項により黙示の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解され、また、1年を超える期間を定めた労働契約は労働基準法14条、13条により一定の事業の完了に必要な期間を定めたもの以外は期間が1年に短縮されるが、その期間満了後に労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法629条1項により黙示の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解される。

3.解説

労働基準法14条は、労働契約に期間を付す場合、その上限を3年(平成15年に改正されるまでは1年)としているが、このような制限を超える期間を定めた労働契約の効力はどうなるか問題となる。この点について、違反した期間は無効になるので、期間が空白になり、その結果、期間の定めのない契約になるとする説がある(無効説)。また、上限を超える期間も、雇用保障期間としては有効であり、労働者はその労働契約を有効と主張できるが、使用者がそれを主張することはできないという考え方もあった(片務的効力説)。しかし、多数説および判例は、法令の上限の期間に短縮されると考えている。なぜなら、労働基準法13条によれば、労働基準法で定める基準に違反している場合、その基準は無効になり、無効となった部分は労働基準法が定める基準によるとしているからである(労働基準法の直律的効力)。
また、期間満了後もそのまま継続して働いている場合には、民法629条1項により従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定される。これを「黙示の更新」というが、このような場合に「従前の雇用と同一の条件」に、労働契約の期間の定めを含むかが問題となる(「含む」なら、同一の期間の有期労働契約が更新されることとなり、「含まない」なら、無期労働契約へ転化することとなる)。これについては,学説や裁判例は二分されており,最高裁判例もないが、本件は下級審ながら無期労働契約に転化するとの説に立った判例である。同様の見解の判例として、「読売日本交響楽団事件」(東京地判平成2.5.18労判563号24頁)がある。
 なお、無期労働契約に転化するとの説になった場合は、解雇紛争となると、雇止めの法理ではなく、解雇権濫用法理が用いられることとなる。

 


労働基準法第14条
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、一年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、三年)を超える期間について締結してはならない。
労働基準法第14条労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
労働基準法13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

民法第629条第1項
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

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