社会保険労務士川口正倫のブログ

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【雇止め】読売日本交響楽団事件 東京地判平成2.5.18労判563号24頁

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読売日本交響楽団事件 東京地判平成2.5.18労判563号24頁

 

参照法条 : 労働基準法21条、労働基準法14条
裁判年月日 : 1990年5月18日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和62年 (ワ) 5194

1.事件の概要

 

チェロの演奏家であるXは、楽団Yと期間2年の労働契約を締結した(第一契約)。その終了前に、報酬などを改定して、新たに期間2年の労働契約を締結した(第二契約)。さらにその終了前に、報酬などを改定して、今度は期間1年の労働契約を締結した。この期間の満了を理由に楽団Yが雇止めをしたので、Xは労働契約上の地位の確認を求めた。

2.判決の概要

以上のとおり第一契約は二年間の契約期間の定めがあったが、右は、労働基準法14条(※)に違反し、同法13条により1年を超える部分は無効となり、期間は1年に短縮されるのであり、右1年の期間経過後も労働契約が継続している場合には、民法629条1項の規定により期間の定めがない契約として継続されているものと解するのが相当である。
 しかし、・・(中略)・・第一契約締結後それが漠然と継続されているのではなく、その後に第二及び第三契約が締結されていること、原告と被告の間には、第一契約の締結に際し、契約が永続すべきものとして締結された事情は認められないこと、右各契約においては、単に期間についてのさだめのほかに、・・(中略)・・労働契約の重要な部分についての交渉がなされ、そのうえで書面によって各契約が締結されていること、したがって、単一の契約が継続しているものとはいえないこと、以上の経緯については、原告はこれを明確に認識したうえで契約に臨んでいるものと評価されること等を考え併せると、第一契約が期間の定めのないものとなり、その状態が継続し、第二及び第三契約は単に労働条件を改定したにすぎないものと解することは相当ではなく、第二契約が締結されたことにより、第一契約が解消され、第一契約とは異なる内容の契約が新たに締結され、更に、第三契約が締結されたことにより、第二契約(第一契約と同様1年経過後に期間の定めのない契約となった。)が解消され、新たに第二契約とは異なる内容の契約が締結されたものと解するのが相当である。
 したがって、原告と被告の契約関係は、第三契約で定められた1年の期間の満了により、終了したものということができる。

※平成15年労働基準法改正前は、一定のものを除き期間のある労働契約の期間の上限は1年であった。

3.解説

 

労働基準法14条は、労働契約に期間を付す場合、その上限を3年(平成15年に改正されるまでは1年)としているが、このような制限を超える期間を定めた労働契約の効力はどうなるか問題となる。この点について、違反した期間は無効になるので、期間が空白になり、その結果、期間の定めのない契約になるとする説がある(無効説)。また、上限を超える期間も、雇用保障期間としては有効であり、労働者はその労働契約を有効と主張できるが、使用者がそれを主張することはできないという考え方もあった(片務的効力説)。しかし、多数説および判例は、法令の上限の期間に短縮されると考えている。なぜなら、労働基準法13条によれば、労働基準法で定める基準に違反している場合、その基準は無効になり、無効となった部分は労働基準法が定める基準によるとしているからである(労働基準法の直律的効力)。
また、期間満了後もそのまま継続して働いている場合には、民法629条1項により従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定される。これを「黙示の更新」というが、このような場合に「従前の雇用と同一の条件」に、労働契約の期間の定めを含むかが問題となる(「含む」なら、同一の期間の有期労働契約が更新されることとなり、「含まない」なら、無期労働契約へ転化することとなる)。これについては,学説や裁判例は二分されており,最高裁判例もないが、本件は下級審ながら無期労働契約に転化するとの説に立った判例である。同様の見解の判例として、「角川文化振興財団事件」(東京地決平成11.11.29労判780号67頁 )がある。
 なお、無期労働契約に転化するとの説になった場合は、解雇紛争となると、雇止めの法理ではなく、解雇権濫用法理が用いられることとなる。


労働基準法第14条
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、一年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、三年)を超える期間について締結してはならない。 

労働基準法第14条
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。

労働基準法13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

民法第629条第1項
雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

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