社会保険労務士川口正倫のブログ

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定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金の所得区分について

定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金の所得区分について

次のように退職所得は控除額が高額なため、従業員に支払われる金銭が税法上の退職所得に該当すると、所得税額が低くなります。

例えば、通常の従業員が支給される退職金に相当する、一般退職手当等の退職所得控除額は、次のとおりです。
●勤続年数が20年までの場合
40万円×勤続年数(80万円より少ないときは80万円)
●勤続年数が20年を超える場合
70万円×勤続年数-600万円
※障害者となったことにより退職した場合は、上記で計算した金額に100万円を加算します。

退職金がそれほど多くない場合は、非課税となることも少なくありません。

そんなことから、退職所得該当の当否はかなり重要なことですが、国税庁から、「定年を延長した場合に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金の所得区分について(文書回答事例)」が公表されました(令和4年12月3日公表)。
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/gensenshotoku/211111/01.htm#a01

概要を抜粋すると次のようになります。

照会事例

当社は、安定的に雇用を確保しながら事業を前進させる必要があることに加え、高年齢者安定雇用の確保という社会情勢や労働組合の要望を踏まえ、労働組合との合意により労働協約書等を改定し、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき満60歳に達した月の末日としていた従業員の定年を、満60歳から満65歳までの間で従業員が選択したいずれかの年齢に達した月の末日に延長することとしました(以下、労働協約書等の改定後の従業員が選択した定年年齢を「選択定年年齢」といい、改定後の定年制度を「本件定年制度」といいます。)。
これまで、定年年齢(60歳)に達した月の翌月末までに本件退職一時金を支給してきましたが、本件定年制度においては、原則として、選択定年年齢に達した月の翌月末までに本件退職一時金を支給することとしました。しかしながら、本件定年制度の制定前に入社した従業員のうち、満60歳に達した月の翌月末までに一時金の支給を希望する従業員(以下「本件希望者」といいます。)に対しては、選択定年年齢にかかわらず、本件退職一時金の代わりに一時金(以下「本件一時金」といいます。)を支給することとしました。
この本件一時金は、引き続き勤務する従業員に対して支給するものであり、本来の退職所得とはいえませんが、所得税基本通達30-2(5)《引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの》に定める給与に該当し、退職所得として取り扱って差し支えないか照会いたします。

※この会社では、定年を一律に63歳というように定めるのではなく、60歳から65歳までの間で本人が選択して決めることにしています。そして、選択した定年に達したら退職一時金を支給するのが原則ですが、このような制度ができる前、つまり定年が60歳であった時期に入社した従業員に限っては、本人の希望により満60歳で、退職一時金の代わりに一時金を支給することにしています。このような、退職を伴わない一時金を退職所得として取り扱って問題ないか照会したのが本件です。

判断の枠組み

国税庁は次のような枠組みで、一時金を退職所得に該当するか判断しました。

引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、
① 労働協約等を改正していわゆる定年を延長した場合において、
② 延長前の定年(以下「旧定年」といいます。)に達した使用人に対し旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与であり、
③ その支払をすることにつき相当の理由があると認められるもので、
④ その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、
退職手当等とする(所得税基本通達30-2(5))

国税庁の判断:結論は退職所得に該当

労働組合との合意により労働協約等を改定して旧定年を延長し、本件希望者に対して旧定年である満60歳に達した月の末日までを基礎として本件一時金の計算をすることとしていますので、本件一時金は「旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与」であると考えます。
また、本件一時金を支給した後、本件希望者に退職を理由とした一時金を支給しないことから、本件希望者に対して旧定年時までの勤続期間を加味した一時金が支給されることもありませんので、本件一時金は、いわゆる打切支給の退職手当等※であると考えます。
そして、本件一時金は、次のイないしニのことからすると、その支払をすることにつき「相当の理由がある」ものと考えます。

したがって、本件一時金は、退職手当等に該当し、退職所得として取り扱って差し支えないものと考えます。
イ 本件一時金は、入社時から、旧定年(満60歳)を迎えたときに本件退職一時金が支給されることを前提に生活設計をしてきた本件希望者の事情を踏まえ、旧定年時において精算を行うものであること。
ロ 本件定年制度導入前後において、本件退職一時金の支給金額が同額であるにもかかわらず、その支給時期が延期されるという不利益が従業員に生じる中で、本件支給事由に係る不都合に対して雇用主として特に配慮する必要があること。
ハ 本件一時金は、本件定年制度導入前に入社した従業員のうち希望者(本件希望者)に対して支給されるものであり、その支給時期も旧定年時に限られていること。
ニ 本件定年制度導入前において、旧定年時(満60歳)に支給されていた本件退職一時金は、長期間勤務したことに対する報償及び旧定年時以後の生活保障としての性格を有するものであるところ、本件一時金もその性格を有するものであることに変わりはないと考えられること。

※打切支給の退職手当等とは、退職金制度を廃止する際に廃止時の勤続年数等により支給される退職金を言います。打切支給の退職手当等も退職所得として扱われます。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/15.htm

瑕疵のある意思表示(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫)

瑕疵のある意思表示(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫)

瑕疵のある意思表示とは

真意と異なる意思表示を瑕疵のある意思表示と言います。
瑕疵なんてフレーズは日常使うことはないので、おかしな意思表示とでも覚えておくと良いかも知れません。

それはさておき、民法は、瑕疵ある意思表示を心裡留保虚偽表示錯誤詐欺強迫という4つに分けて、それらの要件及び効果について規定しています。
なお、詐欺・強迫は、「詐欺又は強迫」と1つの規定(民法96条)に定められているため、詐欺・強迫で1つとして扱います。

瑕疵ある意思表示は、取消されたり、無効となることがあり、労働契約では退職の意思表示で問題になることがあります。

心理留保

心裡留保)第93条
1.意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2.前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

民法93条本文は「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」としています。表意者とは、意思表示する人を言い、表意者が真意と異なると知りながらされる意思表示を心裡留保と言います。
例えば、甲が贈与する意思(真意)がないのに、冗談で「このiphoneをあげよう」と乙に書面で意思表示(心裡留保)し、乙が受諾の意思表示をしたなら、贈与契約が成立し効果が生じます(民法549条。なお、書面によらない贈与は民法550条の規定により、履行されるまではいつでも取り消せます)。これにより、甲は「そんなの冗談だよ」と言い逃れることは認められません。
わざわざそんな冗談を言って相手を惑わした表意者とそれを信じて疑わなかった相手方では、相手方を保護する必要性が高いため、民法93条本文はこのように定めています。
ただし、乙が真意でないことを知っていたり、知ることができた場合には、甲の意思表示を信じておらず、信じたとしても不注意で信じただけなので特に保護する必要もなく、民法93条但書は「ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」としています。これにより、贈与契約は無効となります。

労働の分野で心裡留保が論点となった事例として、昭和女子大学事件(東京地決平4.2.6労働判例610号72頁)があります。
私立大学の教授として勤務していた者が、勤務継続の意思を持ちながら、反省の意味で退職願を提出して受理された後、退職の意志表示は心裡留保により無効であるとして、退職の効力を争った事例ですが、「退職の意思がなく退職願による退職の意思表示が✕の真意に基づくものではないことを知っていたものと推認することができる。そうすると✕の退職の意思表示は心裡留保により無効であるから(民法93条但書)、Y社がこれに対し承諾の意思表示をしても退職の合意は成立せず、✕の退職の効果は生じないものというべきである。」とし、退職の意思表示が無効とされました。

虚偽表示

(虚偽表示)第94条
1.相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2.前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

民法94条1項は、「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」としています。心裡留保は一人でしますが、相手方と通じて、真意と異なる意思表示をすることもあり、これを虚偽表示又は通謀虚偽表示と言います。このような虚偽表示は、両者に意思表示に従うという真意がない以上、その意思表示の効力を認める必要がないため、無効としています。
例えば、税金対策や信用維持のために、不動産の所有者甲が相手方乙と通謀のうえ、甲乙間で売買があったことにして登記を乙へ移転するというケースです。この場合、甲乙間の虚偽の売買契約は無効となります。
ただし、民法94条2項は、そのような虚偽表示であっても善意の第三者(全く事情を知らなかった人)に対しては無効を主張できないとしています。
例えば、乙から、乙の所有物と信じて不動産を買い受けた丙が善意の第三者で、このような丙が不測の不利益を受けないようにするための規定です。

労働の分野で虚偽表示が論点となった事例を私は知りませんが、例えば、今期の課税を逃れるために、会社が真意は貸付として、虚偽の賞与を従業員と通謀して支給し、翌期に社内旅行を実施する際にその参加費用と貸付債権を相殺するような場合や、従業員が失業保険を受給することを目的として、再雇用することを会社と従業員が通謀(真意は休職)し、従業員が虚偽の退職の意思表示をするような場合が想定できます。

錯誤

(錯誤)第95条
1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2.前項第二号の規定による意思表示の取り消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3.錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取り消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
4.第1項の規定による意思表示の取り消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

表意者が、真意と表示がくいちがっていることに気付かずに意思表示をすることがあり、これを錯誤と言います(これに対して、気づいている場合は心裡留保や虚偽表示です)。
民法95条は、「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」とし、取消すことができる場合として「一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤」「二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」を定めています。さらに、第2号については、民法95条2項により「前項第二号の規定による意思表示の取り消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。」と取消ができる要件が限定されています。
少々込み入っていますが、大前提として錯誤に基づく意思表示は、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」に取消すことができます。
これは、錯誤と意思表示の主観的因果性錯誤の客観的重要性と呼ばれるもので、次の2つの要件を満たしていることを意味しています(改正前民法要素の錯誤と言われていたものです)。

錯誤と意思表示の主観的因果性:錯誤がなければ表意者が当該意思表示をしなかったこと
錯誤の客観的重要性:一般人を基準としてもそのような意思表示をしなかったこと

やたらめったら錯誤による取消を使用されては、取引の安全が図れないため、取消ができる錯誤にしぼりをかけているのです。
例えば、300円で一杯のコーヒーを注文したつもりが、300ドルであったような場合、300ドルであったら表意者が注文しなかっただけでなく、一般人を基準としても注文しなかったと言えるので、この要件を満たします。
300円で一杯のコーヒを注文したところ、好みであるブラジル産の豆を使用してなかったから取消すといういうのは、一般人を基準とするとそのような意思表示をしなかったとは言えないので、要件を満たしません。
そして、「一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、言い間違いや書き間違いのように意思表示の内容と真意が一致していないことで、表示の錯誤及び表示行為の意味に関する錯誤と言われています。
例えば、ブレンドコーヒを注文したつもりが、アメリカンコーヒを注文したような場合が表示の錯誤で、メニューに「コーヒ」と「アイスコーヒー」が列挙されているにも関わらず、夏にコーヒと注文すればアイスコーヒーが出てくると思い込み、「コーヒー」を注文した場合(真意と異なり、ホットの「コーヒー」が注文される)が表示行為の意味に関する錯誤に該当します。
「二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、動機の錯誤と言われるものです。例えば、近くに大きな商業施設ができるので、土地の価格が上がるだろうと考えて転売目的で土地を買う場合、買主が買うという意思表示をしたのは、「近くに大きな商業施設ができるので、土地の価格が上がるだろう」という動機(法律行為の基礎とした事情についての認識)があったからです。しかし、実際には大きな商業施設ができるという事実が無ければ、その動機に錯誤(その認識が真実に反する錯誤)があるということになります。
このような動機の錯誤の場合には、表示の錯誤や表示行為の意味に関する錯誤とは異なり、錯誤の存在が意思表示をした人の内心にとどまっています。近くに大きな商業施設ができるから買うのか、環境が気に入ったから買うのか、安いと思ったから買うのか、他者にはわかりかねます。通常の不動産の売買契約書には、土地の所在地や面積等が詳細に記載されていますが、動機は記載されておらず、動機に錯誤があっても、それに対応する表示(外部に表現された意思)はありません。売主からすれば、買主が土地を購入する動機など知ったことではないのです。
そこで、民法95条第2項は「2.前項第二号の規定による意思表示の取り消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。」とし、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」つまり、動機の錯誤については、相手方に動機が表示されていることを錯誤による取消の要件としています。
不動産売買の例であれば、買主が「この土地は近くに大きな商業施設ができるので値上がりするだろう」と思っていただけでは錯誤として売買契約を取消すことはできませんが、買主が売主に対して、「この土地を買うのは近くに大きな商業施設ができるからです」というように動機を示していたような事情がある場合には、錯誤による売買契約の取消ができるのです。

ただし、民法95条第3項は、「錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取り消しをすることができない。」とし、次に掲げる場合として、「一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき」「二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき」を定めています。表示の錯誤、表示行為の意味に関する錯誤又は動機の錯誤のいずれであっても、表意者に重過失があるような場合にまで、錯誤による取消を認めては、取引の安全が図れないからです。
とはいえ、例外として、相手方が錯誤であることを知っていた場合、重大な過失によって知らなかった場合、もしくは相手方も表意者と同じ錯誤に陥っていた場合は、そのような相手方を保護する理由がないため、表意者に重過失があって取消ができるとしています。
動機の錯誤が制限される理由は、取引の安全にあります。そこで、民法95条は「第1項の規定による意思表示の取り消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と、表意者は善意・無過失の第三者には取消を主張できない旨を定めています。

労働の分野で錯誤が論点となった事例として、富士ゼロックス事件(東京地判平23.3.30労判1028号5頁)があります。
長期間に渡り、勤怠不正打刻を行っていた従業員が、懲戒解雇になるかもしれないと考え、一度行った退職の意思表示の無効・取消しを主張した事例ですが、「懲戒解雇は、重きに失すると言わざるを得ず、Xを懲戒解雇することは社会通念上相当であると認められない。以上によると、Y社は、Xに対し、有効に懲戒解雇をなし得ず、本件退職意思表示には動機の錯誤が認められ、上記動機はY社に表示されていたといえるから、本件退職意思表示には要素の錯誤が認められる」として、錯誤による退職意思表示の無効・取消が認められました。
※平成30年施行の改正民法で、錯誤は「取消」とされましたが、それ以前は条文上は「無効」とされていました。ただし、判例上は取消に近い無効(取消的無効・相対的無効)と扱われていたこともあり、改正時に「取消」になりました。

また、昭和電線電纜事件(横浜地川崎支判平成16.5.28労判878号40頁)という事例もあります。
仕事上のミスを理由に退職勧奨を受け、退職しなければ会社から解雇されるものと思い、自己都合退職した。しかし、後になって解雇が許されない可能性が高かったことを知り、退職の無効を求めた事例ですが、「本件退職合意承諾の意思表示をした時点で、解雇事由は存在せず、したがって解雇処分を受けるべき理由がなかったのに、Xは本件退職勧奨等により、解雇処分に及ぶことが確実であり、これを避けるためには自己都合退職をする以外に方法がなく、退職願を提出しなければ解雇処分にされると誤信した結果、本件退職合意承諾の意思表示にはその動機に錯誤があったものというべきである。Xのした本件退職合意承諾の意思表示は法律行為の要素に錯誤があったから、本件退職合意は無効である」として、無効が認められました。

このように、実際には解雇や懲戒解雇に該当しないような事案で、該当すると勘違いしてなされた退職の意思表示は、錯誤により取消される可能性があります。

なお、社会保険等の手続をする際に、届出書の記入を間違えることがあります。例えば、資格取得日を「令和3年12月1日」とすべきところを「令和3年11月1日」と、うっかり記入して提出してしまうようなケースです。こういうのは、まさに錯誤なので、後で訂正届を提出する際に理由を聞かれれば、「錯誤により間違いました」ということになります。

詐欺・強迫

(詐欺又は強迫)第96条
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

民法96条第1項は、「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」とし、だまされたり(詐欺)、おどされたり(強迫)してした意思表示も有効ですが、表意者は取消すことができます。これらの場合には、意思表示の動機に加害者が影響を与えて意思表示をさせているので、動機の錯誤に類似しており、第三者が詐欺を行った相手方に対する取消が、民法96条2項により、「相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、」と限定されていたり、民法96条3項により、「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と善意・無過失の第三者に取消を主張できないとされているのは、錯誤と同様に取引の安全を図るためです。

詐欺と強迫により、取消ができる要件は次のとおりです。

詐欺
 ① 虚偽の事実が告げられていること
 ② 錯誤に陥って意思表示をしたこと
 ③ ①によって②がなされたという因果関係があること
 ④ だます側にだまそうとする故意があったこと

強迫
 ① 畏怖させる行為があったこと
 ② 畏怖して意思表示をしたこと
 ③ ①によって②がなされたという因果関係があること
 ④ 強迫する側に強迫する故意があったこと

労働の分野で詐欺が論点になったのは、錯誤のところで取上げた昭和電線電纜事件(横浜地川崎支判平成16.5.28労判878号40頁)です。判決は錯誤による無効となりましたが、原告は、錯誤による無効とともに詐欺による取消も求めていました。②錯誤による意思表示という詐欺の要件は、錯誤と重複しています。そのため、錯誤を理由とする取消と詐欺を理由とする取消は、両方主張されることが多いのです。退職勧奨で、解雇されると誤認して退職の意思表示をした場合、勧奨者が伝えた内容が虚偽であったことや勧奨者に誤認させる故意があったことの立証が難しく、詐欺ではなく錯誤による取消のみを求めることはあっても、詐欺だけを理由として取消を求めることはあまりありません。

一方、労働の分野で強迫が論点になった事例として、ニシムラ事件(大阪地判昭61.10.17労働判例486号83頁)があります。
事務所経費で会社の許可していないおやつなどを購入して飲食したことが横領罪にあたるので退職しなければ懲戒解雇や告訴も考えている、といわれた女子従業員が退職届を提出した事例ですが、「懲戒権の行使や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる強迫行為というべきであり、これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得る。」として、取消が認められました。

また、石見交通事件(広島高裁松江支部昭48.10.26高裁民集26巻4号431頁)は、バス会社にガイド見習として試用されていた女子従業員が同社の運転手と情交関係があったところから上司のすすめに応じて退職願を提出したのちに、それが使用者の強迫に基づくものであるとしてその効力を争った事例でも、「所定の懲戒解雇事由に該当する事実がないのにA所長らが、明らかに懲戒解雇に付すべき不当な行状があるとして退職願を提出するよう要求したことは、✕が見習者であったことを考慮にいれても、違法な強迫行為に当るものというべき」として、取消が認められています。

非違行為があった場合に、懲戒解雇事由に該当しないのに懲戒解雇する旨や刑事告訴をする旨を告げて、退職を促すことは、退職の意思表示がなされても、強迫により取消される可能性があります。

2020(令和4)年4月1日より、くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準等が改正

2020(令和4)年4月1日より、くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準等が改正。新しい認定制度もスタート

次世代育成支援対策推進法は、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境を整備するために定められた法律です。この法律において、常時雇用する労働者が101人以上の企業は、労働者の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」の策定・届出、外部への公表、労働者への周知を行うことが義務とされています(100人以下の企業は努力義務)。
また、策定した「一般事業主行動計画」に定めた目標を達成したなどの一定の基準を満たした企業は、申請することにより、厚生労働大臣の認定・特例認定を受けることができます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/pamphlet/26_00001.html


令和4年4月1日から認定制度が改正されます。改正のポイントは以下のとおりです。

ポイント1

○くるみんの認定基準とマークが改正されます(まだ、決定されていないようです)

①男性の育児休業等の取得に関する基準が改正されます。
男性の育児休業等取得率
現行:7%以上 → 令和4年4月1日以降:10%以上
男性の育児休業等・育児目的休暇取得率
現行:15%以上→令和4年4月1日以降:20%以上

②認定基準に、男女の育児休業等取得率等を厚生労働省のウェブサイト「両立支援のひろば」(https://ryouritsu.mhlw.go.jp/)で公表すること、が新たに加わります。

くるみん認定、プラチナくるみん認定認定に関する経過措置
①令和4年4月1日から令和6年3月31日の間の認定申請は、現行の男性の育児休業等の取得に関する基準の水準でも基準を満たします。なお、この場合に付与されるマークは現行マークとなります。
②令和4年3月31日以前は改正前の基準を前提に取り組んでいるため、男性の育児休業等の取得に関する基準の算出にあたって、令和4年4月1日以降から計画期間の終期までを「計画期間」とみなし算出することも可能とします。

ポイント2

○プラチナくるみんの特例認定基準が改正されます。

①男性の育児休業等の取得に関する基準が改正されます。

男性の育児休業等取得率
現行:13%以上→令和4年4月1日以降:30%以上

男性の育児休業等・育児目的休暇取得率
現行:30%以上→令和4年4月1日以降:50%以上

②女性の継続就業に関する基準が改正されます。
出産した女性労働者及び出産予定だったが退職した女性労働者のうち、子の1歳時点在職者割合
現行:55%%→令和4年4月1日以降:70%

特例認定に関する経過措置
①令和4年4月1日から令和6年3月31日の間の認定申請は、現行の男性の育児休業等の取得に関する基準や女性の継続就業に関する基準の水準でも基準を満たします。
②令和4年3月31日以前は改正前の基準を前提に取り組んでいるため、男性の育児休業等の取得に関する基準や女性の継続就業に関する基準の算出にあたって、令和4年4月1日以降から計画期間の終期までを「計画期間」とみなし算出することも可能とします。

特例認定の取消に関する経過措置
プラチナくるみんは認定取得後、「両立支援のひろば」にて公表した「次世代育成支援対策の実施状況」が同じ項目で2年連続で基準を満たさなかった場合に取消の対象となりますが、今回の認定基準の改正に伴い、公表前事業年度が令和4年4月1日から令和5年3月31日までを含む場合は、新基準を満たしていなくても現行の基準を満たしていれば取消の対象とはなりません。
経過措置の詳細は厚生労働省ホームページをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11367.html

ポイント3

○新たな認定制度「トライくるみん」が創設されます。※認定マークはまだ決定されていないようです。
認定基準は、現行のくるみんと同じです。
※トライくるみん認定を受けていれば、くるみん認定を受けていなくても直接プラチナくるみん認定を申請できます。

ポイント4

○新たに不妊治療と仕事との両立に関する認定制度が創設されます。

くるみん、プラチナくるみん、トライくるみんの一類型として、不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む企業の認定制度が創設さ れます。※愛称、認定マークについては、まだ決定されていません。
1.受けようとするくるみんの種類に応じた認定基準を満たしていること。
※例えば、不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む企業としてトライくるみん認定を受けようとする場合、 トライくるみん認定基準の1~10を満たす必要があります。

2.次の(1)~(4)をいずれも満たしていること。
(1) 次の①及び②の制度を設けていること。
不妊治療のための休暇制度(多様な目的で利用することができる休暇制度や利用目的を限定しない休暇制度を含み、年次有給休暇は含 まない。)
不妊治療のために利用することができる、半日単位・時間単位の年次有給休暇、所定外労働の制限、時差出勤、フレックスタイム制、 短時間勤務、テレワークのうちいずれかの制度
(2) 不妊治療と仕事との両立に関する方針を示し、講じている措置の内容とともに社内に周知していること。
(3) 不妊治療と仕事との両立に関する研修その他の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取組を実施していること。
(4) 不妊治療を受ける労働者からの不妊治療と仕事との両立に関する相談に応じる担当者を選任し、社内に周知していること。
不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む企業としてプラチナくるみん認定を受けた企業は、毎年少なくとも1回、2(1)① の不妊治療のための休暇制度の内容、2(1)②の制度のうち講じているものの内容、2(3)の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理 解を促進するための取組の内容の公表日の前事業年度における状況についても、「両立支援のひろば」にて公表を行う必要があります。

現行くるみん、トライくるみん、新くるみん認定基準

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公共調達における加点評価

○各府省等が総合評価落札方式または企画競争による調達によって公共調達を実施する場合は、くるみん認定企業・プラチナくるみん認定企業な どを加点評価するよう国の指針において定められています。それに基づき各府省等は、公共調達において、ワーク・ライフ・バランス等を推進す る企業を積極的に評価し、これらの企業の受注機会の増大を図る観点から、総合評価落札方式または企画競争による調達を行うときは、ワーク・ライフ・バランス等推進企業を評価する項目を設定することとしています。
○個別の調達案件における加点評価については、各調達案件の担当にお問い合わせください

中小企業子ども・子育て支援環境整備助成事業

○中小企業における子育て支援環境を整備する観点から、「くるみん認定」「プラチナくるみん認定」を受けた中小企業(常時雇用する労働者が 300人以下)に対し、上限50万円の助成金を支給する「中小企業子ども・子育て支援環境整備助成事業」を実施しています(令和3年10 月から令和9年3月まで)。
○事業の詳細については、以下の URL をご覧いただくか、一般財団法人性労働協会へお問い合わせください。
くるみん助成ポータルサイト https://kuruminjosei.jp/

働き方改革推進支援資金

○「次世代育成支援対策推進法」に基づき、一般事業主行動計画の届出義務のない企業(常時雇用する労働者が100人以下)や、上記のうち、 くるみん認定企業が、一定の要件を満たした場合に、株式会社日本政策金融公庫(中小企業事業・国民生活事業)が実施する「働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)」を利用する場合、基準利率から引き下げを受けることができます。
働き方改革推進支援資金の詳細については、以下の URL をご覧いただくか、日本政策金融公庫へお問い合わせください。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/hatarakikata_m.html

令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A(令和3年 11 月 30 時点)

令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A(令和3年 11 月 30 時点

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000860549.pdf

1.全体

(改正内容について)

Q1-1:今回の改正の主な内容と施行日を教えてください。

A1-1:今回の改正は、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、
① 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(出生時育児休業。(通称:産後パパ育休))
育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け
育児休業の分割取得
育児休業の取得の状況の公表の義務付け
⑤ 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
等の措置を講ずるものです。
内容に応じて3段階の施行となり、
②、⑤は令和4年4月1日から、
①、③は令和4年 10 月1日から、
④は令和5年4月1日から
施行されます。
内容等について詳細は、厚生労働省のホームページに掲載されているリーフレット等をご参照ください。

派遣労働者・出向者への法令の適用ついて)

Q1-2:今回の改正で、派遣元・派遣先がそれぞれ行わなければならないことは何ですか。

A1-2:派遣元は育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「法」といいます。)で事業主として課せられた義務のすべてを行う必要があります。
派遣元と派遣先の双方に課せられた義務としては、
・ 妊娠又は出産したこと等の申し出を理由とした、解雇その他不利益取扱いの禁止 (法第 21 条第2項)、
・ 職場における育児休業等に関するハラスメントに関する相談等を理由とした解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第 25 第2項)
があります。
(令和4年4月1日から施行。労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第 47 条の3。)

Q1-3:出向者については、個別周知・雇用環境整備の措置は、出向元・出向先どちらの事業主が行うべきですか。

A1-3:育児休業に関する雇用管理を行っている事業主が行うべきものです。なお、育児休業の取得についての解釈としては、出向元との間に労働契約関係が存在しない、いわゆ る移籍出向者については、出向先の事業主が該当し、いわゆる在籍出向者については、 賃金の支払、労働時間管理等が出向先と出向元でどのように分担されているかによって、それぞれケースごとに判断されるべきものとしています。

2.妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置(改正内容について)

Q2-1:個別の周知と意向確認の措置として、事業主は、どのような内容をどう実施すればよいですか。

A2-1:労働者から、本人又は配偶者が妊娠又は出産した旨等の申出があった場合に、当該労働者に対して、育児休業制度等(令和4年10月1日からは、出生時育児休業も含みます。)について周知するとともに、制度の取得意向を確認するための措置を実施する必要があります。※取得を控えさせるような形での個別周知と意向確認は認められません。
周知事項は、
育児休業・出生時育児休業に関する制度
育児休業・出生時育児休業の申し出先
育児休業給付に関すること
④ 労働者が育児休業・出生時育児休業期間について負担すべき社会保険料の取り扱い
であり、これらの個別周知及び意向確認の措置は、
① 面談
② 書面交付(郵送によることも可能)
③ FAX
④ 電子メール等
のいずれかによって行う必要があります(③・④は労働者が希望した場合のみ)。
なお、個別周知・意向確認の措置に活用できる資料素材を、厚生労働省ホームページの以下のページに掲載しております。
www.mhlw.go.jp 「個別周知・意向確認書記載例」をご参照ください。

(個別周知・意向確認を行わなければならない対象労働者について)

Q2-2:子どもが産まれるすべての労働者に個別の周知・意向の確認の措置を実施する必要がありますか。

A2-2:本人又は配偶者が妊娠又は出産した旨等の申出があった場合に、これらの措置を実施する必要があるものです。

Q2-3:妊娠・出産報告の時に、「育休を取得するつもりはない」「制度周知は不要」と言っていた労働者にも個別周知及び意向確認を行わなければならないのですか。

A2-3:法第21条は事業主に対して、育児休業に関する制度等の周知及び意向確認の措置を講ずることを義務づけているものですので、労働者が周知や意向確認の措置が不要である旨の意思表示をしていた場合であっても、事業主は、当該労働者に対し措置を講ずることが求められます。
周知の方法や意向確認の措置は、FAXや電子メール等を労働者が希望しない限り面談又は書面の交付(労働者が希望した場合にはFAX、電子メール等による方法でも可能)で行うこととなります。(仮に当該労働者が周知及び意向確認を不要とする旨の意思表示をしている場合には、面談を行わず書面の交付(郵送によることも可能)で行うことも対応の一例としてが考えられます。)

Q2-4:個別周知について、次のような場合は、申出時に周知・意向確認措置義務が課されるのですか。それとも取得可能になった時に周知・意向確認措置義務が課されるのですか。

①労働者から妊娠の申出があったが、労使協定で除外している入社1年未満の労働者である場合。
②有期契約労働者から妊娠の申出があったが、雇用契約の更新予定がない場合。
③育休取得できないことが明らかな労働者である場合(入社1年以上経つ時は子が1歳を超える等)


A2-4:いずれの場合も妊娠・出産等の申出があった段階で周知・意向確認の措置の義務が発生するものですが、子の年齢が育児休業の対象年齢を既に超えている場合等、今後育児休業を取得する可能性がない場合については、育児休業の制度の対象とはならない旨の説明を行えば足ります。
①②のように当該労働者にとって後に育児休業申出が可能になる可能性があるケースについては、個別周知の措置は通常どおり行う必要がありますが、意向確認の措置については、その時点では当該労働者は育児休業申出が可能でないことから、措置を実施する必要はありません。

Q2-5:出生時育児休業は令和4年10月から施行されますが、それ以前に妊娠・出産等の申出があり、出産予定日が令和4年10月以降の場合は、個別周知の際に、出生時育児休業についても周知する必要がありますか。

A2-5:出生時育児休業については、令和4年10月以降に労働者から妊娠・出産等の申出が行われた場合に周知しなければならないものです。ただし、妊娠・出産等の申出が令和4年10月より前に行われた場合でも、子の出生が令和4年10月以降に見込まれるような場合には、出生時育児休業制度も含めて周知することが望ましいです。

Q2-6:個別周知・意向確認の措置は、令和4年4月1日以降に妊娠・出産等の申出があった労働者に対して行えばよいですか。

A2-6:そのとおりです。

(妊娠・出産等の申出について)

Q2-7:妊娠・出産等の申出は口頭でよいですか。

A2-7:法令では、申出方法を書面等に限定していないため、事業主において特段の定めがない場合は口頭でも可能です。(※) 事業主が申出方法を指定する場合は、申出方法をあらかじめ明らかにしてください。 仮に、申出方法を指定する場合、その方法については、申出を行う労働者にとって過重な負担を求めることにならないよう配慮しつつ、適切に定めることが求められますので、例えば、労働者が当該措置の適用を受けることを抑制するような手続を定めることは、認められません。
また、仮に、その場合に指定された方法によらない申出があった場合でも、必要な内容が伝わるものである限り、措置を実施する必要があります。
(※)口頭による申出の場合でも措置を実施する必要がありますので、円滑な措置の実施のために、例えば、あらかじめ社内で申出先等を決めておき、その周知を行っておくことが望ましいです。

Q2-8:妊娠・出産等の申出があった際に、母子健康手帳等の証明書を提出させてよいですか。

A2-8:労働者から妊娠等の申出があった際に、事業主が当該労働者に対して、労働者又はその配偶者が妊娠、出産したこと等の事実を証明する書類(母子健康手帳等)の提示や、その写しの提出を求めることについては、法令上の規定はありませんが、事業主が労働者に対して提出を依頼し、本人が任意で提出することは可能です。
ただし、仮にその提出を当該労働者が拒んだ場合であっても、当然、当該事実の申出自体の効力には影響はありません。

(個別周知・意向確認の実施について)

Q2-9:個別周知と意向確認は、人事部から行わなければならないのですか。所属長や直属の上司から行わせることとしてもよいですか。

A2-9:現行の育児休業に関する規定と同じく、「事業主」として行う手続きは、事業主又はその委任を受けてその権限を行使する者と労働者との間で行っていただくものです。

Q2-10:妊娠・出産等の申出をした労働者に対する個別周知・意向確認の措置の方法の一つとして、面談によることが定められていますが、ビデオ通話を用いたオンラインによる面談は可能ですか。

A2-10:面談による方法については、直接対面して行うほか、ビデオ通話が可能な情報通信技術を用いたオンラインによる面談を行うことも可能です。(ただし、対面で行う場合と同程度の質が確保されることが必要であり、音声のみの通話などは面談による方法に含まれません。)なお、このほか、書面交付や、FAX・電子メール等の送信により行うことも可能です。(QA2-1参照。)

Q2-11:個別周知・意向確認の措置について、面談による方法の場合、実施した内容を記録する必要はありますか。

A2-11:記録する義務はありませんが、面談の場合は、その他の書面を交付する方法や電子メールの送信方法等と異なり、記録が残らないため、必要に応じて作成することが望ましいです。

Q2-12:個別周知・意向確認の措置については、取得を控えさせるような形で実施することは認められていませんが、具体的にどういった場合が取得を控えさせるような形に該当しますか。

A2-12:取得を控えさせるような形での措置の実施としては、取得の申出をしないよう威圧する、申し出た場合の不利益をほのめかす、取得の前例がないことをことさらに強調するなどの様態が考えられます。
また、仮に一度取得を控えさせるような言動があった後に、個別の周知、意向確認の措置が改めて行われた場合であっても、既に行われた取得を控えさせるような言動を含め、実施された措置全体として取得を控えさせる効果を持つ場合には、措置を実施したものとは認められません。

(意向確認と育児休業申出について)

Q2-13:意向確認の措置に対して労働者から「育児休業の取得の意向はない」と回答があった場合、その後に労働者から育児休業申出が行われても、拒むことができるのですか。

A2-13:法第21条第1項に基づき事業主が労働者に育児休業の意向確認をした際に、労働者が「育児休業の取得の意向はない」旨を示したとしても、労働者は法に基づき育児休業の申出を行うことができ、事業主は適法な労働者の育児休業申出を拒むことはできません。

3.育児休業を取得しやすい雇用環境整備の措置


(改正の概要・出向者への適用について)

Q3-1:育児休業を取得しやすい雇用環境の整備として、事業主は、具体的にどのようなことをすればよいですか。

A3-1:育児休業と出生時育児休業の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。※複数の措置を講じることが望ましいです。
育児休業・出生時育児休業に関する研修の実施
育児休業・出生時育児休業に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
③ 自社の労働者の育児休業・出生時育児休業取得事例の収集・提供
④ 自社の労働者へ育児休業・出生時育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

Q3-2:出向者については、個別周知・雇用環境整備の措置は、出向元・出向先どちらの事業主が行うべきですか。(Q1-3再掲)

A3-2:育児休業に関する雇用管理を行っている事業主が行うべきものです。なお、育児休業の取得についての解釈としては、出向元との間に労働契約関係が存在しないいわゆる移籍出向者については出向先の事業主が該当し、いわゆる在籍出向者については、賃金の支払、労働時間管理等が出向先と出向元でどのように分担されているかによってそれぞれケースごとに判断されるべきものとしています。

(対象者について)

Q3-3:育児休業を取得しやすい雇用環境の整備は、男性だけ対象に実施すればよいですか。

A3-3:男女問わず対象とする必要があります。

(雇用環境整備の措置の実施について)

Q3-4:法第22条第1項の雇用環境の整備等の措置のうち、第2号の「育児休業に関する相談体制の整備」について、既に育児休業に関する相談窓口がある場合は、新たに整備をすることなく、同号の措置を講じたものとすることはできますか。

A3-4:法第22条第1項第2号の整備に関する要件は次のとおりですので、これを満たす相談体制であれば新たに整備することなく同号の要件を満たすものとなります。具体的には、
・相談体制の窓口の設置や相談対応者を置き、これを周知すること。
・このことは窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいうものであり、労働者に対する窓口の周知等により、労働者が利用しやすい体制を整備しておくことが必要です。

Q3-5:育児期の社員がおらず、また、採用する予定もない場合でも、雇用環境整備をする必要はありますか。

A3-5:育児休業の申出対象となる子には、養子縁組等も含まれていることから、特定の年齢に限らず幅広い年齢の労働者が育児休業申出を行う可能性があります。また、雇用環境の整備の措置を求めている法第22条では、義務の対象となる事業主を限定していないことから、全ての事業主が雇用環境の整備をしていただく必要があります。

4.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

(改正内容について)

Q4-1:有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件はどう緩和されるのですか。

A4-1:現行法では、育児休業・介護休業ともに、有期雇用労働者の取得要件として「引き続き雇用された期間が1年以上」が定められていますが、今回の改正で、この点は要件としては廃止されます。これに伴い、無期雇用労働者と同じく、引き続き雇用された期間が1年未満の場合は、労使協定において、対象から除外可能という形になります。
なお、今回の改正後も、有期雇用労働者について以下の要件は残ります。
育児休業:子が1歳6か月に達する日までに、労働契約が満了することが明らかでないこと
・介護休業:介護休業開始予定日から93日経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了することが明らかでないこと

Q4-2:有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件について、今回の改正後も残る要件の(育児休業であれば「子が1歳6か月に達する日までに」)「労働契約が満了することが明らかではない」とは、具体的にどのようなことですか。

A4-2:休業の申出があった時点で労働契約の更新がないことが確実であるか否かによって判断されます。事業主が「更新しない」旨の明示をしていない場合については、原則として、「更新しない」とは判断されず、「労働契約が満了することが明らか」には当たらないこととなります。


(改正法施行前後の労使協定の取扱いについて)

Q4-3:今回の改正で、引き続き雇用された期間が1年未満の有期雇用労働者について、法律上対象外から労使協定除外の対象に変更になりますが、既に締結している労使協定において、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者について有期雇用・無期雇用を問わない形で除外していた場合、労使協定を締結し直さなくとも、改正法の施行後は有期雇用・無期雇用問わず当該労使協定により除外されると解して良いですか。

A4-3:改正前の法第5条第1項ただし書では、引き続き雇用されていた期間が1年未満の有期雇用労働者には育児休業申出の権利が付与されていなかったところ、今回の改正法により、引き続き雇用されていた期間が1年未満の有期雇用労働者についても、育児休業申出の権利が付与されました。
このため、改正法の施行後において、有期雇用労働者も含めて、引き続き雇用されていた期間が1年未満の労働者について、法第6条第1項ただし書に基づき当該申出を拒む場合は、そのことについて、改めて労使協定を締結していただく必要があります。

5.出生時育児休業について

(改正の概要)

Q5-1:出生時育児休業の基本的な内容を教えてください。

A5-1:出生時育児休業は、子の出生後8週以内に4週間まで取得することができる柔軟な育児休業の枠組みです。現行の育児休業と比べて、
① 申出期限が原則休業の2週間前まで
② 新制度の中で分割して2回取得することが可能
③ 労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主が合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することが可能
という特徴があります。

Q5-2:法改正後は、子の出生後8週以内は4週間までしか休業を取得できなくなるのですか。

A5-2:違います。現行の育児休業は改正後も取得可能です。改正後は、現行の育児休業に加えて、出生時育児休業が創設されるものです。子の出生後8週以内の期間は、労働者の選択により、新制度と通常の育休のいずれも取得可能となります。


(対象者について)

Q5-3:出生時育児休業は、男性だけが取得可能ですか。

A5-2:出生時育児休業の対象期間である子の出生後8週以内は出産した女性は通常産後休業期間中になるため、この新制度の対象は主に男性になりますが、女性も養子の場合などは対象となります。


(出生時育児休業制度に関する改正法の施行前後の取扱いについて)

Q5-4:現行のいわゆる「パパ休暇」(子の出生後8週間以内に父親が育休取得した場合には再度取得可)はどうなりますか。

A5-4:現行のいわゆる「パパ休暇」は、今回の改正に伴いなくなり、出生時育児休業と、育児休業の分割取得化に見直されることとなります。

Q5-5:令和4年10月1日から出生時育児休業を取得したい場合、2週間前に申し出ればよいのですか。

A5-5:改正法のうち、出生時育児休業制度に係る規定は令和4年10月1日から施行されますので、法令上、労働者は令和4年10月1日より前に、事業主に対して出生時育児休業の申出をすることはできません。(※)
なお、事業主が、法を上回る措置として、令和4年10月1日以降の日から開始する出生時育児休業の申出を令和4年10月1日より前に受け、同年10月1日以降、出生時育児休業を取得させることは差し支えません。
(※)労働者は事業主に対して、令和4年10月1日に、その当日を出生時育児休業の開始予定日とする出生時育児休業申出をすることは可能ですが、事業主は、申出があった日の翌日から起算して2週間を経過する日まで(10月1日~10月15日)のいずれかの日を出生時育児休業の開始予定日として指定することができますので、労働者は必ずしも10月1日から出生時育児休業を取得できるとは限りません。

Q5-6:令和4年10月1日より前に育児休業を取得していた場合、施行日後に出生時育児休業を取得することはできるのでしょうか、また、その後育児休業は何回取得可能ですか。 例えば、令和4年9月1日に生まれた子について、同年9月5日から9月14日まで10日間育児休業(子の出生後8週以内の休業なのでパパ休暇に該当)を取得していた場合はどうですか(例①)。

また、例えば令和4年9月1日に、出産予定日である同年10月1日から11月25日まで育児休業の取得を申し出ていた場合は、施行日である同年10月1日以降の育児休業はどうなるのですか(例②)。

A5-6:令和4年10月1日前に開始したパパ休暇については、改正後の法第5条第2項(育児休業の取得可能回数)及び第9条の2第2項(出生時育児休業の取得可能回数・日数等)の規定の適用にあたっては出生時育児休業とみなされます(改正法附則第4条参照)。
このため、例①については、施行日(令和4年10月1日)後については、出生時育児休業を1回・18日の範囲内(出生時育児休業は2回・28日まで取得できるものであるところ、既に取得したのが1回分・10日分であるため)で取得することができ、また、その後育児休業については2回まで分割取得できることとなります。
令和4年10月1日以降に開始した育児休業については経過措置は適用されず、例②については、申出時点で育児休業の申出であったことから、その後変更がなければ令和4年10月1日から同年11月25日までの育児休業(1回目)の取得となりますが、労使で話し合いの上、出生時育児休業4週分、育児休業4週分(どの休業を・いつから・いつまでを明確にすること)と取り扱うことは差し支えありません。
改正法の施行前でも令和4年10月1日以降の期間を含む育児休業申出がなされた場合は、労使双方でいずれの休業であるか、十分に確認し、双方で認識の誤りのないようにしてください。

その他の出生時育児休業等の施行前後に係る事例とその取扱いは以下のとおりです。
(参考)育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律(令和3年法律第58号)(抄)
附則(育児休業に関する経過措置)
第四条附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日(附則第七条において「第三号施行日」という。)前の日に開始した育児休業(当該育児休業に係る子の出生の日から起算して八週間を経過する日の翌日まで(出産予定日前に当該子が出生した場合にあっては当該出生の日から当該出産予定日から起算して八週間を経過する日の翌日までとし、出産予定日後に当該子が出生した場合にあっては当該出産予定日から当該出生の日から起算して八週間を経過する日の翌日までとする。)の期間内に、労働者が当該子を養育するためにする最初の育児休業に限る。)は、第二条の規定による改正後の育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第五条第二項及び第九条の二第二項の規定の適用については、同条第一項の規定による申出によりした同項に規定する出生時育児休業とみなす。
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(出生時育児休業申出・期間について)

Q5-7:産後7週~10週の休業申出があった。産後7~8週は自動的に出生時育児休業になるのか。または、8週のうち4週までの育児休業は全て出生時育児休業として取り扱うよう労使で取り決めてよいですか。

A5-7:育児休業申出と出生時育児休業申出はそれぞれ別の権利として労働者に付与されているものですので、「産後○週間以内の期間についての休業の申出は出生時育児休業の申出とする」といった自動的・一律の取扱いはできません。また、労使協定等でそのような取扱いとすることを事前に取り決めることもできません。
仮に、労働者から、育児休業申出又は出生時育児休業申出のどちらか不明な申出が行われた場合には、事業主はいずれの申出に対しても、その申出をした労働者にどの申出であるかを確認してください。

Q5-8:

①既に社内に、配偶者の出産時や育児のために、年5日、子が生まれてから小学校を卒業する年度末まで利用できる育児目的休暇がある場合、出生時育児休業については、28日から5日間を引いたうえで、23日間取得できる制度としてよいですか。
②既に社内に、子が生まれる前に5日間休暇を取得できる育児目的休暇制度がある場合、出生時育児休業については、28日から5日間を引いたうえで、23日間取得できる制度としてよいですか。
③①の場合、年次有給休暇の付与に係る出勤率算定に当たって、出勤したものとみなすのは、出生時育休として申出された23日以内となるのですか。

A5-8:
①育児のための休暇であり、その内容が法で定める出生時育児休業の要件(申出期限原則2週間前、2回に分割可能、事業主の時季変更権なし等)を満たすものであれば差し支えありません。
②法で定める出生時育児休業の要件を満たすことが必要であり、法第9条の2では、「子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間内に4週間以内の期間を定めてする休業」とされていることから、当該育児目的休暇の5日間は、法で定める出生時育児休業の要件を満たしていません。
③社内の名称如何に関わらず、事業主は法第9条の2に基づく労働者の申出があった場合は、28日以内の出生時育児休業を取得させなければならず、従前から育児目的休暇として設けられていた5日の部分についても、育児・介護休業法上は、出生時育児休業の扱いとなることから、年次有給休暇の付与に係る出勤率算定に当たっては、出勤したとみなされます。

(参考)労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
第39条
⑩労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。

Q5-10:出生時育児休業を2回に分割して取得する場合は、その都度申し出ればよいですか。

A5-10:出生時育児休業を2回に分割して取得する場合は、初回の出生時育児休業の申出の際にまとめて申し出ることが原則であり、まとめて申し出ない場合(1回目の出生時育児休業の申出をした後日に2回目の申出をする場合)には、事業主は2回目以降の出生時育児休業に係る申出を拒むことができます。なお、事業主はこれを拒まないことも可能ですので、この場合は法第9条の2に規定する法定の出生時育児休業を取得することとなります。


(出生時育児休業中の給付金について)

Q5-11:出生時育児休業は、育児休業給付の対象になりますか。

A5-11:なります。(出生時育児休業給付金)

6.出生時育児休業期間における休業中の就業


(改正の概要・派遣労働者への適用について)

Q6-1:休業中の就業は、労働者が希望すればいつでもできるのですか。

A6-1:休業中の就業は、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主の合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することを可能とするものです。具体的な手続きの流れは以下①~④のとおりです。
① 労働者が就業してもよい場合は、事業主にその条件を申し出
② 事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示(候補日等がない(就業させることを希望しない)場合はその旨)
③ 労働者が同意
④ 事業主が通知
なお、就業可能日等には上限があります。
・休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
・休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数 未満
例)所定労働時間が1日8時間、1週間の所定労働日が5日の労働者が、休業2週間・休業期間中の所定労働日10日・休業期間中の所定労働時間80時間の場合 ⇒就業日数上限5日、就業時間上限40時間、休業開始・終了予定日の就業は8時間未満
(注)以上とは別に、出生時育児休業給付金の対象となるのは、出生時育児休業期間中の就業日数が一定の水準(※)以内である場合です。
※出生時育児休業を28日間(最大取得日数)取得する場合は、10日(10日を超える場合は80時間)。これより短い場合は、それに比例した日数または時間数。(例:14日間の出生時育児休業の場合は、5日(5日を超える場合は40時間))

Q6-2:派遣労働者が出生時育児休業中に就業する場合、就業可能日の申出・変更・撤回、就業日の提示は派遣先と派遣労働者で直接行ってよいのですか。

A6-2:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第2条第2号の派遣労働者については、派遣元と派遣労働者との間に労働契約関係があることから、派遣労働者は派遣元の事業主に対して出生時育児休業中の就業可能日の申出等を行うこととなります。

(出生時育児休業中の就業申出について)

Q6-3:出生時育児休業中に就業する場合、契約上の勤務時間以外の時間を労働者が申し出てもよいのですか。(勤務時間外の夜間の2時間でテレワークであれば勤務可能など。)

A6-3:出生時育児休業期間中の就業可能な時間帯等の申出は、所定労働時間内の時間帯に限って行うことができますので、所定労働時間外の時間帯について、労働者は就業の申出を行うことはできません。

6.出生時育児休業期間における休業中の就業


(改正の概要・派遣労働者への適用について)

Q6-1:休業中の就業は、労働者が希望すればいつでもできるのですか。

A6-1:休業中の就業は、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主の合意した範囲内で、事前に調整した上で休業中に就業することを可能とするものです。具体的な手続きの流れは以下①~④のとおりです。
① 労働者が就業してもよい場合は、事業主にその条件を申し出
② 事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示(候補日等がない(就業させることを希望しない)場合はその旨)
③ 労働者が同意
④ 事業主が通知
なお、就業可能日等には上限があります。

Q6-4:出生時育児休業中の就業について、労働者から就業可能日等の申出があり、事業主がその範囲内で日時を提示した後に労働者から就業可能日の変更の申出があった場合はどのように対応すればよいですか。

A6-4:出生時育児休業の開始予定日の前日までに労働者から変更の申出があった場合には、事業主は、労働者から再度申出がされた変更後の就業可能日等について、再度就業可能日等のうち、就業させることを希望する日(希望する日がない場合はその旨)及びその時間帯その他の労働条件等を労働者に提示(規則第21条の15第4項)し、労働者の同意を得る必要があります。

Q6-5:休業中の就業について、就業可能日等の申出の際に労働者は従事する業務内容についても申し出ることはできますか。その場合、事業主が労働者を就業させることができるのは、労働者が申し出た業務内容の範囲に限られますか。

A6-5:労働者からの申出可能な内容は「就業可能日」「就業可能日における就業可能な時間帯その他の労働条件」であり、業務内容が「労働条件」の範囲内であれば(例えば、テレワークで実施できる集計業務に限って就業可能と申し出る、等)、労働者から申し出ることができ、事業主は労働者の申出の範囲内で就業させることができることとなります。

Q6-6:派遣元とその事業所の過半数労働組合等との労使協定において出生時育児休業中の就業が可能とされた派遣労働者から申出があった就業可能日について、当該派遣労働者を(派遣元の事業所ではなく)派遣先において就業させる場合、当該派遣労働者が、派遣先とその事業所の過半数労働組合等との労使協定において定められた「出生時育児休業期間中に就業させることができるもの」にも該当している必要があるのですか。

A6-6:派遣元とその事業所の過半数労働組合等との労使協定において定められた「出生時育児休業期間中に就業させることができるもの」に該当していれば足ります。

Q6-7:出生時育児休業開始後、出生時育児休業中の就業日に撤回事由に該当しない事由で休む場合に、年次有給休暇を取得することは可能ですか。また、出生時育児休業開始後に予定していた業務がなくなったため事業主側から就業日を撤回することは可能ですか。

A6-7:出生時育児休業期間中の就業日は労働日であるため、年次有給休暇を取得することは可能です。また、出生時育児休業期間開始後に事業主から当該就業日について撤回をすることはできません。

Q6-8:出生時育児休業中に就業させることができる者について労使協定で定める際、「休業開始日の○週間前までに就業可能日を申し出た労働者に限る」といった形で対象労働者の範囲を規定することは可能ですか。

A6-8:ご指摘のような形で対象労働者の範囲を定めることは可能です。

7.育児休業の分割取得等

Q7-1:育児休業について2回まで分割取得が可能になるとのことですが、出生時育児休業とあわせた場合、1歳までの間に4回まで取得可能になるということですか。

A7-1:そのとおりです。

Q7-2:育児休業が分割取得できるようになると、これまでのいわゆる「パパ休暇」はどうなりますか。

A7-2:現行のいわゆる「パパ休暇」は、今回の改正に伴い廃止され、出生時育児休業と、育児休業の分割取得化に見直されることとなります。

Q7-3:出生時育児休業については、2回に分割して取得する場合には初めにまとめて申し出なければならないとのことですが、通常の育児休業についても、2回に分割して取得する場合にはまとめて申し出ないといけないのですか。

A7-3:通常の育児休業については、まとめて申し出る必要はありません。

Q7-4:育休及び出生時育休を2回分割する場合、繰上げ・繰下げ変更の回数は何回ですか。

A7-4:育児休業や出生時育児休業について、2回に分割して取得する場合は各申出について、育児休業の開始予定日の繰り上げ(出産予定日前に子が出生した場合等について)を1回、終了予定日の繰り下げ(事由を問わない)を1回ずつすることができます。

8.職場における育児休業等に関するハラスメント

Q8-1:出生時育児休業期間中の就業について、事業主が提示した日時で就業することを労働者に強要することはハラスメントに該当しますか。

A8-1:出生時育児休業期間中の就業については、労使協定の締結を前提に、 ①出生時育児休業申出をした労働者が、事業主に対して、当該出生時育児休業期間において就業することができる日等(就業可能日等)を申し出た場合に、 ②事業主が当該申出に係る就業可能日等の範囲内で日時を提示し、当該労働者の同意を得た場合に限り、
当該日時で労働者を就業させることが可能となるものです。
つまり、あくまで出生時育児休業期間中の就業は、労使協定の締結を前提として、労働者側からの就業可能日等の申出と、それを受けた事業主の提示に対する労働者の同意の範囲内で就業させるものです。
そのため、労働者が休業中の就業可能日等の申出を行わない場合や事業主の提示した日時に同意しない場合に、上司等が解雇その他不利益な取扱いを示唆したり、嫌がらせ等をしたりすることは、職場における育児休業等に関するハラスメントに該当し、また、事業主が提示した日時で就業することを労働者に対して強要した場合には法違反にもなります。

Q8-2:妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別周知・意向確認のための措置の実施に際して、上司等が育児休業制度等の利用を控えさせるような対応をすることはハラスメントに該当しますか。

A8-2:そのとおりです。なお、新たに創設される出産時育児休業制度についても、上司等が当該制度の利用を控えさせるような言動等をすることは、職場における育児休業等に関するハラスメントに該当するため、留意する必要があります。

Q8-3:育児休業制度等を利用していない労働者に対して、育児休業等の取得率の向上等を目的として、当該制度の利用を強要することはハラスメントに当たりますか。

A8-3:育児休業等の取得率の向上等を目的とする場合などに、法の趣旨を踏まえて、上司等から育児休業等を利用していない労働者に積極的に育児休業等の取得を勧めること自体は差し支えありませんが、当該制度の利用を強制するために、上司等が当該労働者に対して人格を否定するような言動をするなどの精神的な攻撃等をした場合には、パワーハラスメントに該当すると考えられます。

9.育児休業の取得の状況の公表の義務付け(従業員1000人超の企業が対象)

Q9-1:育児休業の取得の状況の公表は、どのように行うのですか。

A9-1:育児休業の取得の状況の公表(法第22条の2)は、インターネットの利用その他の適切な方法により行うこととされています。(育児・介護休業法施行規則第71条の3)

Q9-2:育児休業の取得の状況の公表は、どのような内容を公表することが必要ですか。

A9-2:①又は②のいずれかの割合を公表する必要があります。(育児・介護休業法施行規則第71条の4)
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※1公表前事業年度:公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度
※2育児休業等:育児休業及び法第23条第2項又は第24条第1項の規定に基づく措置として育児休業に関する制度に準ずる措置が講じられた場合の当該措置によりする休業。

【懲戒解雇】社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地判令3.5.21労経速2459号26頁)

社会福祉法人ファミーユ高知事件(高知地判令3.5.21労経速2459号26頁)

1.事件の概要

Y社は、リハビリセンターであるQ1(以下「本センター」という。)を運営する社会福祉法人である。Y1は、Y社及び同法人を含むZグループの社会福祉法人Q2の理事長であり、Y2は、Q2の設置運営するQ4病院の院長であり、Y1の娘である。✕は、平成20年4月1日にY社に採用され、それ以降本件センターのセンター長の地位にあった者である。
本件センターには、平成29年11月1日当時76名が勤務していたが、同30年3月から4月までの短期間に11名が退職した(以下「本件大量退職」という。)。
同年4月23日、本件センター職員を自称する者から、本件大量退職の原因が✕にある等の内容の匿名の投書(以下「本件投書」という。)があったことから、Y1は、Y2を中心として、ヒアリング等の内部調査を行わせた。かかる調査の結果を踏まえ、同年5月24日、Y1は、✕が施設管理者として不適任であると判断し、✕に対し、配置転換や自主退職を提案したが、✕はこれを断った。
そこで、Y1は、同年5月28日のY社の理事会において✕の解任議案を提案したが、同理事会において第三者委員会の意見が必要である等の意見が出されたことから、弁護士など3名による第三者委員会を設置し(以下「本件第三者委員会」という。)、同委員会において、✕によるパワーハラスメントの有無等について調査が行われた。
その結果、同委員会から、平成30年8月31日付け調査報告(以下「本件調査報告書」という。)が提出された。同報告書は、✕には複数のY社職員に対するパワーハラスメント行為が存在し、また、本件センターの管理者として組織の問題把握能力及び改善能力が不足していると考えられることから、施設管理者としての適性には相当問題があると結論付けた。
本件調査報告書の結果を踏まえ、平成30年9月25日、Y社は、✕に対し、✕が行ったパワーハラスメント行為を理由として懲戒解雇の意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という。)。
✕は、本件懲戒解雇が違法なものであるとして、Y社に対して、地位確認及び解雇日以降の未払賃金等の支払い等を求めて提訴したのが本件である。

なお、Y社の就業規則には、次のような規定があった。

ア 13条(遵守事項)職員は、次の事項を守らなければならない。
①ないし④ 省略
⑤ Y社の名誉又は信用を傷つける行為をしないこと
⑥ないし⑧ 省略

イ 40条(懲戒の種類)Y社は、職員が次条のいずれかに該当する場合は、その事由に応じ次の区分により懲戒を行う。
①ないし③ 省略
④ 懲戒解雇 即時に解雇する

ウ 41条(懲戒事由)
1項 省略
2項 職員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇する。ただし、情状により減給又は出勤停止とすることがある。
①ないし③ 省略
④ 故意又や重大な過失によりY社に重大な損害を与えたとき
⑤ 素行不良で著しくY社内の秩序又は風紀を乱したとき
⑥ 省略
⑦ 13条に違反する重大な行為があったとき
⑧ その他この規則に違反し、又は前各号に準ずる重大な行為があったとき

また、Y社は、平成30年9月25日付け解雇通知書(以下「本件解雇通知書」という。)にて、✕に対し、✕が行ったパワーハラスメント行為が、本件就業規則上の懲戒解雇事由に該当するとして、懲戒解雇するとの意思表示(本件懲戒解雇)をした。本件解雇通知書には、解雇理由として「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」との記載があり、根拠規定として本件就業規則第41条2項④及び⑦、参考として同規則第13条⑤が記載されていた。

2.判決の概要

※他に争点がありましたが、本件懲戒解雇の有効性についてのみ記載します。

(1)懲戒解雇事由の存在
ア 使用者が労働者に対し行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであるため、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないというべきである( 山口観光事件(最高裁判所第一小法廷 平成8年9月26日判決) )。
イ Y社は、本件解雇通知書において、解雇理由として、「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」とし、単にパワーハラスメント行為と記載するのではなく、本件第三者委員会からの報告によるものとの限定を付しており、また、懲戒の根拠規定として、本件就業規則41条2項②、⑦を明示している。この記載を合理的に解釈すれば、Y社は、本件第三者委員会が本件調査報告書上パワーハラスメントに該当すると認定・評価した✕の言動、すなわち本件主張整理表記載の事実のうち、P6(B)、P7(C)、P8(E)及びP9(F)に対する言動並びに本件調査報告書に記載されているKなる人物に対する言動が、本件就業規則41条2項④、⑦に該当すると判断して、本件懲戒解雇を行ったものと認められる。他方、本件第三者委員会が本件調査報告書上パワーハラスメントに該当すると認定しなかった本件主張整理表記載の(中略)言動については、本件懲戒解雇までにY社がその存在を認識していたものであるが、これらの言動については、いずれもY社において懲戒解雇事由に該当する非違行為であると認識していたとしても、当罰性が乏しいと判断して、懲戒解雇事由として記載しなかったものと解するのが相当であって、これらについて、上記特段の事情があるとも認められない。Y社らの主張のうち、上記認定判断に反する部分は採用できない。

ウ 以上を踏まえ、本件第三者委員会がパワーハラスメントとして認定した、本件主張整理表記載の言動のうち、P6(B)、P7(C)、P8(E)及びP9(F)に対して行った言動について、就業規則41条2項④、⑦の該当性を検討する。

(ア)番号2-1について
【Y社らの主張する事実】
P6は、平成22年頃、✕の許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行った。P6が一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨を伝えると、✕は、「なんでそもそも始めたのか」「なぜそんな子にパンの実習をやっているのか」と詰問した。P6が「では、どうしたらいいんですか」と聞くと、「それは自分で考えなさい」と言い、夜勤明けに立位で30分間も責められて、目の前が暗くなり、机に座り込んだ。

平成22年頃、P6が、✕の許可を得て施設利用者のパンの実習を2回行い、一定問題があったもののもう少し実習を続けてあげたい旨✕に伝えたところ、✕が当該施設利用者に対して実習を行うこととした理由等を尋ねたこと、これに対してP6がとるべき対応を聞いたところ、✕が自ら考えるよう告げたことは当事者間に争いがない。

Y社は、Y2がP10同席のものでP6から聞き取ったとする内容が記載された書面にP6が署名をした文書(以下「P6報告書」という。)を提出し、同書面中には、番号2-1に関するY社の主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、P6報告書の番号2-1に関する記載内容には、当該対応があった時期を特定する記載はない一方で会話の内容等は相応に詳細であるところ、聞き取りが行われた平成30年時点で既に8年が経過している事実について詳細な聞き取りが可能であった理由が何ら明らかでなく、また、その記載内容からすれば、当該対応の前提となる事実関係に関する客観的な資料(少なくとも施設利用者に関して本件センターが作成した文書、当該実習に関して作成された決済関係の資料等)が存在するはずであるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。本件調査報告書中の番号2-1に関する記載も、P6報告書同様、客観資料に基づく裏付けがない。そうするとこれらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
そこで、上記のとおり争いのない事実を前提として、当該言動がパワーハラスメントに該当するかを検討する。まず、✕は、職員が入所者の支援に行き詰った時には、原点回帰して思考を整理するための質問を行ったり、自ら考えることを促したりする旨主張し、✕本人はこれに沿う供述をしているところ、本件センターが、障害があっても自分らしい生活を送ることができるよう、適切な支援を提供し、利用者を主体として、自立と自律を柱とする各々の目標に向けた能力獲得のためのトレーニングを実施すること等を理念、特徴としており、施設利用者それぞれの障害や個性に応じたサービスの提供を謳っていることからすれば、✕が主張する上記方針は、本件センターの理念等と整合するといえ、✕がそのような対応をすること自体は通常の業務指示と評価することができる。そして、P6が行った実習は✕の許可を得ていたものではあるものの、一定の問題が生じていたというのであるから、当該問題に対する対応を含め、実習の目的等を確認することや、改善方法等をP6に考えさせることは通常の業務の範疇のやりとりと解される。その他に、✕の言動がP6に対するパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる具体的な経緯や事情の存在は認められない。
したがって、番号2-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。
※Y社が主張に対する客観的な証拠を示せなかったため、✕が主張する内容と一致する範囲内でパワハラに当たるかどうかが判断されます。そのため、Y社の一方的な主張である「詰問した」「夜勤明けに立位で30分間も責められて、目の前が暗くなり、机に座り込んだ。」という部分は判断から除外されます。

(イ)番号2-2について
【Y社らの主張する事実】
P6は、平成23年12月頃、施設の利用者の離設を防ぐため、✕の許可を受けて30分ごとの訪室を実施していたが、それでも離設があった。✕に相談すると、そんなことで所在確認になっていると思うのかと叱責され、事務所にスタッフがいる間は出口のカーテンを開けて見守りをしてはどうかと希望しても「事務所は仕事が終わっているのだから、カーテンを閉めます」と応じなかった。✕を許可を得てやっても、良くない結果となると職員の責任にされるため、どうしたら良いのかという気持ちになる。

平成23年12月頃、施設利用者の離設を防ぐため、✕の許可を受けて30分ごとの訪室を実施していたが、それでも離設があったため、P6が✕に相談したこと、P6が、事務所にスタッフがいる間は出口のカーテンを開けて見守りをする方法を提案したが、✕が「事務所は仕事が終わっているのだから、カーテンを閉めます」と応じなかったことは当事者間に争いがない。
P6報告書及び本件調査報告書には、番号2-2のY社の主張に沿う内容の記載がある。しかしながら、これらの証拠の番号2-2に関する記述には、裏付けとなる客観証拠の不存在等、上記(ア)と同様の問題があるから、その信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社の主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
そこで、上記のとおり争いのない事実を前提として、当該言動がパワーハラスメントに該当するかを検討するに、番号2-2のやりとりは、施設利用者に対する対応に関する通常の業務上の対応といえるものであり、また、P6の提案を✕が採用しなかったことについても、業務遂行の過程において提案内容が採用されないことは日常的に生じる事象であって、本件において上記各対応がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる事情の存在が認められないことからすれば、番号2-2の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。
※✕が管理者として、不適格なことを示す事実ですが、パワハラが問題となるような事実ではないと思います。

(ウ)番号2-3について
【Y社らの主張する事実】
平成24年3月頃、P6が夜勤明けに利用者のことで✕に報告すると「今日中に本人と会って、今後どうするのか報告に来なさい。勤務はしょうがないね。」と言われた。P6が利用者と1時間話をし、その結果を✕に報告すると「なんでまだおるが」と言い、残業扱いをさせなかった。

P6報告書及び本件調査報告書には、番号2-3に関するY社の主張に沿う記載がある。しかしながら、これらの証拠の番号2-3に関する記述には、時期を特定する記載がないこと、P6の勤務状況や当該利用者に関して作成された資料等の客観証拠が存在するはずであるがそれらによる裏付けがされていないことといった上記(ア)と同様の問題があり、その信用性は、限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
したがって、番号2-3の言動が存在するとは認定できず、これがパワーハラスメントに該当するとは認められない。

(エ)番号3-1について
【Y社らの主張する事実】
P7は、平成26年11月15日に早朝出勤する約束をしていたが、体調のため約束を守れなかった。✕は、P7の出勤後、「あなたのせいで関係者を待たせるなんて、考えられない。」等々、P7を午前中いっぱい叱責した。

✕がP7に平成26年11月15日の早出出勤を依頼したが、P7が遅刻をしたこと、このことについて✕がP7を叱責したことは当事者間に争いがない。
Y社は、P14がP7から聞き取り調査を行った結果であるする内容が記載された書面にP14が署名した文書(以下「P14報告書」という。)を提出し、同書面中には、番号3-1に関するY社の主張に沿う内容の記載があり、また、本件調査報告書は、Y社主張の事実が存在した旨が記載されている。しかしながら、P14報告書は、そもそも伝聞内容を記載したものであるから類型的に信用性が高いとはいえない上、その記載内容も時期や状況等の具体的な記載が不足する抽象的なものにとどまっている。また、P14報告書や本件調査報告書には、P7が精神疾患に罹患した旨の記載やP7の勤務状況に関する記載が存在するところ、これらについては、医療記録やP7の勤務に関する資料等の客観的な資料に基づく裏付けが可能であるが、そのような客観資料による裏付けが可能であるが、そのような客観資料による裏付けもされていない。そうすると、これらの証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
そこで、上記のとおり争いのない事実を前提として、当該言動がパワーハラスメントに該当するかを検討するに、遅刻をした職員に対して注意し、再発防止に努めることは、管理職として当然に求められる指導であって、本件において、上記対応がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる事情の存在が認められないことからすれば、番号3-1の言動がパワーハラスメントに該当するとは認められない。

(オ)番号3-2ないし3-4について
【Y社らの主張する事実】
✕は、平成25年12月頃、P7に対し、「どうしてこんな簡単なことができないの。誰でもできる仕事なの、だめな子ね」と人格否定ともいえる叱責を行った。
✕は、平成26年3月頃、P7に対し、「看護学生の方がまだ仕事ができる。あんたは仕事ができなくてだめだから、今年も秘書をしないさい。相談支援部には行かせられない。」と人格否定の言い方をされた。

P14報告書及び本件調査報告書には、番号3-2ないし3-4に関するY社の主張に沿う記載がある。しかしながら、P14報告書及び本件調査報告書の番号3-2ないし3-4に関する記載についても、上記(エ)同様の問題があり、その信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによってY社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。
したがって、番号3-2ないし3-4の各言動が存在するとは認定できず、これがパワーハラスメントに該当するとは認められない。

(カ)番号5について
【Y社らの主張する事実】
P8は、平成28年5月頃、理学療養士の業務に加え、サービス管理責任者、行事・地域ふれあい・食の委員会の委員長に任命されたが、多忙であったため、委員長の辞任を申し出た。しかし、✕は、「時間内でできないの。超勤ありきで考えていない。こんなんだったら、出せるわけないでしょう。」と超勤申請を拒否された。そのため、実際の帰宅時間は、早くて20時、遅い時は日をまたぐこともあったが、超勤申請はできなかった。

a P8が平成28年5月頃、サービス管理責任者、行事・地域ふれあい・食の委員会(以下「行事等委員会」という。)委員長に任命されたこと、P8が委員長職の辞任を申し入れたこと、✕がP8の辞任を認めなかったことは当事者間に争いがなく、証拠及び弁論の全趣旨によれば、P8が、平成28年度の1年間、幹部会での決定に基づき、行政等委員会の委員長を務めたこと、上記辞任申し入れ以外にP8が行事等委員長の委員長の解任を申し入れたことはないこと、事前の調整等を行えば、委員会に関する業務を業務時間内に行うことは可能であったこと、P8が午後5時に行事等委員会を開催するために超過勤務申請をしたところ、なるべく勤務時間内に行うようにといった趣旨の発言をしたこと、Y社では、超過勤務を行う場合には事前申請を行うルールとされていたところ、事前申請をしたにもかかわらず超過勤務が許可されなかったこともあったこと、P8が自らの超過勤務の状況の改善に向けた申し入れ等を使用者側に行ったことはないことの各事実が認められる。
b Y社は、P8の業務が多忙を極めていたにもかかわらず、✕が超過勤務を許可せず、申請をさせなかった旨を主張し、これに沿った内容が記載された書面にP8が署名押印した報告書や、本件第三者委員会の作成した本件調査報告書を提出し、証人P8はこれに沿う証言をする。しかしながら、使用者であるY社には労働者であるP8の労働実態を把握し、勤怠管理を適切に行う責務があるから(労働基準法108条、109条参照)、Y社においてP8の労働実態を示す客観的な資料を提供することが可能であるにもかかわらず、Y社作成の資料はもとより、P8が当時作成した労働実態を推認させる客観証拠する提出していないことからすれば、上記各証拠の信用性は限定的なものと解さざるを得ず、これらの証拠のみによって、上記aの認定を超えて、Y社主張の事実を認定することはできない。そして、記録上、Y社の主張を認めるに足りる適切な証拠はない。そうすると、この点に関するY社の主張は採用できない。
C そこで、上記aの事実を前提として、✕の言動がパワーハラスメントに該当するかを検討すると、まず、P8が行事等委員会の委員長に就任したのは幹部会の決定に基づくものであるから、P8が✕に対して辞任を申し入れたとしても、✕の権限において辞任を認めることはできないものと解され、✕がP8の辞任を認めなかったことは、パワーハラスメントに該当しない。また、Y社においてルールどおり事前申請をしたにもかかわらず超過勤務が認められないかったことがあったことは認められるものの、いかなる事情のもとで不許可とされたものであるかが明らかでないから、不許可とされたことのみをもって直ちにこれがパワーハラスメントに該当すると評価することはできず、P8の超過勤務申請に対する✕の言動は、部下職員に対し安易な超過申請をしないよう注意するものであり、管理職の立場にあった✕が行う必要のある指導といえるし、P8において超過勤務の改善を使用者側に要望したことがないことを考慮すると、その他に✕の上記言動がパワーハラスメントに該当することを認めるに足りる事情の存在が認められない本件においては、P8の超過勤務申請に対する✕の言動をパワーハラスメントと認めることはできない。

(キ)番号6について
平成29年8月頃、新人職員研修が終わり、相談員スタッフがセンター長室で、朝のミーティングを行った際、P9がまだ決まった業務がなかったため、「自分の本日の予定がないから、上司に確認し、仕事を見つけてそこに行く」と発言したところ、✕は、みんなの前で、「給料泥棒だね」と言われ、精神的に傷つけられた。

平成29年8月頃にP9にミーティングにおいて「今日の予定がない」との趣旨の発言をしたことは当事者間に争いがない。
Y社らは、✕がP9に対して「給料泥棒だね」と言った旨主張し、これに沿う証拠を提出するのに対し、✕はY社の主張を否認し、P15リーダーに対し「先に予定を決めて、ここで報告しないとあかん。」と発言した旨主張する。複数の職員が集まったミーティングの場での発言であることからすれば、✕が主張する発言であった可能性を否定できないところ、「P9氏によるリハビリテーリングセンターセンター長への記述詳細」と題する書面の記載では✕の発言の前後の文脈や経緯が必ずしも明らかではなく、これのみでは✕の上記主張を排斥できないものと言わざるを得ず、また、本件調査報告書が認定の根拠とした本件投書の記載に一致する人物がいないというのであり、その記載内容も具体的な根拠が示されない抽象的なものにとどまるのであって、本件投書の体裁を踏まえると、その記載内容に信用性はないものと言わざるを得ず、本件投書の記載と「P9氏によるリハビリテーリングセンターセンター長への記述詳細」と題する書面の記載が整合することは、同書面の記載内容の信用性を高めるものとはいえない。このことに、Y社がP9を証人として申請せず、同人に対する反対尋問が行われていないことを併せ考慮すると、Y社が主張する事実について、合理的疑を容れない程度の立証がされたものと判断することはできない。
以上からすると、✕がP9に対してパワーハラスメントを行ったと認定することはできない。

エ 上記アないしウのとおり、本件懲戒解雇において懲戒事由とされた言動(本件主張整理表記載のP6、P7、P8及びP9に対する言動)は、そもそもそのような事実が認められないか、認められるとしても懲戒事由に該当するとはいえないものである。

(2)以上のとおり、本件懲戒解雇には懲戒解雇事由が存在しないから、その余の点について判断するまでもなく、本件懲戒解雇は無効である。

3.解説

懲戒解雇のやり方があまりにもお粗末な事例です。
「具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであるため、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないというべきである」と冒頭で述べられているように、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為を使用者が後から知ったとしても、懲戒理由に追加することは原則としてできません。
この論法は、 山口観光事件(最高裁判所第一小法廷 平成8年9月26日判決) により判例として確立したものですが、実務的には、懲戒解雇を通知書する書面を作成する場合、その書面に記載しなかった懲戒事由を後になって主張できないことを意味します。

Y社の就業規則には、次のような懲戒事由が記載されていました。

41条(懲戒事由)
1項 省略
2項 職員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇する。ただし、情状により減給又は出勤停止とすることがある。
①ないし③ 省略
④ 故意又や重大な過失によりY社に重大な損害を与えたとき
⑤ 素行不良で著しくY社内の秩序又は風紀を乱したとき
⑥ 省略
⑦ 13条に違反する重大な行為があったとき
⑧ その他この規則に違反し、又は前各号に準ずる重大な行為があったとき

通常、パワハラを理由とするのであれば⑤がまず該当すると考えそうなものですが、本件においてY社が作成した解雇通知書は④と⑦を理由としました。
後になって見落としに気付いたのか、裁判に際しては④、⑤、⑦及び⑧を理由として主張していますが、裁判所は冒頭の論法により、懲戒解雇理由を④と⑦のみに限定し、⑤と⑧は排除しました。
後から追加するくらいなら、解雇通知書を作成する際に理由を慎重に洗い出して記載すべきです。

さらに、この解雇通知書にはもう1つ残念な部分があります。
「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為(社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。)が下記に該当するため。」と、わざわざ「社会福祉法人ファミーユ高知第三者委員会からの報告による。」と限定して記載した点です。
これは、Y社は「第三者委員会からの報告による」パワハラ行為以外に非違行為を認識していなかったことを自白しているようなもので、第三者委員会からの報告以外のパワハラがあっても、Y社は主張することができません。
(「あなたの職員に対するパワーハラスメント行為が下記に該当するため。」と記載していれば、第三者委員会からの報告以外のパワハラが後から判明した場合でも、それにより本件大量退職が発生し、Y社に重大な損害を与えたと認定されれば懲戒解雇理由として認められる可能性はあります。)

このように懲戒解雇に際しては、理由を後から追加することができないので、懲戒解雇を言い渡す前に理由を慎重に洗い出す必要があります。ケースによっては、一定期間の自宅待機を命じ、対象者の業務や素行等を調査したうえで懲戒解雇とすることもあります。
一方で、具体的な理由について本人から求められれば説明する必要がありますが、非違行為を具体的に限定して通知書に記載する必要はありません。

なお、解雇通知書を作成する際には、⑧のような包括的な事由は必ず理由として記載します。これにより、前各号に直接該当しなかったとしても、準ずるようなことがあった場合は⑧を理由に懲戒解雇が認められることもあるからです。

労働施策総合推進法に基づく 「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます!

労働施策総合推進法に基づく 「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます!

令和2年6月1日に「改正 労働施策総合推進法」が施行されました。
中小企業に対する職場のパワーハラスメント防止措置は、令和4年4月1日から義務化されます(令和4年3月31日までは努力義務)。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000855268.pdf

職場における「パワーハラスメント」の定義

職場で行われる、➀~③の要素全てを満たす行為をいいます。
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの

※客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は該当しません。
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「職場におけるパワーハラスメントを防止するために講ずべき措置」とは?

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職場におけるパワーハラスメント防止等のための望ましい取り組み

以下の望ましい取り組みについても、積極的な対応をお願いします。
パワーハラスメントセクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、単独ではなく複合的に生じることも想定し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備すること
■ 職場におけるパワーハラスメント原因や背景となる要因を解消するための取り組みを行うこと(コミュニケーションの活性化のための研修や適正な業務目標の設定等)
■ 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を行う際に、自ら雇用する労働者以外に、 以下の対象者に対しても同様の方針を併せて示すこと
・他の事業主が雇用する労働者・就職活動中の学生等の求職者
・労働者以外の者個人事業主などのフリーランスインターンシップを行う者、教育実習生等)
■ カスタマーハラスメントに関し以下の取り組みを行うこと
・相談体制の整備
・被害者への配慮のための取り組み

メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)
・被害防止のための取り組み(マニュアルの作成や研修の実施等)

令和4年1月1日健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます

令和4年1月1日健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます

治療と仕事の両立の観点から、より柔軟な所得保障ができるよう、「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和3年法律第66号)」により 健康保険法等が改正されました。
この改正により令和4年1月1日から、傷病手当金の支給期間が通算化されます。

https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000857062.pdf

改正のポイント

傷病手当金の支給期間が、支給開始日から「通算して1年6か月」になります。
・同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して 1年6か月に達する日まで対象となります。
・支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給可能になります。

●この改正は、令和4年1月1日から施行されます。
・令和3年12月31日時点で、支給開始日から起算して1年6か月を経過していない傷病手当金(令和2年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金)が対象です。

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職場における労働衛生基準が変わります~照度、便所、救急用具等に係る改正が行われます~

職場における労働衛生基準が変わります~照度、便所、救急用具等に係る改正が行われます~

令和3年12月に「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布され、職場における一般的な労働衛生 基準が見直されます。事務所における照明の基準のほか、事務所その他の作業場における清潔、休養などに関する労働衛生基準は、次によることとしてください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000857961.pdf

省令の改正に伴って変更される点

○作業面の照度【事務所則第10条】
※令和4年12月1日施行 現在の知見に基づいて事務作業の区分が変更され、基準が引き上げられます。

○便所の設備【事務所則第17条、安衛則第628条】
新たに「独立個室型の便所」※が法令で位置付けられます。
便所を男性用と女性用に区別して設置するという原則は維持されますが、独立個室型の便所を付加する場合の取扱い、少人数の作業場における例外と留意事項が示されます。
なお、従来の設置基準を満たしている便所を設けている場合は変更の必要は ありません。
※男性用と女性用に区別しない四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所。

○救急用具の内容【安衛則第634条】
作業場に備えなければならない負傷者の手当に必要な救急用具・材料につい て、具体的な品目の規定がなくなります。

職場における労働衛生基準見直しの 主な項目とポイント

(事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部改正関係)
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令和3年12月以降の雇用調整助成金の特例措置等について

令和3年12月以降の雇用調整助成金の特例措置等について

新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、令和3年11月30日までを期限に雇用調整助成金の特例措置を講じてきた来ましたが、 この特例措置が12月31日(※)まで延長されるようです。
※令和4年1月以降は施行にあたって厚生労働省令の改正等が必要であり、現時点での予定とのことです。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000782480.pdf


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(注)金額は1人1日あたりの上限額、括弧書きの助成率は解雇等を行わない場合

【令和3年12月まで】
原則的な措置では、令和2年1月24日以降の解雇等の有無及び「判定基礎期間末日の労働者数が各月末の労働者数平均の4/5以上」 地域・業況特例では、令和3年1月8日以降の解雇等の有無
【令和4年1月から】
原則的な措置では、令和3年1月8日以降の解雇等の有無及び「判定基礎期間末日の労働者数が各月末の労働者数平均の4/5以上」 地域・業況特例では、令和3年1月8日以降の解雇等の有無
令和4年1月以降は施行にあたって厚生労働省令の改正等が必要であり、現時点での予定です。
雇用保険被保険者以外の方に対する休業手当については、「緊急雇用安定助成金」として支給しています。
制度の見直し等によりその都度支給申請様式の改定されています。そのため、 支給申請を行う場合は、その都度、厚生労働省HPから最新様式のダウンロード してください。

「業況特例」又は「地域特例」に該当する事業主の方へ

業況特例 (特に業況が厳しい全国の事業主)

【対象となる事業主】
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【対象となる休業等】
判定基礎期間の初日が令和3年12月31日以前の休業等(短時間休業を含む)

※令和3年12月までに既に業況の確認を行っている事業主は、令和4年1月1日以降に判定基礎期間の初日を迎えるものについては、その段階で業況の再確認が行われます(判定基礎期間が令和3年12月31日から令和4年1月30日なら、現状どおり。令和4年1月1日から1月31日なら再確認となる)。
※判定基礎期間の初日が令和4年1月1日以降の休業については、生産指標が最近3か月の月平均で前年、前々年又は3年前同期比30%以上減少の全国の事業主が業況特例の対象となる予定です。 (施行にあたっては厚生労働省令の改正等が必要であり、現時点の予定)

地域特例 (営業時間の短縮等に協力する事業主)

【対象となる事業主】
以下を満たす飲食店や催物(イベント等)を開催する事業主等
⑴緊急事態措置の対象区域またはまん延防止等重点措置の対象区域(職業安定局長が定める区域)の 都道府県知事による要請等を受けて、
⑵緊急事態措置を実施すべき期間またはまん延防止等重点措置を実施すべき期間を通じ、 ⑶要請等の対象となる施設(要請等対象施設)の全てにおいて、
⑷休業、営業時間の変更、収容率・人数上限の制限、入場者の整理等、飲食物提供(利用者による酒 類の店内持ち込みを含む)又はカラオケ設備利用の自粛に協力する

【対象となる休業等】
要請等対象施設における以下の期間を含む判定基礎期間の休業等(短期間休業を含む)
厚生労働省ホームページに掲載する区域及び期間
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/cochomoney_00002.html

独立行政法人労働政策研究・研修機構 による「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」の公表

独立行政法人労働政策研究・研修機構 による「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」の公表

独立行政法人労働政策研究・研修機構 による「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査」が公表されています。 本調査は、令和2年4月1日より、 「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されましたことに伴い(中小企業は、令和3年4月1日から適用)、同法の適用前ながら中小企業を中心とする「アンケート調査」を実施して、「同一労働同一賃金ルール」等に企業がどう対応しようとしているかの全体的な動向を把握するとともに、(既に適用されている)大企業に対しては別途、「ヒアリング調査」も行い、具体的な取組内容や待遇の変化、取組のプロセスや重要なポイント等を把握したものです。

要約を抜粋しました。 詳細はリンクをご確認ください。 https://www.jil.go.jp/institute/research/2021/214.html

*調査により把握できたこと(要約) **1.アンケート調査 ○「同一労働同一賃金ルール」について、「内容はわからないが、同一労働同一賃金という文言は聞いたことがある」を含めた認知度は9割超と高いものの、「内容を知っている」企業は約6割にとどまり、その周知徹底が課題となっている。 ○「パートタイム・有期雇用労働者」を雇用している企業に「同一労働同一賃金ルール」への対応(雇用管理の見直し)状況を尋ねると、「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」の割合が4割を超える一方、約2割が依然として「対応方針は、未定・わからない」状態に取り残されている現状が浮き彫りになった。 ○「同一労働同一賃金ルール」への対応に当たり、「パートタイム・有期雇用労働者」を含めて「労使の話合いを行った(行う)」割合は1/3にとどまり、約半数は「労使の話合いは行っていない(行わない)」実態が明らかになった。 ○調査時点の割合は一定程度にとどまったものの、「同一労働同一賃金ルール」に対応するための具体的な見直し内容が、「正社員とパート・有期社員の、職務分離や人材活用の違いの明確化」のみの企業や、「正社員(無期雇用フルタイム労働者)」のいずれかの待遇要素の「減額や縮小」「(制度の)廃止」を挙げた企業もみられたことから、引き続き、その対応動向に注意する必要がある。

**2.ヒアリング調査 ○正社員以外の雇用区分として、いずれの企業も複数の区分を設けていたが、職務内容や人材活用の仕組み・運用等のいずれもが正社員と同じ区分はなかった。○各社における待遇を網羅的に把握したものではないが、待遇の種類によって、既に正社員とパートタイム・有期雇用労働者とで同様にしているもの、同一労働同一賃金のルールが大企業に施行される2020年4月に向けて見直したもの、施行後も正社員とパートタイム・有期雇用労働者間に差異があるものと、各社ともそれぞれである。 なお、見直しを行った企業では、パートタイム・有期雇用労働者の待遇の見直しを行っており、正社員の待遇の見直しを行った企業はなかった。 ○待遇の見直しに向けた具体的な行動としては、他社の動向や事例の情報収集、最高裁判決ほか裁判例についての情報収集などが多かった。 ○同一労働同一賃金の取組を進める上での重要なポイントとしては、労働者側の納得を得られるようにすることを挙げた企業が多かった。 ○同一労働同一賃金に向けた取組による効果を定量的に測定することは困難だが、パートタイム・有期雇用労働者の賃金の増加率などを挙げた企業もあった。また、パートタイム・有期雇用労働者自身にとっての処遇向上、満足度の上昇などのメリットのほか、会社としてのメリットを示した企業もあった。 f:id:sr-memorandum:20211113234409p:plain f:id:sr-memorandum:20211113234442p:plain