社会保険労務士川口正倫のブログ

都内の社会保険労務士事務所に勤務する社会保険労務士のブログ



商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(大阪高判平5.6.25労判679号32頁)

商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(最一小判平7.3.9労判691号54頁)

1.事件の概要

自動車教習所を経営するY社は、毎週月曜日を特定休日としており、その特定休日に出勤した場合には休日出勤手当を支払っていたが、Y社は、昭和47年10月30日に訴外A労働組合と「特定休日が祭日と重なった場合には特定休日の振替は行わない」等の労使協定を締結し、その後、昭和52年2月21日にB労働組合とも、同趣旨の労使協定を締結していた。
しかし、実際には月曜日が祭日の場合には火曜日を振り替えられた特定休日扱いとし休日出勤手当を支給していた。
昭和62年5月、Y社の勤労部長が、この取扱いが労働協約等に反していることに気づき、昭和63年2月から10月にかけて取りやめる措置をとっていたところ、B労働組合の組合員である✕らが、休日出勤手当等の支給については労使慣行が成立しているとして、手当分の賃金の支払いを求めて訴訟を提起した。第一審は、このような取扱いが長年適用されてきたことで、労働契約上の労働条件になっているとしたうえで、それをY社が一方的に不利益に変更することは信義に反するとして✕らの請求を認容したが、これに対してY社が控訴したのが本件である。

2.判決の概要

民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要するものと解される。
そして、その労使慣行が上記の要件を満たし、事実たる慣習として法的効力が認められるか否かは、その慣行が形成されてきた経緯と見直しの経緯を踏まえ、当該労使慣行の性質・内容、合理性、労働協約就業規則等との関係、当該慣行の反復継続性の程度、定着の度合い、労使双方の労働協約就業規則との関係についての意識、その間の対応等諸般の事情を総合的に考慮して決定すべきものであり、この理は、上記の慣行が労使のどちらに有利であるか不利であるかを問わないものと解する。
本件の取扱いは、かなりの長期間継続反復されてきたが、特定休日が祝祭日に重なる頻度は多くなく、期間の割には回数が多くなかったこと、昭和52年の協定が取り交わされた後に、特定休日の振替に関する規定について労使双方から議論がなされたことはなかったこと、勤労部長がこの取扱いを知るに至り直ちに協定どおりに戻したことなどからすると、Y社が、この慣行によって労使関係を処理するという明確な規範意識を有していたとは認め難い。(✕らは、これに対して上告したが、「上告人らの請求をいずれも理由がないとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。」として、✕らの上告は棄却された。最一小判平7.3.9)

3.解説

①労使慣行の法的効力

就業規則や労働契約に記載されていない労働条件が、職場のルールとして意識され、何となく使用者と従業員が従っている場合があります。
例えば、就業規則で定められた給料日が月末なのに毎月25日に支給されていたり、土日祝祭日が休日の会社で時間外労働の割増賃金については労基法どおり就業規則に定めているにも関わらず、祭日がある週の土曜日に法定外休日出勤をした際に一律25%の割増手当を支給(週40時間を超過しなければ割増賃金の支給は不要)する、就業規則に特に定められていないのに賞与の支給対象者は賞与支給日に在籍する従業員に限定する等です。
このような事実上のルールを「労使慣行」と言いますが、就業規則等の内容とは異なるので、どのような法的効力を有するかが問題となります。

民法92条

民法92条は、次のように任意規定と異なる慣習が法的効力を有する場合について定めています。

任意規定と異なる慣習)
第92条 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

「法令中の公の秩序に関しない規定」とは「任意規定」を意味しています。「任意規定」の反対は「強行規定」ですが、これに反する契約等は、締結されていても無効になります。これに対して、「任意規定」はあくまで「任意」なので、契約を締結する際にその部分について取決めをしなかった場合に、契約の内容を補充する効力しかありません。
民法92条は、そのような任意規定と異なるような慣習がある場合の取扱いについて定めた条文で、契約等で定められていなくても、地域や業界において通用している慣習があるような場合、その慣習は一定の合理性があるものと考えられるため、その慣習に従うという意思を両当事者が有している場合には、それによって契約の内容の解釈や補充を行うとしたのが第92条です。
なお、「慣習に従うという意思を両当事者が有している場合」とは、特に反対の意思表示をしていないことを意味すると考えられています。従って、慣習によることを当事者が反対していない限り、その慣習より補充することになります。

③労使慣行が民法92条の慣習として認められる場合

前置きが長くなりましたが、本判決は、労使慣行が民法92条の慣習として認められる3つの必要条件が示されています。
・同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと
・労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと
・当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていること(使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたこと)

上記はあくまで必要条件であって、これらの条件を具備したうえで、
・その慣行が形成されてきた経緯と見直しの経緯を踏まえ、当該労使慣行の性質・内容、合理性、労働協約就業規則等との関係、当該慣行の反復継続性の程度、定着の度合い、労使双方の労働協約就業規則との関係についての意識、その間の対応等諸般の事情を総合的に考慮して決定する(慣行が労使のどちらに有利であるか不利であるかを問わない)
としています。

本件においては、勤労部長がこの取扱いを知るに至り直ちに協定どおりに戻したことなど」により、Y社が、この慣行によって労使関係を処理するという明確な規範意識を有していたとは認め難いとして、法的効力を有する民法92条の慣習としては認められませんでした。

さて、「規範意識」とは、簡単に言えば、長年事実として行われてきた行為にルールとして意識し従う、という意味です。これに対して、民法92条は「反対の意思表示をしていないこと」が要件なので、明らかに規範意識までは要求していません。この点に対して、本判例には学説上議論があります。

【整理解雇】森山事件(福岡地決令3.3.9労経速2454号3頁)

森山事件(福岡地決令3.3.9労経速2454号3頁)

コロナ禍で業務転換・縮小を理由とする整理解雇が無効とされた事例

1.事件の概要

本件は、主に観光バス事業を営むY社(従業員数20名)のバス運転手として勤務していた✕が、Y社による業務縮小を理由とする解雇の無効を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに賃金の仮払いを求める事案である。
Y社は、令和2年3月17日、全従業員が参加するミーティングで、福岡ー大阪間の高速バスを毎日走らせる予定であることを説明した後、高速バスの運転手として稼働してもよい者は挙手するように促したが、✕を含む複数の運転手は挙手しなかった。
✕は、令和2年3月20日、営業所長から、解雇することが告げられた。また、同日には、他の運転手1名についても解雇が言い渡されたが、営業所長は✕ら2名が解雇の対象となったのはミーティングの場で、高速バスを運転することについて挙手しなかったためであると説明した。
令和2年3月25日、✕は、Y社より、同月31日付で解雇する旨の解雇予告通知書を受領した。同書面には、解雇理由として「コロナウイルス被害の拡大により業務縮小の為」と記載されていた。同月31日付で解雇又は雇止めとなったのは✕を含めて4名であり、さらに同年6月末で1名が自主退職した。
Y社は、令和2年7月2日、高速バス事業を開始するため、高速バスの運転手2名を新たに雇い入れて同日時点でY社の従業員数は17名となったが、その後も観光バス事業についてはほとんど受注がなく、観光バス運転手4名は原則として自宅待機となっている。

2.判決の概要

Y社は、新型コロナウイルス感染症拡大によって、令和2年2月中旬以降、貸切バスの運行事業が全くできなくなり、同年3月中旬にはすべての運転手に休業要請を行う事態に陥ったこと、同年3月の売上は約399万円、同年4月の売上は約89万円であったこと、従業員の社会保険料の負担は月額150万円を超えていたこと、令和2年3月当時、雇用調整助成金がいついくら支給されるかも不透明な状況にあったこと等を考慮すると、その後、高速バス事業のために運転手2名を新たに雇用したことを考慮しても、Y社において人員削減の必要性があったことは一応認められる。
しかしながら、Y社は、令和2年3月17日のミーティングにおいて、人員削減の必要性に言及したものの、人員削減の規模や人選基準等は説明せず、希望退職者を募ることもないまま、翌日の幹部会で解雇対象者の人選を行い、解雇対象者から意見聴取を行うこともなく、直ちに解雇予告をしたことは拙速といわざるを得ず、本件解雇の手続は相当性を欠くというべきである。
また、✕が解雇の対象に選ばれたのは、高速バスの運転手として働く意思を表明しなかったことが理由とされているところ、Y社は、上記ミーティングにおいて、高速バス事業を開始することを告知し、運転手らに協力を求めたものの、高速バスによる事業計画を乗務員に示し、乗務の必要性を十分に説明したとは認められないうえ、高速バスを運転するか否かの意向確認は突然であって、観光バスと高速バスとでは運転手の勤務形態が大きく異なり家族の生活にも影響することを考慮すると、当該ミーティングの場で挙手しなかったことをもって直ちに高速バスの運転手として稼働する意思は一切無いものと即断し、解雇の対象とするのは人選の方法として合理的なものとは認め難い。
そうすると、本件解雇は、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえないから、無効といわざるを得ない。

【同一労働同一賃金】科学飼料研究所事件(令3.3.22神戸地判姫路支部労経速2435号18頁)

同一労働同一賃金】科学飼料研究所事件(令3.3.22神戸地判姫路支部労経速2435号18頁)

1.事件の概要

Y社は飼料及び飼料添加物の製造及び販売等を目的とする株式会社である。✕らは、Y社と期間の定めのある労働契約を締結した嘱託社員(定年後再雇用者を含む。以下「✕ら嘱託社員」という。)、又はY社と期間の定めのない労働契約を締結した年俸社員(以下「✕ら年俸社員」という。)であり、兵庫県にあるY社のQ2工業で製品の製造作業等に従事していた。
本件は、嘱託社員又は年俸社員である✕らが、Y社と無期労働契約を締結している年俸社員以外の他の無期契約労働者との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び昼食手当(以下これらを併せて「本件手当等」という。)に相違があることは、労働契約法20条ないし民法90条※に違反している旨などを主張して、Y社に対して、不法行為に基づく損害賠償として、本件手当等に係る賃金に相当する額等の支払いを求めて提訴したのが本件である。
Y社の雇用形態には、有期契約労働者である「嘱託」と、無期契約労働者である「社員」との区分があり、さらに「社員」には「年俸社員」とその他の区分が存在していた。そして、年俸社員を除く社員のコースの種類として、「総合職コース」、「専門職コース」及び「一般職コース」が設けられていた。
民法90条とは、いわゆる公序良俗違反についての規定です。無期労働契約を締結している年俸社員については、旧労働契約法20条の適用がないため、公序良俗違反を持ち出しています。

2.判決の要旨

争点1 ✕ら嘱託社員に対する不法行為責任の有無について

(1)労働契約法20条は、有期契約労働者の労働条件が、期間の定めのあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している無期契約労働者の労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」ということがある。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めているところ、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容等を考慮して、その相違が不合理と認めらるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求めている。
そして、同条の「期間の定めがあることにより」とは、上記労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいい、同条の「不合理と認められるもの」とは、上記労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう(最高裁平成28年(受)第2099号、第2100号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号88頁参照)。また、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目(賞与を含む。)に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁、同令和元年(受)第1055号、第1056号同2年10月13日第三小法廷判決参照)。

(2)本件において、✕らが比較の対象としているQ2工場の製造課に所属する一般職コース社員と、✕ら嘱託社員との間には、一般職コース社員に対して本件手当等が支給される一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違があるところ(争いがない。)、これは、✕ら嘱託社員の賃金が、一般職コース社員に適用される本件給与規程及び本件賞与規程ではなく、本件嘱託就業規則によって定められていることにより生じていることといえる。そうすると、上記労働条件の相違は、期間の定めの有無に関連して生じたものであると認められるから、労働契約法20条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たる。

(3)業務の内容及び当該業務に伴う責任(職務の内容)の程度について
ア まず、✕らは、一般職コース社員のうち、職能資格等級が4等級である社員を比較の対象とするべきであると主張する。
しかし、本件職能資格規程には、「職能資格等級に基づいて業務上の指示・命令を行うことはできない」と定められており、職能資格等級と業務の内容は直接連動するものではなく、職能資格等級は当該社員の能力を示す基準に過ぎないこと、Q2工場製造課に所属する全ての一般職コース社員についてその昇格の経過等は必ずしも判然としないことからすると、比較の対象を職能資格等級が4等級の社員のみに限定することは相当とはいえないことから、以下ではQ2工場の製造課に所属する一般職コース社員と比較する。
イ ✕ら嘱託社員と一般職コース社員は、工場の稼働中、いずれも作業担当者である工程担当者として定型的な作業を行うことがあった。したがって、両社員は、この点で同一の業務に従事していたと認められる。
一方、一般職コース社員には、工程担当者としての業務だけではなく、工程管理責任者又は副工程管理責任者として、各工程の管理者としての業務に従事している者があり、また、作業主任者として、危険を伴う一定の作業について、安全管理のための業務等に従事している者がいた。
これに対して、✕らは、定型的な作業だけに従事しており、(副)工程管理責任者としての業務、作業主任者としての業務等に従事する者はいなかった。
これらの事情を総合すると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員との間には、その職務の内容に一定の相違があったと認められる。

(4)職務の内容及び配置の変更の範囲について
一般職コース社員と嘱託社員は、いずれも転勤を伴う配置の転換を命じられることはないから、この点で、両社員の職務の内容等の範囲に相違はなかった。
一方、一般職コース社員に相当する社員において、課を越えた異動が行われた例がこれまでに3件あった一方で、平成27年4月1日の人事制度の変更後、現在に至るまでの間に、一般職コース社員及び嘱託社員において、課を越えて異動をした者はいなかった。そうすると、Q2工場の一般職コース社員において、課を越えた異動が行われる可能性はあったものの、その頻度は高くなかったといえる。
次に、経験を積んだ一般職コース社員は、その適性や能力に応じて、(副)工程管理責任者や作業主任者として選任され、その業務に従事することが予定されていたほか、一般職コース社員には本件人事考課規程が適用され、職能資格等級の昇格に伴い、最終的には管理職層の調査役として、人材マネジメント業務を担うことまで一応想定されていた。
これに対して、✕ら嘱託社員は、製造課で定期的な作業を行うことが想定されており、課を越えた異動を命じられることや、(副)工程管理責任者としての業務を担うことは想定されていなかった。
これらの事情を総合すると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員との間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったと認められる。

(5)人材活用の仕組みについて
一般職コース社員には本件職能資格規程及び本件人事考課規程が適用され、一般職コース社員は、職能資格等級制度を通じて、段階的に職務遂行能力を向上させていくことが求められていたといえる。また、一般職コース社員は、本件人事考課規程に基づいて、目標面談を受け、人事考課を受ける必要があり、その結果は、職能資格等級の昇格選考に活用されていた。そして、一般職コース社員の業務は相応の責任や知識等を要する業務であることを踏まえると、Y社においては、一般職コース社員について、人事考課制度を通じてその職務遂行能力の向上を図ることや、上記業務を遂行できる人材として長期的に育成していくことが予定されていたといえる。
これに対して、✕ら嘱託社員に、本件職能資格規程や本件人事考課規程は適用されなかった。
そうすると、✕ら嘱託社員と一般職コース社員では人材活用の仕組みが大きく異なっていたといえ、これは、労働条件の相違の不合理性の判断において考慮されるべき事情といえる。

(6)賃金体系の違いについて
一般職コース社員には本件給与規程が適用され、その基本給は、年齢給、職能給及び調整給から構成されていた。
一方、✕ら嘱託社員には本件嘱託就業規則が適用され、その給与は年俸制とされていた。
このように、両社員の賃金体系は異なっていたところ、再雇用者を除く✕ら嘱託社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給の年間支給額と比較して、高い水準となっていた(このことは、一般職コース社員の基本給に昼食手当を加えた場合も同じである。)。

(7)登用制度について
Y社では、一定の年齢制限と回数制限が設けられており、年齢制限によりその受験資格を得られなかった者がいたものの、嘱託社員から年俸社員へ、年俸社員から一般職コースへの試験による登用制度が設けられていた。
この点、✕らは、Y社の登用制度には年齢制限や回数制限があり、✕らの中には受験機会すら与えられない者がいたことなどからすると、登用制度があることを斟酌するべきではない旨主張する。
確かに、回数制限が2回とされている点や、嘱託社員から年俸社員への年齢制限が40歳以下とされている点は、制度として厳しいと評価できる余地があるものの、登用制度は、Y社における採用方法及び人材育成全般にかかわることであり、いかなる内容の制度とするかは基本的に企業の経営判断に属する事項といえること、本件職能資格規程によれば、一般職コース以上等の社員コース変更についても、50歳までに限られていたこと、また、Y社では現に一定の登用の実績があったことを踏まえると、Y社が登用制度を設けていることを斟酌すべきでないとはいえない。

(8)以上を踏まえて、本件手当等に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認めらるものに当たるか否か検討する。

ア 賞与
年度末賞与を含め、Y社の一般職コース社員に対する賞与は、本件賞与規程又は実際上、基本給をベースに支給金額が定められていることからすると、その算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償との趣旨が含まれていたといえる。また、上記基本給は、年齢給、職能給及び調整給から成るところ、職能給は、職能資格等級に基づいて決定され、職能資格等級の昇格選考は、人事考課によって行われていた。このように、Y社が支給する賞与は、人事考課の結果に連動し、また、年齢給や職能資格等級にも連動してその支給額が増えることになることに照らすと、その賞与には、労働意欲の向上を図るという趣旨や、一般職コース社員としての職務を遂行し得る人材を確保して、その定着を図るという趣旨が含まれていたといえる。
そして、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、そのため、両社員では人材活用の仕組みが異なっており、一般職コース社員については、職務遂行能力の向上が求められ、長期的な人材育成が予定されていたこと、また、両社員では賃金体系が異なっており、再雇用者を除く✕ら嘱託社員の年間支給額と比較すると、一般職コース社員の基本給の年間支給額は低く抑えられ、したがってこの点で月額の基本給も低いこと、定年後の再雇用者については、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることが予定されていることなどからすれば、その賃金が一定程度抑制されることもあり得ること、さらに、Y社では嘱託社員から年俸社員に、年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられ、一定の登用実績もあり、嘱託社員としての雇用が必ずしも固定されたものではないことが認められる。
以上の事情を総合すれば、✕ら嘱託社員には賞与が一切支給されないことのほか、✕ら嘱託社員についても賞与の算定期間中に労務を提供していることや、再雇用者を除く✕ら嘱託社員については継続的な雇用が想定されているといえることなどの事情を斟酌したとしても、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間に賞与に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
したがって、一般職コース社員に対して賞与を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。
※一般職コース社員と✕ら嘱託社員の年間支給額(令和元年度)は次のとおりで、✕ら嘱託社員の年収は、一般職コース社員の概ね7割でした。有意人材確保論や職務の内容やその変更の範囲等の違い等に応じて、3割程度の差異は不合理でないとされました。

(一般職コース社員)
 A:387万8095円(平成22年4月入社)
 B:389万9484円(平成22年4月入社)
 C:382万2308円(平成22年4月入社)
 D:392万6095円(平成22年4月入社)
 E:390万0195円(平成22年4月入社)
 F:324万2976円(平成29年4月入社)
 A~Eの平均:388万5235円
 A~Fの平均:377万8192円

(✕ら嘱託社員)
 ✕10:275万8800円(平成22年4月入社)
 ✕13:261万6000円(平成25年10月入社)
 ✕14:264万4800円(平成25年4月入社)
 ✕15:259万2000円(平成26年6月入社)
 平均:265万2900円(A~Fの約70%)

イ 家族手当、住宅手当
(ア)Y社は、扶養家族を有する社員、又は住居費の負担のある社員に対して、家族手当又は住宅手当として、扶養家族や同居者等の属性に応じて、一律に一定の金額を支給するとしている。その支給要件や支給金額に照らすと、Y社が支給する家族手当及び住宅手当は、従業員の生活費を補助するという趣旨によるものであるといえる。
そして、扶養者がいることで日常の生活費が増加するということは、✕ら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはない。また、✕ら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも転居を伴う異動を予定されておらず、住居を持つことで住居費を要することになる点においても違いはないといえる。そうすると、家族手当及び住宅手当の趣旨は、✕ら嘱託社員にも同様に妥当するということができ、このことは、その職務の内容等によって左右されることとはいえない。
また、確かに、現役社員については、幅広い世代の労働者が存在し、雇用が継続される中で、その生活様式が変化していく者が一定数いることが推測できるのに対し、再雇用者については、一定の年齢に達して定年退職をした者であるから、その後の長期雇用が想定されているとか、生活様式の変化が見込まれるといった事情が直ちに当たらない場合があると解される。しかし、他方で、住居を構えることや、扶養家族を養うことでその支出が増加するという事情は再雇用者にも同様に当てはまる上、再雇用者になると、その基本月額は相当な割合で引き上げられる一方で、Y社において上記各手当に代わり得る具体的な支給がされていたといった事情は窺がわれない。
これらの事情に照らすと、再雇用者も含む、✕ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を全く支給しないことは不合理であると評価することができる。
したがって、一般職コース社員に対して家族手当及び住宅手当を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると認められる。
※家族手当や住宅手当(転居と伴う異動が無い場合)は、雇用形態に関係なく、一般的に賃金水準が低い若年層を対象に支給し、一定の年齢を超過すると一律支給しないという扱いが、従業員の生活費を補助するという趣旨に相応しいと思います。

ウ 昼食手当
Y社は、一般職コース以上の社員に対して、昼食手当として、一律に月額1万1700円を支給していた。
Y社における昼食手当の金額は、昭和43年当時は1000円であったが、その後、昭和45年に1600円、昭和46年に2000円、昭和49年に5000円、昭和60年に7000円、昭和63年に8000円、平成元年に1万円、平成4年に現在の1万1700円と、全国で一律の増加幅によって金額の改定が行われてきたこと、また、平成3年7月の役員会では、当時の労働市場における労働力不足に対応すべく、年間給与額は維持しつつ、見かけ上、安い印象が持たれていた月額給与額を増加させるために、賞与の1.5か月相当分を月給に繰り入れる旨、その調整の際の不足額は、一律支給をしている昼食手当で補完する旨などの議論が行われていたこと、平成4年5月の役員会では、初任給調整として昼食手当に1000円を加算するとの議論が行われていたことが認められる。このように、昼食手当が、過去に全国一律かつ相当幅による増額がされてた等の経緯に加え、昼食手当は賞与のベースされていないことにも照らすと、Y社が支給している昼食手当は、当初の従業員の食事に係る補助との趣旨として支給されていたとしても、遅くとも平成4年頃までにはその名称にかかかわらず、月額給与額を調整する趣旨で支給されていたと認められる。
そして、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定の相違があり、両社員では人材活用の仕組みが異なっていること、一般職コース社員の月額の基本給は、昼食手当を加えても✕ら嘱託社員の月額支給額より低いこと、さらにY社では登用制度が設けられていることなどの事情が認められ、これらの事情を総合すれば、昼食手当との名称や、✕ら嘱託社員には同手当が一切支給されないことなどを斟酌しても、一般職コース社員と✕ら嘱託社員との間に上記趣旨を持つ昼食手当に係る労働条件の相違があることが、不合理であるとまで評価することはできない。
したがって、一般職コース社員に対して昼食手当を支給する一方で、✕ら嘱託社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとは認められない。
※昼食手当の実態が調整給であることから、不合理とはされませんでした。昼食手当の趣旨が昼食の補助である場合は、不合理と判断される可能性が高いです。

(9)以上によれば、Y社が✕ら嘱託社員に対して家族手当及び住宅手当を支給しないことは、労働契約法20条に違反するといえる。そして、同条が平成25年4月1日に施行されるに至っていたことからすれば、Y社がこのような違法な取扱いを行ったことについては、少なくとも過失のあることが認められる。
したがって、Y社は、✕ら嘱託社員に対し、この範囲において、不法行為責任を負う。

争点2 ✕ら年俸社員に対する不法行為責任の有無について

✕らは、✕ら年俸社員と一般職コース社員の間に本件手当等の支給に係る労働条件の相違があることについて、労働契約法20条を類推適用するべきである旨、あるいは、憲法14条、労働契約法3条2項、同一労働同一賃金の原則等により裏付けられた公序良俗民法90条)に違反する旨を主張する。
しかし、労働契約法20条の文言に照らすと、同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理であることを禁止する規定であることは明らかであり、また、雇止めに対する不安がないなどの点において、有期契約労働者と無期契約労働者では雇用契約上の地位が異なっていること等に鑑みると、無期契約労働者間の労働条件の相違について同条を類推適用することは困難である。そのため、無期契約労働者間の労働条件の相違について、同条と同じ枠組みによりその違法性の有無を判断することは相当でないというべきである。また、憲法14条、労働契約法3条2項、その他の法令上、無期契約労働者間において同一労働同一賃金の原則を具体的に定めたと解される規定は見当たらない以上、そのような原則自体が、使用者と無期労働契約者との間の労働関係を規律する法規範として存在していたとか、これが公序として確立していたと認めることもできない。このことは、「同一労働同一賃金ガイドライン案」が本件当時に作成されていたことによって変わることとはいえない。
※いずれも無期契約労働者である、✕ら年俸社員と一般職コース社員の間の労働条件の相違については、労働契約法20条による同一労働同一賃金の原則が適用されないとしています。その上で、均等待遇の理念(労働契約法3条2項)や同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らして、公序良俗に反する相違であるかが、以下で検討されています。


そして、Y社では、一般職コース社員に対して本件手当等が支給される一方で、✕ら年俸社員に対して支給されないという労働条件の相違があった。しかし、他方で、①✕ら嘱託社員と✕ら年俸社員の職務の内容等は同じであったところ、一般職コース社員と✕ら年俸社員との間には、職務の内容やその変更の範囲等に一定相違があり、したがって、両社員の間に人材活用の仕組みや賃金体系等に違いを設けることが不合理であるといえないこと、加えて、②✕ら年俸社員については、労働者派遣法所定の派遣期間が満了するのに伴い、平成22年4月に無試験でY社に直接雇用されたという経緯があり、その年俸額は、前年度のQ3における年間支給額を上回る金額と決められたこと、③直接雇用の前後で、✕ら年俸社員の職務の内容に変化はなかったこと、④説明資料や雇用条件通知書等には、年俸額は通勤手当と時間外手当を除きQ3での年間給与額を基準とする旨が明記されていたこと等を踏まえると、同✕らは、Y社から賃金等の労働条件について必要な説明を受けた上で雇用契約を締結してといえること、⑤✕ら年俸社員の年間支給額は、一般職コース社員の基本給及び本件手当等の年間支給額と比較して、極端に低い金額とはいえないこと、⑥Y社では年俸社員から一般職コース社員になるための試験による登用制度が設けられており、これによる一定の登用実績もあり、年俸社員としての雇用形態が固定化されたものとまではいえないことが認められる。
そうすると、労働契約法3条2項が「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めていることや、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する規定ではあるが、同法20条が平成25年4月1日に施行されるに至っていた背景等に照らし、無期契約労働者の労働条件においても均等待遇の理念が働くことを踏まえたとして、本件関係において、上記労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容であるとまで評価することはできない。したがって、当該労働条件の相違を設けたことが、公序良俗に違反するとか、不法行為を構成すると認めることはできない。
以上によれば、Y社が✕ら年俸社員に対して不法行為責任を負うとは認められない。
同一労働同一賃金については、旧労働契約法20条(現パートタイム・有期雇用労働法8条)の施行に伴い、多くの訴訟が発生しましたが、それ以前は、本件のように民法90条公序良俗違反)を根拠に争われていました(参照:丸子警報器事件(長野地上田支判平8.3.15労判690号32頁))。現在においても、無期雇用者間や有期雇用者間の労働条件の相違が労働契約法20条(反対解釈)で認められているわけではなく、「労働条件の相違が社会通念に照らして著しく不当な内容である」と評価される場合は、民法90条を根拠に公序良俗違反とされることはあります。

脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました

脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました。

【認定基準改正のポイ
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号) - 社会保険労務士川口正倫のブログ
ント】

■長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

■長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し

■短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

■対象疾病に「重篤心不全」を追加

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参照:
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号) - 社会保険労務士川口正倫のブログ
脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました|厚生労働省

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号)

血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(基発0914第1号)

標記については、平成13年12月12日付け基発第1063号(以下「1063号通達」という。)により示してきたところであるが、今般、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」の検討結果を踏まえ、別添の認定基準を新たに定め、令和3年9月15日から施行するので、今後の取扱いに遺漏なきを期されたい。
なお、本通達の施行に伴い、1063号通達及び昭和62年10月26日付け基発第620号は廃止する。

https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000832042.pdf


(別添)
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準

第1 基本的な考え方

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)は、その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)が、長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するものである。
しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因する疾病として取り扱う。
このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷及び長期間にわたる疲労の蓄積を考慮する。
これらの業務による過重負荷の判断に当たっては、労働時間の長さ等で表される業務量や、業務内容、作業環境等を具体的かつ客観的に把握し、総合的に判断する必要がある。

第2 対象疾病

本認定基準は、次に掲げる脳・心臓疾患を対象疾病として取り扱う。

1 脳血管疾患

(1)脳内出血(脳出血
(2)くも膜下出血
(3)脳梗塞
(4)高血圧性脳症

2 虚血性心疾患等

(1)心筋梗塞
(2)狭心症
(3)心停止(心臓性突然死を含む。)
(4)重篤心不全
(5)大動脈解離

第3 認定要件

次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、業務に起因する疾病として取り扱う。
(1)発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に就労したこと。
(2)発症に近接した時期において、特に過重な業務(以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと。
(3)発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと。

第4 認定要件の具体的判断

1 疾患名及び発症時期の特定

認定要件の判断に当たっては、まず疾患名を特定し、対象疾病に該当することを確認すること。
また、脳・心臓疾患の発症時期は、業務と発症との関連性を検討する際の起点となるものである。通常、脳・心臓疾患は、発症の直後に症状が出現(自覚症状又は他覚所見が明らかに認められることをいう。)するとされているので、臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日をもって発症日とすること。
なお、前駆症状(脳・心臓疾患発症の警告の症状をいう。)が認められる場合であって、当該前駆症状と発症した脳・心臓疾患との関連性が医学的に明らかとされたときは、当該前駆症状が確認された日をもって発症日とすること。

2 長期間の過重業務

(1)疲労の蓄積の考え方

恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には、「疲労の蓄積」が生じ、これが血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ、その結果、脳・心臓疾患を発症させることがある。
このことから、発症との関連性において、業務の過重性を評価するに当たっては、発症前の一定期間の就労実態等を考察し、発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断することとする。

(2)特に過重な業務

特に過重な業務とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいうものであり、日常業務に就労する上で受ける負荷の影響は、血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。
ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいう。

(3)評価期間

発症前の長期間とは、発症前おおむね6か月間をいう。
なお、発症前おおむね6か月より前の業務については、疲労の蓄積に係る業務の過重性を評価するに当たり、付加的要因として考慮すること。

(4)過重負荷の有無の判断

ア 著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
ここでいう同種労働者とは、当該労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいい、基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できるものを含む。
イ 長期間の過重業務と発症との関係について、疲労の蓄積に加え、発症に近接した時期の業務による急性の負荷とあいまって発症する場合があることから、発症に近接した時期に一定の負荷要因(心理的負荷となる出来事等)が認められる場合には、それらの負荷要因についても十分に検討する必要があること。
すなわち、長期間の過重業務の判断に当たって、短期間の過重業務(発症に近接した時期の負荷)についても総合的に評価すべき事案があることに留意すること。
ウ 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。

(ア)労働時間
a 労働時間の評価
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
①発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね 45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
ここでいう時間外労働時間数は、1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。

b 労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的な評価
労働時間以外の負荷要因(後記(イ)から(カ)までに示した負荷要因をいう。以下同じ。)において一定の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断すること。
その際、前記a②の水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
ここで、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮するに当たっては、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることに留意すること。

(イ)勤務時間の不規則性
a 拘束時間の長い勤務
拘束時間とは、労働時間、休憩時間その他の使用者に拘束されている時間(始業から終業までの時間)をいう。
拘束時間の長い勤務については、拘束時間数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、休憩・仮眠時間数及び回数、休憩・仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること。
なお、1日の休憩時間がおおむね1時間以内の場合には、労働時間の項目における評価との重複を避けるため、この項目では評価しない。

b 休日のない連続勤務
休日のない(少ない)連続勤務については、連続労働日数、連続労働日と発症との近接性、休日の数、実労働時間数、労働密度(実作業時間と手待時間との割合等)、業務内容等の観点から検討し、評価すること。
その際、休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、逆に、休日が十分確保されている場合は、疲労は回復ないし回復傾向を示すものであることを踏まえて適切に評価すること。

c 勤務間インターバルが短い勤務
勤務間インターバルとは、終業から始業までの時間をいう。勤務間インターバルが短い勤務については、その程度(時間数、頻度、連続性等)や業務内容等の観点から検討し、評価すること。なお、長期間の過重業務の判断に当たっては、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について検討し、評価すること。

d 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」とは、予定された始業・終業時刻が変更される勤務、予定された始業・終業時刻が日や週等によって異なる交替制勤務(月ごとに各日の始業時刻が設定される勤務や、週ごとに規則的な日勤・夜勤の交替がある勤務等)、予定された始業又は終業時刻が相当程度深夜時間帯に及び夜間に十分な睡眠を取ることが困難な深夜勤務をいう。
不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務については、予定された業務スケジュールの変更の頻度・程度・事前の通知状況、予定された業務スケジュールの変更の予測の度合、交替制勤務における予定された始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のため夜間に十分な睡眠が取れない程度 (勤務の時間帯や深夜時間帯の勤務の頻度・連続性)、一勤務の長さ(引き続いて実施される連続勤務の長さ)、一勤務中の休憩の時間数及び回数、休憩や仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)、業務内容及びその変更の程度等の観点から検討し、評価すること。

(ウ)事業場外における移動を伴う業務
a 出張の多い業務
出張とは、一般的に事業主の指揮命令により、特定の用務を果たすために通常の勤務地を離れて用務地へ赴き、用務を果たして戻るまでの一連の過程をいう。
出張の多い業務については、出張(特に時差のある海外出張)の頻度、出張が連続する程度、出張期間、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、出張先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、出張中における睡眠を含む休憩・休息の状況、出張中の業務内容等の観点から検討し、併せて出張による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
ここで、飛行による時差については、時差の程度(特に4時間以上の時差の程度)、時差を伴う移動の頻度、移動の方向等の観点から検討し、評価すること。
また、出張に伴う勤務時間の不規則性についても、前記(イ)により適切に評価すること。

b その他事業場外における移動を伴う業務
その他事業場外における移動を伴う業務については、移動(特に時差
のある海外への移動)の頻度、交通手段、移動時間及び移動時間中の状況、移動距離、移動先の多様性、宿泊の有無、宿泊施設の状況、宿泊を伴う場合の睡眠を含む休憩・休息の状況、業務内容等の観点から検討し、併せて移動による疲労の回復状況等も踏まえて評価すること。
なお、時差及び移動に伴う勤務時間の不規則性の評価については前記aと同様であること。

(エ)心理的負荷を伴う業務
心理的負荷を伴う業務については、別表1及び別表2に掲げられている日常的に心理的負荷を伴う業務又は心理的負荷を伴う具体的出来事等について、負荷の程度を評価する視点により検討し、評価すること。

(オ)身体的負荷を伴う業務
身体的負荷を伴う業務については、業務内容のうち重量物の運搬作業、人力での掘削作業などの身体的負荷が大きい作業の種類、作業強度、作業量、作業時間、歩行や立位を伴う状況等のほか、当該業務が日常業務と質的に著しく異なる場合にはその程度(事務職の労働者が激しい肉体労働を行うなど)の観点から検討し、評価すること。

(カ)作業環境
長期間の過重業務の判断に当たっては、付加的に評価すること。

a 温度環境
温度環境については、寒冷・暑熱の程度、防寒・防暑衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖・冷却の状況、寒冷と暑熱との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度、水分補給の状況等の観点から検討し、評価すること。

b 騒音
騒音については、おおむね80dBを超える騒音の程度、そのばく露時間・期間、防音保護具の着用の状況等の観点から検討し、評価すること。

3 短期間の過重業務

(1)特に過重な業務

特に過重な業務の考え方は、前記2(2)と同様である。

(2)評価期間

発症に近接した時期とは、発症前おおむね1週間をいう。
ここで、発症前おおむね1週間より前の業務については、原則として長期間の負荷として評価するが、発症前1か月間より短い期間のみに過重な業務が集中し、それより前の業務の過重性が低いために、長期間の過重業務とは認められないような場合には、発症前1週間を含めた当該期間に就労した業務の過重性を評価し、それが特に過重な業務と認められるときは、短期間の過重業務に就労したものと判断する。

(3)過重負荷の有無の判断

ア 特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務であるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。

イ 短期間の過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、業務による過重な負荷は、発症に近ければ近いほど影響が強いと考えられることから、次に示す業務と発症との時間的関連を考慮して、特に過重な業務と認められるか否かを判断すること。
①発症に最も密接な関連性を有する業務は、発症直前から前日までの間の業務であるので、まず、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
②発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合には、業務と発症との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。
なお、発症前おおむね1週間以内に過重な業務が継続している場合の継続とは、この期間中に過重な業務に就労した日が連続しているという趣旨であり、必ずしもこの期間を通じて過重な業務に就労した日が間断なく続いている場合のみをいうものではない。したがって、発症前おおむね1週間以内に就労しなかった日があったとしても、このことをもって、直ちに業務起因性を否定するものではない。

ウ 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、以下に掲げる負荷要因について十分検討すること。
(ア)労働時間
労働時間の長さは、業務量の大きさを示す指標であり、また、過重性の評価の最も重要な要因であるので、評価期間における労働時間については十分に考慮し、発症直前から前日までの間の労働時間数、発症前1週間の労働時間数、休日の確保の状況等の観点から検討し、評価すること。
その際、①発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合、②発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合等(手待時間が長いなど特に労働密度が低い場合を除く。)には、業務と発症との関係性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。
なお、労働時間の長さのみで過重負荷の有無を判断できない場合には、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して判断する必要がある。

(イ)労働時間以外の負荷要因
労働時間以外の負荷要因についても、前記2(4)ウ(イ)ないし(カ)において各負荷要因ごとに示した観点から検討し、評価すること。ただし、長期間の過重業務における検討に当たっての観点として明示されている部分を除く。
なお、短期間の過重業務の判断においては、前記2(4)ウ(カ)の作業環境について、付加的に考慮するのではなく、他の負荷要因と同様に十分検討すること。

4 異常な出来事

(1)異常な出来事

異常な出来事とは、当該出来事によって急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる出来事であり、具体的には次に掲げる出来事である。
ア 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態
イ 急激で著しい身体的負荷を強いられる事態
ウ 急激で著しい作業環境の変化

(2)評価期間

異常な出来事と発症との関連性については、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされているので、発症直前から前日までの間を評価期間とする。

(3)過重負荷の有無の判断

異常な出来事と認められるか否かについては、出来事の異常性・突発性の程度、予測の困難性、事故や災害の場合にはその大きさ、被害・加害の程度、緊張、興奮、恐怖、驚がく等の精神的負荷の程度、作業強度等の身体的負荷の程度、気温の上昇又は低下等の作業環境の変化の程度等について検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断すること。
その際、①業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合、②事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合、③生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合、④著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合、⑤著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合等には、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること。

第5 その他

1 基礎疾患を有する者についての考え方

器質的心疾患(先天性心疾患、弁膜症、高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等)を有する場合についても、その病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合であって、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて著しく重篤な状態に至ったと認められる場合には、業務と発症との関連が認められるものであること。
ここで、「著しく重篤な状態に至った」とは、対象疾病を発症したことをいう。

2 対象疾病以外の疾病の取扱い

(1)動脈の閉塞又は解離

対象疾病以外の体循環系の各動脈の閉塞又は解離については、発生原因が様々であるが、前記第1の基本的考え方により業務起因性の判断ができる場合もあることから、これらの疾病については、基礎疾患の状況や業務の過重性等を個別に検討し、対象疾病と同様の経過で発症し、業務が相対的に有力な原因であると判断できる場合には、労働基準法施行規則別表第1の2第11号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」として取り扱うこと。

(2)肺塞栓症

肺塞栓症やその原因となる深部静脈血栓症については、動脈硬化等を基礎とする対象疾病とは発症機序が異なることから、本認定基準の対象疾病としていない。
肺塞栓症等については、業務による座位等の状態及びその継続の程度等が、深部静脈における血栓形成の有力な要因であったといえる場合に、労働基準法施行規則別表第1の2第3号5の「その他身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病」として取り扱うこと。

第6 複数業務要因災害

労働者災害補償保険法第7条第1項第2号に定める複数業務要因災害による脳・心臓疾患に関しては、本認定基準における過重性の評価に係る「業務」を「二以上の事業の業務」と、また、「業務起因性」を「二以上の事業の業務起因性」と解した上で、本認定基準に基づき、認定要件を満たすか否かを判断する。その上で、前記第4の2ないし4に関し以下に規定した部分については、これにより判断すること。

1 二以上の事業の業務による「長期間の過重業務」及び「短期間の過重業務」の判断

前記第4の2の「長期間の過重業務」及び同3の「短期間の過重業務」に関し、業務の過重性の検討に当たっては、異なる事業における労働時間を通算して評価する。また、労働時間以外の負荷要因については、異なる事業における負荷を合わせて評価する。

2 二以上の事業の業務による「異常な出来事」の判断

前記第4の4の「異常な出来事」に関し、これが認められる場合には、一の事業における業務災害に該当すると考えられることから、一般的には、異なる事業における負荷を合わせて評価することはないものと考えられる。

小学校休業等対応助成金・支援金を再開

小学校休業等対応助成金・支援金を再開

小学校休業等対応助成金・支援金が復活するようです。
以下、次のリンクをそのまま掲載します。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20912.html



新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等により仕事を休まざるをえない保護者の皆様を支援するため、今後、以下のとおり、「小学校休業等対応助成金・支援金」制度を再開するとともに、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みにより、労働者が直接申請することを可能とする予定です。
詳細については、改めて公表いたします。

1.「小学校休業等対応助成金・支援金」制度の再開

令和2年度に実施していた「小学校休業等対応助成金・支援金」制度を再開する予定です。
※令和3年8月1日以降12月31日までに取得した休暇を対象とする予定です。
※現在実施している「両立支援等助成金 育児休業等支援コース 新型コロナウイルス感染症対応特例」は、令和3年7月31日までに取得した休暇が対象となるものとする予定です。

<参考:令和2年度に実施していた小学校休業等対応助成金・支援金の概要>
●支給対象者
・ 子どもの世話を保護者として行うことが必要となった労働者に対し、有給(賃金全額支給)の休暇 (労働基準法上の年次有給休暇を除く。)を取得させた事業主
・ 子どもの世話を行うことが必要となった保護者であって、委託を受けて個人で仕事をする者
●対象となる子ども
新型コロナウイルス感染症への対応として、ガイドライン等に基づき、臨時休業等をした小学校等 (※)に通う子ども
※ 小学校等:小学校、義務教育学校の前期課程、特別支援学校、放課後児童クラブ、幼稚園、保育 所、認定こども園
② ⅰ)~ⅲ)のいずれかに該当し、小学校等を休むことが必要な子ども
ⅰ)新型コロナウイルスに感染した子ども
ⅱ)風邪症状など新型コロナウイルスに感染したおそれのある子ども
ⅲ)医療的ケアが日常的に必要な子ども又は新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクの高い基礎疾患等を有する子ども

2.「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口」の再開

「小学校休業等対応助成金に関する特別相談窓口」を今後全国の都道府県労働局に設置し、労働者からの「(企業に)この助成金を利用してもらいたい」等のご相談内容に応じて、事業主への小学校休業等対応助成金の活用の働きかけを行う予定です。

3.新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みによる申請

昨年度と同様に、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みにより、労働者が直接申請できることとする対応も行う予定です。
 ※ 当該労働者を休業させたとする扱いに事業主が同意することが必要です。
 ※ 休業支援金・給付金は現在のところ11月末までの休業が対象ですが、今後の取扱いについては、雇用情勢等を踏まえて10月中にお示しする予定です。

Uber Eats等自転車を利用貨物運送事業者は、2021年(令和3年)9月1日より労災保険に特別加入が可能に!

Uber Eats等自転車を利用貨物運送事業者は、2021年(令和3年)9月1日より労災保険に特別加入が可能に!

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu_r3.4.1_00001.html

労災保険の特別加入制度とは

労災保険は、労働者が仕事または通勤によって被った災害に対して補償する制度です。労働者以外の方でも、一定の要件を満たす場合に任意加入でき、補償を受けることができます。これを「特別加入制度」といいます。

特別加入のメリット

労災保険に特別加入すると、仕事中のケガ、病気、障害または死亡等をした場合、補償を受けられます。
※貨物運送事業は通勤災害の保護の対象ではありませんが、事業の範囲内で自転車を運転する作業、貨物の積卸作業とこれに直接附帯する行為で被災した場合は業務災害として認定されます。

給付内容

労災保険給付では、以下のような給付金が支給されます。
・ケガ等の治療などの療養費
・ケガ等で休業する際の休業期間の給付
・治療後の障害が残った場合の給付
・お亡くなりになった場合の遺族への給付 等

対象範囲

これまで、自動車及び原動機付自転車を使用して貨物運送事業を行う者を、一人親方等として特別加入の対象範囲としていましたが、令和3年9月1日からは、自転車を使用して貨物運送事業を行う者も、特別加入の対象になります。

既存の特別加入団体における留意事項

すでに旅客または貨物の運送の事業に係る特別加入団体として都道府県労働局⾧より承認を受けている団体は、令和3年9月から自転車を使用して貨物運送事業を行う者を団体の構成員として特別加入手続をすることができます。
ただし、当該団体が講ずべき業務災害の防止に関する措置が、自転車に対応した内容になっていない場合は、変更届の提出に併せて、自転車に対応した業務災害防止措置を記載した書類の提出が必要です。

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労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行等について(基発0803第1号・令和3年8月3日)

労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行等について(基発0803第1号・令和3年8月3日)

「自転車を使用して行う貨物の運送の事業 」「原動機付自転車を使用して行う貨物運送事業」は、UBER EATS等を主眼に置いたものと思われます。



労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行等について

労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第123号)が、令和3年7月20日付けで公布され、令和3年9月1日付けで施行されることとなった。
ついては、下記事項に留意の上、事務処理に遺漏なきを期されたい。
https://www.mhlw.go.jp/content/000821327.pdf



1.基本事項

(1)改正の趣旨及び概要

労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)において、労働者以外の者については労災保険の強制加入の対象とはなっていないが、第83回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会建議(令和元年12月23日)において「・・・社会経済情勢の変化も踏まえ、特別加入の対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるよう見直しを行う必要がある。」とされ、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)に係る衆議院附帯決議において「特別加入制度について、・・・社会経済情勢の変化を踏まえ、その対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合ったものとなるよう必要な見直しを行うこと。」とされ、また、成長戦略実行計画(令和2年7月17日閣議決定)において「フリーランスとして働く人の保護のため、労働者災害補償保険の更なる活用を図るための特別加入制度の対象拡大等について検討する」とされた。
これらを踏まえ、労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会において関係団体からのヒアリング及び当該ヒアリングを踏まえた議論が行われたことを踏まえ、特別加入制度の対象として、下記の事業及び作業を追加又は新設することとした。
・自転車を使用して行う貨物の運送の事業
・情報処理システム(ネットワークシステム(※1)、データベースシステム(※2)及びエンベデッドシステム(※3)を含む。)の設計、開発(プロジェクト管理を含む。)、管理、監査、セキュリティ管理若しくは情報処理システムに係る業務の一体的な企画又はソフトウェア若しくはウェブページの設計、開発(プロジェクト管理を含む。)、管理、監査、セキュリティ管理、デザイン若しくはソフトウェア若しくはウェブページに係る業務の一体的な企画その他の情報処理に係る作業
※1コンピューターネットワークで、コンピューターを有機的に運用できるようにしたシステム。
※2大量のデータを周辺機器に組織的に格納し、コンピューターを介してデータの要求があれば提供し、また適
時データの収集と更新を行うシステム。
※3組み込みOS。家電製品、携帯電話、産業機械などが内蔵するコンピューターを制御するオペレーティングシステム
なお、令和3年9月1日以前に発生した負傷、疾病、傷害又は死亡に起因する業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付については、なお従前の例によるものとする。

(2)実施時期

追加又は新設に関する省令改正は、令和3年9月1日から施行される。

2.旅客又は貨物の運送の事業に係る特別加入者の範囲(労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号。以下「労災則」という。)第46条の17第1号)の拡大

(1)拡大後の加入対象事業及び加入対象者

自転車を使用して行う貨物運送事業(後記2(3)ア)を追加し、当該事業を行う者(以下「自転車配達員」という。)について、特別加入者の範囲に含めることとする。
あわせて、原動機付自転車を使用して行う貨物運送事業について、労災則第46条の17第1号において明確化することとする。
したがって、拡大後の自動車を使用して行う旅客若しくは貨物の運送の事業又は原動機付自転車若しくは自転車を使用して行う貨物の運送の事業に係る特別加入者の範囲については、別表1のとおりであること

(2)自転車配達員の特別加入の手続

自転車配達員の特別加入の手続は、一人親方その他の自営業者とその事業に従事する者及び特定作業従事者に係る特別加入の手続と同様とする(昭和40年11月1日付け基発第1454号(以下「基本通達」という。)の記の第2の4、6(2)、7及び8参照)ほか、平成25年3月1日付け基発0301第1号に準じて取り扱うこと。また、後記4及び5によること。

(3)特別加入対象者の要件及び特別加入の承認等に関する留意点について

ア 貨物運送事業とは、他人の需要に応じて、有償で、貨物を運送する事業であること。
イ 貨物運送事業に係る特別加入申請の際には当該業務に係る許可書等の関係書類を添付することとしている(昭和49年2月13日付け基発第72号及び昭和56年3月31日付け基発第191号)が、自転車配達員は、貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第36条の貨物軽自動車運送事業の届出(以下「軽貨物運送の届出」という。)の対象となっていないことから、法令に基づく届出等は特別加入の承認の要件にはならない。当該業務に係る許可書等の関係書類がない者については、その使用する車両種別の全てを申請書又は変更届の「業務又は作業の具体的内容」欄に記載させ、その申請書又は変更届に記載のある車両を使用する場合のみ業務遂行性を認めること。その際、主に使用する車両について明記すること。
ウ 自転車配達員以外の旅客又は貨物の運送の事業に係る特別加入申請についても、本通達発出以後、上記イと同様の取り扱いとすることとし、すでに特別加入者として承認されている者が新たに原動機付自転車又は自転車を使用する場合は変更届を出させること。

(4)業務災害防止措置の作成及び提出

ア 新たに旅客又は貨物の運送の事業に係る特別加入の承認を受ける場合
自転車配達員については、軽貨物運送の届出等の対象となっていないため、特別加入の申請をしようとする団体は、自転車配達員に係る業務災害の防止に関し、当該団体が講ずべき業務災害の防止に関する措置及び特別加入者が守るべき事項(以下「業務災害防止措置」という。)を定め、その内容を記載した書類を申請書に添付する必要があること(労災則第46条の23第2項及び第3項)。なお、業務災害防止措置の例は別紙1を参考とすること。
イ 既に旅客又は貨物の運送の事業に係る特別加入の承認を受けている場合
既に旅客又は貨物の運送の事業に係る特別加入の承認を受けている団体が、新たに自転車配達員を特別加入させる場合については、特別加入に関する変更届の提出に併せて、上記アの業務災害防止措置を記載した書類を提出させること。

(5)災害の認定基準

ア 自転車配達員の事業の範囲内において自転車を運転する作業、貨物の積卸作業及びこれに直接附帯する行為を行う場合について業務遂行性を認めること。
なお、当該判断にあたっては、契約や仲介事業者への登録の状況などにより業務内容を把握して業務遂行性を確認すること。
(注)自転車配達員を含む、仲介事業者を利用した飲食物等のデリバリーサービスに固有の「直接附帯する行為」としては、例えば、自宅から配送物を受け取る店舗や配送スポット(注文が集まりやすい地域)に移動する行為が該当するが、その移動経路、受発注の状況(アプリの使用等)、被災時の服装、所持品等の外形等を踏まえ業務遂行性を十分に確認したうえで業務上外の判断をすること。
イ 自転車配達員として特別加入している者であっても、他の事業者との間に使用従属関係が存在し労働者性が認められる場合が考えられるので、請負等の契約形態のみをもって労働者性の判断をすることのないよう留意すること。
(注)なお、労働者性の判断に当たっては、平成19年9月27日付け基発第4号「バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について」(参考1及び2)を参考にすること。ウ自転車配達員に係る特別加入団体に対しては、当該団体は、団体の構成員たる特別加入者が被災した場合、当該加入者が被災した配達業務に係る仲介事業者又は店舗等が業務上外の認定に係る調査に協力するよう、働きかけることについて周知すること。
(注)例えば仲介事業者や店舗等にアプリの履歴等自転車配達員の活動履歴を提供させる等、調査に協力させること(労災保険法第49条の3)。
エ 自転車配達員を含む旅客又は貨物の運送の事業に従事する者の通勤災害については、その住居と就業の場所との間の往復の実態が明確でないこと等からみて、労災保険の保護の対象とはしないものであること(労災保険法第35条第1項、労災則第46条の22の2)。

3.ITフリーランスに係る特別加入の新設(労災則第46条の18第8号関係)

(1)加入対象作業

情報処理システム(ネットワークシステム、データベースシステム及びエンベデッドシステムを含む。)の設計、開発(プロジェクト管理を含む。)、管理、監査、セキュリティ管理若しくは情報処理システムに係る業務の一体的な企画又はソフトウェア若しくはウェブページの設計、開発(プロジェクト管理を含む。)、管理、監査、セキュリティ管理、デザイン若しくはソフトウェア若しくはウェブページに係る業務の一体的な企画その他の情報処理に係る作業(以下「情報処理に係る作業」という。)

(2)加入対象者

労働者以外の者であって、(1)に係る作業を行う者(この通達において「ITフリーランス」という。)を加入対象者とすること。具体的には別表2の職種及びその他類似の情報処理に係る作業に従事する者が想定されるが、当該特別加入者の承認に当たっては、職種を限定するものではないため、業務内容等の実態をみて判断すること。
ただし、別表2以外のPCを利用した一般的なデスクワーク業務を作業として行う場合やいわゆるIT講師と呼ばれる職種については、その作業様態が(1)とは異なるため、加入対象とはならない。

(3)保険料率及び特定業種区分

第2種特別加入保険料率は1000分の3、作業の種類の番号は特23とされた(労働保険の保険料の徴収に関する法律施行規則(昭和47年労働省令第8号)第23条及び別表第5)。

(4)特別加入の手続

特別加入の手続は、一人親方等及び特定作業従事者に係る特別加入の手続と同様とする(基本通達の記の第2の5、6(2)、7及び8参照)ほか、後記4及び5によること。

(5)災害の認定基準

ア 業務災害の認定
(ア)業務遂行性は、次の行為を行う場合に認めるものとする。
a契約に基づき報酬が支払われる作業(以下「契約による作業」という。)のうち(1)に規定する作業及びこれに直接附帯する行為を行う場合
(注1)「情報処理に係る作業」とは、ITフリーランスが行う作業のうち、依頼を受け契約を締結してから最終的な成果物の提供に至るまでに必要となる作業をいう。ただし、自宅等で行う場合については、特に私的行為、恣意的行為ではないことを十分に確認できた場合に業務遂行性を認めるものとする。
(注2)「直接附帯する行為」としては、例えば、契約を受注するための営業行為、契約締結に付随する行為及びその事務処理等が該当する。
b契約による作業に必要な移動行為を行う場合(通勤災害の場合を除く)
(例)契約を締結するための事前打ち合わせに係る移動、発注業者(エージェント(仲介業者)含む)からの指示による別の作業場所への移動等
(イ)業務起因性は、労働者の場合に準ずること。

イ 通勤災害の認定
ITフリーランスの住居と就業の場所との間の往復の実状等から、通勤災害についても労災保険の対象とし、通勤災害の認定については、労働者の場合に準ずること。

4.新設した事業・作業に係る共通事項及び当面の事務処理について

(1)共通事項

ア 保険給付の請求
保険給付に関する事務は、当該特別加入団体の主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長が行うこと(労災則第1条第3項)。

イ 保険給付の支給制限
保険給付の支給制限については、昭和40年12月6日付け基発第1591号の記の第2によること。

ウ 特別加入団体及び特別加入者の申請受理の特例
令和3年9月1日より前に特別加入申請書(「加入を希望する日」が令和3年9月1日以降とされているものに限る。)及び当該団体に係る関係書類の提出があった場合は、これを受理することとし、令和3年9月1日以降で特別加入団体が設立したものについては、当該設立日以降に特別加入者の承認を行うこと。

(2)当面の事務処理

ア 労働者性に係る周知
特別加入申請書の提出があった場合は、特別加入団体に対し、形式上は「請負」や「委任」の契約形態であったとしても、実態として労働者と同様の働き方をする場合には、労働者として保護される旨を積極的に周知すること。その際、令和3年4月14日付け事務連絡「実態として労働者である方にかかる特別加入団体等向け周知パンフレットの配布について」に添付したリーフレットを積極的に活用すること。
イ 特別加入団体における被災状況等の把握に係る周知
団体の構成員たる特別加入者が被災した場合は、特別加入団体において、特別加入者から聞き取りを行う等により災害発生状況の把握に努め、実態を踏まえた災害防止措置を行うよう積極的に周知すること。
ウ 特別加入システム等における機械処理
特別加入システム及び労災サブシステムにおける機械処理については別途通知する。

5 中小事業主の特別加入と一人親方及び特定作業従事者の特別加入の関係

(1)中小事業主の特別加入と一人親方の特別加入の関係

ア 年間100日以上労働者を使用(見込み含む)しているか否かによって労災保険法第33条第1号に基づく中小事業主として特別加入するか、労災保険法第33条第3号及び労災則第46条の17各号に基づく一人親方として特別加入するか判断されるため、基本的に同一の事業については重複加入の問題は生じない。
イ 誤って重複加入した場合は、実態としていずれの特別加入者たる地位が正当か確認し、誤って手続した特別加入に係る地位は自動消滅する。
したがって、中小事業主の特別加入の申請を受け付ける際には、同一の事業について特別加入予定者が一人親方として特別加入していないか確認のうえ、同一の事業について一人親方として特別加入している者がある場合は、必ずその脱退の申請又は届出を同時に提出するよう指導すること。
また、一人親方の特別加入の申請を受け付ける際には、同一の事業について特別加入予定者が中小事業主として特別加入していないか確認のうえ、同一の事業について一人親方等として特別加入している者がある場合は、必ずその脱退の申請又は届出を同時に提出するよう指導すること。

(2)中小事業主の特別加入と特定作業従事者の特別加入の関係

ア 中小事業主の特別加入と特定作業従事者の特別加入とは、それぞれの加入要件を満たせば、本人の選択によりいずれにも特別加入できることとなるが、重複加入は認められない。したがって、中小事業主等として特別加入している者が、同一の作業に関して特定作業従事者として特別加入する場合(あるいは逆の場合)であって、その業務遂行性が重複する場合は、委託解除届を確認する等、重複期間が生じないように留意すること。

イ 誤って重複加入した場合は、先に加入した特別加入が優先し、後から手続した特別加入は無効となることに十分留意し、特定作業従事者の特別加入の申請を受け付ける際には、特別加入予定者が中小事業主等として特別加入していないか確認の上、中小事業主として特別加入している者がある場合は、必ずその脱退の申請又は届出を同時に提出するよう指導すること。
また、中小事業主の特別加入の申請を受け付ける際には、特別加入予定者が同一の作業について特定作業従事者として特別加入していないか確認の上、同一の作業について特定作業従事者として特別加入している者がある場合は、必ずその脱退の申請又は届出を同時に提出するよう指導すること。

6.関係通達の改正

(1)昭和40年11月1日付け基発第1454号通達の改正
別添1のとおり。
(2)昭和40年12月6日付け基発第1591号通達の改正
別添2のとおり。
(3)平成25年3月1日付け基発0301第1号通達の改正
別添3のとおり。

別紙1 業務災害防止規則例

○○特別加入団体
(目的)
第1条 自転車配達員及び○○特別加入団体(以下「団体」という。)は、この規則を遵守して、 個人貨物運送の労働災害を防止し、安全確保に努めるものとする。
(定義)
第2条 この規則において、自転車とは、道路交通法昭和35年法律第105号)第2条第1項第11号 イに規定する自転車をいう。
2 この規則において、自転車を使用して行う貨物運送事業とは、自転車を使用して他人の需要に 応じて、有償で、貨物を運送する事業を行うことをいう。
3 この規則において、自転車配達員とは、前項の自転車を使用して行う貨物運送事業を、労働者 を使用しないで行うことを常態とする者及びその者に従事する労働者以外の者をいう。 (自転車を使用して行う貨物運送事業が行えない場合)
第3条 自転車配達員は、身心に重大な欠陥があるため、安全性を守り得ない場合には、自転車を 使用して行う貨物運送事業を行えないものとする。
(安全管理の指導)
第4条 自転車配達員は、行政庁等が行う自転車を使用して行う貨物運送事業の安全確保に関する 指導を受けるものとする。
2 団体は、自転車配達員が、積極的に行政庁等が行う自転車を使用して行う貨物運送事業の安全 確保に関する指導を受けるよう機会を提供するとともに、自らも安全確保に関する研修等の機会 を用意する。
(定期健康診断)
第5条 自転車配達員は、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を 受けるものとする。
一 既往症及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰検査
五 血圧の測定
六 貧血検査
七 肝機能検査
八 血中脂質検査
九 血糖検査
十 尿検査
十一 心電図検査
2 前項各号に掲げる健康診断の項目のうち、20歳以上の者に係る身長の検査、腹囲の検査、胸部 エックス線検査によって病変の発見されない者又は結核発病のおそれがないと診断された者に 係る喀痰検査及び35歳未満又は36歳以上40歳未満の者に係る貧血検査、肝機能検査、血中脂質検
査並びに心電図検査については、医師が必要でないと認めるときは、省略することができるもの とする。
(業務時の服装)
第6条 自転車配達員は、自転車に頭髪又は被服が巻き込まれることのないよう適当な服装等、災 害防止に必要な保護具を着用するものとする。
道路交通法の遵守)
第7条 自転車配達員は、その使用する自転車が道路交通法に定める道路上を運行する場合には、 同法を遵守して道路における危険を防止し、その他の交通の安全と円滑を図るものとする。 2 自転車配達員は、その使用する自転車が道路交通法第63条の9の規定による制動装置を備えて いることを確認するとともに、車両の登録整備等について適切に対応するものとする。 (転倒、スリップ等の防止)
第8条 自転車配達員は、自転車の点検整備又は車輪の交換を行う場合は、地面の傾斜に注意し、 これらの作業中に自転車の転倒による危険を防止するものとする。
(貨物の運送、積卸し)
第9条 自転車配達員は、自転車で貨物を運送する場合に、過剰な重量での積載又は積荷を片側に 偏重させての積載はしないものとする。
2 自転車配達員は、貨物の積卸しを行う場合には、路面の傾斜、積荷の状態等に注意して、自転 車の転倒又は貨物の転落による危険を防止するものとする。
(輸送の安全性の向上)
第10条 自転車配達員は、輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性 の向上に努めるものとする。
(過労運転の防止)
第11条 自転車配達員は、適切な休憩時間又は睡眠時間を確保し、過労運転の防止に努めること。 2 自転車配達員は、酒気を帯びた状態で自転車に乗務しないものとする。 (乗務等の記録)
第12条 団体は、仲介事業者に対し、自転車の乗務について、当該乗務を行った事業者ごとに次に 掲げる事項を記録し、かつ、その記録を1年間保存するよう求めるものとする。 一 運転者の氏名
二 乗務の開始及び終了の地点及び日時並びに主な経過地点及び乗務した距離 三 休憩又は睡眠をした場合にあっては、その地点及び日時
道路交通法第67条第2項に規定する交通事故(第13条において「事故」という。)又は著し い運行の遅延その他の異常な状態が発生した場合にあっては、その概要及び原因 2 自転車配達員は、自転車の乗務について、当該乗務を行った事業者ごとに次に掲げる事項を記録 し、かつ、その記録を1年間保存するものとする。
一 運転者の氏名
二 乗務の開始及び終了の地点及び日時並びに主な経過地点及び乗務した距離 三 休憩又は睡眠をした場合にあっては、その地点及び日時
道路交通法第67条第2項に規定する交通事故(第13条において「事故」という。)又は著しい 運行の遅延その他の異常な状態が発生した場合にあっては、その概要及び原因
(事故の記録)
第13条 団体は、仲介事業者に対し、自転車に係る事故が発生した場合には、次に掲げる事項を記 録し、その記録を3年間保存するよう求めるものとする。
一 運転者の氏名
二 事故の発生日時
三 事故の発生場所
四 事故の当事者(運転者を除く。)の氏名
五 事故の概要(損害の程度を含む。)
六 事故の原因
七 再発防止対策
2 自転車配達員は、自転車に係る事故が発生した場合には、次に掲げる事項を記録し、その記録 を3年間保存するものとする。
一 運転者の氏名
二 事故の発生日時
三 事故の発生場所
四 事故の当事者(運転者を除く。)の氏名
五 事故の概要(損害の程度を含む。)
六 事故の原因
七 再発防止対策
(点検整備)
第14条 自転車配達員は、自転車の点検及び整備について、次に掲げる事項を遵守するものとする。 一 自転車の構造及び装置並びに運行する道路の状況、走行距離その他自転車の使用の条件を考 慮して、定期に行う点検の基準を作成し、これに基づいて点検をし、必要な整備をすること。 二 前号の点検及び整備をしたときは、点検及び整備に関する記録簿に記載し、これを保存する こと
(公衆の利便を阻害する行為の禁止等)
第15条 自転車配達員及び仲介事業者は、双方ともに不当な運送条件によることを求め、その他公 衆の利便を阻害する行為をしてはならない。

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歩合給がある場合の雇用調整助成金の助成額算定方法が令和3年9月1日以降の休業から変更

歩合給がある場合の雇用調整助成金の助成額算定方法が令和3年9月1日以降の休業から変更

判定基礎期間の初日が令和3年9月1日以降の休業より、タクシードライバーや営業等、賃金に歩合給がある場合は助成金の算定方法が変更になります。
休業手当は歩合給を除いた固定的な賃金に休業手当を支給率を乗じて計算されることが多く(ただし、歩合給を含んで計算される平均賃金の60%以上)、労使協定で定めた支給率に基づいて助成金を支給すると支給額が不均衡に高くなることがあるための措置と考えられます。

例えば、基本給20万+歩合給という賃金体系では、休業1日当たりの休業手当として20万円/月所定労働日数を支給すれば、従来の雇用調整助成金の申請では、100%の休業手当を支給したことになります。しかし、前年度の賃金総額(当然、歩合給を含む)に基づいて計算される平均賃金と比較すると、100%相当とは言えません。
なぜなら、前年の雇用保険被保険者数の平均1名、賞与なし、前年度の基本給総額240万円(20万×12か月)・歩合給の総額24万円、年所定労働日数240日とすれば、
 雇用調整助成金上の平均賃金=(240万円+24万円)/(1名×240日)=11,000円
となります。100%相当と言うのであれば、歩合給も含んだ11,000円を基準とすべきです。
そこで、休業手当=20万/20日=10,000円の場合の休業手当支給率を
 10,000円/11,000円=90.9%≒91%
とし、これを基に助成金額を計算するように変更するものです。

ただし、賃金総額に賞与が含まれている場合は、休業手当支給率が不相応に低くなります。この点が疑問なので、参考様式等が公開されたら、再度考察してみたいと覆います。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000821251.pdf


対象となる事業主

〇給与に歩合給(出来高払)制が含まれている労働者を休業等させた場合、対象となります。
※該当する場合は、厚生労働省HPで公開予定の参考様式等を提出する必要があります。

変更内容

判定基礎期間の初日が令和3年9月1日以降の休業より※、助成額算定に用いる休業手当支払率(雇用調整助成金助成額算定書の「(5)休業手当等の支払い率」)を以下により算定する方法に変更します。
※「初日が令和3年9月1日以降の休業より」とは:例えば、判定基礎期間(通常は、賃金計算期間)が毎月21日から翌月20日であれば、令和3年9月21日から同10月20日の判定基礎期間における休業から、本変更が行われるという意味です。
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〇また、この休業手当支払率は、6か月経過ごとに見直しが行われます。
・今回の変更は、助成額が実際に支払われた休業手当額に応じた額になるようにするものです。
・また、休業手当額は月ごとに変動する可能性があることから、このような変動をできるだけ助成額に反映させるため、休業手当支払率は6カ月経過ごとに見直しが行われます。

具体的な算定方法・手続きなど

〇判定基礎期間の初日が令和3年9月1日以降の休業について、雇用調整助成金助成額算定書の「(5)休業手当等の支払い率」は、末尾を参考に、上記の変更内容に基づいて算定した率を当該算定書に記入して下さい。
〇この見直し月の翌月以降の申請の際は、上記の算定書の写しを添付して下さい。 また、6か月経過後の見直しがなされた場合は、その見直し後の算定書を添付し て下さい。

雇用調整助成金助成額算定書

【計算方法の例】
以下の雇用調整を行った場合
①休業:休業手当額7,500円(基本給分80%、歩合給分0%)、全日休業60人日、短時間休業12人日
②教育訓練:教育訓練時の賃金9,375円(基本給分100%、歩合給分0%)、教育訓練10人日
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【その他】
〇今回の変更後に、実際に支払われた休業手当額が助成額を上回る月がある場合には、当該月については、同月の休業手当額に基づき、休業手当支払率を算定し直すことができ、申請の際に、実際に支払われた休業手当額が確認できる資料の提出が必要となるようです。
○該当する場合に提出する必要がある参考様式は近日中に厚生労働省HPに公開される予定です。
〇なお、従業員が概ね20人以下の事業主におかれては、実際に支払った休業手当等の額により申請できる「小規模事業主用様式」をご利用いただけます。

「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」の公表

公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関し て、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針 (令和3年8月 20 日内閣府告示第 118 号 )

消費者庁より、本日、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」を公表されました。
消費者庁は、改正法の施行(令和4年6月1日に向けて準備を進めています)準備として、本指針の下、各事業者が改正後の公益通報者保護法第11条第1項及び第2項に規定する措置を講じることができるように、様々な機会を捉えて本指針の周知等を行う予定のようです。

https://www.caa.go.jp/notice/entry/025264/

第1 はじめに

この指針は、公益通報者保護法(平成 16 年法律第 122 号。以下「法」という。)第 11 条第4項の規定に基づき、同条第1項に規定する公益通報対応業務従事者の定め及び同 条第2項に規定する事業者内部における公益通報に応じ、適切に対応するために必要な 体制の整備その他の必要な措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な 事項を定めたものである。

第2 用語の説明

公益通報」とは、法第2条第1項に定める「公益通報」をいい、処分等の権限を有す る行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も含む。
公益通報者」とは、法第2条第2項に定める「公益通報者」をいい、公益通報をした 者をいう。
「内部公益通報」とは、法第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報をいい、通 報窓口への通報が公益通報となる場合だけではなく、上司等への報告が公益通報となる 場合も含む。
「事業者」とは、法第2条第1項に定める「事業者」をいい、営利の有無を問わず、一 定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行を行う法人その他の団体及び事 業を行う個人であり、法人格を有しない団体、国・地方公共団体などの公法人も含まれる。
「労働者等」とは、法第2条第1項に定める「労働者」及び「派遣労働者」をいい、そ の者の同項に定める「役務提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者をいう。 「役員」とは、法第2条第1項に定める「役員」をいい、その者の同項に定める「役務 提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者をいう。
「退職者」とは、労働者等であった者をいい、その者の法第2条第1項に定める「役務 提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者をいう。
「労働者及び役員等」とは、労働者等及び役員のほか、法第2条第1項に定める「代理 人その他の者」をいう。
「通報対象事実」とは、法第2条第3項に定める「通報対象事実」をいう。 「公益通報対応業務」とは、法第 11 条第1項に定める「公益通報対応業務」をいい、 内部公益通報を受け、並びに当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその 是正に必要な措置をとる業務をいう。
「従事者」とは、法第 11 条第1項に定める「公益通報対応業務従事者」をいう。 「内部公益通報対応体制」とは、法第 11 条第2項に定める、事業者が内部公益通報に 応じ、適切に対応するために整備する体制をいう。
「内部公益通報受付窓口」とは、内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口をいう。 「不利益な取扱い」とは、公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して 行う解雇その他不利益な取扱いをいう。
「範囲外共有」とは、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有す る行為をいう。
「通報者の探索」とは、公益通報者を特定しようとする行為をいう。

第3 従事者の定め(法第 11 条第1項関係)

1 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通 報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝 達される者を、従事者として定めなければならない。
2 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就く ことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。

第4 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第 11 条第2項関係)

1 事業者は、部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備として、次の措置をとら なければならない。
(1) 内部公益通報受付窓口の設置等
内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査 をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。
(2) 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務 に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性 を確保する措置をとる。
(3) 公益通報対応業務の実施に関する措置
内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合 を除いて、必要な調査を実施する。そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法 令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是 正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能 していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。
(4) 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をと る。

2 事業者は、公益通報者を保護する体制の整備として、次の措置をとらなければならな い。
(1) 不利益な取扱いの防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をと るとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をと り、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対し て、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その 他適切な措置をとる。
(2) 範囲外共有等の防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、 範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。 ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高 い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うこ とを防ぐための措置をとる。
ハ 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役 員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲 戒処分その他適切な措置をとる。

3 事業者は、内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置として、次の措置 をとらなければならない。
(1) 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
イ 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対し て教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取 扱いについて、特に十分に教育を行う。
ロ 労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組 みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
(2) 是正措置等の通知に関する措置
書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対 象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報 に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘 密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通 報を行った者に対し、速やかに通知する。
(3) 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置 イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。 ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通 報対応体制の改善を行う。
ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、 適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支 障がない範囲において労働者等及び役員に開示する。
(4) 内部規程の策定及び運用に関する措置
この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規 程の定めに従って運用する。


公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第 51 号)に関するQ&A(改正法Q&A)令和2年8月版より抜粋
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_200828_0001.pdf

Q2 改正後の法第 11 条(事業者がとるべき措置)(内部通報対応体制整備義務の内容)について詳しい内容を教えてほしい。

Q2-1 事業者は何を行えば、公益通報対応業務従事者を定めたことになり、具体的にどのような措置を講じれば体制の整備その他の必要な措置をとったことになるのか。

A 改正後の法では、事業者に対し、新たに、公益通報対応業務従事者を定める義務(改正後の法第 11 条第1項)及び内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正後の法第 11 条第2項)を課しています。
前者の公益通報対応業務従事者の定め方については、個別に担当者を指定することのほか、内部規程において一定のポストに従事する者を定めるなどの方法が考えられます。
後者の体制の整備その他の必要な措置の内容は、現時点では、例えば、通報受付窓口の設定、社内調査・是正措置、公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止や公益通報者に関する情報漏えいの防止、これら措置に関する内部規程の整備・運用等を想定しています。
公益通報対応業務従事者の定め方や、体制の整備その他の必要な措置の内容については、今後、指針を策定し、事業者の方が御準備いただくお時間を十分に確保できるだけの時期にお示しする予定です。

Q2-2 当社ではグループ会社としての通報窓口を設けているが、グループ内には従業員が 300 人を超える関係会社が複数社ある。この場合にグループとして1つの通報窓口を設ければよいのか、関係会社ごとに通報窓口を設けなければならないのか知りたい。

A 改正後の法では、事業者に対し、新たに、公益通報対応業務従事者を定める義務(改正後の法第 11 条第1項)及び内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正後の法第 11 条第2項)を課しています(常時使用する労働者の数が 300 人以下の事業者については、努力義務となります(改正後の法第 11 条第3項)。)。
改正後の法においては、独立した法人格を有する事業者ごとにこれら義務を課していることから、グループ全体ではなく、関係会社ごとに改正法に基づく通報窓口を整備する義務を果たしていただくことが必要になります。
なお、例えば、グループ会社全体としての体制整備の一環として、子会社の従業員が行う通報の窓口は親会社とされている場合もあると考えられます。
子会社が、自らの内規において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、体制整備義務を履行していると評価できるものと考えられます。
より具体的な考え方については、今後お示ししていく予定です。

Q2-3 常時使用する労働者の数が 300 人を超える(※つまり 301 人以上)事業者に対し、内部通報対応体制整備義務が課されるが、この 300 人には、パートタイマー、役員等も含まれるのか。

A 「常時使用する労働者」とは、常態として使用する労働者を指すことから、パートタイマーであっても、繁忙期のみ一時的に雇い入れるような場合を除いて含まれます。
役員については、労働者ではないことから含まれません。