社会保険労務士川口正倫のブログ

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新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を実施します

新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を実施します

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例を実施します

さらに追加措置が取られています↓
sr-memorandum.hatenablog.com


雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い、労働者
の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。

特例の対象となる事業主

日本・中国間の人の往来の急減により影響を受ける事業主であって、中国(人)関係の売上高や客数、件数が全売上高等の一定割合(10%)以上である事業主が対象です。
<「影響を受ける」事業主の例>
・中国人観光客の宿泊が無くなった旅館・ホテル
・中国からのツアーがキャンセルとなった観光バス会社等
・中国向けツアーの取扱いができなくなった旅行会社
※総売上高等に占める中国(人)関係売上高等の割合は、前年度または直近1年間(前年度が12か月ない場合)の事業実績により確認しますので、初回の手続の際に、中国(人)関係売上高等の割合を確認できる書類をご用意ください。

特例措置の内容

休業等の初日が、令和2年1月24日から令和2年7月23日までの場合に適用します。

① 休業等計画届の事後提出を可能とします。
通常、助成対象となる休業等を行うにあたり、事前に計画届の提出が必要ですが、令和2年1月24日以降に初回の休業等がある計画届については、令和2年3月31日までに提出すれば、休業等の前に提出されたものとします。

② 生産指標の確認対象期間を3か月から1か月に短縮します。
最近1か月の販売量、売上高等の事業活動を示す指標(生産指標)が、前年同期に比べ10%以上減少していれば、生産指標の要件を満たします。

③ 最近3か月の雇用指標が対前年比で増加していても助成対象とします。
通常、雇用保険被保険者及び受け入れている派遣労働者の雇用量を示す雇用指標の最近3か月の平均値が、前年同期比で一定程度増加している場合は助成対象となりませんが、その要件を撤廃します。

④ 事業所設置後1年未満の事業主についても助成対象とします。
令和2年1月24日時点で事業所設置後1年未満の事業主については、生産指標を令和元年12月の指標と比較し、中国(人)関係売上高等の割合を、事業所設置から初回の計画届前月までの実績で確認します。

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「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2及び第47条の3の規定の運用について」の一部改正について(令2.2.10雇均発0210第4号)

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2及び第47条の3の規定の運用について」の一部改正について(令2.2.10雇均発0210第4号)

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T200213M0060.pdf


労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「派遣法」という。)第47条の2(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の適用に関する特例)及び第47条の3(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の適用に関する特例)については、平成28年8月2日付け雇児発0802第2号「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2及び第47条の3の規定の運用について」(以下「解釈通達」という。)により、その趣旨及び内容を示し、これに基づく行政指導等を指示してきたところである。
今般、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号。以下「改正法」という。)が令和元年6月5日に公布され、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)に職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等に関する規定が、派遣法に当該規定の適用に関する特例に関する規定(第47条の4)が新設され、令和2年6月1日から施行することとされた。これに伴い、解釈通達の一部を別紙の新旧対照表のとおり改め、同日から適用することとしたので、その円滑な実施を図るよう配慮されたい。

(以下、改正後の通達のみを掲載する。)

改正後平成28年8月2日付け雇児発0802第2号「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2及び第47条の3の規定の運用について」

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2から第47条の4までの規定の運用について労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「派遣法」という。)第47条の2(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の適用に関する特例)の規定については、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第47条の2の規定の施行について」(平成11年11月17日女発第324号)においてその具体的な取扱いを示してきた。
平成28年3月31日、雇用保険法等の一部を改正する法律(平成28年法律第17号)の成立により、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」という。)に職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の規定が、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育介法」という。)に職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の規定が新設されるとともに、派遣法第47条の2の規定の改正、同法第47条の3(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の適用に関する特例)の規定の新設が行われ、これらの規定は、平成29年1月1日から施行されている。
今般、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号。以下「改正法」という。)が成立し、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労推法」という。)に職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の規定が新設されるとともに、均等法、育介法及び労推法にそれぞれ職場における性的な言動に起因する問題、妊娠、出産等に関する言動に起因する問題、育児休業等に関する言動に起因する問題及び優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する事業主の責務に関する規定が新設され、これらの規定の適用に関する特例の規定が派遣法に新設され、令和2年6月1日から施行することとされたところである。
改正法による改正後の派遣法第47条の2から第47条の4までの規定についての具体的な取扱いは下記のとおりであるので、その円滑な実施を図るよう配慮されたい。

1 労働者派遣の定義

(略)

2 特例の適用を受ける労働者派遣の役務の提供を受ける者の範囲

派遣法第47条の2から第47条の4までの特例に基づき、均等法第9条第3項、第11条第1項、第11条の2第2項、第11条の3第1項、第11条の4第2項、第12条及び第13条第1項の規定、育介法第10条(同法第16条、第16条の4及び第16条の7において準用する場合を含む。)、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2、第25条第1項及び第25条の2第2項の規定並びに労推法第30条の2第1項及び第30条の3第2項の規定が、労働者派遣契約に基づき労働者派遣の役務の提供を受ける者(以下「派遣先の事業主」という。)もまた当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして適用されるものであること。
なお、均等法第32条により、国家公務員及び地方公務員については均等法第2章第1節、第13条の2、同章第3節、第3章、第29条及び第30条の規定は適用されず、また、一般職の国家公務員等については均等法第2章第2節(第13条の2を除く。)の規定は適用されないが、国に労働者派遣されている派遣労働者については派遣法が適用されることから、当該労働者派遣の役務の提供を受ける国についても当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、均等法第9条第3項、第11条第1項、第11条の2第2項、第11条の3第1項、第11条の4第2項、第12条及び第13条第1項の適用があること。
また、育介法第61条第1項により、国家公務員及び地方公務員については育介法第2章から第9章まで、第30条、第11章、第53条、第54条、第56条、第56条の2、第60条、第62条から第64条まで及び第66条の規定は適用されないが、国に労働者派遣されている派遣労働者については派遣法が適用されることから、当該労働者派遣の役務の提供を受ける国についても当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、育介法第10条(同法第16条、第16条の4及び第16条の7において準用する場合を含む。)、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2、第25条第1項及び第25条の2第2項
の適用があること。
また、労推法第38条の2により、国家公務員及び地方公務員については労推法第6条から第9条まで、第6章(第27条を除く。)、第30条の4から第30条の8まで、第33条第1項(第8章の規定の施行に関するものに限る。)及び第2項並びに第36条第1項の規定は適用されず、また、一般職の国家公務員等については労推法第30条の2及び第30条の3の規定は適用されないが、国に労働者派遣されている派遣労働者については派遣法が適用されることから、当該労働者派遣の役務の提供を受ける国についても当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、労推法第30条の2第1項及び第30条の3第2項の規定の適用があること。

3 適用に関する特例

⑴派遣法第47条の2の規定の概要

イ 派遣先の事業主の指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、派遣先の事業主もまた当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、均等法第9条第3項、第11条第1項、第11条の2第2項、第11条の3第1項、第11条の4第2項、第12条及び第13条第1項の規定が適用され、その結果派遣先の事業主についても均等法第9条第3項に基づく不利益取扱いの禁止、第11条第1項、第11条の3第1項、第12条及び第13条第1項の規定に基づく措置義務並びに第11条の2第2項及び第11条の4第2項の規定に基づく責務が課されるものであること。

ロ 均等法第9条第3項、第11条第1項、第11条の2第2項、第11条の3第1項、第11条の4第2項、第12条及び第13条第1項の規定については派遣法第47条の2に規定する特例に基づき、派遣元の事業主と派遣先の事業主の双方が当該規定に基づく義務を負うが、この義務は、派遣元の事業主においては派遣労働者を雇用し当該労働者を派遣先の事業主に派遣するという立場から、派遣先の事業主においては派遣労働者の指揮命令を行うという立場から、それぞれが派遣労働者について不利益取扱いの禁止、措置義務及び責務を別個に負うものであること。
なお、均等法第11条第2項、第11条の3第2項、第17条第2項及び第18条第2項の労働者に対する不利益な取扱いの禁止については、派遣労働者も対象に含まれるものであり、派遣元の事業主のみならず、派遣先の事業主もまた、当該者に派遣労働者が職場におけるセクシュアルハラスメント又は妊娠、出産等に関するハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣労働者に対する不利益な取扱いを行ってはならないものであること。

⑵均等法上の具体的な責務

イ 妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止(均等法第9条第3項関係)
(略)

ロ 職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(均等法第11条第1項関係)
(イ)職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置の内容については、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号。以下「セクハラ防止指針」という。)」4において示しているので、これに則って適切に措置を講じなければならないこと。
(ロ)セクハラ防止指針4の⑴の「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」については、実際に労働者派遣が行われた場合においては、派遣労働者が実際に労務提供を行うのは派遣先事業所においてであり、作業の指揮命令及びそれに伴う管理を行っているのも派遣先の事業主であることから、派遣元の事業主は、派遣先事業所におけるセクシュアルハラスメントに関する事業主の方針、相談体制等派遣先の事業主が雇用管理上講じている措置内容を事前に派遣労働者に周知等しておくことが望ましいこと。
(ハ)セクハラ防止指針4の⑵の「相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、派遣先事業所に派遣した派遣労働者等からの相談についても対応することができる体制を整えておく等の措置を講ずることが挙げられること。
(ニ)セクハラ防止指針4の⑶の「職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、次に掲げる措置を講ずることが挙げられること。
① 派遣労働者から派遣先事業所においてセクシュアルハラスメントを受けた旨の相談又は苦情を受けた場合には、派遣先の事業主等に対して当該事案に関する事実関係の調査や再発防止のための措置等の適正な対処を申し入れる等派遣先事業所における担当部門と連携等をとりつつ円滑な対応を図ること。
② 派遣労働者が派遣先事業所においてセクシュアルハラスメントを行った場合において、派遣先の事業主等から相談又は苦情を受けた場合には、事案の内容や状況に応じ、他の労働者を派遣する等の雇用管理上の措置や就業規則等に基づく措置を講ずること。
(ホ)セクハラ防止指針4の⑷の「⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置」については、労働者のプライバシーを保護すること及び当該労働者が不利益取扱いを受けないようにすること等については、労働者派遣が行われる場合においては、派遣先の事業主においても措置しなければならないこと。

ハ 職場における性的な言動に起因する問題に関する事業主の責務(均等法第11条の2第2項関係)
職場における性的な言動に起因する問題に関する事業主の責務については、セクハラ防止指針3の⑴において示しているので、これに則って適切に必要な配慮を行うよう努めなければならないこと。

ニ 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(均等法第11条の3第1項関係)
(イ)職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置の内容については、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成28年厚生労働省告示第312号。以下「妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針」という。)4において示したところであるので、これに則って適切に措置を講じなければならないこと。
(ロ)妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4の⑴の「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」については、実際に労働者派遣が行われた場合においては、派遣労働者が実際に労務提供を行うのは派遣先事業所においてであり、作業の指揮命令及びそれに伴う管理を行っているのも派遣先の事業主であることから、派遣元の事業主は、派遣先事業所における妊娠、出産等に関するハラスメントに関する事業主の方針、相談体制等派遣先の事業主が雇用管理上講じている措置内容を事前に派遣労働者に周知等しておくことが望ましいこと。
(ハ)妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4の⑵の「相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、派遣先事業所に派遣した派遣労働者等からの相談についても対応することができる体制を整えておく等の措置を講ずることが挙げられること。
(ニ)妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4の⑶の「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、次に掲げる措置を講ずることが挙げられること。
① 派遣労働者から派遣先事業所において妊娠、出産等に関するハラスメントを受けた旨の相談又は苦情を受けた場合には、派遣先の事業主等に対して当該事案に関する事実関係の調査や再発防止のための措置等の適正な対処を申し入れる等派遣先事業所における担当部門と連携等をとりつつ円滑な対応を図ること。
② 派遣労働者が派遣先事業所において妊娠、出産等に関するハラスメントを行った場合において、派遣先の事業主等から相談又は苦情を受けた場合には、事案の内容や状況に応じ、他の労働者を派遣する等の雇用管理上の措置や就業規則等に基づく措置を講ずること。
(ホ)妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4の⑷の「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、派遣労働者が妊娠等した場合において、派遣元の事業主が、当該派遣労働者の労働能率の低下や休業を補い、派遣契約に定められた役務の提供ができるよう代替要員を追加して派遣することが挙げられること。
(ヘ)妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4の⑸の「⑴から⑷までの措置と併せて講ずべき措置」については、労働者のプライバシーを保護すること及び当該労働者が不利益取扱いを受けないようにすること等については、労働者派遣が行われる場合においては、派遣先の事業主においても措置しなければならないこと。
(ト)妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針5の⑵の「妊娠等した労働者への周知・啓発の例」としては、例えば、派遣元の事業主が、派遣労働者が妊娠等した場合において、当該者に対し、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが挙げられること。

ホ 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務(均等法第11条の4第2項関係)
職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務については、妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針3の⑴において示しているので、これに則って適切に必要な配慮を行うよう努めなければならないこと。

へ 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(均等法第12条及び第13条第1項関係)
(イ)・(ロ)(略)

⑶派遣法第47条の3の規定の概要

イ 派遣先の事業主の指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、派遣先の事業主もまた当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、育介法第10条(同法第16条、第16条の4及び第16条の7において準用する場合を
含む。)、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2、第25条第1項及び第25条の2第2項の規定が適用され、その結果派遣先の事業主についても育介法第10条(同法第16条、第16条の4及び第16条の7において準用する場合を含む。)、第16条の10、第18条の2、第20条の2及び第23条の2に基づく不利益取扱いの禁止、第25条第1項の規定に基づく措置義務並びに第25条の2第2項の規定に基づく責務が課されるものであること。

ロ 育介法第10条(同法第16条、第16条の4及び第16条の7において準用する場合を含む。)、第16条の10、第18条の2、第20条の2、第23条の2、第25条第1項及び第25条の2第2項の規定については、派遣法第47条の3に規定する特例に基づき、派遣元の事業主と派遣先の事業主の双方が当該規定に基づく義務を負うが、この義務は、派遣元の事業主においては派遣労働者を雇用し当該労働者を派遣先の事業主に派遣するという立場から、派遣先の事業主においては派遣労働者の指揮命令を行うという立場から、それぞれが派遣労働者について不利益取扱いの禁止、措置義務及び責務を別個に負うものであること。
なお、法第25条第2項、第52条の4第2項及び第52条の5第2項の労働者に対する不利益な取扱いの禁止については、派遣労働者も対象に含まれるものであり、派遣元の事業主のみならず、派遣先の事業主もまた、当該者に派遣労働者が職場における育児休業等に関するハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣労働者に対する不利益な取扱いを行ってはならないものであること。

⑷育介法上の具体的な責務

イ 育児休業等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止(育介法第10条等関係)
(略)

ロ 職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(育介法第25条第1項関係)
(イ)職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置の内容については、育介指針第2の14の⑶において示したところであるので、これに則って適切に措置を講じなければならないこと。
(ロ)育介指針第2の14の⑶のイの「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」については、実際に労働者派遣が行われた場合においては、派遣労働者が実際に労務提供を行うのは派遣先事業所においてであり、作業の指揮命令及びそれに伴う管理を行っているのも派遣先の事業主であることから、派遣元の事業主は、派遣先事業所における育児休業等に関するハラスメントに関する事業主の方針、相談体制等派遣先の事業主が雇用管理上講じている措置内容を事前に派遣労働者に周知等しておくことが望ましいこと。
(ハ)育介指針第2の14の⑶のロの「相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、派遣先事業所に派遣した派遣労働者等からの相談についても対応することができる体制を整えておく等の措置を講ずることが挙げられること。
(ニ)育介指針第2の14の⑶のハの「職場における育児休業等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、次に掲げる措置を講ずることが挙げられること。
① 派遣労働者から派遣先事業所において育児休業等に関するハラスメントを受けた旨の相談又は苦情を受けた場合には、派遣先の事業主等に対して当該事案に関する事実関係の
調査や再発防止のための措置等の適正な対処を申し入れる等派遣先事業所における担当部門と連携等をとりつつ円滑な対応を図ること。
② 派遣労働者が派遣先事業所において育児休業等に関するハラスメントを行った場合において、派遣先の事業主等から相談又は苦情を受けた場合には、事案の内容や状況に応じ、他の労働者を派遣する等の雇用管理上の措置や就業規則等に基づく措置を講ずること。
(ホ)育介指針第2の14の⑶のニの「職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、派遣労働者が子の看護休暇等を取得した場合において、派遣元の事業主が、当該派遣労働者の不在等を補い、派遣契約に定められた役務の提供ができるよう代替要員を追加して派遣することが挙げられること。
(ヘ)育介指針第2の14の⑶のホの「イからニまでの措置と併せて講ずべき措置」については、労働者のプライバシーを保護すること及び当該労働者が不利益取扱いを受けないようにすること等については、労働者派遣が行われる場合においては、派遣先の事業主においても措置しなければならないこと。
(ト)育介指針第2の14の⑷のロの「制度等の利用の対象となる労働者への周知・啓発の例」としては、例えば、派遣元の事業主が、派遣労働者に対し、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の制度の利用状況等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが挙げられること。

ハ 職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務(育介法第25条の2第2項関係)
職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する事業主の責務については、育介指針第2の14の⑵のイにおいて示しているので、これに則って適切に必要な配慮を行うよう努めなければならないこと。

⑸派遣法第47条の4の規定の概要

イ 派遣先の事業主の指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、派遣先の事業主もまた当該派遣労働者を雇用する事業主とみなして、労推法第30条の2第1項及び第30条の3第2項の規定が適用され、その結果派遣先の事業主についても労推法第30条の2第1項の規定に基づく措置義務及び労推法第30条の3第2項の規定に基づく責務が課されるものであること。

ロ 労推法第30条の2第1項及び第30条の3第2項の規定については派遣法第47条の4に規定する特例に基づき、派遣元の事業主と派遣先の事業主の双方が当該規定に基づく義務を負うが、この義務は、派遣元の事業主においては派遣労働者を雇用し当該労働者を派遣先の事業主に派遣するという立場から、派遣先の事業主においては派遣労働者の指揮命令を行うという立場から、それぞれが派遣労働者について措置義務及び責務を別個に負うものであること。なお、労推法第30条の2第2項、第30条の5第2項及び第30条の6第2項の労働者に対する不利益な取扱いの禁止については、派遣労働者も対象に含まれるものであり、派遣元の事業主のみならず、派遣先の事業主もまた、当該者に派遣労働者
職場におけるパワーハラスメントの相談を行ったこと等を理由として、当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒む等、当該派遣労働者に対する不利益な取扱いを行ってはならないこと。

⑹労推法上の具体的な責務

イ 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置(労推法第30条の2第1項関係)
(イ)職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置の内容については、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号。以下「パワハラ防止指針」という。)」4において示しているので、これに則って適切に措置を講じなければならないこと。
(ロ)パワハラ防止指針4の⑴の「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」については、実際に労働者派遣が行われた場合においては、派遣労働者が実際に労務提供を行うのは派遣先事業所においてであり、作業の指揮命令及びそれに伴う管理を行っているのも派遣先の事業主であることから、派遣元の事業主は、派遣先事業所におけるパワーハラスメントに関する事業主の方針、相談体制等派遣先の事業主が雇用管理上講じている措置内容を事前に派遣労働者に周知等しておくことが望ましいこと。
(ハ)パワハラ防止指針4の⑵の「相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、派遣先事業所に派遣した派遣労働者等からの相談についても対応することができる体制を整えておく等の措置を講ずることが挙げられること。
(ニ)パワハラ防止指針4の⑶の「職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」については、派遣元の事業主が必要な措置を講じていると認められる例としては、例えば、次に掲げる措置を講ずることが挙げられること。
① 派遣労働者から派遣先事業所においてパワーハラスメントを受けた旨の相談又は苦情を受けた場合には、派遣先の事業主等に対して当該事案に関する事実関係の調査や再発防止のための措置等の適正な対処を申し入れる等派遣先事業所における担当部門と連携等をとりつつ円滑な対応を図ること。
② 派遣労働者が派遣先事業所においてパワーハラスメントを行った場合において、派遣先の事業主等から相談又は苦情を受けた場合には、事案の内容や状況に応じ、他の労働者を派遣する等の雇用管理上の措置や就業規則等に基づく措置を講ずること。
(ホ)パワハラ防止指針4の⑷の「⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置」については、労働者のプライバシーを保護すること及び当該労働者が不利益取扱いを受けないようにすること等については、労働者派遣が行われる場合においては、派遣先の事業主においても措置しなければならないこと。

ロ 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する事業主の責務(労推法第30条の3第2項関係)
職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する事業主の責務については、パワハラ防止指針3の⑴において示しているので、これに則って適切に必要な配慮を行うよう努めなければならないこと。
以上

「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について(令2.2.10雇均発0210第2号)

「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」の一部改正について(令2.2.10雇均発0210第2号)

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T200213M0040.pdf


雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)及び事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成28年厚生労働省告示第232号)等については、平成18年10月11日付け雇児発1011002号「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(以下「解釈通達」という。)により、その趣旨、内容及び取扱いを示し、それに基づく行政指導等を指示してきたところである。
今般、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号。以下「改正法」という。)が令和元年6月5日に公布され、改正法の施行に伴い、令和元年12月27日に女性活躍推進法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(令和元年厚生労働省令第86号)が、令和2年1月15日に事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針等の一部を改正する告示(令和2年厚生労働省告示第6号)が公布又は告示され、令和2年6月1日から施行又は適用することとされたことに伴い、解釈通達の一部を別紙の新旧対照表のとおり改め、同日から適用することとしたので、その円滑な実施を図るよう配慮されたい。

(以下、改定後の通達のみを掲載する)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律(平成18年法律第82号。以下「平成18年改正法」という。)については、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備に関する省令(平成18年厚生労働省令第183号)、労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号。以下「性差別禁止指針」という。)及び事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号。以下「セクハラ防止指針」という。)とともに、平成19年4月1日から施行又は適用されている。
また、平成29年1月1日以降は、雇用保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令(平成28年厚生労働省令第137号)、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき事項についての指針の一部を改正する件(平成28年厚生労働省告示第314号)及び事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成28年厚生労働省告示312号。以下「妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針」という。)が施行又は適用されている。
今般、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号。以下「改正法」という。)が令和元年6月5日に公布され、改正法の施行に関して、女性活躍推進法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(令和元年厚生労働省令第86号)及び事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針等の一部を改正する告示(令和2年厚生労働省告示第6号)(以下「改正省令等」という。)が公布又は告示されたところであり、改正省令等は、改正法とともに令和2年6月1日から施行又は適用されることとなっている。
改正法による改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「法」という。)、改正省令等による改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(昭和61年労働省令第2号。以下「則」という。)、性差別禁止指針、セクハラ防止指針及び妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針の趣旨、内容及び取扱いは下記のとおりであるので、その円滑な実施を図るよう配慮されたい。




第1(略)

第2性別を理由とする差別の禁止等(法第2章第1節)

(略)

1性別を理由とする差別の禁止(法第5条及び第6条)

⑴総論

イ(略)

ロ法第5条の「その性別にかかわりなく均等な機会を与え」るとは、男性、女性といった性別にかかわらず、等しい機会を与えることをいい、男性又は女性一般に対する社会通念や平均的な就業実態等を理由に男女異なる取扱いをすることはこれに該当しないものであること。
なお、合理的な理由があれば男女異なる取扱いをすることも認められるものであり、性差別禁止指針第2の14⑵はこれに当たる場合であること。

ハ性差別禁止指針第2の1の「企業の雇用管理の実態に即して行う」とは、例えば、職務内容が同じでも転居を伴う転勤の有無によって取扱いを区別して配置等を行っているような場合には、当該労働者間において客観的・合理的な違いが存在していると判断され、当該労働者の雇用管理区分は異なるものとみなすことなどが考えられること。

ニ性差別禁止指針第2の2⑵から第2の13⑵までにおいて「一の雇用管理区分において」とあるとおり、性別を理由とする差別であるか否かについては、一の雇用管理区分内の労働者について判断するものであること。
例えば、「総合職」の採用では男女で均等な取扱いをしているが、「一般職」の採用では男女異なる扱いをしている場合は、他の雇用管理区分において男女で均等な機会を与えていたとしても、ある特定の雇用管理区分において均等な機会を与えていないこととなるため、第5条違反となるものであること。

ホ法第6条における「性別を理由として」とは、例えば、労働者が男性であること又は女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において、男性
労働者と女性労働者の間に一般的又は平均的に、能力、勤続年数、主たる生計の維持者である者の割合等に格差があることを理由とすることの意であり、個々の労働者の意欲、能力等を理由とすることはこれに該当しないものであること。

ヘ(略)

⑵募集及び採用(法第5条)

イ(略)
ロ性差別禁止指針第2の2(2)イ②の「職種の名称」とは、男性を表すものとしては、例えば、ウェイター、営業マン、カメラマン、ベルボーイ、潜水夫等「マン」、「ボーイ」、「夫」等男性を表す語が職種の名称の一部に含まれているものがこれに当たるものであり、女性を表すものとしては、ウェイトレス、セールスレディ等「レディ」、「ガール」、「婦」等女性を表す語が職種の名称の一部に含まれているものがこれに当たるものであること。
「対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合」とは、例えば、「カメラマン(男女)募集」とする等男性を表す職種の名称に括弧書きで「男女」と付け加える方法や、「ウェイター・ウェイトレス募集」のように男性を表す職種の名称と女性を表す職種の名称を並立させる方法が考えられること。
「『男性歓迎』、『女性向きの職種』等の表示」の「等」には、「男性優先」、「主として男性」、「女性歓迎」、「貴女を歓迎」等が含まれるものであること。

ハ性差別禁止指針第2の2(2)ロの「自宅から通勤すること等」の「等」には、「容姿端麗」、「語学堪能」等が含まれるものであること。

ニ性差別禁止指針第2の2(2)ハ④の「結婚の予定の有無」、「子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無」については、男女双方に質問した場合には、法には違反しないものであるが、もとより、応募者の適正・能力を基準とした公正な採用選考を実施するという観点からは、募集・採用に当たってこのような質問をすること自体望ましくないものであること。

ホ性差別禁止指針第2の2(2)ホの「募集又は採用に係る情報」とは、求人の内容の説明のほか、労働者を募集又は採用する目的で提供される会社の概要等に関する資料等が含まれること。
なお、ホは男性又は女性が資料の送付や説明会への出席を希望した場合に、事業主がその希望のすべてに対応することを求める趣旨ではなく、先着順に、又は一定の専攻分野を対象として資料を送付する等一定の基準により一定の範囲の者を対象として資料送付又は説明会の開催を行うことは含まれないこと。
①については、内容が異なる複数の資料を提供する場合には、それぞれの資料について、資料を送付する対象を男女いずれかのみとしないこと等が求められるものであること。
②については、複数の説明会を開催するときは、個々の説明会についてその対象を男女いずれかのみとしないことが求められるものであって、男女別の会社説明会の開催は②に該当するものであること。

⑶~⑸(略)

⑹教育訓練(法第6条第1号)

イ~ハ(略)
ニ性差別禁止指針第2の6⑵イ③の「接遇訓練」とは、接客等のために必要な基本的な作法、マナー等を身につけるための教育訓練をいうものであること。

ホ性差別禁止指針第2の6⑵ロ①の「将来従事する可能性のある職務に必要な知識を身につけるための教育訓練」とは、例えば、管理職に就くために必要とされる能力、知識を付与する教育訓練が考えられるものであること。

⑺~⑼(略)

2性別以外の事由を要件とする措置(法第7条)

⑴~⑸(略)

⑹性差別禁止指針第3の2⑵ロの「通常の作業において筋力を要さない場合」とは、日常の業務遂行において筋力を要しない場合をいい、突発的な事故の発生等予期せざる事態が生じた場合に筋力を要する場合は、通常の作業において筋力を要するとは認められないものであること。

⑺性差別禁止指針第3の3⑵イの「計画等」とは、必ずしも書面になっている必要はなく、取締役会での決定や、企業の代表が定めた方針等も含むが、ある程度の具体性があることが必要であり、不確実な将来の予測などは含まれないものであること。
ハの「組織運営上」とは、処遇のためのポストの確保をする必要性がある場合や、不正行為の防止のために異動を行う必要性がある場合などが含まれるものであること。

3女性労働者に係る措置に関する特例(法第8条)

⑴~⑷

⑸本条により特例とされる女性労働者に係る措置は、過去の女性労働者に対する取扱い等により女性労働者に現実に男性労働者との格差が生じている状況を改善するために暫定的、一時的に講ずることが許容されるものであり、性差別禁止指針第2の14の(1)イからヘまでの「相当程度少ない」状態にある限りにおいて、認められるものであること。

⑹性差別禁止指針第2の14の⑴は募集・採用、配置、昇進、教育訓練、職種の変更及び雇用形態の変更に関して本条により違法でないとされる措置を具体的に明らかにしたものであること。
イからヘまでにおいて「相当程度少ない」とは、我が国における全労働者に占める女性労働者の割合を考慮して、4割を下回っていることをいうものであること。4割を下回っている
か否かについては、募集・採用は雇用管理区分又は役職ごとに、配置は一の雇用管理区分における職務ごとに、昇進は一の雇用管理区分における役職ごとに、教育訓練は一の雇用管理区分における職務又は役職ごとに、職種の変更は一の雇用管理区分における職種ごとに、雇用形態の変更は一の雇用管理区分における雇用形態ごとに、判断するものであること。

⑺性差別禁止指針第2の14⑴イにおける「その他男性と比較して女性に有利な取扱いをすること」とは、具体的には、例示されている「募集又は採用に係る情報の提供について女性に有利な取扱いをすること」、「採用の基準を満たす者の中から男性より女性を優先して採用すること」のほか、募集又は採用の対象を女性のみとすること、募集又は採用に当たって男性と比較して女性に有利な条件を付すこと等男性と比較して女性に有利な取扱いをすること一般が含まれるものであること。
ロ、ハ、ホ及びヘにおいて同じであること。

⑻性差別禁止指針第2の14⑴ニの「職務又は役職に従事するに当たって必要とされる能力を付与する教育訓練」とは、現在従事している業務の遂行のために必要な能力を付与する教育訓練ではなく、将来就く可能性のある職務又は役職に必要な能力を付与する教育訓練であり、例えば、女性管理職が少ない場合において、管理職に就くために必要とされる能力を付与する教育訓練をいうものであること。

⑼性差別禁止指針第2の14⑴ニの「その他男性労働者と比較して女性労働者に有利な取扱いをすること」には、例えば、女性労働者に対する教育訓練の期間を男性労働者よりも長くすること等が含まれること。


4婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(法第9条)

⑴・⑵(略)

⑶第3項の適用に当たっては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)」第47条の2の規定により、派遣先は、派遣労働者を雇用する事業主とみなされるものであり、同条の詳細については、平成28年8月2日付け雇児発0802第2号「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2から第47条の4までの規定の運用について」が発出されているものであること。

⑷(略)

⑸性差別禁止指針第4の3⑴柱書きの「法第九条第三項の「理由として」とは、妊娠・出産等と、解雇その他の不利益な取扱いの間に因果関係があることをいう。」につき、妊娠・出産等の事由を契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産等を理由として不利益取扱いがなされたと解されるものであること。
ただし、
イ①円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、
②その業務上の必要性の内容や程度が、法第九条第三項の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在すると認められるとき

又は

ロ①契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、
②当該事由及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

についてはこの限りでないこと。

なお、「契機として」については、基本的に当該事由が発生している期間と時間的に近接して当該不利益取扱いが行われたか否かをもって判断すること。
例えば、育児時間を請求・取得した労働者に対する不利益取扱いの判断に際し、定期的に人事考課・昇給等が行われている場合においては、請求後から育児時間の取得満了後の直近の人事考課・昇給等の機会までの間に、性差別禁止指針第4の3⑵リの不利益な評価が行われた場合は、「契機として」行われたものと判断すること。

⑹性差別禁止指針第4の3⑴なお書きの「妊産婦」とは、労働基準法第64条の3第1項に規定する妊産婦を指すものであること。

⑺性差別禁止指針第4の3⑵のイからルまでに掲げる行為は、法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」の例示であること。したがって、ここに掲げていない行為について個別具体的な事情を勘案すれば不利益取扱いに該当するケースもあり得るものであり、例えば、長期間の昇給停止や昇進停止、期間を定めて雇用される者について更新後の労働契約の期間を短縮することなどは、不利益な取扱いに該当するものと考えられること。

イ性差別禁止指針第4の3⑵ロの「契約の更新をしないこと」が不利益な取扱いとして禁止されるのは、妊娠・出産等を理由とする場合に限られるものであることから、契約の更新回数が決まっていて妊娠・出産等がなかったとしても契約は更新されなかった場合、経営の合理化のためにすべての有期契約労働者の契約を更新しない場合等はこれに該当しないものであること。
契約の不更新が不利益な取扱いに該当することになる場合には、休業等により契約期間のすべてにわたり労働者が労務の提供ができない場合であっても、契約を更新しなければならないものであること。
ロ性差別禁止指針第4の3⑵ホの「降格」とは、性差別禁止指針第2の5⑴と同義であり、同列の職階ではあるが異動前の職務と比較すると権限が少ない職務への異動は、「降格」には当たらないものであること。


⑻性差別禁止指針第4の3⑶は、不利益取扱いに該当するか否かについての勘案事項を示したものであること。
イ性差別禁止指針第4の3⑶ロの「等」には、例えば、事業主が、労働者の上司等に嫌がらせ的な言動をさせるようし向ける場合が含まれるものであること。
ロ性差別禁止指針第4の3⑶ハのなお書きについては、あくまで客観的にみて他に転換すべき軽易な業務がない場合に限られるものであり、事業主が転換すべき軽易な業務を探すことなく、安易に自宅待機を命じる場合等を含むものではないことに留意すること。

ハ性差別禁止指針第4の3⑶ヘの「通常の人事異動のルール」とは、当該事業所における人事異動に関する内規等の人事異動の基本方針などをいうが、必ずしも書面によるものである必要はなく、当該事業所で行われてきた人事異動慣行も含まれるものであること。「相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせること」とは、配置転換の対象となる労働者が負うことになる経済的又は精神的な不利益が通常甘受すべき程度を著しく越えるものであることの意であること。
③の「原職相当職」の範囲は、個々の企業又は事業所における組織の状況、業務配分、その他の雇用管理の状況によって様々であるが、一般的に、(イ)休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと、(ロ)休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと及び(ハ)
休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であることのいずれにも該当する場合には、「原職相当職」と評価されるものであること。

ニ性差別禁止指針第4の3(3)ト①の「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められない場合とは、単に、妊娠、出産等により従来よりも労働能率が低下したというだけではなく、それが、派遣契約に定められた役務の提供ができない程度に至ることが必要であること。また、派遣元事業主が、代替要員を追加して派遣する等により、当該派遣労働者の労働能率の低下や休業を補うことができる場合についても、「派遣契約に定められた役務の提供ができる」と認められるものであること。②においても同様であること。

⑼性差別禁止指針第4の3(1)ハからチまでに係る休業等については、労働基準法及び法がその権利又は利益を保障した趣旨を実質的に失わせるような取扱いを行うことは、公序良俗に違反し、無効であると判断された判例があることに留意すること。

⑽(略)

5性差別禁止指針(法第10条)

⑴(略)

⑵性差別禁止指針は、法により性別を理由とする労働者に対する差別が禁止されることとなった直接差別(募集、採用、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種及び雇用形態の変更、退職の勧奨、定年及び解雇)、間接差別、婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い(婚姻・妊娠・出産を退職理由として予定する定め、婚姻したことを理由とする解雇、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益な取扱い)各分野について、禁止される措置として具体的に明らかにする必要があると認められるものについて定めたものであること。性差別禁止指針に定めた例はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の措置についても違法となる場合があること。
また、性差別禁止指針においては、法第5条から第7条までに関し、男女双方の例を挙げているものと男性又は女性の一方のみの例を挙げているものがあるが、これは、例示という性格にかんがみ、現実に男性及び女性の双方への差別が起こる可能性が高いものについては男女双方の例を、現実には一方の性に対する差別が起こる可能性が低いものについては男性又は女性の一方のみの例を掲げたものであること。したがって、男性又は女性のみの例示であるからといって、他方の性に対する差別を行ってよいというものではないこと。

⑶性差別禁止指針第2の2⑵から13⑵までの「排除」とは、機会を与えないことをいうものであること。

⑷性差別禁止指針第2の3⑵の「一定の職務」とは、特定の部門や特定の地域の職務に限られるものではなく、労働者を配置しようとする職務一般をいうものであること。これは、性差別禁止指針第2の6⑵において同様であること。

⑸性差別禁止指針第2の1の「その他の労働者についての区分」としては、例えば、勤務地の違いによる区分が考えられるものであること。

⑹性差別禁止指針第2の14⑵は、男女異なる取扱いをすることに合理的な理由があると認められることから、法違反とはならないものについて、明らかにしたものであること。
イ性差別禁止指針第2の14⑵イ①には、俳優、歌手、モデル等が含まれるものであること。
①には守衛、警備員であればすべて該当するというものではなく、単なる受付、出入者のチェックのみを行う等防犯を本来の目的とする職務でないものは含まれないものであること、また、一般的に単なる集金人等は含まれないが、専ら高額の現金を現金輸送車等により輸送する業務に従事する職務は含まれるものであること。
②の「宗教上(中略)必要性があると認められる職務」とは、例えば、一定の宗派における神父、巫女等が考えられること。
また、「風紀上(中略)必要性があると認められる職務」とは、例えば、女子更衣室の係員が考えられること。
①、②及び③はいずれも拡大解釈されるべきではなく、単に社会通念上男性又は女性のいずれか一方の性が就くべきであると考えられている職務は含まれないものであること。

ロ性差別禁止指針第2の14(2)ロの「通常の業務を遂行するために」には、日常の業務遂行の外、将来確実な人事異動等に対応する場合は含まれるが、突発的な事故の発生等予期せざる事態、不確実な将来の人事異動の可能性等に備える場合等は含まれないものであること。
労働基準法について「均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合」とは、男女の均等な取扱いが困難であることが、真に労働基準法の規定を遵守するためであることを要するものであり、企業が就業規則労働協約等において女性労働者について労働基準法を上回る労働条件を設定したことによりこれを遵守するために男女の均等な取扱いをすることが困難である場合は含まれないものであること。

ハ性差別禁止指針第2の14(2)ハの「風俗、風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難い海外での勤務」とは、海外のうち治安、男性又は女性の就業に対する考え方の相違等の事情により男性又は女性が就業してもその能力の発揮が期待できない地域での勤務をいい、海外勤務すべてがこれに該当するものではないこと。
「特別の事情」には、例えば、勤務地が通勤不可能な山間僻地にあり、事業主が提供する宿泊施設以外に宿泊することができず、かつ、その施設を男女共に利用することができない場合など、極めて特別な事情をいい、拡大して解釈されるべきではなく、例示にある海外勤務と同様な事情にあることを理由とした国内での勤務は含まれないものであること。
また、これらの場合も、ロと同様、突発的な事故の発生等予期せざる事態、不確実な将来の人事異動の可能性等に備える場合等は含まれないものであること。


第3事業主の講ずべき措置等(法第2章第2節)

本章は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保のための前提条件を整備する観点から、労働者の就業に関して講ずべき措置を規定したものであって、第2章第1節及び第3節の規定と相まって労働者の職業生活の充実を図ることを目的とし
ているものであること。

1職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等並びに国、事業主及び労働者の責務(法第11条及び第11条の2)

⑴職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等

イ職場におけるセクシュアルハラスメントは、労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけ、能力の有効な発揮を妨げるとともに、企業にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題であり、社会的に許されない行為であることは言うまでもない。特に、職場におけるセクシュアルハラスメントは、いったん発生すると、被害者に加え行為者も退職に至る場合がある等双方にとって取り返しのつかない損失を被ることが多く、被害者にとって、事後に裁判に訴えることは、躊躇せざるを得ない面があることを考えると、未然の防止対策が重要である。
また、近年、女性労働者に対するセクシュアルハラスメントに加え、男性労働者に対するセクシュアルハラスメントの事案も見られるようになってきところである。
こうしたことから、法第11条第1項は、職場におけるセクシュアルハラスメントの対象を男女労働者とするとともに、その防止のため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務付けることとしたものであること。

ロ法第11条第2項は、労働者が事業主から不利益な取扱いを受けることを懸念して、職場におけるセクシュアルハラスメントに関する相談や事業主の相談対応に協力して事実を述べることを躊躇することがないよう、事業主がこれらを理由として解雇その他不利益な取扱いを行うことを禁止することとしたものであること。
「理由として」とは、労働者がセクシュアルハラスメントに関する相談を行ったことや事業主の相談対応に協力して事実を述べたことが、事業主が当該労働者に対して不利益な
取扱いを行うことと因果関係があることをいうものであること。
「不利益な取扱い」となる行為の例については、性差別禁止指針第4の3⑵に掲げるものと同様であること。また、個別の取扱いが不利益な取扱いに該当するか否かについての勘案事項については、性差別禁止指針第4の3⑶に掲げる事項に準じて判断すべきものであること。
なお、当該言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談を理由とする解雇その他不利益な取扱いについても、法第11条第2項の規定による禁止の対象に含まれること。

ハ法第11条第3項は、同条第1項の雇用管理上の措置の対象となる職場におけるセクシュアルハラスメントの行為者には、セクハラ防止指針2⑷にあるとおり、取引先等の他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)や他の事業主の雇用する労働者も含まれるものであるところ、その問題解決を円滑に図るに当たっては、被害を受けた労働者を雇用する事業主が講ずる事実関係の確認や再発防止などの雇用管理上の措置に、行為者を雇用する事業主が協力することが望まれることから、協力を求められた場合に事業主がこれに応じる努力義務を設けることとしたものであること。

ニ法第11条第4項は、同条第1項から第3項までの規定に基づき事業主が講ずべき措置等の内容を具体化するために、厚生労働大臣が指針を定め、公表することとしたものであること。


⑵職場における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務
職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するためには、職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならないことやこれに起因する問題について、事業主だけでなく、国民一般が関心と理解を深め、実際に行為者となり得る事業主や労働者が自らの言動に注意を払うこと等が必要である。このため、法第11条の2は、国、事業主及び労働者がそのために行うよう努めるべき事項について、各々の責務として明確に規定することとしたものであること。


⑶セクハラ防止指針は、事業主が防止のため適切かつ有効な雇用管理上の措置等を講ずることができるようにするため、防止の対象とするべき職場におけるセクシュアルハラスメントの内容や事業主が雇用管理上措置すべき事項等を定めたものであること。

イ職場におけるセクシュアルハラスメントの内容
セクハラ防止指針2「職場におけるセクシュアルハラスメントの内容」においては、事業主が、雇用管理上防止すべき対象としての職場におけるセクシュアルハラスメントの内容を明らかにするために、その概念の内容を示すとともに、典型例を挙げたものであること。
また、実際上、職場におけるセクシュアルハラスメントの状況は多様であり、その判断に当たっては、個別の状況を斟酌する必要があることに留意すること。
なお、法及びセクハラ防止指針は、あくまで職場におけるセクシュアルハラスメントが発生しないよう防止することを目的とするものであり、個々のケースが厳密に職場におけるセクシュアルハラスメントに該当するか否かを問題とするものではないので、この点に注意すること。

①職場
セクハラ防止指針2⑵は「職場」の内容と例示を示したものであること。
「職場」には、業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外の場所であっても、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店(接待の席も含む)、顧客の自宅(保険外交員等)の他、取材先(記者)、出張先及び業務で使用する車中等も含まれるものであること。
なお、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当する。その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して個別に行うものであること。

②労働者
セクハラ防止指針2⑶にあるとおり、「労働者」とは、事業主が雇用する労働者の全てをいい、正規雇用労働者のみならず、いわゆる非正規雇用労働者も含むものであること。
派遣労働者については、労働者派遣法第47条の2の規定により、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされるものであり、同条の詳細については、平成28年8月2日付け雇児発0802第2号「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2から第47条の4までの規定の運用について」が発出されているものであること。

③性的な言動
セクハラ防止指針2⑷は「性的な言動」の内容と例示のほか、当該言動の行為者を示したものであること。「性的な言動」に該当するためには、その言動が性的性質を有することが必要であること。
したがって、例えば、女性労働者のみに「お茶くみ」等を行わせること自体は性的な言動には該当しないが、固定的な性別役割分担意識に係る問題、あるいは配置に係る女性差別の問題としてとらえることが適当であること。
「性的な言動」には、(イ)「性的な発言」として、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を意図的に流布することのほか、性的冗談、からかい、食事・デート等への執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すこと等が、
(ロ)「性的な行動」として、性的な関係の強要、必要なく身体に触ること、わいせつな図画(ヌードポスター等)を配布、掲示することのほか、強制わいせつ行為、強姦等が含まれるものであること。
職場におけるセクシュアルハラスメントの行為者には、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員。以下この③において同じ。)、上司、同僚に限らず、取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における生徒等もなり得るものであり、
また、女性労働者が女性労働者に対して行う場合や、男性労働者が男性労働者に対して行う場合についても含まれること。また、被害を受けた者(以下「被害者」という。)の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、法及びセクハラ防止指針の対象となること。
性的指向」とは、人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするかを表すものであり、「性自認」とは、性別に関する自己意識をいうものであること。

④対価型セクシュアルハラスメント
セクハラ防止指針2⑸は対価型セクシュアルハラスメントの内容とその典型例を示したものであること。
「対応により」とは、例えば、労働者の拒否や抵抗等の対応が、解雇、降格、減給等の不利益を受けることと因果関係があることを意味するものであること。
「解雇、降格、減給等」とは労働条件上不利益を受けることの例示であり、「等」には、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換等が含まれるものであること。
なお、セクハラ防止指針に掲げる対価型セクシュアルハラスメントの典型的な例は限定列挙ではないこと。

⑤環境型セクシュアルハラスメント
セクハラ防止指針2⑹は環境型セクシュアルハラスメントの内容とその典型例を示したものであること。
「労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」とは、就業環境が害されることの内容であり、単に性的言動のみでは就業環境が害されたことにはならず、一定の客観的要件が必要であること。
具体的には個別の判断となるが、一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得るものであること。
また、継続性又は繰り返しが要件となるものであっても、明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態の場合又は心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合には、就業環境が害されていると解し得るものであること。
なお、セクハラ防止指針に掲げる環境型セクシュアルハラスメントの典型的な例は限定列挙ではないこと。

⑥「性的な言動」及び「就業環境が害される」の判断基準
「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となることを考えると一定の客観性が必要である。具体的には、セクシュアルハラスメントが、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であること。
ただし、労働者が明確に意に反することを示しているにもかかわらず、さらに行われる性的言動は職場におけるセクシュアルと解され得るものであること。

ロ事業主等の責務
セクハラ防止指針3は、法第11条の2の事業主及び労働者の責務の内容や職場におけるセクシュアルハラスメントに起因する問題の例を示したものであること。

ハ雇用管理上講ずべき事項セクハラ防止指針4は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として10項目挙げており、これらについては、企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならないものであること。
また、措置の方法については、企業の規模や職場の状況に応じ、適切と考える措置を事業主が選択できるよう具体例を示してあるものであり、限定列挙ではないこと。

①「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」
セクハラ防止指針4⑴は、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するためには、まず事業主の方針として職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならないことを明確にするとともに、これを従業員に周知・啓発しなければならないことを明らかにしたものであること。
「その発生の原因や背景」とは、例えば、企業の雇用管理の問題として労働者の活用や能力発揮を考えていない雇用管理の在り方や労働者の意識の問題として同僚である労働者を職場における対等なパートナーとして見ず、性的な関心の対象として見る意識の在り方が挙げられるものであること。さらに、両者は相互に関連して職場におけるセクシュアルハラスメントを起こす職場環境を形成すると考えられること。
また、「その発生の原因や背景」には、性別役割分担意識に基づく言動も考えられることを明らかにしたものであり、事業主に対して留意すべき事項を示したものであること。
イ①並びにロ①及び②の「その他の職場における服務規律等を定めた文書」として、従業員心得や必携、行動マニュアル等、就業規則の本則ではないが就業規則の一部を成すものが考えられること。
イ③の「研修、講習等」を実施する場合には、定期的に実施する、調査を行う等職場の実態を踏まえて実施する、管理職層を中心に職階別に分けて実施する等の方法が効果的と考えられること。

②「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」
セクハラ防止指針4⑵は、職場におけるセクシュアルハラスメントの未然防止及び再発防止の観点から相談(苦情を含む。以下同じ。)への対応のための窓口を明確にするとともに、相談の対応に当たっては、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制を整備しなければならないことを明らかにしたものであること。
セクハラ防止指針4⑵イの「窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する」とは、窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいうものであり、併せて、労働者に対して窓口を周知し、労働者が利用しやすい体制を整備しておくことが必要であること。
例えば、労働者に対して窓口の部署又は担当者を周知していることなどが考えられること。セクハラ防止指針4⑵ロの「その内容や状況に応じ適切に対応する」とは、具体的には、相談者や行為者に対して、一律に何らかの対応をするのではなく、労働者が受けている性的言動等の性格・態様によって、状況を注意深く見守る程度のものから、上司、同僚等を通じ、行為者に対し間接的に注意を促すもの、直接注意を促すもの等事案に即した対応を行うことを意味するものであること。
なお、対応に当たっては、公正な立場に立って、真摯に対応すべきことは言うまでもないこと。
セクハラ防止指針4⑵ロの「相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮」することには、相談者が相談窓口の担当者の言動等によってさらに被害を受けること等(いわゆる「二次被害」)を防ぐための配慮も含まれること。
セクハラ防止指針4⑵ロの「広く相談に対応し」とは、職場におけるセクシュアルハラスメントを未然に防止する観点から、相談の対象として、職場におけるセクシュアルハラスメントそのものでなくともその発生のおそれがある場合やセクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合も幅広く含めることを意味するものであること。
例えば、セクハラ防止指針4(2)ロで掲げる、放置すれば相談者が業務に専念できないなど就業環境を害するおそれがある場合又は男性若しくは女性に対する差別意識など性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景となってセクシュアルハラスメントが生じるおそれがある場合のほか、勤務時間外の懇親の場等においてセクシュアルハラスメントが生じた場合等も幅広く相談の対象とすることが必要であること。
また、当該言動を把握した周囲の労働者からの相談にも応じることが必要であること。
セクハラ防止指針4⑵ロ②の「留意点」や③の「研修」の内容には、いわゆる二次被害を防止するために必要な事項も含まれるものであること。

③「職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」
セクハラ防止指針4⑶は、職場におけるセクシュアルハラスメントが発生した場合は、その事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するとともに、当該事案に適正に対処しなければならないことを明らかにしたものであること。
セクハラ防止指針4⑶イの事実関係の確認及びニの再発防止に向けた措置については、職場におけるセクシュアルハラスメントについては、他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)又は取引先等の他の事業主の雇用する労働者又も行為者となり得ることから、これらの者に対して必要に応じて協力を求めることも含まれる旨を明らかにしたものであり、協力を求められた事業主は、法第11条第3項の規定によりこれに応じる努力義務があること。
セクハラ防止指針4⑶イ①の「相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮する」に当たっては、相談者が行為者に対して迎合的な言動を行っていたとしても、その事実が必ずしもセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないことに留意すること。
セクハラ防止指針4⑶ロの「被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと」には、職場におけるセクシュアルハラスメントを受けた労働者の継続就業が困難にならないよう環境を整備することや、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントにより休業を余儀なくされた場合等であって当該労働者が希望するときには、本人の状態に応じ、原職又は原職相当職への復帰ができるよう積極的な支援を行うことなども含まれること。
セクハラ防止指針4⑶ロ①の「事業場内産業保健スタッフ等」とは、事業場内産業保健スタッフ及び事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等をいうものであること

④併せて講ずべき措置
セクハラ防止指針4⑷は、事業主が⑴から⑶までの措置を講ずるに際して併せて講ずべき措置を明らかにしたものであること。
セクハラ防止指針4⑷イは、労働者の個人情報については、「個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)」及び「雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドライン平成24年厚生労働省告示第357号)」に基づき、適切に取り扱うことが必要であるが、職場におけるセクシュアルハラスメントの事案に係る個人情報は、特に個人のプライバシーを保護する必要がある事項であることから、事業主は、その保護のために必要な措置を講じるとともに、その旨を労働者に周知することにより、労働者が安心して相談できるようにしたものであること。
セクハラ防止指針4⑷ロは、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと等を理由とする解雇その他不利益な取扱いは、法律上禁止されているものも含まれるが、より労働者が実質的に相談等を行いやすくなるよう、企業内でもそのことを改めて定めて労働者に周知・啓発することとしたものであること。
また、上記については、事業主の方針の周知・啓発の際や相談窓口の設置に併せて、周知することが望ましいものであること。

ニ他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力
セクハラ防止指針5は、法第11条第3項の他の事業主の講ずる雇用管理上の措置への事業主の協力に関する努力義務の内容を示すとともに、同項の規定の趣旨に鑑みれば、事業主が、この協力を求められたことを理由として、他の事業主に対し、当該事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いを行うことは望ましくない旨を明らかにしたものであること。

ホ職場における性的な言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容
セクハラ防止指針6は、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するため、事業主がセクハラ防止指針4の措置に加えて行うことが望ましい取組の内容を示したものであること。

①セクハラ防止指針6⑴については、近年、様々なハラスメントが複合的に生じているとの指摘もあり、労働者にとっては一つの窓口で相談できる方が利便性が高く、また解決にもつながりやすいと考えられることから、相談について一元的に受け付けることのできる体制を整備することが望ましいことを示したものであること。

②セクハラ防止指針6⑵については、雇用管理上の措置が職場におけるセクシュアルハラスメントの防止のために適切かつ有効なものとなるよう、労働者や労働組合等の参画を得つつ、その運用の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることの重要性やその方法の例を示したものであること。

ヘ事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容セクハラ防止指針7は、法第11条第1項の雇用管理上の措置の対象となるのは事業主が雇用する労働者であるが、法第11条の2の事業主及び労働者の責務の趣旨に鑑み、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者(例:個人事業主などのフリーランスインターンシップを行っている者、教育実習生等)についても行うことが望ましい取組を示したものであること。
「4の措置も参考にしつつ」とは、予防から再発防止に至る一連の雇用管理上の措置全体を参考にするという趣旨であること。
なお、裁判例では、採用内定の法的性質は事案により異なるとしつつ、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない事案において、採用内定通知により、始期付きの解約権を留保した労働契約が成立するとしている。このため、採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定者についても、法第11条第1項の雇用管理上の措置や同条第2項の相談等を理由とする解雇その他不利益取扱いの禁止の対象となるものであり、採用内定取消しは不利益な取扱いに含まれるものであること。


2職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等並びに国、事業主及び労働者の責務(法第11条の3及び第11条の4)

⑴職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等
イ事業主による妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いについては、法第9条第3項により禁止されているところであるが、近年、事業主による不利益取扱いのみならず、上司又は同僚による妊娠、出産等に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること(以下「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」という。)も見られるようになってきところである。
こうしたことから、法第11条の2第1項は、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを防止するため、その雇用する女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務付けることとしたものであること。

ロ法第11条の3第2項は、労働者が事業主から不利益な取扱いを受けることを懸念して、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに関する相談や事業主の相談対応に協力して事実を述べることを躊躇することがないよう、事業主がこれらを理由として解雇その他不利益な取扱いを行うことを禁止することとしたものであること。
「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義は、それぞれ第3の1⑴ロと同じであること。
なお、当該言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談を理由とする解雇その他不利益な取扱いについても、法第11条の3第2項の規定による禁止の対象に含まれること。

ハ法第11条の3第3項は、法第11条の3第1項及び第2項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等の内容を具体化するために、厚生労働大臣が指針を定め、公表することとしたものであること。

⑵職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務
職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを防止するためには、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを行ってはならないことやこれに起因する問題について、事業主だけでなく、国民一般が関心と理解を深め、実際に行為者となり得る事業主や労働者が自らの言動に注意を払うこと等が必要である。このため、法第11条の4は、国、事業主及び労働者がそのために行うよう努めるべき事項について、各々の責務として明確に規定することとしたものであること。

⑶妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針は、事業主が防止のため適切かつ有効な雇用管理上の措置等を講ずることができるようにするため、防止の対象とするべき職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの内容や事業主が雇用管理上措置すべき事項等を定めたものであること。

イ職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの内容
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針2「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの内容」においては、事業主が、雇用管理上防止すべき対象としての職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの内容を明らかにするために、その概念の内容を示すとともに、典型例を挙げたものであること。
また、実際上、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの状況は多様であり、その判断に当たっては、個別の状況を斟酌する必要があることに留意すること。
なお、法及び妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針は、あくまで職場における妊娠、出産等に関するハラスメントが発生しないよう防止することを目的とするものであり、個々のケースが厳密に職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに該当するか否かを問題とするものではないので、この点に注意すること。

①職場
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針2⑵は「職場」の内容と例示を示したものであること。
「職場」には、業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外の場所であっても、出張先、業務で使用する車中及び取引先との打ち合わせ場所等も含まれるものであること。
なお、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当する。その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して個別に行うものであること。

②労働者
「労働者」の考え方については、1⑶イ②と同様であること。

③制度等の利用への嫌がらせ型
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針2⑷は制度等の利用への嫌がらせ型の内容を示したものであること。なお、妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針に掲げる制度等の利用への嫌がらせ型の典型的な例は限定列挙ではないこと。
制度等の利用への嫌がらせ型については、女性労働者が妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針2⑷イに規定する制度等の利用の請求等をしようとしたこと、制度等の利用の請求等をしたこと又は制度等の利用をしたことと、行為との間に因果関係あるものを指すこと。
「解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの」とは、女性労働者への直接的な言動である場合に該当すると考えられること。
なお、解雇その他不利益な取扱いを示唆するものについては、上司でなければ該当しないと考えられるが、一回の言動でも該当すると考えられること。
「制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの」とは、単に言動があるのみでは該当せず、客観的にみて、一般的な女性労働者であれば、制度等の利用をあきらめざるを得ない状況になるような言動を指すものであること。これは、女性労働者への直接的な言動
である場合に該当すると考えられること。
また、上司の言動については、一回でも該当すると考えられる一方、同僚の言動については、繰り返し又は継続的なもの(意に反することを言動を行う者に明示しているにもかか
わらず、さらに行われる言動を含む。)が該当すると考えられること。
なお、労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、上司が個人的に請求等を取り下げるよう言う場合については、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに該当し、妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針に基づく対応が求められる。一方、単に上司が個人的に請求等を取り下げるよう言うのではなく、事業主として請求等を取り下げさせる(制度等の利用を認めない)場合については、そもそも制度等の利用ができる旨を規定した各法(例えば産前休業の取得であれば労働基準法第65条第1項)に違反することとなること。
「制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの」とは、単に言動があるのみでは該当せず、客観的にみて、一般的な女性労働者であれば、「能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等当該女性労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなもの」を指すものであること。
これは、女性労働者への直接的な言動である場合に該当すると考えられること。
また、上司と同僚のいずれの場合であっても繰り返し又は継続的なもの(意に反することを言動を行う者に明示しているにもかかわらず、さらに行われる言動を含む。)が該当すると考えられること。

④状態への嫌がらせ型
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針2⑸は状態への嫌がらせ型の内容を示したものであること。なお、妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針に掲げる状態への嫌がらせ型の典型的な例は限定列挙ではないこと。
状態への嫌がらせ型については、妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針2⑸イに規定する事由と行為との間に因果関係があるものを指すこと。
「解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの」とは、女性労働者への直接的な言動である場合に該当すると考えられること。なお、解雇その他不利益な取扱いを示唆するものについては、上司でなければ該当しないと考えられるが、一回の言動でも該当すると考えられること。
「妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの」とは、単に言動があるのみでは該当せず、客観的にみて、一般的な女性労働者であれば、「能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等当該女性労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなもの」を指すものであること。これは、女性労働者への直接的な言動である場合に該当すると考えられること。
また、上司と同僚のいずれの場合であっても繰り返し又は継続的なもの(意に反することを言動を行う者に明示しているにもかかわらず、さらに行われる言動を含む。)が該当すると考えられること。

ロ事業主等の責務
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針3は、法第11条の4の事業主及び労働者の責務の内容や職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに起因する問題の例を示したものであること。

ハ雇用管理上講ずべき事項
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として11項目挙げており、これらについては、企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならないものであること。
また、措置の方法については、企業の規模や職場の状況に応じ、適切と考える措置を事業主が選択できるよう具体例を示してあるものであり、限定列挙ではないこと。

①「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑴は、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを防止するためには、まず事業主の方針として職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを行ってはならないことを明確にするとともに、これを従業員に周知・啓発しなければならないことを明らかにしたものであること。
「その発生の原因や背景」とは、例えば、妊娠、出産等に関する制度等の利用に不寛容な職場風土が挙げられるものであり、具体的には、妊娠、出産等に関する否定的な言動(不妊治療に対する否定的な言動を含め、他の女性労働者の妊娠、出産等の否定につながる言動(当該女性労働者に直接行わない言動も含む。)をいい、単なる自らの意思の表明を除く。以下同じ。)も考えられること、
また、妊娠、出産等に関する制度等の利用ができることを職場において十分に周知できていないことが考えられることを明らかにしたものであり、事業主に対して留意すべき事項を示したものであること。
イ①並びにロ①及び②の「その他の職場における服務規律等を定めた文書」として、従業員心得や必携、行動マニュアル等、就業規則の本則ではないが就業規則の一部を成
すものが考えられること。
イ③の「研修、講習等」を実施する場合には、定期的に実施する、調査を行う等職場の実態を踏まえて実施する、管理職層を中心に職階別に分けて実施する等の方法が効果的と考えられること。

②「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵は、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの未然防止及び再発防止の観点から相談(苦情を含む。以下同じ。)への対応のための窓口を明確にするとともに、相談の対応に当たっては、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制を整備しなければならないことを明らかにしたものであること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵イの「窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する」とは、窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいうものであり、併せて、労働者に対して窓口を周知し、労働者が利用しやすい体制を整備しておくことが必要であること。例えば、労働者に対して窓口の部署又は担当者を周知していることなどが考えられること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵ロの「その内容や状況に応じ適切に対応する」とは、具体的には、相談者や行為者に対して、一律に何らかの対応をするのではなく、労働者が受けている言動等の性格・態様によって、状況を注意深く見守る程度のものから、上司、同僚等を通じ、行為者に対し間接的に注意を促すもの、直接注意を促すもの等事案に即した対応を行うことを意味するものであること。
なお、対応に当たっては、公正な立場に立って、真摯に対応すべきことは言うまでもないこと。妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵ロの「相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮」することには、相談者が相談窓口の担当者の言動等によってさらに被害を受けること等(いわゆる「二次被害」)を防ぐための配慮も含まれること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵ロの「広く相談に対応し」とは、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを未然に防止する観点から、相談の対象として、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントそのものでなくともその発生のおそれがある場合や妊娠、出産等に関するハラスメントに該当するか否か微妙な場合も幅広く含めることを意味するものであること。
例えば、妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵ロで掲げる、放置すれば相談者が業務に専念できないなど就業環境を害するおそれがある場合又は妊娠、出産等に関する否定的な言動が原因や背景となって妊娠、出産等に関するハラスメントが生じるおそれがある場合のほか、休憩時間等において妊娠、出産等に関するハラスメントが生じた場合、妊娠、出産等に関するハラスメントが取引先等から行われる場合等も幅広く相談の対象とすることが必要であること。
また、当該言動を把握した周囲の労働者からの相談にも応じることが必要であること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑵ロ②の「留意点」や③の「研修」の内容には、いわゆる二次被害を防止するために必要な事項も含まれるものであること。

③「職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑶は、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントが発生した場合は、その事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するとともに、当該事案に適正に対処しなければならないことを明らかにしたものであること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑶イ①の「相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮する」に当たっては、相談者が行為者に対して迎合的な言動を行っていたとしても、その事実が必ずしも妊娠・出産等に関するハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないことに留意すること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑶ロの「被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと」には、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを受けた女性労働者の継続就業が困難にならないよう環境を整備することや、女性労働者が職場における妊娠、出産等に関するハラスメントにより休業を余儀なくされた場合等であって当該女性労働者が希望するときには、本人の状態に応じ、原職又は原職相当職への復帰ができるよう積極的な支援を行うことなども含まれること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑶ロ①の「事業場内産業保健スタッフ等」とは、事業場内産業保健スタッフ及び事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等をいうものであること。

④「妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑷イは、妊娠等した労働者の業務の分担等を行う他の労働者の業務負担が過大となり、妊娠、出産等に関する否定的な言動が行われる場合があるため、それらを解消するための措置について定めたものであること。なお、「業務体制の整備など」には、代替要員の確保などについても含まれるものであること。

⑤併せて講ずべき措置
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑸は、事業主が⑴から⑷までの措置を講ずるに際して併せて講ずべき措置を明らかにしたものであること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑸イは、労働者の個人情報については、「個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)」及び「雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドライン平成24年厚生労働省告示第357号)」に基づき、適切に取り扱うことが必要であるが、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの事案に係る個人情報は、特に個人のプライバシーを保護する必要がある事項であることから、事業主は、その保護のために必要な措置を講じるとともに、その旨を労働者に周知することにより、労働者が安心して相談できるようにしたものであること。
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針4⑷ロは、労働者が職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに関し相談をしたこと等を理由とする解雇その他不利益な取扱いは、法律上禁止されているものも含まれるが、より労働者が実質的に相談等を行いやすくなるよう、企業内でもそのことを改めて定めて労働者に周知・啓発すること
としたものであること。
また、上記については、事業主の方針の周知・啓発の際や相談窓口の設置に併せて、周知することが望ましいものであること。

ニ職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針5は、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを防止するため、事業主が指針4の措置に加えて行うことが望ましい取組の内容を示したものであること。

①妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針5⑴については、近年、様々なハラスメントが複合的に生じているとの指摘もあり、労働者にとっては一つの窓口で相談できる方が利便性が高く、また解決にもつながりやすいと考えられることから、相談について一元的に受け付けることのできる体制を整備することが望ましいことを示したものであること。

②妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針5⑵は、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景には、制度等の利用ができることを妊娠等した労働者自身が認識できていない場合があることや、妊娠中は体調の変化が起きやすく通常通りの業務遂行が難しくなることもあり、周囲の労働者とのコミュニケーションがより一層重要となることについて妊娠等した労働者自身が意識を持っていない場合があることから、周知・啓発等について望ましい旨を定めたものであること。

③妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針5⑶については、雇用管理上の措置が職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの防止のために適切かつ有効なものとなるよう、労働者や労働組合等の参画を得つつ、その運用の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることの重要性やその方法の例を示したものであること。

ホ事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容
妊娠、出産等に関するハラスメント防止指針6は、法第11条の3第1項の雇用管理上の措置の対象となるのは事業主が雇用する労働者であるが、法第11条の4の事業主及び労働者の責務の趣旨に鑑み、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者(例:個人事業主などのフリーランスインターンシップを行っている者、教育実習生等)についても、行うことが望ましい取組を示したものであること。
「4の措置も参考にしつつ」とは、予防から再発防止に至る一連の雇用管理上の措置全体を参考にするという趣旨であること。
なお、裁判例では、採用内定の法的性質は事案により異なるとしつつ、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない事案において、採用内定通知により、始期付きの解約権を留保した労働契約が成立するとしている。このため、採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定者についても、法第11条の3第1項の雇用管理上の措置や同条第2項の相談等を理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止の対象となるものであり、採用内定取消しは不利益な取扱いに含まれるものであること。

3・4(略)

5男女雇用機会均等推進者(法第13条の2)

⑴企業における法に沿った雇用管理の実現や女性労働者が能力を発揮しやすい職場環境の整備のための取組を推進するためには、各企業においてその取組に係る実施体制を明確化することが必要であることから、事業主に対し、
①法第8条、第11条第1項、第11条の2第2項、第11条の3第1項、第11条の4第2項、第12条及び第13条第1項に定める措置等の適切かつ有効な実施を図るための業務
②職場における男女の均等な機会及び待遇の確保が図られるようにするために講ずべきその他の措置の適切かつ有効な実施を図るための業務を担当する者(以下「男女雇用機会均等推進者」という。)を選任する努力義務を課し、企業における法に沿った雇用管理の実現や女性労働者が能力を発揮しやすい職場環境の整備のための取組に係る実施体制を整備させることとしたものであること。

⑵①の業務とは、ポジティブ・アクションの推進方策の検討、事業主に対する助言、具体的な取組の着実な実施の確保(法第8条)のほか、職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠、出産等に関するハラスメントの防止のための措置や配慮(第11条第1項、第11条の2第2項、第11条の3第1項、第11条の4第2項)について、関係法令の遵守のために必要な措置等の検討・実施、事業主に対する助言等の業務をいうものであること。

⑶「職場における男女の均等な機会及び待遇の確保が図られるようにするために講ずべきその他の措置の適切かつ有効な実施を図るための業務」とは、法第2章第1節の性別を理由とする差別の禁止等並びに労働基準法第4条の男女同一賃金の原則及び第64条の2から第67条までの母性保護の規定の遵守のために必要な措置等の検討・実施や事業主に対する助言等のほか、女性労働者が能力発揮しやすい職場環境の整備に関する関心と理解の喚起、その業務に関する都道府県労働局との連絡等の業務をいうものであること。

⑷法附則第2項の規定により、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)の有効期限である令和8年3月31日まで間は、同法の規定による一般事業主行動計画に基づく取組や情報公表の推進のための措置の検討・実施や事業主に対する助言等の業務も男女雇用機会均等推進者の業務とされているものであること。

⑸男女雇用機会均等推進者は、(1)①及び②並びに⑷の業務を遂行するために必要な知識及び経験を有していると認められる者のうちから選任することとしたこと(則第77条)。
具体的には、上記の業務を自己の判断に基づき責任をもって行える地位にある者を、1企業につき1人、自主的に選任させることとすること。


第4(略)

第5紛争の解決の援助(法第3章第1節)

1(略)

2紛争の解決の促進に関する特例(法第16条)

⑴雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に関する事業主の一定の措置等についての労働者と事業主との間の紛争については、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)」第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、法第17条から第27条までの規定によるものとしたものであること。

⑵「紛争」とは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇に関する事業主の一定の措置等に関して労働者と事業主との間で主張が一致せず、対立している状態をいうものであること。

3紛争の解決の援助(法第17条)

⑴紛争の解決の援助(法第17条第1項)
法第5条から第7条まで、第9条、第11条第1項及び第2項(第11条の3第2項において準用する場合を含む。)、第11項の3第1項、第12条並びに第13条第1項に定める事項に係る事業主の一定の措置についての労働者と事業主との間の個別具体的な私法上の紛争の迅速かつ円満な解決を図るため、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決について援助を求められた場合には、必要な助言、指導又は勧告をすることができることとしたものであること。

イ・ロ(略)

⑵紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第17条第2項)

イ法第17条第1項の紛争の解決の援助により、紛争の当事者間に生じた個別具体的な私法上の紛争を円滑に解決することの重要性にかんがみれば、事業主に比べ弱い立場にある労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、労働者が紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。

ロ「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義は、それぞれ第3の1⑴ロと同じであること。


第6調停(法第3章第2節)

1調停の委任(法第18条)

⑴調停の委任(法第18条第1項)

イ~ハ(略)

ニ次の要件に該当する事案については、「当該紛争の解決のために必要があると認め」られないものとして、原則として、調停に付すことは適当であるとは認められないものであること。

①申請が、当該紛争に係る事業主の措置が行われた日(継続する措置の場合にあってはその終了した日)から1年を経過した紛争に係るものであるとき
②申請に係る紛争が既に司法的救済又は他の行政的救済に係属しているとき(関係当事者双方に、当該手続よりも調停を優先する意向がある場合を除く。)
③集団的な労使紛争にからんだものであるとき

ホ(略)

⑵調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第18条第2項)

法第18条第1項の調停により、関係当事者間に生じた個別具体的な私法上の紛争を円滑に解決することの重要性にかんがみれば、事業主に比べ弱い立場にある労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、労働者が調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。
「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義は、それぞれ第3の1⑴ロと同じであること。

2調停(法第19条から第23条まで)

⑴(略)

⑵法第20条の関係当事者又は関係当事者と同一の事業場に雇用される労働者その他の参考人(以下「関係当事者等」という。)の「出頭」は強制的な権限に基づくものではなく、相手の同意によるものであること。これらの出頭については、必ず関係当事者等(法人である場合には、委員会が指定する者)より行われることが必要であること。「その他の参考人」とは、関係当事者である労働者が雇用されている事業場に過去に雇用されていた者、同一の事業場で就業する派遣労働者などを指すものであること。
委員会に「関係当事者と同一の事業場に雇用される労働者その他の参考人」の出頭を求めることができるとしたのは、性別を理由とする差別や妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い等を判断するにあたり、他の労働者の就業の実態を踏まえる必要があることや、調停案の内容によっては同一の事業場において雇用される他の労働者に対しても影響を及ぼしうること及び法第11条第1項及び第2項並びに法第11条の3第1項及び第2項に定める事項に係る事業主の一定の措置等についての紛争に係る調停においては、職場におけるセクシュアルハラスメ
ント又は妊娠、出産等に関するハラスメントに係る事実関係の確認に関わる事項が紛争の対象となることもあることから、これらの者を参考人として意見聴取することが必要な場合があるためであること。

⑶則第8条第1項の「補佐人」は、関係当事者等が事情の陳述を行うことを補佐することができるものであること。
補佐人の陳述は、関係当事者等が直ちに異議を述べ又は訂正しない限り、関係当事者等本人の陳述とみなされるものであること。
なお、補佐人は、意見の陳述はできないものであること。

⑷則第8条第3項の代理人は、意見の陳述のみを行うことができるものであること。

⑸~⑺(略)

3時効の完成猶予(法第24条)

法第24条は、法第23条により調停が打ち切られた場合に、当該調停の申請をした者が打ち切りの通知を受けた日から30日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申請の時に遡り、時効の完成猶予が生じることを定めるものであること。
「調停の申請の時」とは、申請書が現実に都道府県労働局長に提出された日であって、申書に記載された申請年月日ではないこと。
また、調停の過程において申請人が調停を求める時効の内容を変更又は追加した場合にあっては、当該変更又は追加した時が「申請の時」に該当するものと解されること。
「通知を受けた日から30日以内」とは、民法の原則に従い、文書の到達した日は期間の計算に当たり参入されないため、書面による調停打ち切りの通知が到達した日の翌日から起算して30日以内であること。
「調停の目的となった請求」とは、当該調停手続において調停の対象とされた具体的な請求(地位確認、損害賠償請求等)を指すこと。本条が適用されるためには、これらと訴えに係る請求とが同一性のあるものでなければならないこと。

4・5(略)


第7雑則(法第4章)

1・2(略)

3公表(法第30条)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇を確固たるものとし、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進するためには、労働者に対する差別等を禁止し、事業主に一定の措置を義務付けるとともに、法違反の速やかな是正を求める行政指導の効果を高め、法の実効性を確保することが必要である。
このような観点から、厚生労働大臣は、法第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項及び第2項(第11条の3第2項、第17条第2項及び第18条第2項において準用する場合を含む。)、第11条の3第1項、第12条並びに第13条第1項の規定に違反している事業主に対し自ら勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができることとしたものであること。

4(略)

5適用除外(法第32条)

⑴法第2章第1節、第13条の2、同章第3節、第3章、第29条及び第30条の規定は、国家公務員及び地方公務員に関しては適用しないこととしたものであること。
「国家公務員及び地方公務員」とは、一般職又は特別職、常勤又は非常勤の別にかかわりなく、これに該当するものであること。また、国家公務員の身分が与えられている特定独立行政法人の職員、地方公務員の身分が与えられている特定地方独立行政法人もこれに含まれているものであること。

⑵法第2章第2節(法第13条の2を除く。)の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等に勤務する者を除く。)、裁判所職員、国会職員及び自衛隊員に関しては適用しないこととしたものであること。
なお、地方公務員については、適用することとなること。

第8~第10(略)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について(令2.2.10雇均発0210第1号)

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について(令2.2.10雇均発0210第1号)

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T200213M0030.pdf


今般、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24 号。以下「改正法」という。)により、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41 年法律第132 号。以下「法」という。)第8章において、職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等に関する規定が新設された。
また、令和元年12 月27日に女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(令和元年厚生労働省令第86号。以下「改正省令」という。)が公布され、さらに、令和2年1月15日に事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号。以下「指針」という。)が告示され、改正法等はいずれも令和2年6月1日から施行又は適用することとされた。
改正法による改正後の法第8章の規定及び関連規定、改正省令による改正後の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則(昭和41年労働省令第23号。以下「則」という。)の関連規定及び指針の趣旨、内容及び取扱いは下記のとおりであるので、その円滑な実施を図るよう配慮されたい。

第1職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等(法第8章)

1職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等並びに国、事業主及び労働者の責務(法第30条の2及び第30条の3)

⑴職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等

イ 職場におけるパワーハラスメントは、労働者の個人としての尊厳を不当に傷つけ、能力の有効な発揮を妨げるとともに、企業にとっても職場秩序や業務の遂行を阻害し、社会的評価に影響を与える問題であり、社会的に許されない行為であることは言うまでもない。特に、職場におけるパワーハラスメントは、いったん発生すると、被害者に加え行為者も退職に至る場合がある等双方にとって取り返しのつかない損失を被ることが多く、被害者にとって、事後に裁判に訴えることは、躊躇せざるを得ない面があることを考えると、未然の防止対策が重要である。
こうしたことから、法第30条の2第1項は、職場におけるパワーハラスメントを防止するため、その雇用する労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務付けることとしたものであること。

ロ 法第30条の2第2項は、労働者が事業主から不利益な取扱いを受けることを懸念して、職場におけるパワーハラスメントに関する相談や事業主の相談対応に協力して事実を述べることを躊躇することがないよう、事業主がこれらを理由として解雇その他不利益な取扱いを行うことを禁止することとしたものであること。
「理由として」とは、労働者がパワーハラスメントに関する相談を行ったことや事業主の相談対応に協力して事実を述べたことが、事業主が当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことと因果関係があることをいうものであること
「不利益な取扱い」となる行為の例については、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示614号)」第4の3⑵に掲げるものと同様であること。また、個別の取扱いが不利益な取扱いに該当するか否かについての勘案事項については、同指針第4の3⑶に掲げる事項に準じて判断すべきものであること。
なお、当該言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談を理由とする解雇その他不利益な取扱いについても、法第30条の2第2項の規定による禁止の対象に含まれること。

ハ 法第30条の2第3項は、同条第1項及び第2項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等の内容を具体化するために、厚生労働大臣が指針を定め、公表することとしたものであること。

⑵職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務

職場におけるパワーハラスメントを防止するためには、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないことやこれに起因する問題について、事業主だけでなく、国民一般が関心と理解を深め、実際に行為者となり得る事業主や労働者が自らの言動に注意を払うこと等が必要である。このため、法第30条の3は、国、事業主及び労働者がそのために行うよう努めるべき事項について、各々の責務として明確に規定することとしたものであること。
3⑶指針は、事業主が防止のため適切かつ有効な雇用管理上の措置等を講ずることができるようにするため、防止の対象とするべき職場におけるパワーハラスメントの内容や事業主が雇用管理上措置すべき事項等を定めたものであること。

イ 職場におけるパワーハラスメントの内容指針2「職場におけるパワーハラスメントの内容」においては、事業主が、雇用管理上防止すべき対象としての職場におけるパワーハラスメントの内容を明らかにするために、その概念の内容等を示したものであること。
また、実際上、職場におけるパワーハラスメントの状況は多様であり、その判断に当たっては、個別の状況を斟酌する必要があることに留意すること。
なお、法及び指針は、あくまで職場におけるパワーハラスメントが発生しないよう防止することを目的とするものであり、個々のケースが厳密に職場におけるパワーハラスメントに該当するか否かを問題とするものではないので、この点に注意すること。

①職場指針2(2)は「職場」の内容と例示を示したものであること。
「職場」には、業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外の場所であっても、出張先、業務で使用する車中及び取引先との打ち合わせの場所等も含まれるものであること。なお、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当する。
その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して個別に行うものであること。

②労働者指針2⑶にあるとおり、「労働者」とは、事業主が雇用する労働者の全てをいい、正規雇用労働者のみならず、いわゆる非正規雇用労働者も含むものであること。
派遣労働者については、労働者派遣法第47条の4の規定により、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされるものであり、同条の詳細については、平成28年8月2日付け雇児発0802第2号「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2から第47条の4までの規定の運用について」が発出されているものであること。

③職場におけるパワーハラスメントの3つの要素職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすものをいうこと。
このため、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、(2)の要素を満たさないため、職場におけるパワーハラスメントには該当しないこと。

④「優越的な関係を背景とした」言動指針2⑷は職場におけるパワーハラスメントの1つ目の要素である「優越的な関係を背景とした」言動の内容と例を示したものであること。

⑤「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動指針2⑸は職場におけるパワーハラスメントの2つ目の要素である「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の内容と例のほか、その判断に当たっての考慮要素や留意点を示したものであり総合的な判断が必要となること。考慮要素の1つである労働者の「属性」とは、例えば、労働者の経験年数や年齢、障害がある、外国人である等が、「心身の状況」とは、精神的又は身体的な状況や疾患の有無等が含まれ得ること。
なお、労働者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、当然職場におけるパワーハラスメントに当たり得ること。

⑥指針2⑹は職場におけるパワーハラスメントの3つ目の要素である「労働者の就業環境が害される」の内容と判断基準を示したものであること。「平均的な労働者の感じ方」を基準とするとは、社会一般の労働者が、同様の状況で当該言動を受けた場合に、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とするという意味であること。なお、言動の頻度や継続性は考慮されるが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、一回でも就業環境を害する場合があり得るものであること。

⑦指針2⑺は、職場におけるパワーハラスメントの判断に当たっては、個別の事案における様々な要素を総合的に考慮する必要があること等を示すとともに、その状況は多様であるという前提の下で、代表的な言動の類型と、当該言動の類型ごとに、職場におけるパワーハラスメントに該当し、又は該当しないと考えられる典型例を挙げたものであること。このため、指針に掲げる典型的な例に関しては、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、
また、限定列挙ではないことに十分留意し、指針4⑵ロにあるとおり広く相談に対応する、同⑶イにあるとおり事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するなど、適切な対応を行うようにすることが必要であること。指針2⑺ロ(イ)①の「相手の性的指向性自認に関する侮辱的な言動を行うこと」については、相手の性的指向性自認の如何は問わないものであること。
また、一見、特定の相手に対する言動ではないように見えても、実際には特定の相手に対して行われていると客観的に認められる言動については、これに含まれるものであること。
なお、性的指向性自認以外の労働者の属性に関する侮辱的な言動についても、職場におけるパワーハラスメントの3つの要素を全て満たす場合には、これに該当すること。

ロ 事業主等の責務指針3は、法第30条の3の事業主及び労働者の責務の内容や職場におけるパワーハラスメントに起因する問題の例を示したものであること。

ハ 雇用管理上講ずべき事項指針4は、事業主が雇用管理上講ずべき措置として10項目挙げており、これらについては、企業の規模や職場の状況の如何を問わず必ず講じなければならないものであること。また、措置の方法については、企業の規模や職場の状況に応じ、適切と考える措置を事業主が選択できるよう具体例を示してあるものであり、限定列挙ではないこと。

①「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」指針4⑴は、職場におけるパワーハラスメントを防止するためには、まず事業主の方針として職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないことを明確にするとともに、これを従業員に周知・啓発しなければならないことを明らかにしたものであること。「その発生の原因や背景」とは、例えば、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が挙げられるものであることを明らかにしたものであり、事業主に対して留意すべき事項を示したものであること。
イ①並びにロ①及び②の「その他の職場における服務規律等を定めた文書」として、従業員心得や必携、行動マニュアル等、就業規則の本則ではないが就業規則の一部を成すものが考えられること。
イ③の「研修、講習等」を実施する場合には、定期的に実施する、調査を行う等職場の実態を踏まえて実施する、管理職層を中心に職階別に分けて実施する等の方法が効果的と考えられること。

②「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」指針4⑵は、職場におけるパワーハラスメントの未然防止及び再発防止の観点から相談(苦情を含む。以下同じ。)への対応のための窓口を明確にするとともに、相談の対応に当たっては、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制を整備しなければならないことを明らかにしたものであること。
指針4⑵イの「窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する」とは、窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいうものであり、併せて、労働者に対して窓口を周知し、労働者が利用しやすい体制を整備しておくことが必要であること。例えば、労働者に対して窓口の部署又は担当者を周知していることなどが考えられること。
指針4⑵ロの「その内容や状況に応じ適切に対応する」とは、具体的には、相談者や行為者に対して、一律に何らかの対応をするのではなく、労働者が受けている言動等の性格・態様によって、状況を注意深く見守る程度のものから、上司、同僚等を通じ、行為者に対し間接的に注意を促すもの、直接注意を促すもの等事案に即した対応を行うことを意味するものであること。
なお、対応に当たっては、公正な立場に立って、真摯に対応すべきことは言うまでもないこと。
指針4⑵ロの「相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮」することには、相談者が相談窓口の担当者の言動等によってさらに被害を受けること等(いわゆる「二次被害」)を防ぐための配慮も含まれること。
指針4⑵ロの「広く相談に対応し」とは、職場におけるパワーハラスメントを未然に防止する観点から、相談の対象として、職場におけるパワーハラスメントそのものでなくともその発生のおそれがある場合やパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合も幅広く含めることを意味するものであること。例えば、指針4⑵ロで掲げる、放置すれば相談者が業務に専念できないなど就業環境を害するおそれがある場合又は労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題が原因や背景となってパワーハラスメントが生じるおそれがある場合のほか、勤務時間外の懇親の場等においてパワーハラスメントが生じた場合等も幅広く相談の対象とすることが必要であること。
また、当該言動を直接受けた労働者だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談にも応じることが必要であること。
なお、一見、特定の労働者に対する言動に見えても、周囲の労働者に対しても威圧するために見せしめとして行われていると客観的に認められるような場合には、周囲の労働者に対するパワーハラスメントとも評価できる場合もあるため、留意すること。指針4⑵ロ②の「留意点」や③の「研修」の内容には、いわゆる二次被害を防止するために必要な事項も含まれるものであること。

③「職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」指針4⑶は、職場におけるパワーハラスメントが発生した場合は、その事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認するとともに、当該事案に適正に対処しなければならないことを明らかにしたものであること。
指針4⑶イ①の「相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮する」に当たっては、相談者が行為者に対して迎合的な言動を行っていたとしても、その事実が必ずしもパワーハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないことに留意すること。
指針4⑶ロの「被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと」には、職場におけるパワーハラスメントを受けた労働者の継続就業が困難にならないよう環境を整備することや、労働者が職場におけるパワーハラスメントにより休業を余儀なくされた場合等であって当該労働者が希望するときには、本人の状態に応じ、原職又は原職相当職への復帰ができるよう積極的な支援を行うことなども含まれること。
指針4⑶ロ①の「事業場内産業保健スタッフ等」とは、事業場内産業保健スタッフ及び事業場内の心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ等をいうものであること。

④併せて講ずべき措置指針4⑷は、事業主が⑴から⑶までの措置を講ずるに際して併せて講ずべき措置を明らかにしたものであること。
指針4⑷イは、労働者の個人情報については、「個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)」及び「雇用管理に関する個人情報保護に関するガイドライン平成24年厚生労働省告示第357号)」に基づき、適切に取り扱うことが必要であるが、職場におけるパワーハラスメントの事案に係る個人情報は、特に個人のプライバシーを保護する必要がある事項であることから、事業主は、その保護のために必要な措置を講じるとともに、その旨を労働者に周知することにより、労働者が安心して相談できるようにしたものであること
指針4⑷ロは、労働者が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたこと等を理由とする解雇その他不利益な取扱いは、法律上禁止されているものも含まれるが、より労働者が実質的に相談等を行いやすくなるよう、企業内でもそのことを改めて定めて労働者に周知・啓発することとしたものであること
また、上記については、事業主の方針の周知・啓発の際や相談窓口の設置に併せて、周知することが望ましいものであること。

ニ 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容指針5は、職場におけるパワーハラスメントを防止するため、事業主が指針4の措置に加えて行うことが望ましい取組の内容を示したものであること。

①指針5⑴については、近年、様々なハラスメントが複合的に生じているとの指摘もあり、労働者にとっては一つの窓口で相談できる方が利便性が高く、また解決にもつながりやすいと考えられることから、相談について一元的に受け付けることのできる体制を整備することが望ましいことを示したものであること。

②指針5⑵は、職場におけるパワーハラスメントの原因や背景には、コミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題があることから、コミュニケーションの活性化・円滑化のために研修等の必要な取組や、適正な業務目標の設定等の職場環境の改善のための取組について望ましい旨を定めたものであること。

③指針5⑶については、雇用管理上の措置が職場におけるパワーハラスメントの防止のために適切かつ有効なものとなるよう、労働者や労働組合等の参画を得つつ、その運用の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることの重要性やその方法の例を示したものであること。


ホ 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容指針6は、法第30条の2第1項の雇用管理上の措置の対象となるのは事業主が雇用する労働者であるが、法第30条の3の事業主及び労働者の責務の趣旨に鑑み、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者(例:個人事業主などのフリーランスインターンシップを行っている者、教育実習生等)についても、行うことが望ましい取組を示したものであること。
「4の措置も参考にしつつ」とは、予防から再発防止に至る一連の雇用管理上の措置全体を参考にするという趣旨であること。
なお、裁判例では、採用内定の法的性質は事案により異なるとしつつ、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない事案において、採用内定通知により、始期付きの解約権を留保した労働契約が成立するとしている。このため、採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定者についても、法第30条の2第1項の雇用管理上の措置や同条第2項の相談等を理由とした解雇その他不利益な取扱いの禁止の対象となるものであり、採用内定取消しは不利益な取扱いに含まれるものであること。

へ 事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容指針7は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為については法第30条の2第1項の雇用管理上の措置の対象には含まれないが、その雇用する労働者への安全配慮の観点から、これらについても事業主が雇用管理上の配慮として行うことが望ましい取組を示したものであること。

2紛争の解決の促進に関する特例(法第30条の4)

⑴法第30条の2第1項及び第2項に定める事項に係る事業主の一定の措置等についての労働者と事業主との間の個別具体的な私法上の紛争(以下「職場におけるパワーハラスメントに関する紛争」という。)については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号。以下「個別労働紛争解決促進法」という。)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、法第30条の5から第30条の8までの規定によるものとしたものであること。

⑵「紛争」とは、⑴の事業主の一定の措置等に関して労働者と事業主との間で主張が一致せず、対立している状態をいうものであること。

3紛争の解決の援助(法第30条の5)

⑴紛争の解決の援助(法第30条の5第1項)

職場におけるパワーハラスメントに関する紛争の迅速かつ円満な解決を図るため、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決について援助を求められた場合には、必要な助言、指導又は勧告をすることができることとしたものであること。

イ 「紛争の当事者」とは、現に紛争の状態にある労働者及び事業主をいうものであること。したがって、労働組合等の第三者は関係当事者にはなりえないものであること。

ロ 「助言、指導又は勧告」は、紛争の解決を図るため、当該紛争の当事者に対して具体的な解決策を提示し、これを自発的に受け入れることを促す手段として定められたものであり、紛争の当事者にこれに従うことを強制するものではないこと。

⑵紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第30条の5第2項)

イ 法第30条の5第1項の紛争の解決の援助により、紛争の当事者間に生じた個別具体的な私法上の紛争を円滑に解決することの重要性にかんがみれば、事業主に比べ弱い立場にある労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、労働者が紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。

ロ 「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義については、それぞれ1⑴のロと同じであること。

4調停の委任(法第30条の6)

⑴調停の委任(法第30条の6第1項)

イ 紛争当事者(以下「関係当事者」という。)間の個別具体的な私法上の紛争について、都道府県労働局長による紛争解決の援助に加え、公正、中立な第三者機関の調停による解決を図るため、職場におけるパワーハラスメントに関する紛争について、関係当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、都道府県労働局長は、紛争調整委員会(以下「委員会」という。)に調停を行わせるものとすることとしたものであること。

ロ 「関係当事者」とは、現に紛争の状態にある労働者及び事業主をいうものであること。したがって、労働組合等の第三者は関係当事者にはなり得ないものであること。

ハ 「調停」とは、紛争の当事者の間に第三者が関与し、当事者の互譲によって紛争の現実的な解決を図ることを基本とするものであり、行為が法律に抵触するか否か等を判定するものではなく、むしろ行為の結果生じた損害の回復等について現実的な解決策を提示して、当事者の歩み寄りにより当該紛争を解決しようとするものであること。

ニ 次の要件に該当する事案については、「当該紛争の解決のために必要があると認め」られないものとして、原則として、調停に付すことは適当であるとは認められないものであること。

①申請が、当該紛争に係る事業主の措置が行われた日(継続する措置の場合にあってはその終了した日)から1年を経過した紛争に係るものであるとき

②申請に係る紛争が既に司法的救済又は他の行政的救済に係属しているとき(関係当事者双方に、当該手続よりも調停を優先する意向がある場合を除く。)

③集団的な労使紛争にからんだものであるときホ都道府県労働局長が「紛争の解決のために必要がある」か否かを判断するに当たっては、ニに該当しない場合は、原則として調停を行う必要があると判断されるものであること。

⑵調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第30条の6第2項)

イ 法第30条の6第1項の調停により、関係当事者間に生じた個別具体的な私法上の紛争を円滑に解決することの重要性にかんがみれば、事業主に比べ弱い立場にある労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、労働者が調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。

ロ 「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義は、それぞれ1⑴のロと同じであること。

5調停(法第30条の7)

⑴調停の手続については、法第30条の7において準用する雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「男女雇用機会均等法」という。)第19条から第26条までの規定及び則第12条の2において準用する雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(昭和61年労働省令第2号。以下「男女雇用機会均等法施行規則」という。)第3条から第12条の規定に基づき行われるものであること。

⑵委員会の会長は、調停委員のうちから、法第30条の6第1項の規定により委任を受けて同項に規定する紛争についての調停を行うための会議(以下「優越的言動問題調停会議」という。)を主任となって主宰する調停委員(以下「主任調停委員」という。)を指名するものであること。また、主任調停委員に事故があるときは、あらかじめその指名する調停委員が、その職務を代理するものとなるものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第3条第1項及び第2項)。

⑶優越的言動問題調停会議は、主任調停委員が招集するものであること。また、優越的言動問題調停会議は、調停委員2人以上が出席しなければ、開くことができないものであること。さらに、優越的言動問題調停会議は、公開しないものであること(則11第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第4条第1項から第3項)。

⑷優越的言動問題調停会議の庶務は、当該都道府県労働局雇用環境・均等部(室)において処理するものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第5条)。

⑸法第30条の6第1項の調停の申請をしようとする者は、調停申請書を当該調停に係る紛争の関係当事者である労働者に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければならないものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第6条及び別記様式)。

都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を会長及び主任調停委員に通知するものであること。また、都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは関係当事者の双方に対して、調停を行わせないこととしたときは調停を申請した関係当事者に対して、遅滞なく、その旨を書面によって通知するものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第7条第1項及び第2項)。

⑺調停は、3人の調停委員が行うこととされており、調停委員は、委員会のうちから、会長があらかじめ指名するものとされていること(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第19条第1項及び第2項)。

⑻委員会は、調停のために必要があると認めるときは、関係当事者又は関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人(以下「関係当事者等」という。)の出頭を求め、その意見を聴くことができるものとされていること(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第20条)。
ただし、この「出頭」は強制的な権限に基づくものではなく、相手の同意によるものであること。これらの出頭については、必ず関係当事者等(法人である場合には、委員会が指定する者)により行われることが必要であること。
「その他の参考人」とは、関係当事者である労働者が雇用されている事業所に過去に雇用されていた者、同一の事業所で就業する派遣労働者などを指すものであること。委員会に「関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人」の出頭を求めることができるとしたのは、法第30条の2第1項及び第2項に定める事項に係る事業主の一定の措置等についての紛争に係る調停においては、職場におけるパワーハラスメントに係る事実関係の確認に関わる事項が紛争の対象となることもあることから、これらの者を参考人として意見聴取することが必要な場合があるためであること。

⑼委員会から出頭を求められた関係当事者等は、主任調停委員の許可を得て、補佐人を伴って出頭することができるものであり、補佐人は、主任調停委員の許可を得て陳述を行うことができるものであること(則第12条の2において準用する男女雇12用機会均等法施行規則第8条第1項及び第2項)。「補佐人」は、関係当事者等が陳述を行うことを補佐することができるものであること。
なお、補佐人の陳述は、あくまでも関係当事者等の主張や説明を補足するためのものであり、補佐人が自ら主張を行ったり、関係当事者等に代わって意思表示を行ったりすることはできないこと。

⑽委員会から出頭を求められた関係当事者等は、主任調停委員の許可を得て当該事件について意見を述べることができるほか、他人に代理させることができるものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第3項)。
他人に代理させることについて主任調停委員の許可を得ようとする者は、代理人の氏名、住所及び職業を記載した書面に、代理権授与の事実を証明する書面を添付して主任調停委員に提出しなければならないものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第4項)。

⑾委員会は、当該事件の事実の調査のために必要があると認めるときは、関係当事者等に対し、当該事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができるものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第9条)。

⑿委員会は、必要があると認めるときは、調停の手続の一部を特定の調停委員に行わせることができるものであること。
「調停の手続の一部」とは、現地調査や、提出された文書等の分析・調査、関係当事者等からの事情聴取等が該当するものであること。この場合において、則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第4条第1項及び第2項の規定は適用せず、則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条の規定の適用については、同条中「主任調停委員」とあるのは、「特定の調停委員」とするものであること。
また、委員会は、必要があると認めるときは、当該事件の事実の調査を都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の職員に委嘱することができるものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第10条第1項及び第2項)。

⒀委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から意見を聴くものとすることとされていること(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第21条)。
「主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者」については、主要な労働者団体又は事業主団体に対して、期限を付して関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の指名を求めるものとするものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第1項)。
関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の指名は、事案ごとに行うものであること。指名を求めるに際しては、管轄区域内のすべての主要な労働者団体及び事業主団体から指名を求めなければならないものではなく、調停のため必要と認められる範囲で、主要な労働者団体又は事業主団体のうちの13一部の団体の指名を求めることで足りるものであること。
則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第1項により委員会の求めがあった場合には、当該労働者団体又は事業主団体は、当該事件につき意見を述べる者の氏名及び住所を委員会に通知するものとするものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第2項)。

⒁委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができるものであること(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法22条)。調停案の作成は、調停委員の全員一致をもって行うものとするものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第1項)。
また、「受諾を勧告する」とは、両関係当事者に調停案の内容を示し、その受諾を勧めるものであり、その受諾を義務付けるものではないこと。委員会は、調停案の受諾を勧告する場合には、関係当事者の双方に対し、受諾すべき期限を定めて行うものとするものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第2項)。
関係当事者は、調停案を受諾したときは、その旨を記載し、記名押印した書面を委員会に提出しなければならないものであること(則第12条の2において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第3項)。しかしながら、この「書面」は、関係当事者が調停案を受諾した事実を委員会に対して示すものであって、それのみをもって関係当事者間において民事的効力をもつものではないこと。

⒂委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができ、その場合、その旨を関係当事者に通知しなければならないものとされていること(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第23条)。
「調停による解決の見込みがないと認めるとき」とは、調停により紛争を解決することが期待し難いと認められる場合や調停により紛争を解決することが適当でないと認められる場合がこれに当たるものであり、具体的には、調停開始後長期の時間的経過をみている場合、当事者の一方が調停に非協力的で再三にわたる要請にもかかわらず出頭しない場合のほか、調停が当該紛争の解決のためでなく労使紛争を有利に導くために利用される場合等が原則としてこれに含まれるものであること。

6時効の完成猶予(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第24条)

本条は、調停が打ち切られた場合に、当該調停の申請をした者が打ち切りの通知を受けた日から30日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申請の時に遡り、時効の完成猶予が生じることを明らかにしたものであること。
「調停の申請の時」とは、申請書が現実に都道府県労働局長に提出された日であって、申請書に記載された申請年月日ではないこと。また、調停の過程において申請人が調停を求める事項の内容を変更又は追加した場合にあっては、当該変更又は追加した時が「申請の時」に該当するものと解されること。14「通知を受けた日から30日以内」とは、民法の原則に従い、文書の到達した日の当日は期間の計算に当たり参入されないため、書面による調停打ち切りの通知が到達した日の翌日から起算して30日以内であること。
「調停の目的となった請求」とは、当該調停手続において調停の対象とされた具体的な請求(地位確認、損害賠償請求等)を指すこと。本条が適用されるためには、これらと訴えに係る請求とが同一性のあるものでなければならないこと。

7訴訟手続の中止(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第25条)

本条は、当事者が調停による紛争解決が適当であると考えた場合であって、調停の対象となる紛争のうち民事上の紛争であるものについて訴訟が係属しているとき、当事者が和解交渉に専念する環境を確保することができるよう、受訴裁判所は、訴訟手続を中止することができることとするものであること。
具体的には、法第30条の4第1項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、4月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨を決定することができるものであること。

⑴当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。

⑵⑴の場合のほか、関係当事者間に調停によって当該紛争の解決を図る旨の合意があること。なお、
受訴裁判所は、いつでも訴訟手続を中止する旨の決定を取り消すことができるものであること。また、関係当事者の申立てを却下する決定及び訴訟手続を中止する旨の決定を取り消す決定に対しては不服を申し立てることができないものであること。

8資料提供の要求等(法第30条の7において準用する男女雇用機会均等法第26条)

委員会は、当該委員会に継続している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができるものであること。
「関係行政庁」とは、例えば、国の機関の地方支分部局や都道府県等の地方自治体が考えられるものであること。
「その他必要な協力」とは、情報の提供や便宜の供与等をいうものであること。


第2雑則(法第10章)

1助言、指導及び勧告(法第33条第1項)

⑴法の目的を達成するための行政機関固有の権限として、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができることとしたものであること。

⑵本条の厚生労働大臣の権限は、労働者からの申立て、第三者からの情報、職権等その端緒を問わず、必要に応じて行使し得るものであること。

⑶第1項の「この法律の施行に関し必要があると認めるとき」とは、法によって具体的に事業主の責務とされた事項について、当該責務が十分に遂行されていないと考えられる場合において、当該責務の遂行を促すことが法の目的に照らし必要であると認められるとき等をいうものであること。

⑷則第15条第1項第3号は、法第33条第1項に規定する厚生労働大臣の権限を都道府県労働局長に委任するものであること。「厚生労働大臣が自らその権限を行う」事案とは、

イ 広範囲な都道府県にまたがり、その事案の処理に当たって各方面との調整が必要であると考えられる事案

ロ 当該事案の性質上社会的に広汎な影響力を持つと考えられる事案

ハ 都道府県労働局長が勧告を行ったにもかかわらず是正されない事案等をいうものであり、厚生労働大臣が自ら又は都道府県労働局長の上申を受けてその都度判断するものであること。

2公表(法第33条第2項)

職場におけるセクシュアルハラスメント等の措置義務等と同様に、厚生労働大臣は、法第30条の2第1項及び第2項(第30条の5第2項及び第30条の6第2項において準用する場合を含む。3において同じ。)の規定に違反している事業主に対し自ら勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができることとしたものであること。

3資料の提出の要求等及び報告の請求(法第35条及び第36条第1項)

⑴法の目的を達成するための行政機関固有の権限として、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、
・法第30条の3第2項及び第3項の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、法第35条の規定により資料の提出の要求等を求めることができることとするとともに、
・法第30条の2第1項及び第2項の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、法第36条第1項の規定により報告を求めることができることとしたものであること。
なお、6にあるとおり、法第36条第1項の規定による報告の請求については、職場におけるセクシュアルハラスメント等の措置義務等に関する報告の徴収の場合と同様に過料の対象となり得るものであること。

厚生労働大臣の権限は、労働者からの申立て、第三者からの情報、職権等その端緒を問わず、必要に応じて行使し得るものであること。

⑶「施行するために必要があると認めるとき」又は「施行に関し必要な事項」とは、法によって具体的に事業主の責務とされた事項について、当該責務が十分に遂行されていないと考えられる場合において、当該責務の遂行を促すことが法の目的に照らし必要であると認められるとき又は当該責務の遂行を促すために必要な事項等をいうものであること。

⑷則第15条第1項第5号及び第6号は、法第35条及び第36条第1項に規定する厚生労働大臣の権限を都道府県労働局長に委任するものであること。
厚生労働大臣が自らその権限を行う」事案とは、

イ 広範囲な都道府県にまたがり、その事案の処理に当たって各方面との調整が必要であると考えられる事案

ロ 当該事案の性質上社会的に広汎な影響力を持つと考えられる事案

ハ 都道府県労働局長が勧告を行ったにもかかわらず是正されない事案

等をいうものであり、厚生労働大臣が自ら又は都道府県労働局長の上申を受けてその都度判断するものであること。

4船員に関する特例(法第38条)

船員に係る労働関係については、国土交通省が所管する別の体系となっているため、法中「厚生労働大臣」とあるのを「国土交通大臣」と読み替える等所要の整備を行ったものであること。

5適用除外(法第38条の2)

⑴法第30条の4から第30条の8まで、第33条第1項(第8章の規定の施行に関するものに限る。)及び第2項並びに第36条第1項の規定は、国家公務員及び地方公務員に関しては適用しないこととしたものであること。
「国家公務員及び地方公務員」とは、一般職又は特別職、常勤又は非常勤の別にかかわりなく、これに該当するものであること。
また、国家公務員の身分が与えられている特定独立行政法人の職員、地方公務員の身分が与えられている特定地方独立行政法人もこれに含まれているものであること。⑵法第30条の2及び第30条の3の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等に勤務する者を除く。)、裁判所職員、国会職員及び自衛隊員に関しては適用しないこととしたものであること。
なお、地方公務員については、適用することとなること。

6罰則(法第41条)

第33条第1項の助言、指導及び勧告を適切に行うためには、その前提として、法第36条第1項の報告の請求を適切に行う必要がある。このため、法第41条は同項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者に対して、20万円以下の過料に処することとしたものであること。
なお、過料については、非訟事件手続法明治31年法律第14号)第4編の過料事17件の規定により、管轄の地方裁判所において過料の裁判の手続を行うものとなること。
都道府県労働局長は、法第36条第1項違反があった場合には、管轄の地方裁判所に対し、当該事業主について、同項に違反することから、法第41条に基づき過料に処すべき旨の通知を行うこととなること。

第3改正法附則

1中小事業主に関する経過措置(改正法附則第3条)

中小事業主(国、地方公共団体及び行政執行法人以外の事業主であって、その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下であるもの及びその常時使用する労働者の数が3百人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下であるものをいう。)については、令和4年3月31日までの間、法第30条の2第1項の雇用管理上の措置義務は努力義務とし、その間は、当該措置義務については、紛争解決の促進に関する特例、勧告違反の場合の公表、違反した場合に過料が科される報告の請求は適用しないこととしたこと。
なお、派遣先の事業主及び船員を雇用する事業主も同じであること。

2紛争の解決の促進に関する特例に関する経過措置

改正法の施行の際に、現に個別労働紛争解決促進法のあっせんの手続に係属している改正法により調停の対象となる紛争については、同法のあっせんの手続により引き続き処理することとしたこと(改正法附則第4条第1項)。
また、法第30条の2第1項の措置義務についての中小事業主と労働者の間の紛争については、令和4年3月31日までは調停の対象とならないため、同日を基準として同様の経過措置を設けたこと(改正法附則第4条第2項)。

3罰則に関する経過措置(改正法附則第5条)

改正法の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によることとしたこと。


第4適用時期

この通達は、令和2年6月1日から適用すること。

雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要

雇用保険法等の一部を改正する法律案の概要

https://www.mhlw.go.jp/content/000591657.pdf

改正の趣旨

○ 高齢者、複数就業者等に対応したセーフティネットの整備、就業機会の確保等を図るため、雇用保険法、高年齢者雇用安定法、労災保険法等において
必要な措置を講ずる。
○ 失業者、育児休業者等への給付等を行う基盤となる雇用保険制度の安定的な運営等を図るため、育児休業給付の区分経理等の財政運営の見直しを
行う。併せて、現下の雇用情勢等に鑑み、2年間に限った保険料率及び国庫負担の暫定的な引下げ等の措置を講ずる。

改正の概要

1.高齢者の就業機会の確保及び就業の促進(高年齢者雇用安定法、雇用保険法

① 65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置(定年引上げ、継続雇用制度の導入、定年廃止、労使で同意した上での雇用以外の措置(継続的に業務委託契約する制度、社会貢献活動に継続的に従事できる制度)の導入のいずれか)を講ずることを企業の努力義務にするなど、70歳までの就業を支援する。【令和3年4月施行】(※)
雇用保険制度において、65歳までの雇用確保措置の進展等を踏まえて高年齢雇用継続給付を令和7年度から縮小するとともに、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置の導入等に対する支援を雇用安定事業に位置付ける。【令和7年4月施行・令和3年4月施行】
(※)令和2年1月8日労働政策審議会諮問では、令和2年4月1日施行となっていましたが、1年先延ばしになった??
第144回労働政策審議会職業安定分科会資料



令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の内容(予想) - 社会保険労務士川口正倫のブログ

2.複数就業者等に関するセーフティネットの整備等(労災保険法、雇用保険法、労働保険徴収法、労働施策総合推進法)

① 複数就業者の労災保険給付について、複数就業先の賃金に基づく給付基礎日額の算定や給付の対象範囲の拡充等の見直しを行う。【公布後6月を超えない範囲で政令で定める日】
② 複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者について、雇用保険を適用する。【令和4年1月施行】
③ 勤務日数が少ない者でも適切に雇用保険の給付を受けられるよう、被保険者期間の算入に当たり、日数だけでなく労働時間による基準も補完的に設定する。【令和2年8月施行】
④ 大企業に対し、中途採用比率の公表を義務付ける。【令和3年4月施行】

3.失業者、育児休業者等への給付等を安定的に行うための基盤整備等(雇用保険法、労働保険徴収法、特別会計法、労災保険法)

育児休業給付について、失業等給付から独立させ、子を養育するために休業した労働者の生活及び雇用の安定を図るための給付と位置付ける。【令和2年4月施行】
② ①を踏まえ、雇用保険について、以下の措置を講ずる。【令和2年4月施行】
ア 育児休業給付の保険料率(1,000分の4)を設定するとともに、経理を明確化し、育児休業給付資金を創設する。
イ 失業等給付に係る保険料率を財政状況に応じて変更できる弾力条項について、より景気の動向に応じて判定できるよう算定方法を見直す。
③ ②の整備を行った上で、2年間(令和2~3年度)に限り、雇用保険の保険料率及び国庫負担の引下げ措置を講ずる。【令和2年4月施行】
※ 保険料率1,000分の2引下げ、国庫負担本来の55%を10%に引下げ

雇用保険二事業に係る保険料率を財政状況に応じて1,000分の0.5引き下げる弾力条項について、更に1,000分の0.5引き下げられるようにする。【令和3年4月施行】
⑤ 保険給付に係る法令上の給付額に変更が生じた場合の受給者の遺族に対する給付には、消滅時効を援用しないこととする。【令和2年4月施行】

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年2月13日時点版

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年2月13日時点版

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省

1.帰国者

問1 湖北省または浙江省への渡航歴がある方は帰国後いつから出勤できますか。
14日以内に湖北省または浙江省への渡航歴がある方が、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを行い、あらかじめ保健所に連絡のうえ、速やかに医療機関を受診し、その指示に従ってください。なお、受診の際は、湖北省または浙江省への渡航歴があることを申告してください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。
上記以外の方は、出勤を停止する必要はありません。なお、一般的な衛生対策として、風邪や季節性インフルエンザ対策と同様に、咳エチケットや手洗い、うがい、アルコール消毒など行ってください。


問2 湖北省または浙江省への渡航歴がある方に健康管理を実施する必要はありますか。
新型コロナウイルス感染症に対して、事業者が健康管理を実施する必要はありません。14日以内に湖北省または浙江省への渡航歴がある方が、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを行い、あらかじめ保健所に連絡のうえ、速やかに医療機関を受診し、その指示に従ってください。また、受診の際は、湖北省または浙江省への渡航歴があることを申告してください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。
なお、湖北省または浙江省への渡航歴にかかわらず労働安全衛生法令に基づく労働安全衛生規則では、国外に6か月以上派遣した労働者が帰国して、国内の業務に就かせる場合は、医師による健康診断を行わなければならないことにご留意ください。


問3 湖北省または浙江省への渡航歴がある方が新型コロナウイルスに感染した可能性があるのですが、休業手当の支払いは必要ですか。
14日以内に湖北省または浙江省への渡航歴がある方あるいはこれらの方と接触された方が、咳や発熱などの症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを行い、あらかじめ保健所に連絡のうえ、速やかに医療機関に受診し、その指示に従ってください。また、受診の際は、湖北省または浙江省への渡航歴があることを申告してください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。
なお、医療機関の受診の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

2.接触


問1 湖北省または浙江省への渡航歴がある方と接触した方にも14日間の出勤停止の必要はありますか。
湖北省または浙江省への渡航歴がある方と接触してから14日以内に、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを行い、あらかじめ保健所に連絡のうえ、速やかに医療機関を受診し、その指示に従ってください。また、医療機関の受診の際は、湖北省または浙江省に滞在歴がある方と接触したことを事前に申し出てください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。
上記以外の方は、出勤を停止する必要はありません。なお、一般的な衛生対策として、風邪や季節性インフルエンザ対策と同様に、咳エチケットや手洗い、うがい、アルコール消毒など行っていただくようお願いします。


問2 湖北省または浙江省への渡航歴がある方と接触した方に対して健康管理を実施する必要はありますか。
湖北省または浙江省への渡航歴がある方と接触してから14日以内に、発熱や呼吸器症状がある場合には、マスクを着用するなどの咳エチケットを行い、あらかじめ保健所に連絡のうえ、速やかに医療機関を受診してください。また、医療機関の受診の際は、湖北省または浙江省に滞在歴がある方と接触したことを事前に申し出てください。ご不明な点は、最寄りの保健所にお問い合わせください。
なお、新型コロナウイルス感染症に対して、事業者が健康管理を実施する必要はありません。

3.その他の共通事項

<就業禁止>

問1 労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置を講ずる必要はありますか。
2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことができることとなります。
感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしませんが、感染症法の制限に従っていただく必要があります。

<休業手当>

問2 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。
なお、賃金の支払いの必要性の有無などについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきですが、法律上、労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要性の有無については、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するかどうかによって判断されます。
※なお、休業手当を支払う必要がないとされる場合においても、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。


問3 労働者が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合、休業手当はどのようにすべきですか。
新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。
なお、被用者保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。
具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。
具体的な申請手続き等の詳細については、加入する保険者に確認ください。


問4 労働者が発熱などの症状があるため自主的に休んでいます。休業手当の支払いは必要ですか
新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます。
一方、例えば熱が37.5度以上あることなど一定の症状があることのみをもって一律に労働者を休ませる措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

年次有給休暇

問5 新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いは、労働基準法上問題はありませんか。病気休暇を取得したこととする場合はどのようになりますか。
年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。事業場で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則などの規定に照らし適切に取り扱ってください。

<時間外・休日労働

問6 新型コロナウイルスの感染の防止や感染者の看護等のために労働者が働く場合、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するでしょうか。
ご質問については、新型コロナウイルスに関連した感染症への対策状況、当該労働の緊急性・必要性などを勘案して個別具体的に判断することになりますが、今回の新型コロナウイルスが指定感染症に定められており、一般に急病への対応は、人命・公益の保護の観点から急務と考えられるので、労働基準法第33条第1項の要件に該当し得るものと考えられます。
ただし、労働基準法第33条第1項に基づく時間外・休日労働はあくまで必要な限度の範囲内に限り認められるものですので、 過重労働による健康障害を防止するため、実際の時間外労働時間を 月45時間以内にするなどしていただくことが重要です。また、やむを得ず月に80時間を超える時間外・休日労働を行わせたことにより 疲労の蓄積の認められる労働者に対しては、医師による面接指導などを実施し、適切な事後措置を講じる必要があります。

(参考)時間外・休日労働とは?
労働基準法32条においては、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められており、これを超えて労働させる場合や、労働基準法第35条により毎週少なくとも1日又は4週間を通じ4日以上与えることとされている休日に労働させる場合は、労使協定(いわゆる36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ていただくことが必要です。
しかし、災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。
なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要です。

【退職】TRUST事件(東京地判立川支部平29.1.31労判1156号11頁)

TRUST事件(東京地判立川支部平29.1.31労判1156号11頁)

参照法条  : 民法536条、民法【平成29年6月2日法律第44号改正後】536条、労働契約法、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条
裁判年月日 : 2017年1月31日
裁判所名  : 東京地裁立川支部
裁判形式  : 判決
事件番号  : 平成27年(ワ)2386号

1.事件の概要

Xは、建築物の測量等を主たる業務とするY社に勤務していたところ、平成27年1月21日、Xは検査により妊娠していることが判明した。Xは、今後の仕事の相談のために、Y社代表者及び直属の上司に当たるAと連絡を取り合ったところ、同連絡の中で、墨出し等の現場業務の継続は難しいとの話に及び、Y社代表者が、Xに対し、派遣業を目的とする株式会社Bへの派遣登録の提案をすることを提案した。
Y社代表者が、株式会社Bの社員Cに、妊娠中のXが勤務可能な派遣先を探すよう指示したことを受けて、Cは、Xの担当者となり、同人に対し、派遣先の株式会社Dを紹介したところ、Xはこれを受け、平成27年2月6日、同社の業務に就いた。
Xは、Y社代表者に対し、平成27年1月23日、同年2月2日に社会保険加入を希望する旨を伝え、さらに、同月24日に、その返事を促す旨の連絡をしている
なお、XからY社に、退職届は提出されていない。また、平成27年6月10日、Y社代表者から退職扱いになっている旨の連絡を受けたXが、翌11日、Y社に離職票の発行を請求したところ、同月頃に、退職理由を一身上の都合とする、平成27年6月11日付け退職証明書及び離職票が送付された。
退職証明書を受領したXは、平成27年7月、Y社に対し自主退職していない旨の見解を示した。その後、Xは子を出産した。
Xは、Y社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて、提訴した。

2.判決の概要

(1)退職合意の有無
Y社は、妊娠が判明したXとの間に退職合意があったと主張するが、退職は、一般的に、労働者に不利な影響をもたらすところ、雇用機会均等法1条、2条、9条3項の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある。
確かに、Xは、現場の墨出し等の業務ができないことの説明を受けたうえで、株式会社Bへの派遣登録を受け入れ、その後、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けるまで、Y社に対し、社会保険の関係以外の連絡がないことからすると、Xが退職を受け入れていたと考える余地がないわけではない。しかしながら、Y社が退職合意のあったと主張する平成27年1月末頃以降、平成27年6月10日時点まで、Y社側からは、上記連絡のあった社会保険について、Xの退職を前提に、Y社の下では既に加入できなくなっている旨の明確な説明や、退職届の受理、退職証明書の発行、離職票の提供等の、客観的、具体的な退職手続がなされていない。他方で、X側は、Y社に対し、継続して、社会保険加入希望を伝えており、平成27年6月10日に、Y社代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けて初めて、離職票の提供を請求した上で、自主退職ではないとの認識を示している。さらに、Y社の主張を前提としても、退職合意があったとされる時に、Y社は、Xの産後についてなんら言及をしていないことも併せ考慮すると、Xは、産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかったと考えられ、また、Y社に紹介された株式会社Bにおいて、派遣先やその具体的労働条件について決まる前から、Xの退職合意があったとされていることから、Xには、Y社に残るか、退職の上、派遣登録するかを検討するための情報がなかったという点においても、自由な意思に基づく選択があったとは言い難い。
以上によれば、Y社側で、労働者であるXにつき自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについての、十分な主張立証が尽くされているとは言えず、これを認めることはできない。よって、Xは、Y社における、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。

(2)賃金額
ア 休職合意の有無
休職の合意について検討すると、Y社代表者は、Xに休職を指示したか記憶にないと供述しているものの、Xは、平成27年6月11日当時、Y社から休職の指示があったものと理解していたことが認められるから、Y社から、休職についての説明があったものと認められる。また、労働基準法第64条の3により、妊娠中に、例えば、重量物を扱う勤務や、高所での勤務等の危険な勤務をさせることは禁止されており、墨出し等の現場によっては、そのような勤務をせざるを得ない場合もあると認められる(A証言)から、妊娠中のXに、墨出し等の現場業務をさせないことに客観的、合理的理由はあった上、Y社は、Xに対し、生活保障的な代替手段として、派遣登録を提案している。また、Y社におけるXの給与は、日給月給制で、労働契約書上、基本給は20万円と記載されているが、最低給が保証されているわけではなく、勤務がなければ、給与が発生しないことは、一定期間、Y社に勤務していたXとしても、当然に理解できたと考えられ、他方で、Y社代表者から、派遣先で働くことを提案された時点では、派遣先の詳しい労働条件が不明であるものの、妊娠中の働き方を相談した上で、上記提案を受けたものであり、一定の配慮がされることが予想でき、X自身も、当分の間、派遣先で働き、出産後にY社の職場へ復帰する意図を有していたことが認められる(X供述)から、選択を妨げるべき事情があったとも認められない。以上を考慮すれば、XとY社との間に、平成27年1月15日以降、休職とする合意があったと認められる。なお、Xの派遣先での勤務が、平成27年2月6日の1日間だけで終了していることが認められるが、Y社との関係においては、休職合意後の問題であり、上記認定に影響しない。さらに、休職について、Xは、もともと、出産後にY社の職場へ復帰するつもりであったこと、休職からの職場復帰については、Xから、派遣先での勤務意向、妊娠中の体調ないし出産の時期を聴取する必要があることを考慮すると、当初、Y社への復帰時期は、Xの意向にかかっていたと認められるのに対し、平成27年6月10日、Y社代表者に連絡し、Y社から退職扱いになっていることを伝えられた時点で、Y社の責任で、Xの職場復帰が確定的に不可能となり、労務提供ができない状態になったと認められる。これに対し、Y社からは、平成27年1月15日以降、インフルエンザ、妊娠以外に、就労不能事由の主張はなく、平成27年6月10日時点で、Xは、Y社以外の勤務も行っていたことからすると、上記事由は、就労不能事由に当たらない。よって、平成27年6月10日から、民法536条2項に基づき、賃金債権が発生する。もっとも、Xは、平成27年9月6日に出産しているところ、Xが出産直前まで働いていたと陳述しているが、同月中、Y社以外の就業場所でも勤務実績がないこと、労働基準法により、産後6週間は本人の請求に関わらず、就業させることはできず、原則として産後8週間となる56日間は就業させることが禁止されていること、Y社において産前産後の休職中の給与が保障されている旨の立証はないことからすると、産前は平成27年9月のうち、同月6日までの6日分、産後は同年9月のうち、同月7日以降の24日分、同年10月のうち31日分、及び11月分のうち1日分は、賃金債権が発生しないと解するべきである。

(中略)

(3)慰謝料
雇用機会均等法1条、2条の趣旨目的に照らし、仮に当該取扱いに本人の同意があったとしても、妊娠中の不利益取扱いを禁止する同法9条3項に該当する場合があるというように、同項が広く解釈されていることに鑑みると、前記のとおり、休職という一定の合意が認められ、さらに、仮に、Y社側が、Xが退職に同意していたと認識していたとしても、当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを退職合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に認められない以上、平成27年6月10日に、退職扱いとしたY社には、少なくとも過失があり、不法行為が成立すると解される。しかしながら、妊娠中の重量物を扱う勤務や、高所での勤務等が禁止されており、現場によっては、そのような勤務をせざるを得ない場合も考えられるのであるから、Y社は、現場業務をしていたXが、その業務を続けられないと考えたことは不合理ではなく、Xも一定期間現場業務をしないことは了承していたこと、Xは、現場業務の代替となる派遣先勤務を受け入れていたのに対し、Y社は、Y社自身が使用者となっていないXの副業は別としても、少なくとも、Xが、株式会社BとY社の両方に在籍している状態になれば、派遣先の選定、受け入れに支障が出る可能性があることを考慮したことから、退職扱いにしたと考えられること(Y社代表者供述)、Y社は、Xに対し、派遣先紹介に関し、通常受領するマージンを取らない前提であったこと(Y社代表者供述、C証言)に照らすと、法的に合意退職が認められないとしても、Y社は、Xに一方的に不利益を課す意図はなかったと推察される。そのほか、一切の事情を考慮すると、慰謝料額は20万円と認められる。

派遣労働者の同一労働同一賃金・過半数代表者に選ばれた皆さまへ

派遣労働者同一労働同一賃金過半数代表者に選ばれた皆さまへ

2020年(令和2年)4月1日から、「派遣労働者同一労働同一賃金」の実現に向けた改正労働者派遣法が施行されます。
このリーフレットは、労使協定方式での過半数労働組合または過半数代表者が、派遣元事業主と労使協定を締結する際のポイントを解説したものです。
※ 改正法では、不合理な待遇差をなくすため、派遣元事業主は①派遣先均等・均衡方式または②労使協定方式のいずれかによる待遇決定方式を採用します。このうち、②労使協定方式では、派遣元事業主は過半数労働組合または過半数代表者と一定の要件を満たす書面による協定を締結しなければなりません(労働者派遣法第30条の4)。

改正労働者派遣法の「労使協定方式」に係る協定のイメージが厚生労働省HPで公開されました - 社会保険労務士川口正倫のブログ


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派遣先均等・均衡方式に関するQ&A(令和元年12月26日公表) - 社会保険労務士川口正倫のブログ

令和2年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます

令和2年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます

令和2年度の協会けんぽの健康保険料率及び介護保険料率は、本年3月分(4月納付分)*からの適用となります。

任意継続被保険者及び日雇特例被保険者の方は4月分(4月納付分)から変更となります。

令和2年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます | 健康保険ガイド | 全国健康保険協会


令和2年度都道府県単位保険料率

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Q1:なぜ都道府県ごとに保険料率が違うのでしょうか?

都道府県ごとに、必要な医療費(支出)が異なるからです。

都道府県ごとの保険料率は、地域の加入者の皆さまの医療費に基づいて算出されています。このため、疾病の予防などの取組により都道府県の医療費が下がれば、その分都道府県の保険料率も下がることになります。

また、平成30年度よりインセンティブ制度が導入され、加入者及び事業主の皆様の特定健診や特定保健指導、ジェネリック医薬品の使用割合等の取組結果が保険料率に反映されています。
インセンティブ制度について、詳しくはこちらをご覧ください。

また、令和2年度の全支部の平均保険料率は10%を維持しましたが、都道府県ごとの医療費を反映するため、保険料率が変更になる場合があります。

Q2: 保険料は何に使われているのですか?

加入者の皆さまの医療費等が約6割、高齢者の医療費を支えるための拠出金等いわゆる仕送り金が約4割です。

Q3:今後、保険料率はどうなるのですか?

協会けんぽの保険財政については、医療費の伸びが賃金の伸びを上回る状況が続いているため、今後の保険料率の見通しは楽観できません。

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【解雇】学校法人専修大学(差戻審)事件(最判大二小平27.6.8労判1147号50頁)

学校法人専修大学(差戻審)事件(最判大二小平27.6.8労判1147号50頁)

裁判年月日: 2016年9月12日
裁判所名  : 東京高裁
裁判形式  : 判決
事件番号  : 平成27年(ネ)3505号
裁判結果  : 原判決一部取消

1.事件の概要

学校法人であるY社に勤務していたXは、平成14年3月頃から肩凝り等の症状を訴えるようになり、同15年3月13日、頸肩腕症候群(以下「本件疾病」という。)にり患しているとの診断を受けた。Xは、同年4月以降、本件疾病が原因で欠勤を繰り返すようになり、平成18年1月17日から長期にわたり欠勤した。平成19年11月6日、中央労働基準監督署長は、同15年3月20日の時点で本件疾病は業務上の疾病に当たるものと認定し、Xに対し、療養補償給付及び休業補償給付を支給する旨の決定をした。これを受けて、Y社は、同年6月3日以降のXの欠勤について、就業規則所定の業務災害による欠勤に当たるものと認定した。
その後、Y社は、平成21年1月17日、Xの同18年1月17日以降の欠勤が3年を経過し、本件疾病の症状にはほとんど変化がなく、就労できない状態が続いていたことから、就業規則に基づき、Xを同21年1月17日から2年間の休職とした。平成23年1月17日に上記の休職期間が経過したが、Xは、Y社からの復職の求めに応じず、Y社に対し職場復帰の訓練を要求した。これを受けて、Y社は、Xが職場復帰をすることができないことは明らかであるとして、同年10月24日、就業規則所定の打切補償金として平均賃金の1200日分相当額である1629万3996円を支払った上で、同月31日付けでXを解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。
さらに、Y社は、Xに対し、平成21年5月26日、同23年10月21日及び同24年1月11日、本件規程に基づく法定外補償金として合計1896万0506円を支払った。
これに対して、Xが、解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権の支払い等を求めて提訴した。第一審は、本件解雇は、労基法19条1項ただし書所定の場合に該当せず、解雇は無効であるとしたため、Y社が控訴したところ、第二審も第一審判決を維持したため、Y社が上告したのが本件である。

2.判決の概要

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件解雇は労働基準法19条1項に違反し無効であるとして、Xの労働契約上の地位の確認を求める請求を認容すべきものとした。
労働基準法81条は、同法75条の規定によって補償を受ける労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において、打切補償を行うことができる旨を定めており、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていないこと等からすると、労働基準法の文言上、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労働基準法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に該当するものと解することは困難である。したがって、本件解雇は、同法19条1項ただし書所定の場合に該当するものとはいえず、同項に違反し無効であるというべきである。

しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1) 労災保険法は、業務上の疾病などの業務災害に対し迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の創設等を目的として制定され、業務上の疾病などに対する使用者の補償義務を定める労働基準法と同日に公布、施行されている。業務災害に対する補償及び労災保険制度については、労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方、労災保険法12条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており、これらの関係につき、同条2項が、療養補償給付を始めとする同条1項1号から5号までに定める各保険給付は労働基準法75条から77条まで、79条及び80条において使用者が災害補償を行うべきものとされている事由が生じた場合に行われるものである旨を規定し、同法84条1項が、労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合には使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定するなどしている。また、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める上記各保険給付の内容は、労働基準法75条から77条まで、79条及び80条の各規定に定められた使用者による災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっている。
上記のような労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると、業務災害に関する労災保険制度は、労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ、このような労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第621号同52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁参照)。このように、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保険給付は、これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということができる。

(2) 労働基準法81条の定める打切補償の制度は、使用者において、相当額の補償を行うことにより、以後の災害補償を打ち切ることができるものとするとともに、同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の除外事由とし、当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるものとする制度であるといえるところ、上記(1)のような労災保険法に基づく保険給付の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば、同法において使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので、使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで、同項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い。また、後者の場合には打切補償として相当額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば、これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難い。
そうすると、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては、同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。

(3) したがって、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、Y社は、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受けているXが療養開始後3年を経過してもその疾病が治らないことから、平均賃金の1200日分相当額の支払をしたものであり、労働基準法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれる者に対して同法81条の規定による打切補償を行ったものとして、同法19条1項ただし書の規定により本件について同項本文の解雇制限の適用はなく、本件解雇は同項に違反するものではないというべきである。

以上と異なる見解に立って、本件解雇が労働基準法19条1項に違反し無効であるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件解雇の有効性に関する労働契約法16条該当性の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

3.解説

労基法19条1項は、次のような2つの場合に解雇することを制限しています。
①労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間
②産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後30日

しかし、この制限には同条項の但書で、次のような2つの例外を定めています。
(1)使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合
(2)天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合(行政官庁の認定が必要・第19条2項)

このうち、(1)については「第81条の規定によって打切補償を支払う場合」とあることから、①について例外であることがわかります。一方、(2)は①と②に共通する例外となります。

(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

本件においては、「第81条の規定によって打切補償を支払う場合」の意義が問題となっており、労基法第81条の条文は次のようになっています。

(打切補償)
第八十一条 第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。

労基法第81条の主語は、「第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者」となっています。

(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

そして、労基法75条には、「使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」と表現されていることから、字句どおりに条文を読むと、「第81条の規定によって打切補償を支払う場合」というのは、

使用者の費用負担で必要な療養が行われている労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合に、使用者が平均賃金の千二百日分を支払うこと

ということになります。

すると、労災保険により療養の給付が行われていた場合は、使用者の費用負担ではないため、第19条1項但書にいう「第81条の規定によって打切補償を支払う場合」に該当せず、解雇は制限された状態であり、解雇は無効であると✕は主張しているのです。
原審も✕の主張を認め、本件の解雇は無効と判断していました。

これに対して最高裁判所は、次のように判断し原審を差し戻しました。

労災保険制度は、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ、労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解する。

②このような労災保険法に基づく保険給付の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば、同法において使用者の義務とされている災害補償は、これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえる。

③したがって、療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、使用者に費用負担による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、使用者は、当該労働者につき、同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができる。