社会保険労務士川口正倫のブログ

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制裁としての格下げによる賃金の低下(昭和26.3.14基収518号)

【制裁としての格下げによる賃金の低下】(昭和26.3.14基収518号)


某自動車会社において従来運転手として勤務していた労働者を交通事故を起こした制裁として助手に格下げし、賃金も将来にわたって低下させる処置をとろうとしているが、その低下した賃金は助手としては所定の通常賃金であっても企業整備にともなう配置転換等とは全然趣旨を異にし、制裁として特定の個人を本人の能力に適した職(運転手の職)以下の職(助手の職)に格下げした場合、労働基準法第91条の制裁の規定に抵触すると考えられるが若干疑義があるので回答願いたい。


使用者が、交通事故を惹き起こした自動車運転手を制裁として助手に格下げし、賃金も助手のそれに低下させるとしても、交通事故を惹き起こしたことが運転手として不適格であるから助手に格下げするものであるならば、賃金の低下は、その労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから労働基準法第91条の制裁規定の制限に抵触するものではない。

【性差別】芝信用金庫事件(東京高判平成12.12.22労判796号5頁)

芝信用金庫事件(東京高判平成12.12.22労判796号5頁)

参照法条 : 労働基準法4条、労働基準法13条、労働基準法3条、民法709条
裁判年月日 : 2000年12月22日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成8年 (ネ) 5543 、平成8年 (ネ) 5785 、平成9年 (ネ) 2330 

1.事件の概要

同期同年齢の男性職員のほぼ全員が課長職(副参事)に昇格したにもかかわらず、勤続18年から40年に及ぶ女性労働者Xら13名が課長職よりも低い主事資格(係長)にとどまったままであるのは、女性であることを理由とした差別であるとして、昇格した地位にあることの確認を求めて提訴した。Xらが昇格していないことについて、Y社は昇格試験の結果にすぎないと主張した。

2.判決の概要

男性職員については・・・(中略)最終的には、係長にある男性職員のほぼ全員が副参事に昇格しているにもかかわらず、女性職員については、・・・(中略)そのほとんど全てが副参事に昇格していないのであって、このような事態は、極めて特異な現象であるということができるから、同期同給与年齢の男性職員のほぼ全員が課長職に昇格したにもかかわらず、依然として課長職に昇格しておらず、諸般の事情に照らしても、昇格を妨げるべき事情の認められない場合には、当該Xらについては、昇格試験において、男性職員が受けた人事考課に関する優遇を受けられないなどの差別を受けたため、そうでなければ昇格することができたと認められる時期に昇格することができなかったものと推認するのが相当である。(年功加味的運用差別)
雇用契約は、労務の提供と賃金の支払を契約の本質的内容としているものであるところ、使用者は労働契約において、人格を有する男女を能力に応じ処遇面において平等に扱うことの義務をも負担しているのであるから使用者が性別により賃金差別をした場合には・・・(中略)かかる差別の原因となる法律行為は無効である。そして、資格の付与が賃金額の増加に連動しており、かつ、資格を付与することと職位に付けることとが分離されている場合には、資格の付与における差別は、賃金の差別と同様に観念することができる。そして、特定の資格を付与すべき基準が定められていない場合であっても、右資格の付与につき差別があったものと判断される程度に、一定の限度を超えて資格の付与がされないときには、右の限度をもって基準に当たると解することが可能であるから、同法13条ないし93条の類推適用により、右資格を付与されたものとして扱うことができると解するのが相当である。職員の昇格の適否は、経営責任、社会的責任を負担するY社の経営権の一部であって、高度な経営判断に属する面があるとしても、単に不法行為に基づく損害賠償請求権だけしか認められないものと解し、右のような法的効果を認め得ないとすれば、差別の根幹にある昇格についての法律関係が解消されず、男女の賃金格差は将来にわたって継続することとなり、根本的な是正措置がないことになる。

3.解説

資格の付与は、使用者の人事上の裁量権であるとされているため、差別が存在していたとしてもそれを是正するために昇格した地位にあることの確認を認めることができるかが問題となる。本判決は、差別の立証及び被差別女性労働者の昇格請求を認めた点で下級審ながら画期的は判決である。
なお、「特定の資格を付与すべき基準が定められていない場合であっても、右資格の付与につき差別があったものと判断される程度に、一定の限度を超えて資格の付与がされないときには、右の限度をもって基準に当たると解することが可能である」とは、「基準が定められていなくても、男女差別があったと判断されるくらい特異な程、女性労働者に資格が付与されていないときは、女性ではないこともって基準に当たると解することが可能である」という意味で、「女性でないこと」という基準はこの法律で定める基準に達しない労働条件であるため、その基準は無効となり、結局は基準を満たして資格を付与されたものとして扱うことができるとされています。

労働基準法第13条  この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

労働基準法93条(現労働契約法12条) 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となつた部分は、就業規則で定める基準による。

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【性差別】塩野義製薬事件(大阪地判平成11.7.28労判770号81頁)

塩野義製薬事件(大阪地判平成11.7.28労判770号81頁)

参照法条 : 労働基準法20条、労働基準法2章
裁判年月日 : 1990年5月30日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成1年 (ワ) 7695 

1.事件の概要

技術補助職から担当する製品の責任者(製担)になった女性労働者Xが、同期入社、同職種の男性従業員(5名)と賃金のとの間に大きな格差があるのは性差別に当たるとして、男性従業員の平均額と原告に現実に支給された賃金との差額相当額および右差別による慰謝料等の支払いを求めて提訴した。

2.判決の概要

Y社は、昭和54年6月に、Xをその職種を変更して製担としたのであるから、同じ職種を同じ量及び質で担当させる以上は原則として同等の賃金を支払うべきであり、その当時、基幹職を担当していた同期男性5名の能力給の平均との格差が少なくなかったことからすれば、生じていたその格差を是正する義務を生じたものといわなければならず、その義務を果たさないことによって温存され、また新たに生じた格差は不合理な格差というべきである。そして、・・・(中略)右是正義務を果たさないことによって生じた格差は、男女の差によって生じた不合理なものといわなければらなず、即ちXの賃金を女性であることのみをもって格差を設けた男女差別と評価しなければならない。もっとも、昇格には人事権の行使として、使用者の裁量の範囲が大きいことに照らし、諸般の事情を考慮して、差別がなければ原告に支払われたはずの賃金額は、原告主張の同期男性5名の能力給平均額の9割に相当する額と認めるのを相当とする。

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【性差別】日ソ図書事件(東京地平成4.8.27労判611号10頁)

日ソ図書事件(東京地平成4.8.27労判611号10頁)


参照法条 : 労働基準法4条、民法709条
裁判年月日 : 1992年8月27日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和63年 (ワ) 9505 

1.事件の概要

中途採用の女性労働者Xは、Y社入社当社は軽易な作業に従事していたが、採用後15年経った時点以降は、勤続年数、年齢等が同等の男性労働者4名と職務内容・責任・技能等のいずれの点からみても劣らないとして、それら男性労働者と同額の賃金の支払いを求めて提訴した。

2.判決の概要

Xと本件男子社員4名間の初任給格差が不合理な差別取扱いであったとまではいえないとしても、・・・(中略)Xが入社後におけるY社内の事情の変化に応じて男子社員と質及び量において同等の労働に従事するようになったにもかかわらず、初任給格差が是正されることなく、そのまま放置された結果として初任給格差が維持ないし拡大するに至った場合には、その格差が労働基準法4条に違反する違法な賃金差別となる場合のあることは、否定しえない。本件においては、Y社は、遅くとも昭和47年1月頃以降、Xの基本給を本件男子社員4名の平均基本給まっでに是正すべきであったにもかかわらず、これを放置して適切な是正措置を講じなかったのであるから、Xが主張する昭和57年度以降の本件賃金格差は、原告が女子であることのみを理由としたもので・・・(中略)労働基準法4条に違反する違法な賃金差別というほかはなく、しかも、適切な是正措置を講じなかったことについてY社に過失のあることは免れないから、不法行為に当たると解するのが相当である。

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『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(パートタイム有期雇用労働法)の逐条解説④-第4章

同一労働同一賃金について定めた『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』(パートタイム有期雇用労働法)をくわしく説明します

第1章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説①-第1章
第2章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説②-第2章
第3章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説③-第3章

偉そうに断定的な表現で記載していますが「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(H31.1.30基発0130第1号・H31.1.30職発0130第6号・H31.1.30雇均発0130第1号・H31.1.30開発0130第1号)」という通達を読みやすくアレンジしただけです。

第4章 紛争の解決(第4章)

第4章は、紛争を解決するための仕組みとして第1節において苦情の自主的解決、都道府県労働局長による紛争の解決の援助について、第2節において調停制度について定めています。

4.1 苦情の自主的解決(第22条)

(苦情の自主的解決)
第二十二条 事業主は、第六条第一項、第八条、第九条、第十一条第一項及び第十二条から第十四条までに定める事項に関し、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めるものとする。

(1)第22条の趣旨
企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使間で自主的に解決することが望ましいことから、事業主は、第6条第1項、第8条、第9条、第11条第1項及び第12条から第14条までに定める事項に関し、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、労使により構成される苦情処理機関に苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るよう努めなければならないとされたものです。
なお、この他の事項に関する苦情についても自主的解決が望ましいことについては、企業内における労使の自主的な取組を促進する観点から、自主的なの促進のための措置の実施に係る規定を設けたものです。

(2)苦情処理機関
苦情処理機関」とは、事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関等をいいます。これは、労働者の苦情については、まずはこのような苦情処理機関における処理に委ねることが最も適切な苦情の解決方法の一つであることから、例示されたものです。

(3)苦情の処理を委ねる等
「苦情の処理を委ねる等」の「等」には、第16条に基づく相談のための体制の活用や短時間・有期雇用管理者が選任されている事業所においてはこれを活用する等労働者の苦情を解決するために有効であると考えられる措置が含まれています。

(4)苦情の自主的解決の仕組みの周知
苦情処理機関等事業所内における苦情の自主的解決のための仕組みについては、短時間・有期雇用労働者に対し、周知を図る必要があります。

(5)自主的解決と調停
パート有期法では、短時間・有期雇用労働者と事業主との間の個別紛争の解決を図るため、本条のほか、第24条第1項において都道府県労働局長による紛争解決の援助を定め、また、第25条第1項においては紛争調整委員会(以下「委員会」という。)による調停を定めていますが、これらはそれぞれ紛争の解決のための独立した手段であり、本条による自主的解決の努力は、都道府県労働局長の紛争解決の援助や委員会による調停の開始の要件とされているものではありません。しかしながら、企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使で自主的に解決することが望ましいことに鑑み、まず本条に基づき企業内において自主的解決の努力を行うことが求められています。

4.2 紛争の解決の促進に関する特例(第23条)

(紛争の解決の促進に関する特例)
第二十三条 前条の事項についての短時間・有期雇用労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第二十七条までに定めるところによる。

(1)第23条の趣旨
第6条第1項、第8条、第9条、第11条第1項及び第12条から第14条までに定める事項に係る事業主の一定の措置についての短時間・有期雇用労働者と事業主との間の紛争(以下「短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争」という。)については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(以下「個別労働関係紛争解決促進法」という。)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、本法第24条から第27条までの規定によるものとされています。
 これは、個別労働関係紛争解決促進法に係る紛争は、解雇等労使間の個別の事情に関わるものが多いことから、あっせん委員が労使の間に入って、その話し合いを促進するあっせんの手法が効果的であるのに対し、短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争は、当該事業所における賃金制度等に由来するものであり、継続的な勤務関係にある中で、不合理な待遇の相違、差別的取扱い等かどうかの認定を行った上で必要な制度の見直し案等の調停案を示し、受諾の勧告を行うことが有効であるという、両者の紛争の性格が異なるためです。

(2)紛争
短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置に係る事業主の一定の措置に関して労働者と事業主との間で主張が一致せず、対立している状態をいいます。

4.3 紛争の解決の援助(第24条)

(紛争の解決の援助)
第二十四条 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
2 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

4.3.1 紛争の解決の援助(第24条第1項)
短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争の迅速かつ円満な解決を図るため、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決について援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対して、必要な助言、指導又は勧告をすることができることとされています。

(1)紛争当事者
「紛争の当事者」とは、現に紛争の状態にある短時間・有期雇用労働者及び事業主をいいます。したがって、労働組合等の第三者は関係当事者にはなり得ないことに注意が必要です。

(2)助言、指導又は勧告
「助言、指導又は勧告」は、紛争の解決を図るため、当該紛争の当事者に対して具体的な解決策を提示し、これを自発的に受け入れることを促す手段として定められたものであり、紛争の当事者にこれに従うことを強制するものではありません。

4.3.2 紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(第24条第2項)

(1)第24条第2項の趣旨
第24条第1項の紛争の解決の援助により、紛争の当事者間に生じた個別具体的な紛争を円滑に解決することの重要性に鑑みれば、事業主に比べ弱い立場にある短時間・有期雇用労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、短時間・有期雇用労働者が紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いが禁止されたものです。

(2)その他
「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義については、それぞれ3.10(12)と同じです。

4.4 調停の委任(第25条)

(調停の委任)
第二十五条 都道府県労働局長は、第二十三条に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
2 前条第二項の規定は、短時間・有期雇用労働者が前項の申請をした場合について準用する。

4.4.1 調停の委任(第25条第1項)

(1)第25条第1項の趣旨
紛争の当事者(以下「関係当事者」という。)間の紛争について、当事者間の自主的な解決、都道府県労働局長による紛争解決の援助に加え、公正、中立な第三者機関の調停による解決を図るため、短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争について、関係当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせるものとされたものです。

(2)関係当事者
「関係当事者」とは、現に紛争の状態にある短時間・有期雇用労働者及び事業主をいいます。したがって、労働組合等の第三者は関係当事者にはなり得ないことに注意が必要です。

(3)調停
「調停」とは、紛争の当事者の間に第三者が関与し、当事者の互譲によって紛争の現実的な解決を図ることを基本とするものであり、行為が法律に抵触するか否か等を判定するものではなく、むしろ行為の結果生じた損害の回復等について現実的な解決策を提示して、当事者の歩み寄りにより当該紛争を解決しようとするものです。

(4)調停に付すことが認められない場合
次の要件に該当する事案については、「当該紛争の解決のために必要があると認め」られないものとして、原則として、調停に付すことは適当であるとは認められないものとされています。

① 申請が、当該紛争に係る事業主の措置が行われた日(継続する措置の場合にあってはその終了した日)から1年を経過した紛争に係るものであるとき
② 申請に係る紛争が既に司法的救済又は他の行政的救済に係属しているとき(関係当事者双方に、当該手続よりも調停を優先する意向がある場合を除く。)
③ 集団的な労使紛争に関係したものであるとき

(5)紛争の解決のために必要がある否かの判断
都道府県労働局長が「紛争の解決のために必要がある」か否かを判断するに当たっては、(4)に該当しない場合は、第22条による自主的解決の努力の状況も考慮の上、原則として調停を行う必要があると判断されるものとされています。

4.4.2 調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(第25条第2項)

(1)第25条第2項の趣旨
第25条第1項の調停により、関係当事者間に生じた個別具体的な紛争を円滑に解決することの重要性に鑑みれば、事業主に比べ弱い立場にある短時間・有期雇用労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、短時間・有期雇用労働者が調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いが禁止されたものです。

(2)その他
「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義については、それぞれ3.10(12)と同じです。

4.5 調停(第26条)

(調停)
第二十六条 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第十九条、第二十条第一項及び第二十一条から第二十六条までの規定は、前条第一項の調停の手続について準用する。この場合において、同法第十九条第一項中「前条第一項」とあるのは「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第二十五条第一項」と、同法第二十条第一項中「関係当事者」とあるのは「関係当事者又は関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人」と、同法第二十五条第一項中「第十八条第一項」とあるのは「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第二十五条第一項」と読み替えるものとする。

男女雇用機会均等法
(調停)
第十九条 前条第一項の規定に基づく調停(以下この節において「調停」という。)は、三人の調停委員が行う。
2 調停委員は、委員会の委員のうちから、会長があらかじめ指名する。
第二十条 委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
2 委員会は、第十一条第一項及び第十一条の二第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動又は同項に規定する言動を行つたとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
第二十一条 委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。
第二十二条 委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。
第二十三条 委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。
2 委員会は、前項の規定により調停を打ち切つたときは、その旨を関係当事者に通知しなければならない。
(時効の中断)
第二十四条 前条第一項の規定により調停が打ち切られた場合において、当該調停の申請をした者が同条第二項の通知を受けた日から三十日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時に、訴えの提起があつたものとみなす。
(訴訟手続の中止)
第二十五条 第十八条第一項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一 当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
二 前号に規定する場合のほか、関係当事者間に調停によつて当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2 受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3 第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(資料提供の要求等)
第二十六条 委員会は、当該委員会に係属している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。
厚生労働省令への委任)
第二十七条 この節に定めるもののほか、調停の手続に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

【短時間・有期雇用労働法施行規則】
(準用)
第九条 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(昭和六十一年労働省令第二号)第三条から第十二条までの規定は、法第二十五条第一項の調停の手続について準用する。この場合において、同令第三条第一項中「法第十八条第一項」とあるのは「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「短時間労働者法」という。)第二十五条第一項」と、同項並びに同令第四条(見出しを含む。)、第五条(見出しを含む。)及び第八条第一項中「機会均等調停会議」とあるのは「均衡待遇調停会議」と、同令第六条中「法第十八条第一項」とあるのは「短時間労働者法第二十五条第一項」と、「事業場」とあるのは「事業所」と、同令第八条第一項及び第三項中「法第二十条第一項又は第二項」とあるのは「短時間労働者法第二十六条において準用する法第二十条第一項」と、同項中「法第二十条第一項の」とあるのは「短時間労働者法第二十六条において準用する法第二十条第一項の」と、同令第九条中「関係当事者」とあるのは「関係当事者又は関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人」と、同令第十条第一項中「第四条第一項及び第二項」とあるのは「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則第九条において準用する第四条第一項及び第二項」と、「第八条」とあるのは「同令第九条において準用する第八条」と、同令第十一条第一項中「法第二十一条」とあるのは「短時間労働者法第二十六条において準用する法第二十一条」と、同令別記様式中「労働者」とあるのは「短時間労働者」と、「事業場」とあるのは「事業所」と読み替えるものとする。

男女雇用機会均等法施行規則】
(主任調停委員)
第三条 紛争調整委員会(以下「委員会」という。)の会長は、調停委員のうちから、法第十八条第一項の規定により委任を受けて同項に規定する紛争についての調停を行うための会議(以下「機会均等調停会議」という。)を主任となつて主宰する調停委員(以下「主任調停委員」という。)を指名する。
2 主任調停委員に事故があるときは、あらかじめその指名する調停委員が、その職務を代理する。
(機会均等調停会議)
第四条 機会均等調停会議は、主任調停委員が招集する。
2 機会均等調停会議は、調停委員二人以上が出席しなければ、開くことができない。
3 機会均等調停会議は、公開しない。
(機会均等調停会議の庶務)
第五条 機会均等調停会議の庶務は、当該都道府県労働局雇用環境・均等部(北海道労働局、東京労働局、神奈川労働局、愛知労働局、大阪労働局、兵庫労働局及び福岡労働局以外の都道府県労働局にあっては、雇用環境・均等室。)において処理する。
(調停の申請)
第六条 法第十八条第一項の調停(以下「調停」という。)の申請をしようとする者は、調停申請書(別記様式)を当該調停に係る紛争の関係当事者(労働者及び事業主をいう。以下同じ。)である労働者に係る事業場の所在地を管轄する都道府県労働局の長に提出しなければならない。
(調停開始の決定)
第七条 都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を会長及び主任調停委員に通知するものとする。
2 都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは関係当事者の双方に対して、調停を行わせないこととしたときは調停を申請した関係当事者に対して、遅滞なく、その旨を書面によって通知するものとする。
(関係当事者等からの事情聴取等)
第八条 法第二十条第一項又は第二項の規定により委員会から出頭を求められた者は、機会均等調停会議に出頭しなければならない。この場合において、当該出頭を求められた者は、主任調停委員の許可を得て、補佐人を伴って出頭することができる。
2 補佐人は、主任調停委員の許可を得て陳述を行うことができる。
3 法第二十条第一項又は第二項の規定により委員会から出頭を求められた者は、主任調停委員の許可を得て当該事件について意見を述べることができる。この場合において、法第二十条第一項の規定により委員会から出頭を求められた者は、主任調停委員の許可を得て他人に代理させることができる。
4 前項の規定により他人に代理させることについて主任調停委員の許可を得ようとする者は、代理人の氏名、住所及び職業を記載した書面に、代理権授与の事実を証明する書面を添付して、主任調停委員に提出しなければならない。
(文書等の提出)
第九条 委員会は、当該事件の事実の調査のために必要があると認めるときは、関係当事者に対し、当該事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる。
(調停手続の実施の委任)
第十条 委員会は、必要があると認めるときは、調停の手続の一部を特定の調停委員に行わせることができる。この場合において、第四条第一項及び第二項の規定は適用せず、第八条の規定の適用については、同条中「主任調停委員」とあるのは、「特定の調停委員」とする。
2 委員会は、必要があると認めるときは、当該事件の事実の調査を都道府県労働局雇用環境・均等部(北海道労働局、東京労働局、神奈川労働局、愛知労働局、大阪労働局、兵庫労働局及び福岡労働局以外の都道府県労働局にあっては、雇用環境・均等室。)の職員に委嘱することができる。
(関係労使を代表する者の指名)
第十一条 委員会は、法第二十一条の規定により意見を聴く必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体に対して、期限を付して関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の指名を求めるものとする。
2 前項の求めがあつた場合には、当該労働者団体又は事業主団体は、当該事件につき意見を述べる者の氏名及び住所を委員会に通知するものとする。
(調停案の受諾の勧告)
第十二条 調停案の作成は、調停委員の全員一致をもつて行うものとする。
2 委員会は、調停案の受諾を勧告する場合には、関係当事者の双方に対し、受諾すべき期限を定めて行うものとする。
3 関係当事者は、調停案を受諾したときは、その旨を記載し、記名押印した書面を委員会に提出しなければならない。

(1)第26条の趣旨
調停の手続については、第26条において準用する男女雇用機会均等法第19条、第20条第1項及び第21条から第26条までの規定並びに則第9条の規定において準用する雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(以下「男女雇用機会均等法施行規則」という。)第3条から第12条までの規定に基づき行われるものです。
第22条の苦情の自主的解決の努力は委員会の調停を開始する要件ではありませんが、企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使で自主的に解決することが望ましいことに鑑み、調停を申し立てる前に苦情の自主的解決の努力を行うことが望まれます。

(2)主任調停委員の指名
委員会の会長は、調停委員のうちから、第25条第1項の規定により委任を受けて同項に規定する紛争についての調停を行うための会議(以下「均衡待遇調停会議」という。)を主任となって主宰する調停委員(以下「主任調停委員」という。)を指名します。また、主任調停委員に事故があるときは、あらかじめその指名する調停委員が、その職務を代理するものとなるものとなります(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第3条第1項及び第2項)。

(3)均衡待遇調停会議の招集
均衡待遇調停会議は、主任調停委員が招集します。また、均衡待遇調停会議は、調停委員2人以上が出席しなければ、開くことができないとされています。さらに、均衡待遇調停会議は、非公開です(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第4条第1項から第3項まで)。

(4)均衡待遇調停会議の庶務
均衡待遇調停会議の庶務は、当該都道府県労働局雇用環境・均等部(室)において処理されます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第5条)。

(5)調停の申請
第25条第1項の調停の申請をしようとする者は、調停申請書を当該調停に係る紛争の関係当事者である労働者に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければなりません(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第6条及び別記様式)。

(6)調停の通知
都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を会長及び主任調停委員に通知します。また、都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは関係当事者の双方に対して、調停を行わせないこととしたときは調停を申請した関係当事者に対して、遅滞なく、その旨を書面によって通知します。(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第7条第1項及び第2項)。

(7)調停委員の指名
調停は、3人の調停委員が行うこととされており、調停委員は、委員会のうちから、会長があらかじめ指名するものとされています。(第26条において準用する男女雇用機会均等法第19条第1項及び第2項)。

(8)関係当事者等の出頭
委員会は、調停のために必要があると認めるときは、関係当事者又は関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人(以下「関係当事者等」という。)の出頭を求め、その意見を聴くことができます(第26条において準用する男女雇用機会均等法第20条第1項)。ただし、この「出頭」は強制的な権限に基づくものではなく、相手の同意によるものであるとされ、これらの出頭については、必ず関係当事者等(法人である場合には、委員会が指定する者)により行われることが必要です。
「その他の参考人」とは、関係当事者である短時間・有期雇用労働者が雇用されている事業所に過去に雇用されていた者、同一の事業所で就業する派遣労働者、関係当事者である短時間・有期雇用労働者と異なる事業所に雇用されている労働者、などをいいます。
委員会に「関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人」の出頭を求めることができるとしたのは、委員会が通常の労働者との比較が問題となる短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争を扱うため、比較対象となる通常の労働者の就業の実態について明らかにすることが必要であり、また、調停案の内容によっては同一の事業主に雇用される他の短時間・有期雇用労働者等に対しても影響を及ぼし得ることから、これらの者を参考人として意見聴取することが必要な場合があるためです。

(9)補佐人
委員会から出頭を求められた関係当事者等は、主任調停委員の許可を得て、補佐人を伴って出頭することができるものであり、補佐人は、主任調停委員の許可を得て陳述を行うことができます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第1項及び第2項)。「補佐人」は、関係当事者等が陳述を行うことを補佐することができます。なお、補佐人の陳述は、あくまでも関係当事者等の主張や説明を補足するためのものであり、補佐人が自ら主張を行ったり、関係当事者等に代わって意思表示を行ったりすることはできません。

(10)代理人
委員会から出頭を求められた関係当事者等は、主任調停委員の許可を得て当該事件について意見を述べることができるほか、他人に代理させることができます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第3項)。他人に代理させることについて主任調停委員の許可を得ようとする者は、代理人の氏名、住所及び職業を記載した書面に、代理権授与の事実を証明する書面を添付して主任調停委員に提出しなければなりません(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第4項)。

(11)文書又は物件の提出
委員会は、当該事件の事実の調査のために必要があると認めるときは、関係当事者等に対し、当該事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第9条)。

(12)特定の調停委員
委員会は、必要があると認めるときは、調停の手続の一部を特定の調停委員に行わせることができます。「調停の手続の一部」とは、現地調査や、提出された文書等の分析・調査、関係当事者等からの事情聴取等が該当します。この場合において、則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第4条第1項及び第2項の規定は適用せず、則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条の規定の適用については、同条中「主任調停委員」とあるのは、「特定の調停委員」とするものです。
また、委員会は、必要があると認めるときは、当該事件の事実の調査を都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の職員に委嘱することができます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第10条第1項及び第2項)。

(13)関係当事者からの申立てによる意見の聴取
委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から意見を聴くものとされています(第26条において準用する男女雇用機会均等法第21条)。
「主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者」については、主要な労働者団体又は事業主団体に対して、期限を付して関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の氏名を求めるものとするものです(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第1項)。関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の指名は、事案ごとに行います。指名を求めるに際しては、管轄区域内の全ての主要な労働者団体及び事業主団体から指名を求めなければならないものではなく、調停のため必要と認められる範囲で、主要な労働者団体又は事業主団体のうちの一部の団体の指名を求めることで足りるものとされています。則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第1項により委員会の求めがあった場合には、当該労働者団体又は事業主団体は、当該事件につき意見を述べる者の氏名及び住所を委員会に通知するものとされています(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第2項)。

(14)調停案の受諾勧告
委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができます(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第22条)。調停案の作成は、調停委員の全員一致をもって行われます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第1項)。また、「受諾を勧告する」とは、両関係当事者に調停案の内容を示し、その受諾を勧めるものであり、その受諾を義務付けるものではありません。委員会が、調停案の受諾を勧告する場合には、関係当事者の双方に対し、受諾すべき期限を定めて行われます(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第2項)。
関係当事者は、調停案を受諾したときは、その旨を記載し、記名押印した書面を委員会に提出しなければなりません(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第3項)。
しかし、この「書面」は、関係当事者が調停案を受諾した事実を委員会に対して示すものであって、それのみをもって関係当事者間において民事的効力をもつものではありません。

(15)調停の打ち切り
委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができ、その場合、その旨を関係当事者に通知しなければならないとされています(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第23条)。「調停による解決の見込みがないと認めるとき」とは、調停により紛争を解決することが期待し難いと認められる場合や調停により紛争を解決することが適当でないと認められる場合がこれに当たり、具体的には、調停開始後長期の時間的経過を見ている場合、当事者の一方が調停に非協力的で再三にわたる要請にもかかわらず出頭しない場合のほか、調停が当該紛争の解決のためでなく労使紛争を有利に導くために利用される場合等が原則としてこれに含まれます。

4.6 時効の完成猶予(第26条において準用する男女雇用機会均等法第24条関係)

男女雇用機会均等法
(時効の中断)
第二十四条 前条第一項の規定により調停が打ち切られた場合において、当該調停の申請をした者が同条第二項の通知を受けた日から三十日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時に、訴えの提起があつたものとみなす。

本条は、調停が打ち切られた場合に、当該調停の申請をした者が打切りの通知を受けた日から30日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申請の時に遡り、時効の完成猶予が生じることを明らかにしたものです。
「調停の申請の時」とは、申請書が現実に都道府県労働局長に提出された日であって、申請書に記載された申請年月日ではありません。
また、調停の過程において申請人が調停を求める事項の内容を変更又は追加した場合にあっては、当該変更又は追加した時が「申請の時」に該当するものと解されます。
「通知を受けた日から30日以内」とは、民法の原則に従い、文書の到達した日の当日は期間の計算に当たり算入されないため、書面による調停打切りの通知が到達した日の翌日から起算して30日以内となります。 「調停の目的となった請求」とは、当該調停手続において調停の対象とされた具体的な請求(地位確認、損害賠償請求等)を指します。本条が適用されるためには、これらと訴えに係る請求とが同一性のあるものでなければなりません。

4.7 訴訟手続の中止(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第25条関係)

男女雇用機会均等法
(訴訟手続の中止)
第二十五条 第十八条第一項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一 当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
二 前号に規定する場合のほか、関係当事者間に調停によって当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2 受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3 第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。

本条は、当事者が調停による紛争解決が適当であると考えた場合であって、調停の対象となる紛争のうち民事上の紛争であるものについて訴訟が係属しているとき、当事者が和解交渉に専念する環境を確保することができるよう、受訴裁判所は、訴訟手続を中止することができることとするものです。
具体的には、法第25条第1項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、4月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨を決定することができるものです。
(1) 当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
(2) (1)の場合のほか、関係当事者間に調停によって当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
なお、受訴裁判所は、いつでも訴訟手続を中止する旨の決定を取り消すことが認められています。また、関係当事者の申立てを却下する決定及び訴訟手続を中止する旨の決定を取り消す決定に対しては不服を申し立てることができません。

4.8 資料提供の要求等(第26条において準用する男女雇用機会均等法第26条関係)

男女雇用機会均等法
(資料提供の要求等)
第二十六条 委員会は、当該委員会に係属している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。

委員会は、当該委員会に継続している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができます。「関係行政庁」とは、例えば、国の機関の地方支分部局や都道府県等の地方自治体が考えられます。「その他必要な協力」とは、情報の提供や便宜の供与等をいいます。


続き

第1章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説①-第1章
第2章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説②-第2章
第3章
『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』の逐条解説③-第3章

改正労働基準法に関するQ&A

改正労働基準法についてのくわしいQ&Aです

(注1)本文中の法律の略称は、以下によっています。
法 …労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)
則 …労働基準法施行規則(昭和 22 年厚生省令第 23 号)
指針…労働基準法第 36 条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針(平成 30 年厚生労働省告示第 323 号)
限度基準告示…労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成 10 年労働省告示第 154号)

1.フレックスタイム制関係

1-1
(Q)清算期間が1か月を超える場合において、清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた場合、36 協定の締結と割増賃金の支払は必要ですか。

(A)清算期間が1か月を超える場合において、清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた場合は、時間外労働に該当します。このため、36 協定の締結及び届出を要し、清算期間の途中であっても、当該各期間に対応した賃金支払日に割増賃金を支払わなければなりません。
清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制における時間外労働の考え方については、パンフレット「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」P13の Point2をご参照ください。


1-2
(Q)フレックスタイム制において 36 協定を締結する際、現行の取扱いでは1日について延長することができる時間を協定する必要はなく、清算期間を通算して時間外労働をすることができる時間を協定すれば足りるとしていますが、今回の法改正後における取扱いはどのようになりますか。

(A)1日について延長することができる時間を協定する必要はなく、1か月及び1年について協定すれば足ります。


1-3
(Q)大企業(2023 年4月1日以降は、中小事業主も含む。)では、月 60 時間を超える時間外労働に対しては5割以上の率で計算した割増賃金を支払う必要がありますが、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制に対してはどのように適用しますか。

(A)清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間については、清算期間の途中であっても、時間外労働としてその都度割増賃金を支払わなければならず、当該時間が月 60 時間を超える場合は法第 37 条第1項ただし書により5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
また、清算期間を1か月ごとに区分した各期間の最終の期間においては、当該最終の期間を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間に加えて、当該清算期間における総実労働時間から、①当該清算期間の法定労働時間の総枠及び②当該清算期間中のその他の期間において時間外労働として取り扱った時間を控除した時間が時間外労働時間として算定されるものであり、この時間が 60 時間を超える場合には法第 37条第1項ただし書により5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
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1-4
(Q)フレックスタイム制清算期間の延長とともに、時間外労働の上限規制も施行されますが、時間外労働の上限規制のうち、時間外労働と休日労働の合計で、単月 100 時間未満(法第 36 条第6項第2号)、複数月平均 80 時間以内(法第 36 条第6項第3号)の要件は、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制に対してはどのように適用されますか。

(A)清算期間が1か月を超える場合のフレックスタイム制については、時間外労働の上限規制(法第 36 条第6項第2号及び第3号)は、清算期間を1か月ごとに区分した各期間について、当該各期間(最終の期間を除く。)を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間に対して適用されます。
また、清算期間を1か月ごとに区分した各期間の最終の期間においては、当該最終の期間を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間に加えて、当該清算期間における総実労働時間から、①当該清算期間の法定労働時間の総枠及び②当該清算期間中のその他の期間において時間外労働として取り扱った時間を控除した時間が時間外労働時間として算定されるものであり、この時間について時間外労働の上限規制(法第 36 条第6項第2号及び第3号)が適用されます(※1)。
フレックスタイム制における時間外労働の考え方については、パンフレット「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」P13~P18 をご参照ください。

※1 なお、フレックスタイム制は、労働者があらかじめ定められた総労働時間の範囲内で始業及び終業の時刻を選択し、仕事と生活の調和を図りながら働くための制度であり、長時間の時間外労働を行わせることは、フレックスタイム制の趣旨に合致しないことに留意してください。


1-5
(Q)フレックスタイム制のもとで休日労働を行った場合、割増賃金の支払いや時間外労働の上限規制との関係はどのようになりますか。

(A)フレックスタイム制のもとで休日労働を行った場合には、その休日労働の時間は清算期間における総労働時間や時間外労働とは別個のものとして取り扱われ、3割5分以上の割増賃金率で計算した賃金の支払いが必要です。
なお、時間外労働の上限規制との関係については、時間外労働と休日労働を合計した時間に関して、①単月 100 時間未満、②複数月平均 80 時間以内の要件を満たさなければなりません。


1-6
(Q)同一事業場内で、対象者や部署ごとに清算期間を変えることは可能ですか。

(A)労使協定に明記すれば可能です。


1-7
(Q)フレックスタイム制のもとで年次有給休暇を取得した場合、どのように取り扱えばよいでしょうか。

(A)フレックスタイム制のもとで年次有給休暇を取得した場合には、協定で定めた「標準となる1日の労働時間」の時間数を労働したものとして取り扱います。したがって、賃金清算に当たっては、実労働時間に、「年次有給休暇を取得した日数×標準となる1日の労働時間」を加えて計算します。


1-8
(Q)清算期間が同一のフレックスタイム制を導入している事業場に異動した場合、異動前後での労働時間を合算して取り扱うことは可能ですか。

(A)労使協定が異なる事業場に異動した場合には、労働時間を合算することはできません。それぞれの事業場で労働した期間について賃金清算を行う必要があり、それぞれの期間について週平均 40 時間を超えていれば時間外労働として割増賃金の支払が必要です。


1-9
(Q)清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制において、清算期間の途中に昇給があった場合、清算期間終了時の割増賃金の算定はどのように行うのでしょうか。

(A)割増賃金は、各賃金締切日における賃金額を基礎として算定するものであり、フレックスタイム制においても同様です。
したがって、清算期間の途中に昇給があった場合には、昇給後の賃金額を基礎として、清算期間を平均して1週間当たり 40 時間を超えて労働した時間について、割増賃金を算定することとなります。
ただし、清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間については、清算期間の途中であっても、当該各期間に対応した賃金支払日に割増賃金を支払う必要があります。そのため、昇給後においては、昇給後の賃金額を基礎として割増賃金を算定することとなりますが、昇給前の賃金によって賃金計算が行われる期間がある場合には、昇給前の賃金額を基礎として割増賃金を計算して差し支えありません。


1-10
(Q)清算期間が3か月のフレックスタイム制を導入している事業場で2か月間働き、3か月目の初めにフレックスタイム制を導入していない事業場に異動した場合の賃金の取扱いはどのようになりますか。

(A)清算期間の途中で事業場が異動となった場合には、フレックスタイム制適用事業場で働いた期間についてはフレックスタイム制による賃金計算を行い、異動後のフレックスタイム制非適用事業場で働いた期間については通常の労働時間制度における賃金計算を行う必要があります。
したがって、3か月目の初めから別の事業場に異動した場合には、1か月目の賃金は所定の賃金を支払い、2か月目の賃金については2か月間の実際の労働時間に応じて賃金計算をすることとなります。
なお、その際に、2か月間の実際の労働時間が週平均 40 時間を超えていた場合には、超えた時間について割増賃金の支払が必要となります。
(※ただし、この場合にも、1か月目、2か月目にそれぞれ週平均 50時間を超えて労働した場合には、超えた時間に対する割増賃金を1か月目の賃金に加算して支払う必要があります。)
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1-11
(Q)清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制においては、①各月ごとに週平均 50 時間を超えた時間を時間外労働時間としてカウントした上で、②清算期間の終了時には法定労働時間の総枠を超えて労働した時間を更に時間外労働としてカウントし、割増賃金を支払いますが、事業場独自に時間外労働として取り扱う労働時間の水準を引き下げ、例えば①の場合について週平均 45 時間を超えた時間とすることや、②の場合について週平均 35 時間を超えた時間とすることは可能ですか。

(A)清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制において、時間外労働として取り扱う労働時間を法定の水準より引き下げることは、差し支えありません。なお、この場合においても、時間外労働の上限規制は法定の時間外労働の考え方に基づいて適用されることから、法定の算定方法による時間外労働時間数についても併せて管理してください。

2 時間外労働の上限規制関係

2-1
(Q)36 協定の対象期間と有効期間の違いを教えてください。

(A)36 協定における対象期間とは、法第 36 条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、1年間に限るものであり、36 協定においてその起算日を定めることによって期間が特定されます。
これに対して、36 協定の有効期間とは、当該協定が効力を有する期間をいうものであり、対象期間が1年間に限られることから、有効期間は最も短い場合でも原則として1年間となります。また、36 協定について定期的に見直しを行う必要があると考えられることから、有効期間は1年間とすることが望ましいです。

※ なお、36 協定において1年間を超える有効期間を定めた場合の対象期間は、当該有効期間の範囲内において、当該 36 協定で定める対象期間の起算日から1年ごとに区分した各期間となります。


2-2
(Q)36 協定において、1日、1か月及び1年以外の期間について延長時間を定めることはできますか。定めることができる場合、当該延長時間を超えて労働させた場合は法違反となりますか。

(A)1日、1か月及び1年に加えて、これ以外の期間について延長時間を定めることも可能です。この場合において、当該期間に係る延長時間を超えて労働させた場合は、法第 32 条違反となります。


2-3
(Q)36 協定の対象期間とする1年間の中に、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の対象期間の一部が含まれている場合の限度時間は、月 42 時間かつ年 320 時間ですか。

(A)36 協定で対象期間として定められた1年間の中に、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の対象期間が3か月を超えて含まれている場合には、限度時間は月 42 時間及び年 320 時間となります。


2-4
(Q)36 協定により延長できる時間の限度時間(原則として月 45 時間・年360 時間。法第 36 条第4項)や 36 協定に特別条項を設ける場合の 1 か月及び1年についての延長時間の上限(1か月について休日労働を含んで 100 時間未満、1年について 720 時間。法第 36 条第5項)、特別条項により月 45 時間を超えて労働させることができる月数の上限(6か月。法第 36 条第5項)を超えている 36 協定の効力はどのようになりますか。

(A)ご質問の事項は、いずれも法律において定められた要件であり、これらの要件を満たしていない 36 協定は全体として無効です。


2-5
(Q)対象期間の途中で 36 協定を破棄・再締結し、対象期間の起算日を当初の 36 協定から変更することはできますか。

(A)時間外労働の上限規制の実効性を確保する観点から、1年についての限度時間(原則として 360 時間。法第 36 条第4項)及び特別条項により月 45 時間を超えて労働させることができる月数の上限(法第 36 条第5項)は厳格に適用すべきものであり、ご質問のように対象期間の起算日を変更することは原則として認められません。
なお、複数の事業場を有する企業において、対象期間を全社的に統一する場合のように、やむを得ず対象期間の起算日を変更する場合は、36協定を再締結した後の期間においても、再締結後の 36 協定を遵守することに加えて、当初の 36 協定の対象期間における1年の延長時間及び限度時間を超えて労働させることができる月数を引き続き遵守しなければなりません。


2-6
(Q)特別条項により月 45 時間・年 360 時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の場合は月 42 時間・年 320 時間)を超えて労働させることができる「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」(法第 36 条第5項)とは具体的にどのような状態をいいますか。

(A)「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合」とは、全体として1年の半分を超えない一定の限られた時期において一時的・突発的に業務量が増える状況等により限度時間を超えて労働させる必要がある場合をいうものであり、「通常予見することのできない業務量の増加」とは、こうした状況の一つの例として規定されたものです。
その上で、具体的にどのような場合を協定するかについては、労使当事者が事業又は業務の態様等に即して自主的に協議し、可能な限り具体的に定める必要があります。
なお、法第 33 条の非常災害時等の時間外労働に該当する場合はこれに含まれません。


2-7
(Q)同一企業内のA事業場からB事業場へ転勤した労働者について、①36協定により延長できる時間の限度時間(原則として月 45 時間・年 360 時間。法第 36 条第4項)、②36 協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(720 時間。法第 36 条第5項)、③時間外労働と休日労働の合計で、単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件(法第36 条第6項第2号及び第3号)は、両事業場における当該労働者の時間外労働時間数を通算して適用しますか。

(A)①36 協定により延長できる時間の限度時間(法第 36 条第4項)②36協定に特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限(法第 36条第5項)は、事業場における 36 協定の内容を規制するものであり、特定の労働者が転勤した場合は通算されません。
これに対して、③時間外労働と休日労働の合計で、単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件(法第 36 条第6項第2号及び第3号)は、労働者個人の実労働時間を規制するものであり、特定の労働者が転勤した場合は法第 38 条第1項の規定により通算して適用されます。


2-8
(Q)時間外労働と休日労働の合計で、複数月平均 80 時間以内の要件(法第36 条第6項第3号)は、改正法施行前の期間や経過措置の期間も含めて満たす必要がありますか。
また、複数の 36 協定の対象期間をまたぐ場合にも適用されますか。

(A)時間外労働と休日労働の合計で、複数月平均 80 時間以内の要件(法第36 条第6項第3号)については、改正法施行前の期間や経過措置の期間の労働時間は算定対象となりません。
また、この要件は、複数の 36 協定の対象期間をまたぐ場合にも適用されます。


2-9
(Q)36 協定を適用する業務の区分が細分化されていないなど、指針に適合しない 36 協定の効力はどのようになりますか。

(A)指針は、時間外・休日労働を適正なものとするために留意すべき事項等を定めたものであり、36 協定を適用する業務の区分が細分化されていないなど、法定要件を満たしているものの、指針に適合しない 36 協定は直ちには無効とはなりません。
なお、指針に適合しない 36 協定は、法第 36 条第9項の規定に基づく助言及び指導の対象となるものです。


2-10
(Q)適用猶予・除外業務等について上限規制の枠内の 36 協定を届け出る場合に、則様式第9号又は第9号の2を使用することは差し支えありませんか。

(A)時間外労働の上限規制の適用が猶予・除外される対象であっても、同条に適合した 36 協定を締結することが望ましいです。この場合において、則様式第9号又は第9号の2を使用することも差し支えありません。


2-11
(Q)改正前の労働基準法施行規則様式第9号(以下「旧様式」といいます。)により届け出るべき 36 協定を則様式第9号(以下「新様式」といいます。)により届け出ることは可能ですか。
また、その際、チェックボックスへのチェックを要しますか。

(A)新様式の記載項目は、旧様式における記載項目を包含しており、旧様式により届け出るべき 36 協定を新様式により届け出ることは差し支え
ありません。
旧様式により届け出るべき 36 協定を新様式で届け出る際は、改正前の法及び則並びに限度基準告示に適合していれば足り、時間外・休日労働の合計を単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内とすること(法第 36条第6項第2号及び第3号に定める要件を満たすこと)について協定しない場合には、チェックボックスへのチェックは要しません。


2-12
(Q)深夜業の回数制限(指針第8条第2号の健康確保措置)の対象には、所定労働時間内の深夜業の回数も含まれますか。
また、目安となる回数はありますか。

(A)深夜業の回数制限(指針第8条第2号の健康確保措置)の対象には、所定労働時間内の深夜業の回数制限も含まれます。なお、交替制勤務など所定労働時間に深夜業を含んでいる場合には、事業場の実情に合わせ、その他の健康確保措置を講ずることが考えられます。
また、指針は、限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置として望ましい内容を規定しているものであり、深夜業を制限する回数の設定を含め、その具体的な取扱いについては、労働者の健康及び福祉を確保するため、各事業場の業務の実態等を踏まえて、必要な内容を労使間で協定すべきものです。
例えば、労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)第 66 条の2の規定に基づく自発的健康診断の要件として、1月当たり4回以上深夜業に従事したこととされていることを参考として協定することも考えられます。


2-13
(Q)「終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること」(指針第8条第3号の健康確保措置)の「休息時間」とはどのような時間ですか。
また、目安となる時間数はありますか。

(A)「終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること」(指針第8条第3号の健康確保措置)の「休息時間」は、使用者の拘束を受けない時間をいうものですが、限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置として望ましい内容を規定しているものであり、休息時間の時間数を含め、その具体的な取扱いについては、労働者の健康及び福祉を確保するため、各事業場の業務の実態等を踏まえて、必要な内容を労使間で協定すべきものです。


2-14
(Q)「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」(法第 36 条第 11項)の具体的な範囲を教えてください。

(A)「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」(法第 36 条第 11項)は、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務をいい、既存の商品やサービスにとどまるものや、商品を専ら製造する業務などはここに含まれません。


2-15
(Q)建設工事現場における交通誘導警備業務を主たる業務とする労働者は、時間外労働の上限規制の適用猶予の対象となりますか。

(A)建設現場における交通誘導警備の業務を主たる業務とする労働者については、時間外労働の上限規制の適用猶予の対象となります(則第 69 条第1項)。


2-16
(Q)時間外労働の上限規制の適用が猶予される自動車の運転の業務の範囲を教えてください。

(A)「自動車の運転の業務」(法第 140 条及び則第 69 条第2項)に従事する者は、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省
告示第7号)第1条の自動車運転者と範囲を同じくするものです。すなわち、物品又は人を運搬するために自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっている者が原則として該当します。(ただし、物品又は人を運搬するために自動車を運転することが労働契約上の主として従事する業務となっていない者についても、実態として物品又は人を運搬するために自動車を運転する時間が現に労働時間の半分を超えており、かつ、当該業務に従事する時間が年間総労働時間の
半分を超えることが見込まれる場合には、「自動車の運転に主として従事する者」として取り扱います。)
そのため、自動車の運転が労働契約上の主として従事する業務でない者、例えば、事業場外において物品等の販売や役務の提供、取引契約の締結・勧誘等を行うための手段として自動車を運転する者は原則として該当しません。
なお、労働契約上、主として自動車の運転に従事することとなっている者であっても、実態として、主として自動車の運転に従事することがなければ該当しません。


2-17
(Q)時間外労働の上限規制の適用が猶予される「医業に従事する医師」の範囲を教えてください。

(A)「医業に従事する医師」(法第 141 条)とは、労働者として使用され、医行為を行う医師をいいます。なお、医行為とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為をいいます。


2-18
(Q)労働者派遣事業を営む事業主が、時間外労働の上限規制の適用が猶予される事業又は業務(法第 139 条から第 142 条まで)に労働者を派遣する場合、時間外労働の上限規制の適用猶予の対象となりますか。
また、事業場の規模により時間外労働の上限規制の適用が開始される日が異なりますが、派遣元又は派遣先のいずれの事業場の規模について判断すればよいでしょうか。

(A)労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和 60 年法律第 88 号。以下「労働者派遣法」といいます。)第 44条第2項前段の規定により、派遣中の労働者の派遣就業に係る法第 36 条の規定は派遣先の使用者について適用され、同項後段の規定により、36協定の締結・届出は派遣元の使用者が行うこととなります。このため、法第 139 条から第 142 条までの規定は派遣先の事業又は業務について適用されることとなり、派遣元の使用者においては、派遣先における事業・業務の内容を踏まえて 36 協定を締結する必要があります。
また、事業場の規模についても、労働者派遣法第 44 条第2項前段の規定により、派遣先の事業場の規模によって判断することとなります。36 協定の届出様式については、派遣先の企業規模や事業内容、業務内容に応じて適切なものを使用することとなります。


2-19
(Q)時間外労働の上限規制(法第 36 条の規定)が全面的に適用される業務(以下「一般則適用業務」といいます。)と時間外労働の上限規制の適用除外・猶予業務等との間で業務転換した場合や出向した場合の取扱いはどのようになりますか。

(A)
【業務転換の場合】
同一の 36 協定によって時間外労働を行わせる場合は、対象期間の途中で業務を転換した場合においても、対象期間の起算日からの当該労働者の時間外労働の総計を当該 36 協定で定める延長時間の範囲内としなければなりません。したがって、例えば法第 36 条の適用除外・猶予業務から一般則適用業務に転換した場合、当該協定における一般則適用業務の延長時間(最大1年 720 時間)から、適用除外・猶予業務等において行った時間外労働時間数を差し引いた時間数まで時間外労働を行わせることができ、適用除外・猶予業務等において既に年 720 時間を超える時間外労働を行っていた場合は、一般則適用業務への転換後に時間外労働を行わせることはできません。
なお、時間外労働と休日労働の合計で、単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件(法第 36 条第6項第2号及び第3号)は、時間外・休日労働協定の内容にかかわらず、一般則適用業務に従事する期間における実労働時間についてのみ適用されるものです。

【出向の場合】
出向先において出向元とは別の 36 協定の適用を受けることとなる場合は、出向元と出向先との間において特段の取決めがない限り、出向元における時間外労働の実績にかかわらず、出向先の 36 協定で定める範囲内で時間外・休日労働を行わせることができます。
ただし、一般則適用業務の実労働時間については、時間外労働と休日労働の合計で、単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件(法第36 条第6項第2号及び第3号)を満たす必要があり、法第 38 条第1項により出向の前後で通算されます。


2-20
(Q)施行前(大企業は 2019 年3月 31 日まで、中小企業は 2020 年3月 31日まで)と施行後(同年4月1日以後)にまたがる期間の 36 協定を締結している場合には、4月1日開始の協定を締結し直さなければならないのでしょうか。

(A)改正法の施行に当たっては、経過措置(※)が設けられています。この経過措置によって、施行前と施行後にまたがる期間の 36 協定を締結している場合には、その協定の初日から1年間に限っては、その協定は有効となります。
したがって、4月1日開始の協定を締結し直す必要はなく、その協定の初日から1年経過後に新たに定める協定から、上限規制に対応していただくこととなります。
※ 経過措置の内容
上限規制は、2019 年4月1日(中小企業は 2020 年4月1日)以後の期間のみを定めた 36 協定に対して適用されます。2019 年3月 31 日を含む期間について定めた 36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。


2-21
(Q)中小企業は上限規制の適用が1年間猶予されますが、その間の 36 協定届は従来の様式で届け出てもよいのでしょうか。

(A)適用が猶予される1年間については、従来の様式での届出で構いません。なお、上限規制を遵守する内容で 36 協定を締結する場合には、新様式で届け出ていただいても構いません。


2-22
(Q)上限規制の適用が1年間猶予される中小企業の範囲について、以下の場合はどのように判断されるのでしょうか。
①  「常時使用する労働者」の数はどのように判断するのですか。
②  「常時使用する労働者数」を算定する際、出向労働者や派遣労働者はどのように取り扱えばよいですか。
③  中小企業に当たるか否かを判断する際に、個人事業主や医療法人など、資本金や出資金の概念がない場合はどうすればよいですか。
④  中小企業に当たるか否かを判断する際に、グループ企業については、グループ単位で判断するのですか。

(A)
【①について】
臨時的に雇い入れた労働者を除いた労働者数で判断します。なお、休業などの臨時的な欠員の人数については算入する必要があります。
パート・アルバイトであっても、臨時的に雇い入れられた場合でなければ、常時使用する労働者数に算入する必要があります。

【②について】
労働契約関係のある労使間に算入します。在籍出向者の場合は出向元・出向先双方の労働者数に算入され、移籍出向者の場合は出向先のみの労働者数に算入されます。派遣労働者の場合は、労働契約関係は派遣元との間にありますので、派遣元の労働者数に算入します。

【③について】
資本金や出資金の概念がない場合は、労働者数のみで判断することとなります。

【④について】
企業単位で判断します。

※ 中小企業の範囲の詳細については、パンフレット「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」P5をご参照ください。パンフレット全体は以下のURLからご覧いただけます。


2-23

(Q)「休日労働を含んで」というのはどういった意味でしょうか。休日労働は時間外労働とは別のものなのでしょうか。

(A)労働基準法においては、時間外労働と休日労働は別個のものとして取り扱います。
・時間外労働・・・法定労働時間(1日8時間・1週 40 時間)を超えて労働した時間
休日労働 ・・・法定休日(1週1日又は4週4日)に労働した時間
今回の改正によって設けられた限度時間(月 45 時間・年 360 時間)はあくまで時間外労働の限度時間であり、休日労働の時間は含まれません。
一方で、今回の改正による、1か月の上限(月 100 時間未満)、2~6か月の上限(平均 80 時間以内)については、時間外労働と休日労働を合計した実際の労働時間に対する上限であり、休日労働も含めた管理をする必要があります。


2-24

(Q)時間外労働と休日労働の合計が、2~6か月間のいずれの平均でも月80 時間以内とされていますが、この2~6か月は、36 協定の対象期間となる1年間についてのみ計算すればよいのでしょうか。

(A)時間外労働と休日労働の合計時間について2~6か月の平均で 80 時間以内とする規制については、36 協定の対象期間にかかわらず計算する必要があります。
なお、上限規制が適用される前の 36 協定の対象期間については計算する必要はありません。


2-25

(Q)長時間労働者に対する医師の面接指導が法律で定められていますが、その対象者の要件と、今回の時間外労働の上限規制とは計算方法が異なるのでしょうか。

(A)時間外労働の上限規制は、労働基準法に定める法定労働時間を超える時間について上限を設けるものです。法定労働時間は、 原則として1日8時間・1週 40 時間と決められていますが、変形労働時間制やフレックスタイム制を導入した場合には、原則とは異なる計算をすることとなります。
一方、労働安全衛生法に定める医師による面接指導の要件は、労働時間の状況が1週間当たり 40 時間を超える時間が 80 時間を超えた労働者で本人の申出があった場合となっており、これは変形労働時間制やフレックスタイム制を導入した場合でも変わりません。
(※研究開発業務に従事する労働者については、1週間当たり 40 時間を超える時間が 100 時間を超えた場合に、本人の申出の有無にかかわらず、医師の面接指導を受けさせる必要があります。)


2-26

(Q)どのような場合に、法律に違反してしまうのでしょうか。

(A)時間外労働を行わせるためには、36 協定の締結・届出が必要です。したがって、36 協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、36 協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合には、法第 32 条違反となります。(6か月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金)
今回の法改正では、この 36 協定で定める時間数について、上限が設けられました。また、36 協定で定めた時間数にかかわらず、
・ 時間外労働と休日労働の合計時間が月 100 時間以上となった場合
・ 時間外労働と休日労働の合計時間について、2~6か月の平均のいずれかが 80 時間を超えた場合
には、法第 36 条第6項違反となります。(6か月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金)


2-27

(Q)36 協定では1か月についての延長時間を定めることとなっていますが、この「1か月」の起算日はどのように考えればよいでしょうか。

(A)36 協定の対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間の初日が「1か月」の起算日となります。


2-28

(Q)特別条項における1か月の延長時間として、「100 時間未満」と協定することはできますか。

(A)36 協定において定める延長時間数は、具体的な時間数として協定しなければなりません。「100 時間未満」と協定することは、具体的な延長時間数を協定したものとは認められないため、有効な 36 協定とはなりません。


2-29

(Q)特別条項において、1か月についてのみ又は1年についてのみの延長時間を定めることはできますか。

(A)特別条項において、1か月についてのみ又は1年についてのみ限度時間を超える延長時間を定めることは可能です。
1年についてのみ限度時間を超える延長時間を定める場合には、1か月の限度時間を超えて労働させることができる回数を「0回」として協定することとなります。これは、臨時的な労働時間の増加の有無を月ごとに判断した結果を協定していただくためです。
なお、特別条項は限度時間(1か月 45 時間・1年 360 時間。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は、1か月 42 時間・1年 320 時間)を超えて労働させる必要がある場合に定めるものであり、1日の延長時間についてのみ特別条項を協定することは認められません。


2-30

(Q)36 協定の様式では、「労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻」を記載することとなっていますが、始業及び終業の時刻ではなく、労働時間数の限度を記載しても構いませんか。

(A)「労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻」の欄には、原則として始業及び終業の時刻を記載していただく必要がありますが、これが困難な場合には、労働時間数の限度を記載していただいても構いません。


2-31

(Q)特別条項を設けておらず、かつ、時間外労働時間数と休日労働時間数を合計しても1か月 80 時間に満たない内容の 36 協定についても、チェックボックスへのチェックが必要ですか。

(A)休日労働を含んで、1か月 100 時間未満、2~6か月平均 80 時間以内とする要件(法第 36 条第6項第2号及び第3号)を満たすことは、特別条項の有無や時間外労働時間数等の協定内容にかかわらず、必ず協定しなければならない事項であり、則様式第9号により届出を行う場合は、チェックボックスへのチェックが必須です。


2-32

(Q)副業・兼業や転職の場合、休日労働を含んで、1か月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内(法第 36 条第6項第2号及び第3号)の上限規制が通算して適用されることとなりますが、その場合、自社以外での労働時間の実績は、どのように把握することが考えられますか。

(A)厚生労働省では、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定しており、ガイドラインにおいて、就業時間の把握については、労働者からの自己申告により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられると示しています。
なお、転職の場合についても自社以外の事業場における労働時間の実績は、労働者からの自己申告により把握することが考えられます。


2-33

(Q)法改正前の 36 協定では、法定労働時間を下回る所定労働時間を基準に延長時間を協定することや、法定休日における労働時間を含めて協定することも例外的に認められており、これらの時間を、法定労働時間を基準とした労働時間に換算する概算式が通達で定められていましたが、法改正後はどのように取り扱われますか。

(A)36 協定は、本来、法定労働時間(1週 40 時間・1日8時間)を超える時間数について協定するものであり、法定労働時間を下回る所定労働時間を基準に延長時間を協定して届け出ることや、法定休日・法定外休日の労働時間を含めて協定して届け出ることについては、本来の制度趣旨には必ずしも沿わないものですが、これまでは労使慣行への影響等を考慮して、やむを得ないものとして取り扱ってきました。
これに対して、今回の法改正は、法定労働時間を超える時間外労働について罰則付きの上限を設けるものであることから、必ず法定労働時間を基準とした労働時間について協定し、届け出る必要があり、従来の概算式を使用することはできなくなります。
なお、所定労働時間を基準に時間外労働時間を管理している事業場においては、法定労働時間を基準とした延長時間を協定した上で、「所定労働時間を超える時間数」を併せて協定することも可能です。新様式には、任意の記載項目として「所定労働時間を超える時間数」の欄が設けられていますので、こちらの記載欄を適宜活用してください。


2-34

(Q)36 協定の様式には、「所定労働時間を超える時間数(任意)」の記載欄が設けられていますが、ここに具体的な時間数を記載した場合の効力について教えてください。
また、1か月における「所定労働時間を超える時間数」は、各月の所定労働日数によって変動しますが、変動する中で最大となる時間数を記載すればよいでしょうか。

(A)「所定労働時間を超える時間数(任意)」の記載欄は、法定労働時間を下回る所定労働時間を基準に時間外労働の管理を行っている事業場において、任意に活用していただけるように設けられたものであり、「法定労働時間を超える時間数」を、所定労働時間を基準としたものに換算した時間数を記載していただくものです。
このため、「所定労働時間を超える時間数(任意)」の欄に記載した時間数それ自体が、「法定労働時間を超える時間数」と別途の効力を持つものではありません。
また、1か月における「所定労働時間を超える時間数」は、36 協定の対象期間において各月ごとに変動する中で最大となる時間数を記載してください。


2-35

(Q)改正前の法が適用される 36 協定の内容を 2019 年4月1日以降に見直して、労働基準監督署に改めて届け出る場合(例えば、2019 年2月1日から 2020 年1月 31 日までを対象期間とする 36 協定の内容を 2019 年8月に見直し、労働基準監督署に改めて届け出る場合)、改めて届け出る 36協定は、改正後の法に適合したものとし、新様式を使用する必要がありますか。

(A)対象期間の変更を伴わない見直しの場合は、引き続き改正前の法が適用されますので、旧様式を使用していただいて構いません。
協定の内容とともに、対象期間についても見直し、2019 年4月1日以降の期間のみを対象期間とする場合には、改正後の法に適合したものとし、新様式を使用してください。
※ 中小企業においては、上限規制は 2020 年4月1日から適用されますので、「2019 年」は「2020 年」と、「2020 年」は「2021 年」と読み替えてください。


2-36

(Q)36 協定の協定事項である「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」(則第 17 条第1項第5号)は、限度時間を超えるたびに講じる必要がありますか。また、限度時間を超えてからどの程度の期間内に措置を実施すべきですか。

(A)「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」(則第 17 条第1項第5号)は、原則として、限度時間を超えるたびに講じていただく必要があります。また、当該措置の実施時期については、措置の内容によっても異なりますが、例えば、医師による面接指導については、1か月の時間外労働時間を算定した日(賃金締切日等)から概ね1か月以内に講じていただくことが望ましいです。


2-37

(Q)指針に示された健康確保措置のうち、心とからだの健康問題についての相談窓口を設置することについて、相談窓口の設置さえ行えば、措置を果たしたことになるのでしょうか。
また、この場合、どのような内容について記録を保存すればよいでしょうか。

(A)心とからだの健康問題についての相談窓口については、それを設置することにより、法令上の義務を果たしたことになります。その際、労働者に対しては、相談窓口が設置されている旨を十分周知し、当該窓口が効果的に機能するよう留意してください。
また、この場合の記録の保存については、相談窓口を設置し、労働者に周知した旨の記録を保存するとともに、当該 36 協定の有効期間中に受け付けた相談件数に関する記録も併せて保存してください。


2-38

(Q)一般則適用業務と時間外労働の上限規制の適用除外・猶予業務等が混在する事業場の 36 協定については、則様式第9号(一般則適用業務について特別条項を設ける場合は、則様式第9号の2)と則様式第9号の4を別々に作成する必要がありますか。

(A)一般則適用業務と時間外労働の上限規制の適用除外・猶予業務等が混在する事業場の 36 協定は、基本的には、則様式第9号(一般則適用業務について特別条項を設ける場合は、則様式第9号の2)と則様式第9号の4を別々に作成する必要があります。
なお、則に定める様式は、必要な事項が記載できるよう定められたものであり、必要な事項が記載されている限り、異なる様式を使用することも可能です。したがって、必要な事項が紛れなく記載されていれば、一般則適用業務と時間外労働の上限規制の適用除外・猶予業務等を併せて一つの様式で届け出ることも可能です。


2-39

(Q)建設業(法第 139 条に規定する事業)において、研究開発業務を行う労働者がいる場合は、則様式第9号の4に加えて、則様式第9号の3を届け出る必要がありますか。

(A)建設業(法第 139 条に規定する事業)において、研究開発業務を行う労働者がいる場合は、当該労働者を含めて、則様式第9号の4により 36協定を届け出れば足り、則様式第9号の3を届け出ていただく必要はありません。
ただし、研究開発業務を行う労働者については、指針第9条第3項において、1か月について 45 時間又は1年について 360 時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は、1か月について 42 時間又は1年について 320 時間)を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置を定めるように努めなければならないとされていることに留意してください。


2-40

(Q)労働者派遣事業における 36 協定について、派遣元が中小企業で、2019年4月1日以降に大企業にも中小企業にも労働者を派遣する場合、いずれの様式を用いればよいでしょうか。

(A)労働者派遣法第 44 条第2項前段の規定により、派遣中の派遣労働者の派遣就業に係る法第 36 条の規定は派遣先の使用者について適用され、同項後段の規定により、36 協定の締結・届出は派遣元の使用者が行うこととなっています(※1)。
このため、2019 年4月1日以後の期間のみを定める 36 協定については、派遣元において、派遣先の企業規模、業種及び業務内容に応じて様式を選択し、派遣先ごとに締結・届出を行うこととなります(※2)。
したがって、ご質問の場合には、中小企業に労働者を派遣する場合は旧様式第9号、大企業に労働者を派遣する場合は新様式第9号(特別条項を設ける場合は新様式第9号の2)を用いることとなります(※3)。
なお、同一の労働者が大企業にも中小企業にも派遣される場合、法第36 条第6項(時間外・休日労働の合計で単月 100 時間未満、2~6か月平均 80 時間以内)の規定は、中小企業に上限規制が適用されるまで(2020年3月まで)の間は、大企業に派遣されている期間についてのみ適用されます(※4)。

※1 労働者派遣法第 44 条第2項
派遣中の労働者の派遣就業に関しては、派遣先の事業のみを、派遣中の労働者を使用する事業とみなして、労働基準法(略)第三十六条第一項及び第六項(略)の
規定並びに当該規定に基づいて発する命令の規定(これらの規定に係る罰則の規定を含む。)を適用する。この場合において(略)同法第三十六条第一項中「当該事業場に」とあるのは「派遣元の使用者が、当該派遣元の事業の事業場に」と、「これを行政官庁に」とあるのは「及びこれを行政官庁に」とする。
※2 派遣元に使用される派遣労働者以外の労働者(派遣元で業務に従事する事務スタッフなど)については、派遣労働者とは別に、派遣元の企業規模によって様式を選択することとなり、ご質問のように中小企業である場合は旧様式第9号を用いることとなります。
※3 なお、御質問のように、上限規制の適用が分かれる複数の派遣先について、同じ日に 36 協定を締結するといった場合には、派遣先ごとに必要な事項が漏れなく記載されている限り、1つの 36 協定届の様式にまとめることも可能です(なお、それらの複数の派遣先について、必ずしも 36 協定の有効期間・対象期間が同一である必要はありません)。
また、派遣先が自社で締結した自社の労働者に係る 36 協定の対象期間と、派遣元で締結した派遣労働者に係る 36 協定の対象期間は必ずしも一致しません。この
ため、2019 年4月1日以降は、経過措置の対象であるか否か(適用される 36 協定が、2019 年3月 31 日を含む期間を定めるものであるか否か)によって、派遣先に
おいて、自社の労働者と派遣労働者で上限規制の適用の有無が異なる場合もあり得ます。
※4 例えば、平成 31 年4月、6~7月は大企業、同年5月は中小企業に派遣していた場合、同年4月、6月、7月の時間外・休日労働は単月 100 時間未満とし、この3
か月の平均で 80 時間以内としなければなりません。


3 年次有給休暇関係

3-1

(Q)使用者による時季指定(法第 39 条第7項)は、いつ行うのでしょうか。

(A)使用者による時季指定(法第 39 条第7項)は、必ずしも基準日からの1年間の期首に限られず、当該期間の途中に行うことも可能です。


3-2

(Q)使用者による時季指定の対象となる「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」(法第 39 条第7項)には、法第 39 条第3項の比例付与の対象となる労働者であって、前年度繰越分の有給休暇と当年度付与分の有給休暇とを合算して初めて 10 労働日以上となる者も含まれますか。

(A)使用者による時季指定の対象となる「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」(法第 39 条第7項)は、基準日に付与される年次有給休暇の日数が 10 労働日以上である労働者が該当するものであり、法第 39条第3項の比例付与の対象となる労働者であって、今年度の基準日に付与される年次有給休暇の日数が 10 労働日未満であるものについては、仮に、前年度繰越分の年次有給休暇も合算すれば 10 労働日以上となったとしても、「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」には含まれません。


3-3

(Q)使用者による時季指定(法第 39 条第7項)を半日単位や時間単位で行うことはできますか。

(A)労働者の意見を聴いた際に半日単位の年次有給休暇の取得の希望があった場合においては、使用者が年次有給休暇の時季指定を半日単位で行うことは差し支えありません。この場合において、半日の年次有給休暇の日数は 0.5 日として取り扱います。
また、使用者による時季指定を時間単位年休で行うことは認められません。


3-4

(Q)前年度からの繰越分の年次有給休暇を取得した場合は、その日数分を法第 39 条第7項の規定により使用者が時季指定すべき5日の年次有給休暇から控除することができますか。

(A)前年度からの繰越分の年次有給休暇を取得した場合は、その日数分を法第 39 条第7項の規定により使用者が時季指定すべき5日の年次有給休暇から控除することとなります(法第 39 条第8項)。
※ なお、法第 39 条第7項及び第8項は、労働者が実際に取得した年次有給休暇が、前年度からの繰越分の年次有給休暇であるか当年度の基準日に付与された年次有給休暇であるかについては問わないものです。


3-5

(Q)法第 39 条第7項の規定により使用者が指定した時季を、使用者又は労働者が事後に変更することはできますか。

(A)法第 39 条第7項の規定により指定した時季について、使用者が労働者に対する意見聴取の手続(則第 24 条の6)を再度行い、その意見を尊重
することによって変更することは可能です。
また、使用者が指定した時季について、労働者が変更することはできませんが、使用者が指定した後に労働者に変更の希望があれば、使用者は再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましいです。


3-6

(Q)基準日から1年間の期間(以下「付与期間」といいます。)の途中に育児休業が終了した労働者等についても、5日の年次有給休暇を確実に取得させなければなりませんか。

(A)付与期間の途中に育児休業から復帰した労働者等についても、法第 39条第7項の規定により5日間の年次有給休暇を取得させなければなりません。
ただし、残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合には、その限りではありません。

3-7

(Q)使用者は、5日を超える日数の年次有給休暇について時季指定を行うことができますか。

(A)労働者の個人的事由による取得のために労働者の指定した時季に与えられるものとして一定の日数を留保する観点から、使用者は、年5日を超える日数について年次有給休暇の時季を指定することはできません。
また、使用者が時季指定を行うよりも前に、労働者自ら請求し、又は計画的付与により具体的な年次有給休暇日が特定されている場合には、当該特定されている日数について使用者が時季指定することはできません(法第 39 条第8項)。


3-8

(Q)あらかじめ使用者が時季指定した年次有給休暇日が到来するより前に、労働者が自ら年次有給休暇を取得した場合は、当初使用者が時季指定した日に労働者が年次有給休暇を取得しなくても、法第 39 条第7項違反とはなりませんか。

(A)ご質問の場合は労働者が自ら年次有給休暇を5日取得しており、法第39 条第7項違反とはなりません。なお、この場合において、当初使用者が行った時季指定は、使用者と労働者との間において特段の取決めがない限り、当然に無効とはなりません。


3-9

(Q)則第 24 条の5第2項においては、基準日又は第一基準日を始期として、第二基準日から1年を経過する日を終期とする期間の月数を 12 で除した数に5を乗じた日数について時季指定する旨が規定されていますが、この「月数」に端数が生じた場合の取扱いはどのようになりますか。また、同規定により算定した日数に1日未満の端数が生じた場合の取扱いはどのようになりますか。

(A)則第 24 条の5第2項を適用するに当たっての端数については原則として下記のとおり取り扱うこととしますが、この方法によらず、月数について1か月未満の端数をすべて1か月に切り上げ、かつ、使用者が時季指定すべき日数について1日未満の端数をすべて1日に切り上げることでも差し支えありません。
【端数処理の方法】
① 基準日から翌月の応答日の前日までを1か月と考え、月数及び端数となる日数を算出します。ただし、基準日の翌月に応答日がない場合は、翌月の末日をもって1か月とします。
② 当該端数となる日数を、最終月の暦日数で除し、上記①で算出した月数を加えます。
③ 上記②で算出した月数を 12 で除した数に5を乗じた日数について時季指定します。なお、当該日数に1日未満の端数が生じている場合は、これを1日に切り上げます。

(例)第一基準日が 10 月 22 日、第二基準日が翌年4月1日の場合
① 10 月 22 日から 11 月 21 日までを1か月とすると、翌々年3月 31 日までの月数及び端数は 17 か月と 10 日(翌々年3月 22 日から3月 31 日まで)と算出されます。
② 上記①の端数 10 日について、最終月(翌々年3月 22 日から4月 21 日まで)の暦日数 31 日で除し、17 か月を加えると、17.32…か月となります。
③ 17.32…か月を 12 で除し、5を乗じると、時季指定すべき年次有給休暇の日数は、7.21…日となり、労働者に意見聴取した結果、半日単位の取得を希望した場合には 7.5 日、希望しない場合には8日について時季指定を行います。


3-10

(Q)使用者による時季指定を行う場合の労働者に対する意見聴取(則第 24条の6第1項)やその尊重(則第 24 条の6第2項)の具体的な内容について教えてください。

(A)則第 24 条の6第1項の意見聴取の内容としては、法第 39 条第7項の基準日から1年を経過する日までの間の適時に、労働者から年次有給休暇の取得を希望する時季を申告させることが考えられます。
また、則第 24 条の6第2項の尊重の内容としては、できる限り労働者の希望に沿った時季を指定するよう努めることが求められるものです。


3-11

(Q)労働者自らが半日単位又は時間単位で取得した年次有給休暇の日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することができますか。

(A)労働者が半日単位で年次有給休暇を取得した日数分については、0.5 日として使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することとなり、当該日数分について使用者は時季指定を要しません。なお、労働者が時間単位で年次有給休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできません。


3-12

(Q)事業場が独自に設けている法定の年次有給休暇と異なる特別休暇を労働者が取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできますか。

(A)法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇(たとえば、法第 115条の時効が経過した後においても、取得の事由及び時季を限定せず、法定の年次有給休暇を引き続き取得可能としている場合のように、法定の年次有給休暇日数を上乗せするものとして付与されるものを除きます。以下同じ。)を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇から控除することはできません。
なお、法定の年次有給休暇とは別に設けられた特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年次有給休暇に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないものであるとともに、労働者と合意をすることなく就業規則を変更することにより特別休暇を年次有給休暇に振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益と認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的なものである必要があります。


3-13

(Q)年次有給休暇管理簿に記載すべき「日数」とは何を記載すべきですか。
また、電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等により年次有給休暇管理簿を調整することはできますか。

(A)年次有給休暇管理簿に記載すべき「日数」としては、労働者が自ら請求し取得したもの、使用者が時季を指定し取得したもの又は計画的付与により取得したものにかかわらず、実際に労働者が年次有給休暇を取得した日数(半日単位で取得した回数及び時間単位で取得した時間数を含みます。)を記載する必要があります。
また、労働者名簿、賃金台帳と同様の要件を満たした上で、電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等により調整することは差し支えありません。


3-14

(Q)使用者による時季指定(法第 39 条第7項)について、就業規則に記載する必要はありますか。

(A)休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、使用者による時季指定(法第 39 条第7項)を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要があります。


就業規則の規定例
第○条
1~4(略)(※厚生労働省ホームページのモデル就業規則をご参照ください。)
5  第1項又は第2項の年次有給休暇が 10 日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有
給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。


3-15

(Q)2019 年4月より前(例えば 2019 年 1 月)に 10 日以上の年年次有給休暇を付与している場合には、そのうち5日分について、2019 年4月以後に年5日確実に取得させる必要がありますか。

(A)改正法が施行される 2019 年4月1日以後、最初に年 10 日以上の年次有給休暇を付与する日(基準日)から、年5日確実に取得させる必要があります。よって、2019 年4月より前に年次有給休暇を 10 日以上付与している場合は、使用者に時季指定義務が発生しないため、年5日確実に取得させなくとも、法違反とはなりません。


3-16

(Q)4月1日に入社した新入社員について、法定どおり入社日から6か月経過後の 10 月1日に年休を付与するのではなく、入社日に 10 日以上の年次有給休暇を付与し、以降は年度単位で管理しています。このような場合、基準日はいつになりますか。

(A)この場合、4月1日が基準日となります。


3-17

(Q)今回の法改正を契機に、法定休日ではない所定休日を労働日に変更し、当該労働日について、使用者が年次有給休暇として時季指定することはできますか。

(A)ご質問のような手法は、実質的に年次有給休暇の取得の促進につながっておらず、望ましくないものです。


3-18

(Q)出向者については、出向元、出向先どちらが年5日確実に取得させる義務を負いますか。

(A)在籍出向の場合は、労働基準法上の規定はなく、出向元、出向先、出向労働者三者間の取り決めによります。(基準日及び出向元で取得した年次有給休暇の日数を出向先の使用者が指定すべき5日から控除するかどうかについても、取り決めによります。)
移籍出向の場合は、出向先との間にのみ労働契約関係があることから、出向先において 10 日以上の年次有給休暇が付与された日から1年間について5日の時季指定を行う必要があります(なお、この場合、原則として出向先において新たに基準日が特定されることとなり、また、出向元で取得した年次有給休暇の日数を出向先の使用者が指定すべき5日から控除することはできません。)。
なお、基準日から1年間の期間の途中で労働者を移籍出向させる場合(※1、※2)については、以下の3つの要件を満たすときは、出向前の基準日から1年以内の期間において、出向の前後を通算して5日の年次有給休暇の時季指定を行うこととして差し支えありません。なお、この場合、出向先が年次有給休暇の時季指定義務を負うこととなります。
① 出向時点において出向元で付与されていた年次有給休暇日数及び出向元における基準日(※3)を出向先において継承すること
② 出向日から6か月以内に、当該労働者に対して 10 日以上(①で継承した年次有給休暇日数を含む。)の年次有給休暇を出向先で付与すること。すなわち、出向先における雇入れから6か月以内に、10 日以上の年次有給休暇を取得する権利が当該労働者に保障されていること。
③ 出向前の期間において、当該労働者が出向元で年5日の年次有給休暇を取得していない場合は、5日に不足する日数について、出向元における基準日から1年以内に出向先で時季指定する旨を出向契約に明記していること

※1 移籍出向先から出向元へ帰任する場合も同様です。

※2 労働者が海外企業に出向する場合や、出向先で役員となる場合については、6-1をご参照ください。

※3 出向した翌年の基準日は、出向元における基準日の1年後となります。


3-19

(Q)年5日の取得ができなかった労働者が1名でもいたら、罰則が科されるのでしょうか。

(A)法違反として取り扱うこととなりますが、労働基準監督署の監督指導において、法違反が認められた場合は、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。


3-20

(Q)使用者が年次有給休暇の時季指定をするだけでは足りず、実際に取得
させることまで必要なのでしょうか。

(A)使用者が5日分の年次有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に年次有給休暇を5日取得していなければ、法違反として取り扱うことになります。


3-21

(Q)年次有給休暇の取得を労働者本人が希望せず、使用者が時季指定を行っても休むことを拒否した場合には、使用者側の責任はどこまで問われるのでしょうか。
-
(A)使用者が時季指定をしたにもかかわらず、労働者がこれに従わず、自らの判断で出勤し、使用者がその労働を受領した場合には、年次有給休暇を取得したことにならないため、法違反を問われることになります。
ただし、労働基準監督署の監督指導において、法違反が認められた場合は、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。


3-22
(Q)休職している労働者についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要がありますか。

(A)例えば、基準日からの1年間について、それ以前から休職しており、期間中に一度も復職しなかった場合など、使用者にとって義務の履行が不可能な場合には、法違反を問うものではありません。


3-23

(Q)期間中に契約社員から正社員に転換した場合の取扱いについて教えてください。

(A)対象期間中に雇用形態の切り替えがあったとしても、引き続き基準日から1年以内に5日取得していただく必要があります。
※ なお、雇用形態の切り替えにより、基準日が従来よりも前倒しになる場合(例えば、契約社員の時の基準日は 10/1だったが、正社員転換後は基準日が4/1に前倒しになる場合)には、5日の時季指定義務の履行期間に重複が生じます。
そのような場合の取扱いについては、パンフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」P9をご参照ください。


3-24

(Q)使用者が時季指定した年次有給休暇について、労働者から取得日の変更の申出があった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。また、年次有給休暇管理簿もその都度修正しなくてはいけないのでしょうか。

(A)労働者から取得日の変更の希望があった場合には、再度意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った時季とすることが望ましいです。また、取得日の変更があった場合は年次有給休暇管理簿を修正する必要があります。


3-25

(Q)管理監督者にも年5日の年次有給休暇を確実に取得させる必要があるのでしょうか。

(A)管理監督者についても、年5日の年次有給休暇を確実に取得させる義務の対象となります。


3-26

(Q)使用者による時季指定義務は、中小企業にも適用されますか。

(A)使用者による時季指定義務は、企業規模にかかわらず全ての事業場に適用されます。


3-27

(Q)法定の年次有給休暇の付与日数が 10 日に満たないパートタイム労働者について、法を上回る措置として 10 日以上の年次有給休暇を付与している場合についても、年5日確実に取得させる義務の対象となるのでしょうか。

(A)ご質問の場合は、法定の年次有給休暇の付与日数が 10 日に満たないため、年5日確実に取得させる義務の対象とはならず、使用者が年次有給
休暇の取得時季を指定することはできません。


3-28

(Q)年次有給休暇の一部を基準日より前の日から与える場合(則第 24 条の5第4項の適用を受ける場合)、通達(平成6年1月4日付け基発第1号)により、次年度の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げることとなり、次年度においては年次有給休暇の付与期間に重複が生じるため、則第 24 条の5第2項の特例を適用することになるのでしょうか。

(A)ご見解のとおりです。具体例としては以下のような場合が考えられます。

【例】4月1日に入社した労働者に対して、入社日に5日の年次有給休暇を付与し、同年7月1日にさらに5日の年次有給休暇を付与する場合
① この場合は、入社年の7月1日(第一基準日)からの1年間において5日の年次有給休暇を取得させなければなりませんが、則第 24 条の5により、同年4月1日から同年7月1日までの間に労働者が取得した年次有給休暇の日数分については、使用者による時季指定を要しません。
② 翌年の基準日(第二基準日)は、従来であれば7月1日となりますが、入社年において法定の年次有給休暇の付与日数を一括して与えるのではなく、その日数の一部を法定の基準日から6か月間繰り上げていることから、通達(平成6年1月4日付け基発第1号)により、第二基準日も6か月間繰り上げ、4月1日となります。
③ 上記①及び②より、使用者による時季指定の義務を履行すべき期間は、入社年の7月1日からの1年間と翌年4月1日からの1年間となり、期間が重複します。
④ このため、則第 24 条の5第2項の特例を適用することとなり、入社年の7月1日から翌々年の3月 31 日までの 21 か月について、9日(21÷12×5=8.75)の時季指定を行うこととなります。
※ 詳しくは、パンフレット「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」P10 をご参照ください。パンフレット全体は、以下のURLからご覧いただけます。

(参考)平成6年1月4日付け基発第1号(抜粋)
イ 斉一的取扱いや分割付与により法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である八割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤した
ものとみなすものであること。
ロ 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上
げること。


3-29

(Q)派遣労働者については、派遣元・派遣先のどちらで年次有給休暇の時季指定や年次有給休暇管理簿の作成を行えばよいでしょうか。

(A)派遣労働者については、派遣元で年次有給休暇の時季指定や年次有給休暇管理簿の作成を行います。


3-30

(Q)年次有給休暇管理簿は、いつから作成する必要がありますか。また、基準日よりも前に、10 労働日の年次有給休暇のうち一部を前倒しで付与している場合(分割付与の場合)は、いつから作成する必要がありますか。

(A)改正後の法及び則のうち、年次有給休暇に関する規定については、2019年4月1日以後の最初の基準日から適用されます。
年次有給休暇管理簿については、法定の年次有給休暇が付与されるすべての労働者について、2019 年4月1日以後の最初の基準日から作成していただく必要があります。
なお、基準日よりも前に、10 労働日の年次有給休暇のうち一部を前倒しで付与している場合(分割付与の場合)については、年次有給休暇の付与日数や取得状況を適切に管理する観点から、最初に分割付与された日から年次有給休暇管理簿を作成していただく必要があります。


3-31
(Q)年次有給休暇管理簿は、労働者名簿又は賃金台帳とあわせて調整することができますが、例えば、労働者名簿に「入社日」、賃金台帳に「時季」と「日数」、就業規則に雇入れ後6か月経過日が「基準日」となる旨の記載があれば、それらをもって年次有給休暇管理簿を作成したものとして認められますか。

(A)年次有給休暇管理簿では、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにする必要があり、則第 55 条の2では、使用者は、年次有給休暇管理簿、労働者名簿又は賃金台帳をあわせて調整することができるとされています。
ご質問のような方法では、労働者名簿と賃金台帳だけでは労働者ごとの基準日を直ちに確認することができないため、年次有給休暇管理簿を作成したものとは認められません。


3-32

(Q)年次有給休暇管理簿について、当社では勤怠管理システムの制約上、年次有給休暇の基準日、日数及び時季を同じ帳票で出力することができません。このような場合でも、年次有給休暇管理簿を作成したものとして認められますか。

(A)基準日、日数及び時季が記載されたそれぞれの帳票を必要な都度出力できるものであれば、年次有給休暇管理簿を作成したものとして認められます。


3-33

(Q)使用者による時季指定によって年5日の年次有給休暇を取得させた代わりに、精皆勤手当や賞与を減額することはできますか。

(A)年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをすることは禁止されており(法第 136 条)、精皆勤手当や賞与を減額することはできません。


3-34

(Q)当社では、法定の年次有給休暇に加えて、取得理由や取得時季が自由で、年次有給休暇と同じ賃金が支給される「リフレッシュ休暇」を毎年労働者に付与し、付与日から1年間利用できることとしています。
この「リフレッシュ休暇」を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除してよいでしょうか。

(A)ご質問の「リフレッシュ休暇」は、毎年、年間を通じて労働者が自由に取得することができ、その要件や効果について、当該休暇の付与日(※)からの1年間において法定の年次有給休暇の日数を上乗せするものであれば、当該休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除して差し支えありません。
※ 当該休暇の付与日は、法定の年次有給休暇の基準日と必ずしも一致している必要はありません。

4 労働条件の明示の方法関係

4-1

(Q)労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メール等で労働条件を明示することができるようになりますが、口頭により希望することも認められますか。また、労働者の希望の有無について、明示をするときに個別に確認する必要がありますか。

(A)則第5条第4項の「労働者が(中略)希望した場合」とは、労働者が使用者に対し、口頭で希望する旨を伝達した場合を含むと解されますが、法第 15 条の規定による労働条件の明示の趣旨は、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止することであることに鑑みると、紛争の未然防止の観点からは、労使双方において、労働者が希望したか否かについて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましいです。


4-2

(Q)今回の改正により、電子メール等の送信により労働条件を明示することが可能となりますが、「電子メール等」には具体的にどのような方法が含まれますか。

(A)「電子メール等」とは、以下のものが含まれます。
① パソコン・携帯電話端末による E メール、Yahoo!メールや Gmail といったウェブメールサービス、
② +メッセージ等の RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)や、SMS(ショート・メール・サービス)、
③ LINE や Facebook 等の SNS メッセージ機能
が含まれます。
なお、上記②の RCS や SMS については、PDF 等の添付ファイルを送付することができないこと、送信できる文字メッセージ数に制限等があり、また、前提である出力による書面作成が念頭に置かれていないサービスであるため、労働条件明示の手段としては例外的なものであり、原則として上記①や③による送信の方法とすることが望ましいです。
また、労働者が開設しているブログ、ホームページ等への書き込みや、SNS の労働者のマイページにコメントを書き込む行為等、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、第三者が特定個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「電子メール等」には含まれません。


4-3

(Q)電子メール等の送信によって労働条件を明示する場合、労働者が電子メールの受信を拒否しているケースも想定されますが、「送信」の具体的な考え方を教えてください。
また、電子メール等の中には Gmail や LINE など、受信した内容が労働者本人の利用する通信端末機器自体には到達せず、メールサーバー等においてデータが管理される場合がありますが、その場合は、メールサーバー等に到達した時点で送信されたことになるのでしょうか。

(A)労働者が受信拒否設定をしていたり、電子メール等の着信音が鳴らない設定にしたりしているなどのために、個々の電子メール等の着信の時点で、相手方である受信者がそのことを認識し得ない状態であっても、受信履歴等から電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識しうるのであれば、送信をしたことになります。
また、web メールサービスや SNS 等において、本人の通信端末機器に受信した内容が到達していなくても、メールサーバー等に到達していれば、電子メール等の送信が行われたことを受信者が認識し得る状態にあると判断できるため、認められます。
なお、労働条件の明示を巡る紛争の未然防止の観点から、使用者があらかじめ労働者に対し、当該労働者の端末等が上記の設定となっていないか等を確認することや、web メールサービスや SNS 等については上記のような特色があることから、実際に労働者本人が着信できているか確認するように促すこと等の対応を行うことが望ましいです。


4-4

(Q)明示しなければならない労働条件の範囲は、以前から変更はありますか。

(A)今回の改正省令については、労働条件の明示方法について改正を行うものであることから、明示しなければならない労働条件の範囲について変更を加えるものではありません。


4-5

(Q)LINE 等の SNS を利用する場合、PDF 等のファイルを添付せずに、本文に直接入力することは可能ですか。

(A)本文に直接入力する場合でも、紙による出力が可能であれば、「出力することにより書面を作成することができる」ものに該当しますが、労働条件の明示を巡る紛争の未然防止及び書類管理の徹底の観点から、モデル労働条件通知書へ記入し、電子メール等に添付し送信する等、可能な限り紛争を防止しつつ、書類の管理がしやすい方法とすることが望ましいです。


4-6

(Q)「出力することにより書面を作成することができるものに限る」とは、プリンターの保有状況等、個人的な事情を指しますか。それとも世間一般的に出力可能なことを指しますか。

(A)則第5条第4項の要件は「当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」であり、あくまで書面を作成するかどうかは当該労働者個人の判断に委ねられていることから、当該労働者の個人的な事情によらず、一般的に出力が可能な状態であれば、「当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」に該当します。


4-7

(Q)電子メール等による送信をする場合、署名は必要ですか。

(A)電子メール等による送信の方法による明示を行う場合においても、書面による交付と同様、明示する際の様式は自由であり、使用者の署名や押印は義務付けられていませんが、紛争の未然防止の観点から、例えば、原則の書面の交付による明示の際には押印している等の事情があれば、電子メール等による送信の方法の際にも署名等をすることが望ましいです。

過半数代表者関係

5-1
(Q)労働者の過半数を代表する者が労使協定等に関する事務を円滑に遂行することができるようにするために、使用者に求められる「必要な配慮」(則第6条第4項)にはどのようなものが含まれますか。

(A)則第6条第4項の「必要な配慮」には、例えば、過半数代表者が労働者の意見集約等を行うに当たって必要となる事務機器(イントラネットや社内メールを含みます。)や事務スペースの提供を行うことが含まれます。

6 その他

6-1
(Q)労働者が海外企業に出向する場合や、出向先で役員となる場合の時間外労働の上限規制及び年次有給休暇の時季指定義務の考え方を教えてください。

(A)ご質問については、個別の事情に応じて判断されるものですが、一般的には、いずれの場合も出向先において法が適用されないため、出向している期間については、時間外労働の上限規制及び年次有給休暇の時季指定義務の対象とはなりません。
また、労働者が海外企業に出向する場合や、出向先で役員となる場合は、年次有給休暇の時季指定義務については、出向前の期間(すなわち、法が適用される期間)において、労働者に5日の年次有給休暇を取得させる必要があります。(ただし、海外企業に在籍出向する場合においては、出向元、出向先、出向労働者三者間の取り決めにより、出向前の基準日から1年以内の期間において、出向の前後を通算して5日の年次有給休暇の時季指定を行うこととしても差し支えありません。)

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法及び労働安全衛生法の施行について(平成31.3.25,基発0325第1号)

平成31.3.25,基発0325第1号

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法及び労働安全衛生法の施行について(新労基法第41条の2及び新安衛法第66条の8の4関係)


平成30年9月7日付け基発0907第1号「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」及び平成30年9月7日付け基発0907第2号「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法の施行等について」において追って通知することとしていた、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号。以下「整備法」という。)による改正後の労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「新労基法」という。)第41条の2及び改正後の労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「新安衛法」という。)第66条の8の4、労働基準法施行規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令(平成31年厚生労働省令第29号)による改正後の労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号。以下「新労基則」という。)及び改正後の労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「新安衛則」という。)並びに労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針(平成31年厚生労働省告示第88号。以下「指針」という。)の内容等は以下のとおりであるので、これらの施行に遺漏なきを期されたい。

第1 労働基準法関係

1 趣旨

高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、新労基法第41条の2第1項の委員会(以下「労使委員会」という。)の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や、対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(労使委員会が休憩時間その他対象労働者が労働していない時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(以下「健康管理時間」という。)の状況に応じた健康及び福祉を確保するための措置(以下「健康・福祉確保措置」という。)等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度である。

2 労使委員会による決議の届出(新労基法第41条の2第1項本文及び新労基則第34条の2第1項関係)

高度プロフェッショナル制度を事業場に導入するに当たっては、労使委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により、下記4から13までの事項に関する決議(以下「決議」という。)をし、かつ、使用者が、様式第14号の2により、当該決議を所轄労働基準監督署長に届け出なければならないものであること。なお、下記4から13までのいずれかの事項に関し、適正な決議がなされていない場合、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じないこと。また、下記6から8までの事項について決議した場合であっても、当該決議内容に基づく措置を講じていない場合は、高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じないこと。

3 本人同意(新労基法第41条の2第1項本文及び新労基則第34条の2第2項関係)高度プロフェッショナル制度を労働者に適用するに当たっては、使用者は、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象労働者が希望した場合にあっては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)により、当該対象労働者の同意を得なければならないものであること。

⑴ 対象労働者が新労基法第41条の2第1項の同意(以下「本人同意」という。)をした場合には、同項の規定により、新労基法第4章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されないこととなる旨
⑵ 本人同意の対象となる期間
⑶ 上記⑵の期間中に支払われると見込まれる賃金の額

4 対象業務(新労基法第41条の2第1項第1号及び新労規則第34条の2第3項関係)

決議において、当該事業場における高度プロフェッショナル制度の対象業務を定めなければならないものであること。高度プロフェッショナル制度の対象業務は、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務であり、具体的には、次に掲げる業務(当該業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示(業務量に比して著しく短い期限の設定その他の実質的に当該業務に従事する時間に関する指示と認められるものを含む。)を受けて行うものを除く。)であること。
⑴ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑵ 資産運用(指図を含む。以下この⑵において同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務
⑶ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
⑷ 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
⑸ 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

5 対象労働者の範囲(新労基法第41条の2第1項第2号及び新労規則第34条の2第4項から第6項まで関係)

決議において、次のいずれにも該当する労働者であって、当該事業場における高度プロフェッショナル制度の対象業務に就かせようとするものの範囲を定めなければならないものであること。
⑴ 職務が明確に定められていること(新労基法第41条の2第1項第2号イ及び新労規則第34条の2第4項関係)
使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること。この「合意」の方法は、使用者が、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象労働者が希望した場合にあっては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)とすること。
① 業務の内容
② 責任の程度
③ 職務において求められる成果その他の職務を遂行するに当たって求められる水準
⑵ 年収要件(新労基法第41条の2第1項第2号ロ並びに新労規則第34条の2第5項及び第6項関係)労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。この「基準年間平均給与額」は、厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額の1月分から12月分までの各月分の合計額とすること。また、「厚生労働省令で定める額」は、1,075万円とすること。

6 健康管理時間の把握(新労基法第41条の2第1項第3号並びに新労規則第34条の2第7項及び第8項関係)

決議において、健康管理時間を把握する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずることを定めなければならないものであること。健康管理時間を把握する方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法とすること。ただし、事業場外において労働した場合であって、やむを得ない理由があるときは、自己申告によることができること。

7 休日の確保(新労基法第41条の2第1項第4号関係)

決議において、対象業務に従事する対象労働者に対し、1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えることを定めなければならないものであること。

8 選択的措置(新労基法第41条の2第1項第5号及び新労規則第34条の2第9項から第13項まで関係)

決議において、対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずることを定めなければならないものであること。
⑴ 労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに11時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、新労基法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について4回以内とすること
⑵ 1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について、1箇月について100時間を超えない範囲内とすること又は3箇月について240時間を超えない範囲内とすること
⑶ 1年に1回以上の継続した2週間(労働者が請求した場合においては、1年に2回以上の継続した1週間)(使用者が当該期間において、新労基法第39条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること
⑷ 1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1箇月当たり80時間を超えた労働者又は申出があった労働者に健康診断(以下「臨時健康診断」という。)を実施すること臨時健康診断は、新安衛則第44条第1項第1号から第3号まで、第5号及び第8号から第11号までに掲げる項目(同項第3号に掲げる項目にあっては、視力及び聴力の検査を除く。)並びに新安衛則第52条の4各号に掲げる事項の確認を含むものに限ること。

9 健康・福祉確保措置(新労基法第41条の2第1項第6号及び新労規則第34条の2第14項関係)

決議において、対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康・福祉確保措置であって、次に掲げる措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずることを定めなければならないものであること。
⑴ 上記8の⑴から⑷までのいずれかの措置であって、上記8の措置として講ずることとした措置以外のもの
⑵ 健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、新安衛法第66条の8の4第1項の規定による面接指導を除く。)を行うこと
⑶ 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
⑷ 対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
⑸ 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
⑹ 産業医等による助言若しくは指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

10 同意の撤回に関する手続(新労基法第41条の2第1項第7号関係)

決議において、本人同意の撤回に関する手続を定めなければならないものであること。

11 苦情処理措置(新労基法第41条の2第1項第8号関係)

決議において、対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずることを定めなければならないものであること。

12 不利益取扱いの禁止(新労基法第41条の2第1項第9号関係)

決議において、使用者は、本人同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことを定めなければならないものであること。

13 その他の決議事項(新労基法第41条の2第1項第10号及び新労規則第34条の2第15項関係)

決議において、上記4から12までの事項のほか、次に掲げる事項を定めなければならないものであること。
⑴ 決議の有効期間の定め及び当該決議は再度決議をしない限り更新されない旨
⑵ 労使委員会の開催頻度及び開催時期
⑶ 常時50人未満の労働者を使用する事業場である場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること。
⑷ 使用者は、次の①から⑧までに掲げる事項に関する対象労働者ごとの記録及び⑨に掲げる事項に関する記録を⑴の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存すること。
① 本人同意及びその撤回
② 上記5⑴の合意に基づき定められた職務の内容
③ 上記5⑵の支払われると見込まれる賃金の額
④ 健康管理時間の状況
⑤ 上記7の措置の実施状況
⑥ 上記8の措置の実施状況
⑦ 上記9の措置の実施状況
⑧ 上記11の措置の実施状況
⑨ 上記⑶の医師の選任

14 報告(新労基法第41条の2第2項及び新労規則第34条の2の2関係)

決議の届出をした使用者は、当該決議が行われた日から起算して6箇月以内ごとに、様式第14号の3により、健康管理時間の状況及び上記7から9までの措置の実施状況について所轄労働基準監督署長に報告しなければならないものであること。

15 労使委員会の要件等(新労基法第41条の2第3項において準用する新労基法第38条の4第2項及び第5項並びに新労基則第34条の2の3において準用する新労基則第24条の2の4関係)

労使委員会の要件及び労使委員会において高度プロフェッショナル制度に係る決議以外に決議をすることができる事項については、企画業務型裁量労働制の労使委員会に準じるものであること。

16 指針(新労基法第41条の2第3項において準用する新労基法第38条の4第3項並びに新労基法第41条の2第4項及び第5項)

厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労使委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものであること。また、決議をする労使委員会の委員は、当該決議の内容が指針に適合したものとなるようにしなければならないものであること。さらに、行政官庁は、指針に関し、決議をする労使委員会の委員に対し、必要な助言及び指導を行うことができるものであること。

第2 労働安全衛生法関係

1 高度プロフェッショナル制度の対象労働者に対する医師による面接指導(新安衛法第66条の8の4及び新安衛則第52条の7の4関係)

事業者は、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について1月当たり100時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導を行わなければならないものであること。また、当該対象労働者は、当該面接指導を受けなければならないものとするとともに、事業者は、当該面接指導の結果を記録し、これを5年間保存しておかなければならないものであること。さらに、事業者は、当該面接指導の結果に基づき、当該対象労働者の健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴かなければならないものとするとともに、その必要があると認めるときは、職務内容の変更、有給休暇(新労基法第39条の規定による年次有給休暇を除く。)の付与、健康管理時間が短縮されるための配慮等の措置を講じなければならないものであること。加えて、新安衛法第66条の8第1項の規定による面接指導の実施方法等に係る規定は、当該対象労働者に対する面接指導について準用するとともに、読替えに係る規定により、当該面接指導は当該超えた時間の算定の期日後、遅滞なく、当該対象労働者に対して行わなければならないものであること。なお、「遅滞なく」とは、おおむね1月以内をいうものであること(以下同じ。)。

2 上記1に該当する者以外の対象労働者に対する必要な措置(新安衛法第66条の9及び新安衛則第52条の8関係)

上記1に該当する者以外の対象労働者から申出があった場合には、事業者は上記1の面接指導を行うよう努めなければならないものであること。

3 産業医の職務の追加及び産業医に対する健康管理等に必要な情報の提供(新安衛則第14条及び第14条の2関係)

新安衛則第14条第1項に規定する産業医の職務に、上記1の面接指導、上記2の必要な措置の実施及びこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することを追加するものであること。また、産業医を選任した事業者が産業医に対し提供しなければならない情報として、次に掲げる情報を追加するものであること。
⑴ 上記1の面接指導実施後の措置又は講じようとする措置の内容に関する情報(措置を講じない場合にあっては、その旨及びその理由)
⑵ 1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超えた労働者の氏名及び当該対象労働者に係る当該超えた時間に関する情報なお、上記(1)及び(2)の事業者から産業医への情報提供は、以下の情報の区分に応じ、それぞれに規定する時期に行わなければならないものであること。
① (1)に掲げる情報面接指導の結果についての医師からの意見聴取を行った後、遅滞なく提供すること。
② (2)に掲げる情報当該超えた時間の算定を行った後、速やかに提供すること。なお、「速やかに」とは、おおむね2週間以内をいうものであること。

第3 指針関係

指針は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件を確保するため、労使委員会が決議する事項について具体的に明らかにする必要があると認められる事項を規定するとともに、高度プロフェッショナル制度の実施に関し、事業場の使用者及び労働者等並びに労使委員会の委員が留意すべき事項等を定めたものであり、決議をする委員は、当該決議の内容が指針に適合したものとなるようにしなければならないものであること。指針のうち、「第1」は指針の趣旨、「第2」は本人同意に関する事項、「第3」は対象業務となり得る業務の例及び対象業務となり得ない業務の例等労使委員会が決議する新労基法第41条の2第1項各号に掲げる事項に関する事項、「第4」は労使委員会の要件等労使委員会に関する事項について、それぞれ定めたものであること。指針の中で、新労基法第41条の2に規定する事項に関し「具体的に明らかにする事項」としてその解釈等を規定する部分に反して労使委員会の決議がなされた場合には、新労基法第41条の2に規定する事項についての適正な決議がなされていないこととなり、決議全体が無効となることから高度プロフェッショナル制度の法律上の効果は生じないこととなるものであること。




労働基準法第四十一条の二 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の五分の四以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であつて書面その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。

一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲

イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。

ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。

イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。

ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。

ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。

六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であつて、当該対象労働者に対する有給休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。

七 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続

八 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

九 使用者は、この項の規定による同意をしなかつた対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

2 前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第四号から第六号までに規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

3 第三十八条の四第二項、第三項及び第五項の規定は、第一項の委員会について準用する。

4 第一項の決議をする委員は、当該決議の内容が前項において準用する第三十八条の四第三項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。

5 行政官庁は、第三項において準用する第三十八条の四第三項の指針に関し、第一項の決議をする委員に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

労働基準法施行規則第三十四条の二
法第四十一条の二第一項の規定による届出は、様式第十四号の二により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。

2 法第四十一条の二第一項各号列記以外の部分に規定する厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者(同項に規定する「対象労働者」をいう。以下同じ。)の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象労働者が希望した場合にあつては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)とする。

一 対象労働者が法第四十一条の二第一項の同意をした場合には、同項の規定により、法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されないこととなる旨

二 法第四十一条の二第一項の同意の対象となる期間
三 前号の期間中に支払われると見込まれる賃金の額

3 法第四十一条の二第一項第一号の厚生労働省令で定める業務は、次に掲げる業務(当該業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示(業務量に比して著しく短い期限の設定その他の実質的に当該業務に従事する時間に関する指示と認められるものを含む。)を受けて行うものを除く。)とする。

一 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

二 資産運用(指図を含む。以下この号において同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務

三 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務

四 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務

五 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

4 法第四十一条の二第一項第二号イの厚生労働省令で定める方法は、使用者が、次に掲げる事項を明らかにした書面に対象労働者の署名を受け、当該書面の交付を受ける方法(当該対象労働者が希望した場合にあつては、当該書面に記載すべき事項を記録した電磁的記録の提供を受ける方法)とする。

一 業務の内容

二 責任の程度

三 職務において求められる成果その他の職務を遂行するに当たつて求められる水準

5 法第四十一条の二第一項第二号ロの基準年間平均給与額は、厚生労働省において作成する毎月勤労統計(以下「毎月勤労統計」という。)における毎月きまつて支給する給与の額の一月分から十二月分までの各月分の合計額とする。

6 法第四十一条の二第一項第二号ロの厚生労働省令で定める額は、千七十五万円とする。

7 法第四十一条の二第一項第三号の厚生労働省令で定める労働時間以外の時間は、休憩時間その他対象労働者が労働していない時間とする。

8 法第四十一条の二第一項第三号の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法とする。ただし、事業場外において労働した場合であつて、やむを得ない理由があるときは、自己申告によることができる。

9 法第四十一条の二第一項第五号イの厚生労働省令で定める時間は、十一時間とする。

10 法第四十一条の二第一項第五号イの厚生労働省令で定める回数は、四回とする。

11 法第四十一条の二第一項第五号ロの厚生労働省令で定める時間は、一週間当たりの健康管理時間(同項第三号に規定する健康管理時間をいう。以下この条及び次条において同じ。)が四十時間を超えた場合におけるその超えた時間について、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める時間とする。

一 一箇月百時間

二 三箇月二百四十時間

12 法第四十一条の二第一項第五号ニの厚生労働省令で定める要件は、一週間当たりの健康管理時間が四十時間を超えた場合におけるその超えた時間が一箇月当たり八十時間を超えたこと又は対象労働者からの申出があつたこととする。

13 法第四十一条の二第一項第五号ニの厚生労働省令で定める項目は、次に掲げるものとする。

一 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第四十四条第一項第一号から第三号まで、第五号及び第八号から第十一号までに掲げる項目(同項第三号に掲げる項目にあつては、視力及び聴力の検査を除く。)

二 労働安全衛生規則第五十二条の四各号に掲げる事項の確認

14 法第四十一条の二第一項第六号の厚生労働省令で定める措置は、次に掲げる措置とする。

一 法第四十一条の二第一項第五号イからニまでに掲げるいずれかの措置であつて、同項の決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずることとした措置以外のもの

二 健康管理時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導を除く。)を行うこと。

三 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。

四 対象労働者の心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。

五 対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。

六 産業医等による助言若しくは指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。

15 法第四十一条の二第一項第十号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

一 法第四十一条の二第一項の決議の有効期間の定め及び当該決議は再度同項の決議をしない限り更新されない旨

二 法第四十一条の二第一項に規定する委員会の開催頻度及び開催時期

三 常時五十人未満の労働者を使用する事業場である場合には、労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師を選任すること。

四 使用者は、イからチまでに掲げる事項に関する対象労働者ごとの記録及びリに掲げる事項に関する記録を第一号の有効期間中及び当該有効期間の満了後三年間保存すること。

イ 法第四十一条の二第一項の規定による同意及びその撤回
ロ 法第四十一条の二第一項第二号イの合意に基づき定められた職務の内容
ハ 法第四十一条の二第一項第二号ロの支払われると見込まれる賃金の額
ニ 健康管理時間の状況
ホ 法第四十一条の二第一項第四号に規定する措置の実施状況
ヘ 法第四十一条の二第一項第五号に規定する措置の実施状況
ト 法第四十一条の二第一項第六号に規定する措置の実施状況
チ 法第四十一条の二第一項第八号に規定する措置の実施状況
リ 前号の規定による医師の選任


(法第六十六条の九の必要な措置の実施)
労働安全衛生法施行規則第五十二条の八
法第六十六条の九の必要な措置は、法第六十六条の八の面接指導の実施又は法第六十六条の八の面接指導に準ずる措置(第三項に該当する者にあつては、一項に規定する面接指導の実施)とする。

2 労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者以外の労働者に対して行う法第六十六条の九の必要な措置は、事業場において定められた当該必要な措置の実施に関する基準に該当する者に対して行うものとする。

3 労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者に対して行う法第六十六条の九の必要な措置は、当該労働者の申出により行うものとする。

【性差別】三陽物産事件(東京地判平成6.6.16労判651号15頁)

三陽物産事件(東京地判平成6.6.16労判651号15頁)

参照法条 : 労働基準法4条
裁判年月日 : 1994年6月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成3年 (ワ) 5511、平成4年 (ワ) 14509 

1.事件の概要

Y社では、非世帯主および独身の世帯主の従業員にはみなし年齢(25歳または26歳)の本人給を、家族を有する世帯主の従業員には実年齢に応じた本人給を支払うという基準を立て、40歳代後半の女性従業員Xらに対し、非世帯主に当たるとして、同年齢の男性従業員に比して低い賃金を支給していた。Xらは男性従業員と同様に実年齢に応じた賃金の支払いを求めて提訴した。

2.判決の概要

世帯主・非世帯主の基準は、形式的にみる限りは、男女の別によって本人給に差を設けるものではないが、Y社は、世帯主・非世帯主の基準を設けながらも、実際には、男子従業員については、非世帯主又は独身の世帯主であっても、女子従業員とは扱いを異にし、一貫して実年齢に応じた本人給を支給してきているうえ、少なくとも、現在における社会的現実は、結婚した男女が世帯を構成する場合、一般的に男子が住民票上の世帯主になるというのが公知の事実である。その結果、世帯主・非世帯主の基準を適用するならば、女子従業員は、独身である間は非世帯主又は独身の世帯主の立場にあり、結婚すれば非世帯主の立場にあるということで、結局、終始本人給を据え置かれることになる。Y社は社会的現実及び被告の従業員構成を認識しながら、世帯主・非世帯主の基準の適用の結果生じる効果が女子従業員に一方的に不利益となることを容認して右基準を制定したものと推認することができ・・・(中略)女子であることを理由に賃金を差別したものというべきであるから、世帯主・非世帯主の基準は、労働基準法4条の男女同一賃金の原則に反し、無効である。

余談
住宅手当や扶養手当等にも、世帯主・非世帯主基準が用いられるがこれは夫婦共働きの場合には、収入が高いほう=世帯主にのみ支給するという趣旨から設けられる。また、会社によっては社会保険扶養に配偶者を入れていることが条件となるケースもある(扶養を外れると夫の住宅手当5万円が支給されなくなるため、働きたくても働けないという話も聞いたことがある。)。現在は、共働きがむしろ標準となりつつあり、労働力確保のため政府もこれを進めていることから、これらの手当も夫婦両方がそれぞれの勤務先から支給を受けることを想定した設計にすべきであろう。(両方が支給を受けるのであれば、単身生計者と同等な条件が妥当である)

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【性差別】秋田相互銀行事件(秋田地判昭和50.4.10労民集26巻2号388頁)

秋田相互銀行事件(秋田地判昭和50.4.10労民集26巻2号388頁)

参照法条 : 労働基準法4条,11条
裁判年月日 : 1975年4月10日
裁判所名 : 秋田地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 昭和46年 (ワ) 210 

1.事件の概要

Yでは男性従業員に対しては(1)表またはA表に基づく本人給を、女性従業員に対しては(2)表またはB表に基づく本人給を支払っていた。女性従業員であるXらは、このような賃金制度は違法無効であるとして、男性従業員と同一の賃金の支払いを求めて提訴した。当該制度について、Y社は標準生計費的な扶養家族の有無によって区別していると主張していた。

2.判決の概要

扶養家族の有無にかかわらず、男子行員には・・・(中略)(1)表またはA表に掲げる金額が年齢に応じ支払われ、女子行員には・・・(中略)(2)表またはB表に掲げる金額が年齢に応じ支払われたこと、・・・(中略)扶養家族を有する男子行員には同年度の(1)表に掲げる金額が年齢に応じて支払われ、扶養家族がない男子行員には同(2)表に掲げる金額が年齢に応じて支払われるものとしたうえ、調整給が支払われ、結局同(1)表に掲げる金額が年齢に応じて支払われた場合と同額の金額が本人給として支払われたこと・・・(中略)以上のような事実を総合すれば、他に特段の事情の認められない限りは、Y社において、Xらが女子であることを理由として、賃金(本人給および臨時給与)について、男子と差別的取扱をしたものであると推認することができる。そして、労働契約において、使用者が、労働者が女子であることを理由として、賃金について、男子と差別的取扱いをした場合には、労働契約の右の部分は、労働基準法4条に違反して無効であるから、女子は男子に支払われた金額との差額を請求することができるものと解するのを相当とする。なぜなら、労働基準法で定められ、無効となった部分は、労働基準法で定める基準による旨の労働基準法13条の趣旨は、同法4条違反のような重大な違反がある契約については、より一層この無効となった空白の部分を補充するためのものとして援用することができるものとみなければならないからである。

3.解説

労働基準法4条違反の場合は、男女どちらか優遇された方の賃金をこの法律で定める基準とみなして、労働基準法第13条前段により無効としてうえで、無効となった部分については、同様に優遇された方の賃金をこの法律で定める基準とみなして、同条後段により、直律的に差額を請求することができるという見解を示した判例
労働基準法の直律的効力と補充的効力は、本来、最低基準に満たない場合に適用されるが、男女同一賃金の原則のような重大な違反がある契約については、より一層無効・空白となる部分を補充する必要性が高いことから、援用することができるものとした。


(男女同一賃金の原則)
労働基準法第4条  使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

(この法律違反の契約)
労働基準表第13条  この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

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